第五十四話:アッディーン騎士団
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「おい、ホスロ殿…どうした、枯れ木のような顔だぞ」
ネロの商館から、風になったようにフラリと、朽ち果てたように出ると……前日、ダンテと打ち合わせていた宿屋までやって来た。時刻も約束通り、正午くらいである。
意外にも、あのあと一切ネロは追いかけて来なかった。姿も見せない。
少し…逆に不気味に思ったが、ホスロも、あまり考えなかった。考えるだけ…昨日の屈辱が蘇る。
「……少し、疲れたわ…ダンテ殿よ」
待ち合わせ場所は、正確には宿屋の玄関の正面である。ポツリ、ポツリと人が歩いているが、その殆どが商人。
「『一日ラマ朝に居ただけで旅疲れですか、軟弱ですね』」
道を行く人の顔と反比例するように、あまりにもホスロがやつれているので、ダンテの背後に居た左衛門尉まで、和風の竹笠に片手をやりながら、ホスロへ紙を寄越した。
「……軟弱、か、確かにな…精神はそうじゃわ」
少年は反論する気も失せたのだろう、諦めた風に笑ってやる。
「……後はヨナタン殿が合流するまで待つだけ…だが」
すると、左衛門尉に続き、ダンテまで…ニィといやらしく笑うと
「それにしても、そのやつれ具合、"まさか"な、ホスロ殿よ、何処の娼婦であったのだ?」
次にココに公用か何かで来た時に掻い抱こう、とダンテはベロリ…と舌を回す。
あのホスロがやつれる程など、上玉に違いあるまいと……英雄色を好むと…いや、ダンテは英雄の子孫なだけに、その性格が濃く引き継がれているのだろうか。ともあれ、狙いを定めたのだ。
瞬間、ドカッ!と、自分の真横で色話をされるのが余程気に食わなかったのだろう。
ダンテを左衛門尉がまぁまぁ本気で殴り飛ばしたが、それでも騎士団長は諦めず、ホスロに、気を取り直して尋ねる。
「グッ……中々…良い……一撃を貰ったな…と、とにかくホスロ殿よ、相手の名を言ってくれ」
「…忘れた」
止めろ、と頭から怒鳴りつけてやりたい気持ちを抑え、ホスロは面倒くさそうにダンテに言う。
「……そうか、それは残念」
ダンテにとってみれば、意外な反応である。(さては、何か…一悶着あったのかな)と推測し、深堀りはしなかった。
__やがて、しょうもない雑談を繰り広げながら数十分程時間を浪費していると、ヨナタンは大路の向こうからやって来た。
頭鹿族のため、身長に加え立派な角が足されるため、遠くからでも分かり易い。
だが、どうやら…深酒を採ったのだろうか……あからさまに酔っており、村から乗って来た馬も…忘れたのだろうか、いや盗まれたのかも知れぬ。無い。
加えて、酷く女性らしい香水の匂いが体全体を包み込むようにこびり付いている。
「おぉい、殿下、ダンテ殿…待ったかぁ?」
「……」
自分も大概……人の事は言えないのだが、その、街に寄るたびに娼館に行くクセをどうにかして欲しい。そう、ホスロは思った。
ヨナタンの同僚である、アステルドはまだ行く回数が少ない方なのだが、本当に……この鹿男は多過ぎる。
公国まで一緒に旅をしていた時も、暇さえあれば……本当に、狂ったのではあるまいか、とホスロが心配する程に通い詰めるのだ。
(この男…戦場にまで、女性を連れて来るんじゃ無いか…?)
