Lv1・魔王様に出会う
拝啓 母上様と父上様
親不孝者でごめんなさい。
私、日向朱莉は今日―――死にました。
交通事故です。プップー!です。ドガン!です。
あまり痛みがなかったのが幸いです。
ところで、話が変わりますが、母上様、父上様。
ここは一体、どこなのでしょうか?
◇ ◇ ◇
おかしい。これは、おかしい。
確かに私は死んだのだ。プップー!で、ドガン!だったのに。
私は顔を触る。プニプニ。……うん、私のコンプレックスのほっぺだ。
ついでに抓って見た。ぐい。……うん、とっても痛い。
実は私、生きてたの?……そんなわけがない。
万が一生きてても、ドガン!だ、絶対に痛い。でも、今、痛くない。
しかもなんだ!この豪華絢爛な建物!……なんか、雰囲気的に暗いけど。
なんていうかRPGのラストダンジョン?みたいな。
そうそう、今目の前にある大きな扉を開けた先にはラスボスがいる、みたいな感じ。
……まぁ、一回街に帰るでしょう?
それで回復アイテムを買い占めて、最強の武器防具を装備して、あ!宿屋に泊ることも忘れずに。
HPがMAXになったところでラスボスを……っと、その前にもちろんレベルは上げれるところまで上げてからね。
セーブが終わって、ラスボスが「わっはっは、よくきたな勇者よ」とかなんとか言ってるのを適当に聞き流して、戦闘開始。
で、楽勝で勝利。エンディングですよ。世界は平和になった、ですよ。チャンチャン!みたいな。
……ひとまず妄想を十分楽しんだところで、目の前の扉を開いてみますか。
もしかしたら、最近ありがちの異世界トリップってやつかもしれませんし。
は!そうしたら、やっぱり私勇者?……いや、意外や意外、私が魔王かもしれませんよ。
とりあえず、私は目の前の大きな扉に手を乗せると、ぐいっと押してみました。
……開かないんですけど。
あれですか!1人で入ってこれるなんぞ思うなよ!って話ですか!
ぐぐぐっ!こうなったら意地でも入ってやる!
小・中・高、全部帰宅部なめるなよ!……あ、自慢になりませんか。そうですか。
「……なにをやっている?」
「いや、この扉を開けようと……!!!」
ちょっと、声がしたんですけど!
ぞぞぞっと鳥肌がたつほどの低い、私好みのいい声!
これはさぞかし顔もかっこいいのでは、と声の聞こえたほうへ顔を向けると――目の前の扉よりも小さい扉からこちらを見るイケメン1人。
……ん?
「……この扉、ダミーですか?」
「いや、開けようとすれば開けれるが、1人じゃ開けれないだろう」
少なくとも俺には無理だ、と言ってのけるイケメン。
「ならこんなでっかい扉を作るなっ!」
私が怒鳴ると、イケメンはぶすっとした顔をした。
……イケメンは何をしてもかっこいいって嘘だと思ってたけど、本当だったんだなぁ。
「……別に俺が作ったんじゃない。先祖代々受け継がれてる城だ」
「あ、そうなの。ならしょうがないか」
「ところで、お前は何でこんなところにいる?」
……それは私が知りたい。至極知りたい。
まあ、とりあえず私の妄想のラストダンジョン説はこれで消えたわけだ。
だって、この人ラスボスって感じしないし。
言いあぐねている私に、イケメンは首をかしげる。
「……迷子か?」
「……迷子がよく入ってくる城なの?ここは」
「たまに。人間は初めてだがな」
まあ、こんなに立派だったら誰でも探検したくなるかもなぁ。
……ん?
"人間"は、初めて?
「……犬とか、猫とか入ってくるの?こんなところに?」
「いや。悪魔とか、バンパイアとか。……ああ、人狼もいたか。
どうもこの城は広いらしくてな。出口まで案内してやった」
「……は?」
……この人、今何て言いました?
悪魔?バンパイア?人狼?
この際、それらの存在を否定するのはやめましょう。
そういう世界に来てしまったと妥協してあげますよ。私、心が広いですから。
それよりも。
「……貴方、そんなのがしょっちゅう訪れる城にいて大丈夫なわけ?」
「何がだ?」
「いや、悪魔とか、バンパイアとか、人狼とかって人間に仇なす存在じゃないの?」
「そんなことはない。悪戯好きではあるが、本来はいい奴らだぞ?
まあ、人間はそうは思っていないらしいが」
全く遺憾であると付け足すイケメンに、私は嫌な予感がした。
いやいや、そんなまさか。
「何言ってるのよ、貴方も人間でしょう?なに人ごとみたいに……」
「お前こそ何を言っている」
ああ、ものすごく嫌な予感がする。
どうか、予感が外れますようにと祈っているのにも関わらず、男は事もなげに言い放った。
「俺は魔王だぞ?」
―――――ああ、今日はなんて厄日?
拝啓 母上様と父上様。
私、日向朱莉は今日――――魔王様に出会ったらしいです。