エピソード2
研究所から少し離れた所に丘がある。俺はそこにただ突っ立っていた。
しばらくしてアルドがやってきた。
「作戦は上手く行ったのか。」
「あぁ、起爆装置は発動してきた。どうやら二十分後に爆発するらしい、あと残り十分か。」
「新しく入ってきたあのロードは任務に出ているから良いとして、その他の研究者は全員死ぬのか。」
「やけに冷静だな。」
「あんまり実感が無くて。俺はただ逃げてきただけだったからさ...」
「心配するな、残り十分のところで館内放送がかかるようにセットしてきた。これで大体の奴は逃げられるだろ。」
「そうか、」
「そこまで俺も鬼じゃないさ。」
物凄い爆発音が聞こえてきた。今まで七年間過ごしてきた研究所が燃えていると言うのにあまり感情がわかないのは俺の心もおかしくなっているからだろうか。
「やってみれば思いのほかあっさりだな。」
「そうだな、だがこれで自由だ。」
遠くで金髪の女の子、シェリーがいるのに気が付いた。この光景を見て絶句している様だ。
「なにこれ...。あ、貴方たち」
「よう、シェリーだったか。研究所が突然爆発したみたいだぜ。」
「白々しい!どうして今日非番の貴方たちが外にいるの?こんなことして許されるはずが…」
「許されなかったらなんだ?研究所は無くなったんだ。俺らはもう戻るつもりはない。お前はどうする?」
「なっ…私は…。」
「よかったらお前も一緒に来るか?」
「えっアルド?」
「いいじゃないか、旅の仲間は多いほうが良いだろ。」
シェリーは少し考えてフゥーとため息を吐いた。
「私、他に行くとこないから…一緒に行く。」
「わかった。聞いてるかもしれないが俺はアルド、こっちの冴えないのがトナだ。よろしくな」
「うん、あらためてよろしく…」
何もない砂漠の道を三人で歩いていく。正直、初めての自由に俺は戸惑っていた。これから何をしたらいいのか、何処へ行けばいいのかもわからない。そしてそれはシェリーも同じだったようだ。
「ねぇ、これからどうするの?」
「今回の騒動で直ぐに追手がかかるとは思えないが…とりあえず一息つける場所を探す。」
「追手ってどういう事…私たち捕まるの?」
「今回の犯人が俺らって大体の奴は分かるだろうし、そうじゃなくても一研究所のロードを全員失ったんだぞ。絶対取り戻しに来るさ。」
「そうだな、ここまで来て捕まりたくない。」
「それなら…良い方法が一つあるのだけれど。」
「なんだ?」
「私の固有能力の話よ、私の能力は浄化なの。一部で良ければこのネクロダストを浄化する事ができるわ。」
「なんだと?お前それ凄いじゃないか、」
「ありがと。でも浄化状態はずっとは続かないの、だから何回かかけなおす必要はあるけどね。」
でもそれが出来たらダストの中で暮らすことだって出来るはずだ。
「十分だ。幸いにも俺たちはネクロロード、ダストの中でも24時間は生きられる。」
「ダストの深いところに拠点を作り、定期的に浄化すれば研究者たちもなかなか追っては来られないでしょうね。」
「そうだな、その手で行こう。つくづくシェリーに会えてラッキーだったな。」
まさか、人類の天敵だったこのネクロダストが俺たちを守る障壁となるとは。人生は分からない事だらけだと思った。
「だが何故シェリーはそこまでしてくれるんだ?一緒に来てくれるだけじゃなく浄化の提案まで…。」
「私だってあいつらには腹が立ってたもの。私には妹がいたの、アンネクロを投与された時私は適合してロードになれたけど妹は適合しなかった。適合しなかった者がどうなるかは分かるでしょ?それにここまで来て私だって捕まりたくない。二度とあいつらの言いなりになんか…」
「辛いことを聞いたな、すまない。」
「いいのよ…もう、昔の話だもの。」
だいぶ深いところまできたはずだ。景色も変わって黒い霧に覆われたかつて街だった場所を歩いている。
建物が腐敗し今にも崩れ落ちそうだ。ここは城下町だったのだろうか。
「とてもじゃないが住めそうな建物は無いな。もう少し進んでみるか。」
「えぇ。思い切ってもっとダストが深い場所に行ってみない?辛いかもしれないけれどその分安全だとも思うから…。」
「そうだな、今は逃げ切るのが先か…。トナもそれでいいか?」
「俺はなんでもいい。」
アルドはシェリーに手を挙げて見せる。
「相変わらずお前は…すまんなシェリー、トナはこういう奴なんだ。」
「そうなのね…。」
三人はまた歩き出した。