別に、そう言う騎士や貴族はゴマンと居るが、ホスロとしては…戦友がその中の一人にはなって欲しくは無いらしい。
ただ、ガミガミと言って治るモノでも無いし、少し「自重しろや、ヨナタン」と軽く窘めただけで終わる。
「うむ……おや…殿下よ、疲れているな」
ヨナタンは赤い顔で酔いつつも、ホスロの表情を見てヒック、としゃっくりしながら驚く。
「ヨナタン殿よ、コヤツ、娼館に行ったのだと、意外だろう?」
「…ふむ?」
ダンテは、恥ずかしそうにそっぽを向くホスロを見つつ、言ったのだが、ヨナタンは不思議そうに
「そうか……いや…居た……のか?」
俺が昨日行った館では殿下の魔力を感じなかったぞ。と、酔っていながらも、鋭い瞳をしながら首を傾げた。
「そりゃ、アソコに居ったら、感覚も鈍るじゃろ…ソレに、同じ所に行くとも限らん」
ホスロは続けて顔を背けながら、手にする杖に罪悪感も負いながら、説明する。
「ふっ、まぁ、集中するからな…まぁ、ともかく…よし、ではさっさと公国に帰るか」
そうして再度集結した四人は、また砂漠へと馬を進ませる。(ヨナタンの分の馬はこのあとすぐに買い直した)
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ラマ朝から出る時は、やはり、入った時と同じで大砦の鉄門をくぐる。戦時以外は自由に入出可能であり、ホスロは(ラマ朝が発展しとったのも、こうやって……自由に商人を迎え入れとる部分も大きいじゃろうな)と、これから催されるであろう議会にて、エレノアに更に進言してみようとも思う。
そして、門を抜けると、一行は砂地帯に馬の蹄を入れ始めた。
「所でヨナタン、エレノア様から聞いたか?」
「何をだ」
入れ始め、まだ、百歩も進まぬ内に、ホスロはヨナタンにずいぃと馬を寄せて、聞いてみた。
「公国の統治制度を改めようと思ってな……議会を近々開く事じゃ」
「ほぅ……そうであったか…全く、知らなかったぞ」
「ホスロ殿、公国の譜代衆や貴族の方々への説得、頼みましたよ」との言葉通り、どうやらエレノアは、完全にホスロに一任するらしい。
ホスロは、(部下を信頼する良い王では無いか!)、と思うと共に、ソレは同時に、彼女なりに……"公国の守護者"を試しているようにも思われた。
ホスロが……少年が、この構想家が練っている議会と、エレノアが考える形式とが一致するかどうか…である。
エレノアが頂点で無いと解れば、譜代衆は納得すまい。貴族達とホスロだけで議場に来るようであれば、即座に彼女は議会を停止するだろう。
(エレノア様も、意地が悪いお方じゃなぁ)
と思わず苦い感じがする。
そうであろう。そもそも、彼女が直接言えば良いのだ。
ホスロがサラーフの名を継ぐに足る男であるかどうかは、公国の将達に信頼され、みとめられ……そして、貴族衆の何人が集まるか…によってのみ証明されるのであろう。
ホスロは馬上、懐中から、クレアに「近隣諸国の統治制度を真似た方式です…」と渡されていた、彼が主催する議会の内容を記した招集状を…ガサガサ、と取り出すと、今度は下馬し
「ヨナタン、お前も馬を降りよ」
と言いつける。
「うむ…?何だ、急に………おや、ソノ紙は……良かろう」
とヨナタンは素直に従い、砂の上にも関わらず、ザッ、と膝を着いた。
「何をしている、二人共」
「まぁ、ダンテ殿、ちょっと思い出しただけじゃ」
ここで急に渡す必要も無いのだが、かと言ってやってはならない理由も無い。
「王宮騎士ヨナタン、貴公を…公国の議員の一人として…任命する(議員の任命権も、エレノアより下賜されている為)」
「ははっ」
と、ヨナタンは恭しく両手を上げて書状を貰い、読む。かなり長い……だが、汗を垂らしつつ、ヨナタンは黙読して行く。
