エピソード6
それからも図書館を拠点にした俺たちの日々は続いてる。
建物の裏手にある井戸をシェリーに浄化してもらい、使えるようにしていたのだが暫く拠点を空けている間にすっかり淀んでしまっていた。
「よし、これでまた使えるはずよ。さぁ頑張って!」
何をしているかと言うと拾ってきた大鍋に水を汲み、湯舟まで運んでいるのである。
ただ風呂に入りたいだけなのにこんなに大変だとは…。
それに湯舟に水が入ったとてこの水は冷水なのだ。ダスト中は四季を感じはしないが特別暖かいわけでも無い。どこか湿った空気が流れ続けていて朝と夜は少し肌寒い。
それを紛らわすために湯舟を取り囲むように置いた蝋燭たちは軽く二十本を超えている。
「さぁ出来たぞ、じゃあ女の子から入ってくれ。」
「ありがとう…。」
シェリーはいそいそと本棚に隠れて服を脱ぎ始めた。服がこすれる音が聞こえてやがてちゃぷんという音も聞こえた。
「あー、俺たち部屋で待ってるわ。終わったら声かけてくれ。」
「え、別に大丈夫よ。気にしなくていいからここにいて…。」
あーそう、と言いながらアルドは俺を見た。本人がいいと言うならいいのだろう、せめてと思い背だけは向けているが。あまり気にしても仕方ないので本でも読むか。
「ねぇ、この水すっごく冷たい。」
「だろうな、」
「紛らわせたいから何か話してよ」
「なにか…そうだな、前にカルロ達から聞いた通りに畑でも作ってみるか?」
「うん、いいんじゃない?土もここまで運ぶ必要があるけれど。」
「アルド、任せたぞ」
「一緒に頑張ろうなトナ!」
「はぁ…」
ここに来てから何をするにも大変すぎる。これが自由を得た対価なのか、古代の人々はどうやって生活していたのだ。せめて燃やせるものがあればまた違うとは思うが。
図書館の机や椅子は木で出来ているため それを少しずつ解体して料理に使っているのだがこれもいつまで持つか…。
「わぁ寒い、選手交代!」
「トナ、お前先に入れよ」
「別に最後で構わないぞ。」
「じゃあ一緒に入るか?」
「お先、頂きます。」
「おい!お前って俺への扱いは酷いよなー」
「お前が変なことばっか言うからだろ?」
シェリーと同じようにして服を脱いで水に浸かる。なるほど、これは冷たい。
「ふふ、二人って仲良いよね。」
「まぁ腐れ縁だからそう見えるのかもな。」
「トナにとってアルドはどういう人?」
「急になんだ…まぁ俺からしたら兄みたいなものだな。」
「へぇ、以外!」
「変な事ばっか言ってるけど案外頼れる奴なんだ。」
「ハハ、そんな風に思っててくれたのか、これは期待に応えないとな。」
「お前は十分やってるよ。」
「うんうん、アルドはリーダー気質だよね。」
「さて、そろそろ上がるか。」
最後はアルドの番だ。シェリーは食事の準備に取り掛かりに行った。
やはり何故か、見ている奴がいなくても本棚の裏で着替えてしまうものなのか。
「おい、これめっちゃ冷てぇじゃねーか。」
「まぁ最後だから日が傾いてるのもあると思うが、この冷たさは普通にやばいよな。」
「どっかに大量に燃やせるものがあればいいんだがな。」
そう言いながら本をペラペラめくっている。
「なぁ…ぶっちゃけ俺ら教養無いだろ?大量の本なんて持っててもさ、」
「気持ちは分らんでもないがあまりに罰当たりだと思うぞ。」
たとえ今寒さが凌げても本は無限じゃない。きちんとしたやり方を確立しないと根本的な問題の解決にはならないのだ。
「まぁ、それもそうか。だが命の危険を感じたときはまじで燃やそうな。」
そう真顔で言うアルドの鼻からは鼻水が垂れていた。
「おまたせ~分けてもらった出汁を使ったから今日のスープは味があるわよ!」
「おう、温かいものが食べられるだけでありがたいよな。」
「本当にな。」
なかなかに悲しい生活だが研究所にいた頃よりかは精神的に楽なのだ。ここに居れば少なくとも傷つくやつを見なくて済む。大人たちの汚い言葉を聞かなくても済む。
「よし、明日はいよいよ土を運ぶかぁ…。なんで俺らこんなとこを拠点にしちまったんだろうな?」
「それはしっかりした建物(半壊してるけど)と、それぞれの個室もあって便利だからよ。」
「俺はこの図書館の雰囲気が気にってる。」
「はいはい、じゃあ頑張りますか…。」
ちなみに一番近くの集落に土は無かったので、運ぶとなると岩山の下の町から上まで運ぶことになる。
どれだけ大変か想像もつかない。