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第六話:強制家デート



ネロの謎部屋(監禁部屋)から抜け出す許可を得ると、ホスロはコソコソと部屋の隅にある階段を登り、彼女の家(ラドリア家)の大広間へと出て来た。どうやら直接繋がっていたらしい。

(一体どんな構造してんねん……)

聞いてみれば彼女の家は東洋の『寝殿造』を真似した構造らしく、とても開放的な間取りとなっており、確かに見ればホスロの実家と違って木や紙で作られている。

だが…偽物というか……なんか微妙に違う気がするが、まぁ…そうなのかも知れない。




「やはりウチの、東洋風の家は落ち着くでしょうホスロ」


「あぁ…お前と一緒じゃなければ寝転んどったわ……」


「今なんと?」


「いえ、何も」


(にしても、まぁ確かに和むなぁ…)

マラレル風の、伝統的な家屋と比べると窮屈感や圧迫感が少なくて安心出来る、というのは違いあるまい。


暫く二人で大部屋と大部屋を繋ぐ廊下を渡る。ふと横を見れば巨大な池が目に入る。やはり、なんとも趣のある。

東洋、東洋。一度実際に見てみたいなぁ、と微笑ましく思っていると………急に遠くからネロを呼ぶ声が聞こえて来た。

渋い声で、良く通っている。


「ネロ、ネロ、ホスロ殿の容態はどうだ!」


この声は…とホスロは頑張って思い出す。

(この声……ネロのぉ…父親だったかなぁ……名前は…)

確か王家の騎士で『王家の霊剣』の一員だ何とか言ってた気がする………

王家直属の騎士よりも上の位で、あのカンウの爺さんですら届かなかったとか。


「ネロ、ネロ、おう、其処におったか!!」


どうやらネロの父は中々せっかちな人らしい。

大声で呼びながらダンダンと足音を鳴らして向かって来た。先程まで廊下の対角線にいたはずなのに、既に目の前に居た。はっや、と思わず目を丸くする。


「ホスロ君、ホスロ君……懐かしいなぁ!!!」


「アルブレッドのおじさんだぞ、ほら、ほら、いやはや、本当に懐かしい」


「チッ、くそ親父……せっかくの家デート邪魔しやがって」


ネロはどうも不機嫌そうな顔で舌打ちをした。


(今こいつとんでもねぇ事言ったな……)


そしてホスロは口を開こうとしたが、即座にネロに割り込まれる。


「父上、ホスロの容態は既に安定しております、後は私が責任を持って彼を家まで送り届けますね」


「ほぅ、それは重畳……にしても素晴らしい働きであったぞホスロ君、半年も辺境の地『キルルワ』で竜を狩るとは……熟練の宮廷魔術師にも中々出来る任務では無い」


カンウも喜んでおったろう、とも付け足す。


「えぇ、そうなんで……す!?」


当然、思わずオイッと突っ込みながらネロの方を見たが、

ネロはさも涼しそうな顔で父親と会話を続けている。


(まさか俺が逃げた事を上手く隠してたとはな……)