「ふむ、ふむ、なるほどな……公国の騎士爵以上の家臣を公国議員、マドラサの貴族達を貴族議員とし、双方に、エレノア様に進言する内容を考慮し、実行する権限を与え……その場でスイスイと決めてゆくと……」
うむ、うむ…と彼は大きく頷いたモノの、途端に表情が変わり
「…コレで…異論は無いな…見た目は……だが、守れよ殿下、議会は勿論…エレノア様が最終的には進言された意見を取捨し、エレノア様が任命した官僚達が主軸となり政は執り行われるのであろうな?」
「…当たり前の事を……言うなや」
(そりゃそうじゃ……とも言えんか、貴族にも課税を納得して貰うために開いた…言わば俺のエゴで開いた議会じゃもんな)
ホスロはバツが悪そうに、横を向いてしまった。
ヨナタンは、逃さない。
「殿下、まっすぐに俺を見ろ」
「…この書状には、前提として、君を護国卿とし、更に議員の一柱に加えると…ある」
「護国卿は…公国ではローズバリア閣下も任命された、国の軍事面での…正式なトップな訳だ」
「ただ、政治面のトップではない、それに…発言権自体は他の者と変わらぬ事を心掛けろよ…?」
そもそも護国卿自体がエレノアの権限の下に置かれる。ソレを、執拗にヨナタンは言って来た。
そして、畳みかけるようにして、猛暑の中、凛々と単眼を光らせながら
「コレから頻繁に開催されるであろう、公国議会は、"エレノア様の為の議会"だ、我らが意見を出すが、決めるのはエレノア様だ」
「サラーフの名を継いだからと言って…無茶は……するなよ、良いな?」
「……あぁ、ヨナタン……"将軍"よ」
この男は、つい最近エレノアより、王宮騎士から出世し、一軍の将……これから新設予定の公国第三軍団の長に任命する予定である。
一軍団につき約五百名の、ソレを三個分…計千五百の正規軍を…名目上だけでも編成しておく事を、議会で正式に定めるのだ。
コレに関してはエレノアからの許可も降りており、貴族達も…野盗が活発化して行くであろう今のマドラサの状況を知れば……別に反対する理由も無くなって行くハズである。
「おい、終わったか?…暑いから…早く行くぞ」
馬の腹を強めに蹴り、ブルルッと鳴らせ、ダンテは口を膨らませ、軽く怒る。
いつまでも炎天下の中で二人が真剣に長話をするものだから、イライラとしていた。
「…騎士団長殿は、堪え性が無いな」
ホスロが振り向き、カッカッカ、と乾いた声で笑うと、「フンッ」とダンテは言い捨て、カッポカッポ、と、また砂の海に馬を入れ始める。
ヨナタンも、無表情で着いていた膝を持ち上げ、パラパラと砂を払い落としながら騎乗すると、同じように、帰り途を行き始めた。
そうして…帰りは、行きとは違い、あまり多くを話すことなく…安全に終わった。
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カツ……カツン………カツ
四匹の馬が、かなり進んで行き、時も経ち。
オアシス村付近の、石レンガの街道を歩いている。
既に夜中である。途中でポータルを経由した、というのもあるが半日ほどで村と往復出来ると言うのは、なんとも便利である。
(更に、公国とユグノ伯会社を直接ポータルで繋げば……商人も多く呼び寄せれるようになるだろうし…ラマ朝訪国は悪く無かったな)
勿論、ネロとのアレコレは少年の頭からは忘れ去られたように……考慮されていない。
「おっと……」
カツカツ、と石レンガの上を歩きながら。
眠気のせいだろう。馬上、ダンテは、一瞬ふらりとした。
「ダンテ殿、ラマ朝まで助かったわ、きっとこの…馬鹿男と俺だけじゃ、道に迷って辿り着けんかったじゃろう」
