エピソード0
______人と人とが平等で対等だ、なんていつの話だよ。本当に反吐が出る。吐きそうだ。____
昔、と言っても数年前の文献を見ながら一人愚痴る。
今は昔とは違う。どんな生き物も生きるのに必死で他人を想いやれる人間など、どれ程いるのだろうか。
二十五年前突然黒い霧は現れた。この黒い霧はたちまち世界を飲み込み、地球の人口の役6割が死に至った。
この黒い胞子が体内に入り込むと途端に目から耳から血を吹き出し死んでしまうと言う。たったの十秒程で人々はなすすべ無く死んでしまうのだ。
これは罰だ。人と人が平等などと都合の良い時にのみ平等を謳った人類への罰なのだ。
本当の平等とは、地位のある人間も貧しい人間も等しく死に追いやるこの黒い霧こそが真の平等なのだか
ら。
いつしか人々はこの死へ追いやる黒い霧をネクロダストと名付けた。
もし、神がいるなら笑っている事だろう。
「お前らの大好きな平等がそこまで来ているぞ」と。
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ここはとある研究施設だ。この場所には大勢の科学者とネクロロードと呼ばれる人間がいる。
俺は後者でトナと言う名前だ。俺みたいなロードは元々は孤児だった奴らが多い。こんな危険な仕事をまともな人間がやりたがる筈が無いからな。
ネクロダストが発生してから研究はずっと進められていた。五年かけて人類が生み出したのはダストへの対抗細胞であるアンネクロだった。
これを投与された人間はネクロダストを取り込んでも短時間であれば身体に支障をもたらさないという素晴らしい代物だった。
しかしもちろんデメリットも存在する。このアンネクロという細胞は徐々に身体や精神を蝕んで最後は自我の消失、人間としての死が訪れるのだ。アンネクロを投与されたネクロロードは二週間に一度程のペースでアンネクロ制御剤を飲まなければならない。この薬がある限りは延命できるという事だったが毎日の過酷な任務、ダストの中を長時間探索し資源を持ち帰る度に血を流し苦しむ仲間を見て俺の精神は確実におかしくなって行った。
また、二十四時間以上ダストを吸い続けても人間としての死が訪れる。人間性の消失、人ならざる化け物へと変化するのだ。そして人々はこの化け物をシビトと呼んだ。
ダストの中にはこのシビトがウヨウヨしている。
俺たちの成れの果てか、本当に笑えるな。
しかし、シビトこそが重要なのだ。シビトに落ちた人間から取れる血液からアンネクロは生まれる。
何故かはわからないがシビトになるとダストへの対抗ができ、身体が腐り落ちないのだ。通常の人間であれば十秒で血を吹き出し身体もろとも腐り、崩れ落ちてしまうと言うのに。
だからこそ、シビトは重要な資源であり、次の世代に繋げるために俺たちもいずれはシビトになるのだろう。
本当にクソッたれな世界だよな。