「それにしても怪我をした状態で任務から帰って早々ウチに来るとはホスロ君、入るポータルを間違えたかな、それか余程我が娘に会いたかったと見える」


「いやぁしかし、まだまだ娘はやらんよ」


ガッハッハと剛毅に笑う。


「ああ〜大丈夫ですよ、ネロと婚約するなんて毛ほども思ってない__」


するとホスロの背中に何か冷たい鉄の様な感触が広がった、どうやらネロが『錬弓』で矢を作り上げて突き立てている。

たらぁ…と背筋に冷や汗が流れ落ちる。


「_事も無いかも…知れませんね………(こ、この女……)」


アルブレッドはもう一度大きくハッハッハと笑うと、ドシンドシンと奥へと引っ込んで行った。



間をおかず、ネロはするりとホスロの腕に腕を絡めて。


「では……改めて回りましょうか、我が家を」


勝ち誇った様な表情で引っ張る。


「この辺でお暇…」


「最近ここに松の木を植えましてね〜」



そうしてホスロはこの後五時間くらい拘束され続けると、真夜中になってから漸く開放された。

ネロは最後まで名残り惜しそうに、というか停めようと頑張っていたがホスロも必死に断って事なき事を得た。


開放され、彼女の屋敷を出た後は言いつつけ通りホスロは大人しく家へと向う。他に行く宛も無い、それに街に戻るわけにも行かないのだから。


「にしても…いや、ホントに半年ぶりじゃなぁ……」


実感は中々湧かないものである。

ネロが任務で出ていったと取り繕り、家族が承知していたとて、自分自身が無断で居なくなったのは事実。どうしようも無い。


暗いマラレルの夜道をホスロは歩く。ポツポツ、と家々の玄関に魔法で作られたランプが吊るされ、ほんのりと石造りの道路が照らされている。

道には巡回の兵士が目を光らせており、この国の治安の良さを物語っている。

コツ、コツ。道路を歩く音が心地よい。

コツ……コツコツ。

だが、同時にアッディーン家の、あの堅牢な石壁が時間が経つにつれてソレが近く、大きくなってゆく。先程まではあんなに遠く思っていたのに。

不安感と恐怖感が一気に増す。


(……家族は…幻滅するじゃろうな)


ホスロはそう弱気になりつつも、足だけは一歩、また一歩と歩みを止めない。


そして城門の前まで来た。もちろん門番が斧を持って立っている。この者はホスロの幼少期からアッディーン家の兵士だ。

(コイツの真面目さも変わっとらんな)


「ムッ、何者だ」


「久しぶりじゃなぁ…オドアケル」


「……」


「………ッ」


「……まさか………ホスロ様…」


「…」


ホスロは無言のまま彼の肩にポンと手をおき二回叩くと、そのまま城館内へと進んで行った。

冷えた城だ。ただ、装飾だけは無駄に立派である。

こんな意味のない場所に城館なんて作って、と昔家臣の誰かが反対していた事を思い出す。やはり彼の言う通りだったのだろう、何度中を歩いても実戦向きに作られているとは感じられない。


(寒いな…)


石壁のこの感触…半年しか経っていないのに涙が出そうだった。いや、触ってから初めて後悔心が湧き出した。

既に真夜中である、大半の人は寝ているのだろうか


いや、そんな事も無いらしい。廊下をゆったり、ゆったりと移動する光が通路の先に見えた。

(誰じゃろうか…)

遠くからなので定かでは無いが、アッディーン家の紋章を付けた使用人服……これは


ホスロの目が少し輝く。そして、イジワルそうな顔になって対象にこっそり…こっそり…と近づくと……


「わっ」


「うおっ!?」


「だ、誰だッ…って……おいテメェ…ホスロ様じゃねぇか!!」


「見回りか、殊勝じゃなぁラヴェンナ」


銀髪で短髪の…気の強そうな女性。

ラヴェンナという名の、アッディーンの使用人だ。

昔はネロと一緒に三人で遊ぶくらい仲が良かった。ホスロが宮廷魔術師を目指した頃にちょっぴり疎遠気味になったが。


「ネロに聞ぃたぞ、お前も出るなら言ってから出ろ」


「実はそのネロの……いや、何でも無い……あぁ、悪かったわラヴェンナ」


「謝んなら俺じゃ無くて奥方様や旦那様に謝れよ、ただのメイドに謝ってどうすんだよ」


「てか何時帰ってきてんだよ、もう夜中だぞ…それにしっかり向こうでも飯は喰ってたか?」


「竜狩り中に怪我とかもしてたらしぃな…そうか、それはもう大丈夫か、なら良い」


「今日はもう寝ろ、あぁちょっと待てよ寒みぃから温かい格好して寝ろよ」


お前は母親かと言いたくなるくらい小言が多い娘だ。

だが、それだけ自分を想ってくれている事が分かってホスロは温かい気持ちになった。


「ああ、明日親父やお袋と話をするわ」


そうしてホスロはそのまま自室へと向い、寝た。

思えばハード過ぎる一日だったなぁと感情に浸って。





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