「おい、馬は余計だろ」
ヨナタンも眠そうながらも機敏に反応する。
だが、ダンテは
「いや…ソレだけではないか、実際にラマ朝の…いい商人に巡り合わせたのは、ネロという君の友人だ」
自分と…左衛門尉は、道案内と、もしも…龍が出た時に備えての護衛をしただけである。と恥ずかしそうに言った。
「謙遜すんなや、まぁ、こっちからはあんまり出来る事が無いかも知れんけど…借りは返す、困ったら何でも頼み事してくれや」
ホスロは疲れと恐怖からの解放で、満面の笑みで、にこりと快闊に笑う。
「ふむ、では…今度はこちらから伺うことになるであろうよ」
と、ダンテと、お付き人の左衛門尉は、軽く会釈をしながら馬首を曲げると、村がある方向に進んで行った。
最後まで石レンガの上をカッポカッポと歩き続ける二人を見送りきってから、ホスロとヨナタンは、力を合わせてガリガリ…と道から外れた林の中に移動し、ロングソードに大量の魔力を込めながら、土の上に魔法陣を敷く。
ここから更に公国…となるとシンドイため、横着をするのだ。
一応、ごく低確率ではあるが。ポータルを使うと暴発する事があるので、危険ではある。
「ふぅ…一等宮廷魔術師相当が二人おっても…やっぱり即席のテレポートの陣は……辛いなぁ」
「うむ…」
改めて、色々と欠陥はあるが、単独で…ソレも魔法陣も敷かずにテレポートが可能なレマナは、特等魔道士以上の技量がある。とホスロは内心、思い出しながら感心した。戦闘能力自体はそこまでだが、技術力が桁違いである。
ガリガリ……パンッ!
「よしっ、出来た、爆発もせず……大きさもいい感じ…出来たなヨナタンよ!」
「…殿下、先に俺が入る、一応な」
と言うと、ヨナタンは眠そうに目をシパシパさせながら、それでも両手剣をスラリと抜き、刀身に魔力強化を施しながら魔法陣をドシリ…と踏む。
彼が踏んだ瞬間、周囲の地面がパァァと光って……ヨナタンは、消えた。
彼が完全に消えた事を確認し、ツーテンポ程置いて、ホスロも入った。
パァァと明るい暗闇が、閉じ…そして再び見えてくる______
「…ヨナタン!、居るか!」
「おぅ」
良かった。無事に二人共、同じ座標に来たらしい。
が、場所は……
「あれ…でもここ……あ、ほら、アソコに城が見えるな………」
「むぅ…うぅん……また歩くのか」
横着は成功したが、でも…やはり脳筋二人には難しい作業であったらしい。
そもそも、テキトーに魔法陣に「大体この辺だろう」と座標を書き入れた、と言うのもあるが。
「二キロくらい先かなぁ……随分と小そう見える」
「後悔しても仕方あるまい…眠いが……行くぞ殿下」
二人は、睡魔に襲われつつ共に移動を開始した。
死鶏がよく出没する土地なので、勿論用心はするが、頭が、眠気で金槌のように重く感じる。
すると……
ザッ……ザッ……
「……?」
ザッ……ザッ…………
「…ヨナタン、聞こえるか?」
ザッ、ザッ、ザッザッ
行動を開始して間もなく、何か……複数人の、足跡が前方から聞こえて来たのだ。
(クソ…なんだ、懇意の野盗達ならば…ヨナタンにバレんようになんとか出来るかも知れんけど……)
違うならば、疲労状態での戦闘行為は極力避けたい。
人数は、百を優に超えているであろう。
足音が断続的に聞こえる上に、波のように魔力が飛んでいる。
「……公国…ではないな、この時間は夜警はしておらぬ」
「じゃな、こんな……夜遅くに……突き止めようか」
ホスロは言うと、体を押して、足音がする方に駆けてゆく。
「待て殿下、慎重に…な」
ヨナタンもホスロに追従し、マドラサ平原を疾走する。万が一、公国の敵対組織ならば、偵察だけでもしておかねばなるまい。
