エピソード5
「お願い?」
「その…。トナくんのさ!血液をすこ~し分けてもらえないかなって!」
「まぁ、それくらい大丈夫ですけど。」
「本当!?ありがと~もしこの研究が成功したらロードが二十四時間以上、ダストの中を探索できたりもっと深い場所に行けるようになるかも!」
「まじかよ!そうしたら俺らにもその薬分けてくださいね!」
「もちろん、アルドくんとシェリーちゃんはこの町の場所覚えてるでしょ?定期的に遊びにきてよ!ねっいいでしょカルロ?」
「あぁ、その代わりと言ってはなんだが一つ約束して欲しい。」
「何ですか?」
「もし今後、お前たちが研究所の人間や他のロードに接触したとしても この場所の事は一切他言しないで欲しい。」
「それはもちろん、お約束します。」
「そうか、悪いな。」
カルロさんはそう言ってクシャっと笑った。明るいうちに移動した方がいいと促され、俺たちは自分たちの拠点に戻ることにした。ルルさんに注射器二本分ほど血を取られ、見送りに来てくれたカルロさんとローラさんにたくさんの種と肥料を手渡された。それから中層に住むならシビトは殺さず、隔離しておいて定期的に血だけ取ると良いと言う事も教えてもらった。
「いろいろありがとうございました。いつかお礼に伺います。」
「気にしないで、また遊びにきてね~!」
「はい、それではまた!」
三人でお辞儀をして町を離れた。またいつかこの町に来ることがあるだろうか、一見歓迎してくれてるようには感じたが…。
「カルロ、あの子たちをこの村に住まわせなくてよかったの?いつもはロードならどんな人でも誘うのに。」
「ハハッ、研究所を爆破させた奴らだぞ。もしあいつらが捕まるような事があれば俺たちも仲間だと思われちまう。触らぬ神に祟りなしさ。」
「そうね、でももしこの場所の情報が奴らにバレたら…。野放しにするのはかなり危険だと思う。」
「その時は…」
風が強くなってきたな、死者の町から拠点まではかなりの時間がかかる。途中小さな町があれば物色しながら戻りたいとこだ。
「良い人たちでしたね、私たち以外にもロードがいたなんて驚いたわ。」
「そうだよな、皆いろいろ事情があるんだろ。」
「いろいろ落ち着いたらまた行ってみましょうね?」
「いや、行かない方がいいだろうな。あれが本心かどうかはともかく、あのカルロとかいう男はかなり俺たちを警戒してたぞ。」
「同感だな。むしろ元科学者の女も怪しかった。下手したら俺たちも危ないかもしれない、お互いにこれ以上関わらない方がいいと思う。」
「そ、そうなんだ…。私昔から空気とか読むの苦手で、的外れな事を言ってたらごめん…。」
「それだけピュアって事だろ?気にするな。」
「だが、ここはダストの中で少なくともあいつらだって元々は別の研究所にいた人間だ。気を付けるに越したことはない。」
「うん…。同じロードなのに疑い合わなきゃいけないなんて、なんだか悲しいね。」
本当にそうだと思う。正直、カルロという男は真に良い人間なんだろう。危険かもしれない相手を自分たちのテリトリーに入れてくれていろいろな情報も教えてくれた。少しでも俺たちを危険視していないようなら本当の意味で危なかったかもしれないが、あの様子だと向こうも俺たちを計りかねていたと思う。
ならば、お互いに知らぬふりをしていた方がいい。少し悲しいがこの世界じゃどうしようもない事だった。余計な事をして変な気を起こされないためにも。
「おっ、金持ちの家はっけーん!なんか良いもの落ちてないか見てみようぜ。」
「わかった。」
行く道中は気を失ってたから気づかなかったが、この辺りは高級住宅街だったのかもしれないな。
一般的な家と比べても大きさも造りも違って見えた。
まぁでもこの町は死者の町からも近いしもう漁られていそうだが。
「流石に何もないか。」
「おい、でもこれ見ろよ!生活に使えるもんはあんま無いけど凄いジュエリーだと思わないか?」
そこにはたくさんのアクセサリーやジュエリーが散りばめられていた。
「俺たちには必要ないだろ…。」
「生活には必要ないかもしれないけれど私、こういうの持ってたことないの…よかったら三人で一緒に付けたいな…」
そう言ってシェリーはアクセサリーを眺め始めた。
その目はキラキラしているように見える。研究所に居た時は私物はおろか、服だってそんなに持っていなかったからな。装飾品なんて夢もまた夢だ。
「まぁ、たまにはいいかもな。」
「フッ 俺もかまわないぜ。どれにする?」
ふと綺麗な青い宝石がついたネックレスが目に入った。この色はシェリーによく似合うと思う。シェリーの澄んだ瞳の色と同じだから。
「シェリー、これ。」
「え、もしかして選んでくれたの?嬉しい、ありがとう…」
それからシェリーは全く喋らなくなってしまった。ネックレスをずっと眺めている。迷惑だっただろうか。
「おいおいー!なんでシェリーだけ?お前、俺にも選べよ!」
突然騒ぎ出した馬鹿のおかげでシェリーも笑顔になったようだ。
「はいはい」
仕方がないのでアルドと自分の分も適当に選んだ。
アルドにはリングの形をしたものを。自分には十字架のネックレスを選んだ。
俺はいかなる時もこんなクソみたいな世界を作った神様のたった一人の味方でありたいのだ。
たとえ神に愛されなくてもな。
形は違うとはいえ、なんだかお揃いみたいでむず痒い。それは他の二人も感じているのか拠点に着くまでの間ほとんど会話は無かった。