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第五十六話:剣はペンよりも強し

____



「それで、何ですか、あの仰々しい軍勢は?」


__


続けて。

ホスロと騎士団は、その後も特に異常無く進んで行き、公国の新首都マドラサまで到着した。

到着した、と言っても、勿論……まだ内部までは入れて貰えぬが。

代わりに、エレノアは正装に着替え、わざわざ輿に乗って出迎え、彼等の長旅を労った。


彼等の境地を考えれば、なるほど…長過ぎる旅であった。先程まで獅子のようにはちゃけて居たサイエンでさえも、いつの間にか…グーグー、と立派な白馬の上で爆睡している。

(……話は後ほどって言ってたのは誰だよ)

とおもわず、馬上、ホスロはツッコミたくなったが


「ゲルフ、ギベリン、今日はもう、な」


取り敢えず無事に公国まで到着出来、現アッディーン本家の当主である、エレノアの元気な姿を拝めただけでも良かったでは無いか、そう悟らせ、彼等をマドラサに新築された来賓用の宿に泊まらせた。


道中の諸々は、今度こそ…後ほど聞くらしい。


________


そして、ホスロは現在…もうあと二時間程で朝になるのだが…何故か、未だに起きており、彼の腹心、クレア・ドールと会話をしている。

少女も寝ておらず、ココ最近は奔走し過ぎて目の下にクマが出来ている。


クレアは、青髪を月光に照らしながら


「"アレ"は、なるほど…全て、我が主の部隊でしたか」


「……」


そう、あの部隊は、騎士団は、全てホスロの配下である。仕える主が、ホスロの父から代わっただけ。

と、頷きながらホスロは返してやる。


元々クレアとしては、ラマ朝で何を買い揃えたのやら、公国と外交を開いてくれる国家は見つかったのやら…などを話したかったのだが、ソレどころではない…と言いたげに


「我が主よ…古来より……政治のみで国が纏まった試しは在りません」


続けて、少女は、今宿場に泊まっているであろうホスロの騎士団の方向に顔を向けながら


「武があっての、内で御座います」


暫く、双方とも何も言わない、月光はひかり続けている。

言わなくとも、ホスロは勘づいた。


「……なぁ、クレア」


クレア、とホスロは二度言って


「今度開く議会に、マラレルからの刺客や、暗殺者が紛れ込んだら大変じゃ」


そこで、ソコで……と、少年は、更に真顔になって


「我が…アッディーン騎士団を、グルリと…議場を取り囲むように配置しようと思う」


「ネズミ一匹"抜け出せぬ"ようにすれば、皆も安心して話し合える……じゃろ」


クレアは返さぬ。


「そうじゃな、議場の入口までの道の両脇にも、並べとこうかな」


「……」


「…良い、考えかと」


(騎士団を引き連れての領内の巡行かと思えば…随分と極端だな…哀れな、この男のために、言ってやるべきかな……)


クレアは、ふと思った。


(古来より、そう、古来より……)


このような…軍事的威力により国の方針を定めて、長続きした権力を聞いたことが無い。


……いや、マラレルはどうか。


(確かに、マラレルも独裁的ではあるが)


五老杖、王家の霊剣を呼び寄せ、彼等から反対があれば、国王とて断行は許されない。歴々は皆、そうであった。


現国王のリュクリークも例に漏れず……最強であるが、無敵では無い。


(…目も泳いでいるな)


現時点で、最強で無敵の部隊を手にしたと言うのに、この男はますます弱気になって来ている。

何故なのだ。


(自分は、エレノア様や……実弟を殺すのではないか?…という不安だろう)


そう、クレアは分析した。

きっと、ホスロにとってアッディーン騎士団の来着は嬉しいと同時に……本能的に、内なる心の悪性を活性化させる薬として…忌避すべきモノなのだろう。


「あぁ、ただし…団員の皆様の腰には、木剣を帯びさせなさいませ」


「…!」


少し、ホスロの瞳がピクリ…と回転した。


「公国の方針を定める神聖な議会の場を、鉄の匂いで汚さぬ方が良いかと」


「……それも、そうじゃな」


(やはり、弱気だな)


だが、どうやら、ホスロの瞳の動きに鈍りが見え始め……少女との対話により、さらに、暗くなる。


「有難うな、クレア……」


「金は要りません」


ホスロがいつものように、礼と共に袋詰めの小銀貨を渡そうとしたが、クレアはムッとし、拒否して


「夜も遅……遅すぎますし、今日は早く休んで下さい」


冷たい表情で、冷えた目で言った。


(忠誠心をアピールしておかねば)という魂胆もあったろうが、この時のクレアは、二割ほど、本心から言っている。


「そうじゃな」


ホスロも、冷たい顔で返し、寝室へと歩いてゆく。

月光を背にし、少女を背にしながら歩く少年の姿は、少し、悲しそうで、背中が……小さく見えた。


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