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ネクロダスト  作者: 李津
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エピソード3


それから二時間くらいは歩いただろうか。先ほどの風景と打って変わり崖が目立つ岩山を淡々と登り続けている。ロードになってからしばらく経つが人間だった頃に比べたら本当に体力が付いたと思う。

つくづくアンネクロがどれくらいヤバイ薬なのかよくわかるな。


だいぶ登っただろう。山頂の方を見上げると崩れかけて半分ほど無くなっているが洋館の様な物が見える。

近づいてみると国家図書館と言う文字の下に宮廷図書館とも書かれていた。


「ほう、図書館か。ここで旧世代の情報が手に入るかもしれんな。」


「少し疲れたからここで休んでいきましょう。」


中に入るとなかなかに古い建物だとわかる。内装は石で作られ、机や椅子などは木でできているが何処か教会の様な雰囲気もあった。

ただ今まで見てきた建物と比べると遥かに頑丈だし暫くここを拠点にするのもいいかもしれない。まぁ、建物自体は半壊していて外に面しているのだが…。


「ねぇ、二人ともこっちに来てみて!司書さんのお部屋だったのかな、何部屋か寝泊り出来そうな個室があるのよ。」


「ここだったら外にも晒されてないし寝れそうだな。」


「じゃあ、暫くはここで休むか。シェリーこの場所を浄化してもらえるか?」


「わかったわ。」


淀んでいた空気が晴れていく。これでしばらくはこの場所を使えるだろう。

それからメインホールに戻り本も何冊か見てみたが教養の無い俺にはよく分からなかった。


「ようやく一息つけるな、どうだ気分は悪くないか?」


シェリーはいち早く個室で休んでいるようでアルドが話しかけてきた。


「あぁ、休める場所があってよかった。欲を言うと風呂も欲しいところだが、建物が半壊した時に無くなったか。」


「かもな、まぁどっかから湯舟になりそうな物でも拾ってきてお湯でも溜めるか。よし、明日はこの辺り周辺を探索してみようぜ」


「あぁ、俺たちもそろそろ休もう。」


軽く挨拶を交わしてそれぞれの個室に入っていく。手荷物はあまり無いが背負っていた武器をベッドの横に立てかける。こいつは俺がロードになった時はじめて与えられた武器でもうずっと長く愛用している大剣だ。とても重くて通常の人間であれば持ち上げるのも一苦労だろう。

ここに来るまでにもシビトを数人見かけたがあまり数は多くなかった。明日からは本格的にシビトを倒して、俺たちの食料もなんとかしないとな。


硬いベッドの上に寝転がる。今までアルドと同じ個室で寝ていたから変な感じだ。もちろんあいつが任務の時は一人だったわけだが。今は隣の部屋にいると分かっていても何故か落ち着かない。今夜はなかなか寝付けそうにないな。


次の日、ベッドから起き上がった俺はさっそくメインホールに向かったが二人とも俺より先に起きていたようだ。


「すまない、待たせた。」


「問題ないわ、それよりよく眠れた?」


「あまり…。」


「おいおい大丈夫か?今日はやるべきことが山ほどあるんだぞ。生活に必要なもんを見つけにいく。」


「大丈夫、わかっている。」


「さっき見つけたんだけどこの山の裏側に小さな集落があったの、まずはそこに行ってみましょ。そこからだったらここまで運ぶのもそんなに大変じゃないと思う。」


「そうだな、行くか。」


シェリーの言った通り、山を少し下った所に小さな村が見えた。水は枯れているが噴水のような物の周りに家が何件か立っている。ダストに覆われてすぐに逃げたのか死んだのか、家の中は当時のままのように思う。もちろんこの辺りはダストに落ちて十年以上経っているのでかなり風化しているが。


家を一軒一軒見ていく。途中の家でマッチをたくさん拾った、これで火をつけることが出来るようになったしこの量なら暫く火には困らないだろう。箪笥の中もくまなく物色していく。封筒に入れられた紙幣を見つけた。恐らくは旧世代のものだろうな。


「なぁ、これ運べると思うか?」


アルドが指をさしていたのは昨日の話題に上がっていた湯舟だった。


「俺とアルドでなんとか行けそうだな。」


「私も手伝うわよ。」


「いや、こういうのは俺らが運ぶわ!俺とトナのコンビネーションは神だから、な!」


「はいはい。」


「冷た…。ってことだからシェリーは他の細かい物を頼むな」


「二人がそれでいいなら…。」


他の家も、食料目当てで探してみたが流石に何も無い。唯一缶詰や乾パンは少しあったがこれでは到底持たないだろう。


「ひとまずこれで一度、戻りましょう。」


「そうだな。」


湯舟を山の上まで持って登るのはかなりしんどかった。二人で持っているから中腰になるしいつも以上に疲れた気がする。それについでだと思って湯舟の中に拾った大鍋や細々した食器類を入れたのも間違いだった。


「おい、もう少し持ち上げてくれ!これじゃ腰が痛い。」


「無理言うなって!お前の方が上にいるからだろ?横に並んで登ればいいじゃねーか。」


「二人とも頑張って、もう少しよ!」


ハァハァ…。

これではコンビネーションもあったものではないが、

登り切った時はこれまでに無いほどの達成感だった。


「二人ともお疲れ様!さっき拾った布なんだけど浄化したから良ければ使って…!」


「ありがとう…」


それから湯舟をメインホールに移動させた俺は、椅子に座って休んでいるアルドを横目に

そこら辺に散らばっている本を積み上げ始めた。そう、壁を作っているのだ。本で壁とはあまりに脆く感じるかもしれないが、何もないよりはマシである。


「できた!」


「おいおい、本って…。濡れたら終わりじゃねーか。」


「うるさいな、いいだろ別に。」


「ふふっ、いいじゃない。こうすればもっと素敵になる。」


シェリーが先ほど拾ってきた蠟燭にマッチで灯りを付け、積み上げた本の上に置いた。


「なんかこういうの、落ち着かない?」


「まぁ、ゆっくりは出来るかもな。」


「そうだ、二人ともさっき拾ってきた食材でスープを作ってみたから食べてみて?」


机の上には、拾ってきた食器の中に入ったスープが置かれていた。


「おぉ、悪いな!」


「頂こう。」


「どうかしら?」


「味がない。」


「んー、無いってことは無いがほとんどしないな。風味だけって言うか…。」


「仕方ないでしょ?全然食料も出汁が出るものが無かったんだし…。塩くらいしか無かったもの。」


「まぁ、そうだよな。」


「そんなものか。」


「食べたくないなら食べなくて結構ですけど。」


「いや…。俺らは事実を言っただけで、そう怒るなって!」


「食べたくないとは言ってない。」


「はぁ…。もういいです…。」


アルドは意味が分からないというように肩をすくめて見せた。

たしかにこのスープには味がほとんど無かったが俺は多分、この味を一生忘れる事は無いと思う。


俺たちがはじめて自由になって最初の食事だからだ。




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