注意深く、耳を澄ませて、距離を詰めると……その足音は、マドラサへとズンズン向かっているでは無いか!一体、なんの為に……
「おい!ヨナタン、見てみろ、あの林道を」
ヨナタンを手を広げて止めたホスロは、林道を移動する例の足音の主達と思われる部隊を発見し、凝視する。
「…ちッ、マラレル兵か?」
どうなんだ、殿下。俺には良く見えぬ。
とヨナタンは焦っているらしい。
だが、対照的にホスロは「信じられん…」と言った表情で、そして何とも嬉しげに
「まさか…!!」
と、同時に…犬のように小走りになると、その、林道を綺麗に整列しながら行く部隊に不用意にも、魔力強化もせずに近付いて行った。
「まて、殿下、あまり軽率に動くな!!」
ヨナタンが、「殿下の戦闘狂のクセが出たか?」と更に焦り、頭を掴んででも止めようとする。
だが、ホスロは止まらず、行列の最前列まで飛ぶようにして行くと
「お前達、一体何をしているッ!ここから先は通さんぞ!」
とわざとらしく、そしてイタズラをする少年のように声を上げた。
部隊は暗闇でよく見えなかったが、少年の声を聞き、目に見えてザワザワと動揺した。
その動揺は恐怖や、戦場での恐慌ではなく、驚きと、安堵に近いものである。
そして、林道を歩んでいた部隊は止まり、遂に彼等を率いていると思われる重装の騎士が馬に乗りつつ進み出て
「その声…まさか………若様であるか!」
「おぅ、おう、若様じゃ、アッディーン伯爵家のホスロ・アッディーンじゃ」
すると、先に返って来た声の主のみならず、少年の声が後方まで、しぃぃんとよく響いたために、ザザッ、と道沿いに居た将兵たちはこぞって、いきなり……兜を被っていた者は脱ぎ捨て、そして剣を抜き、天に向けて一直線に、ズバリ!と掲げる。
男泣きに泣く声も、ちらほらと聞こえて来た。
剣を掲げる行為は、(マラレルの)アッディーン伯爵家が毎度戦場で敵を打ち破った際にされ、一種の勝利パフォーマンスとしてマラレルの他の貴族からは、縁起が良い、と人気であった。
そう。マラレルの精鋭たる…アッディーン騎士団の象徴なのだ。
皆、岩のように喋らない。ホスロの次の言葉をただ、無言で……待っている。
「あぁ…ホンマに……良かったわ、我がアッディーン騎士団よ、よぅここまで来たなぁ!流石の忠誠心じゃ!!」
と、ホスロが馬の前足をブルル!と上げ、ロデオポーズのようになりながら、興奮しながら言うと…ドッ!と、「アッディーン家、万歳!」と木々を震わす大歓声が沸き起こる。
そして、その、暫くは止まぬであろう歓声の中、ホスロは、コソコソと、今度は低い、普通の声で
「ホンマ…………どうして…いやはや、ホントに……なんでここに居るん?」
「ゲルフよ」
と、ホスロは…暗闇の中、それでも相手が誰であるか解るのだろう。
男の名前、ゲルフよ。と言いつつ尋ねた。
ゲルフ。家名は無い。ホスロの祖父が奴隷の身分から引き立てた後に、従軍した西方征服戦争にて、(隊長級含む)八十を超える敵兵を、メイスで撃ち殺した功績により騎士爵を与えられ…そのままアッディーン家の家臣団に加わった男である。
純血の耳長族であり、買う時は高かったのだと。
先の功績により、奴隷将軍と国内外から恐れられている。
「若様、詳しい話は……長う…なります、一先ず…アーディル様はご無事ですか?」
「あぁ……じゃけど…ふむ、そちらこそ、ギベリン将軍はどうした?」
「ギベリン殿も無事ですよ、彼は今、後方で哨戒中です」
「それより……ホスロ様…我が主…カイロの最期を__」
ゲルフは表情を強張らせたが
「良い良い、それこそ、後で良い」
ホスロはなるべく、暗い話は避ける。
再会の瞬間だけはせめて、思い切り明るく有らねば。
「おい殿下、この軍は全て…君のか?」
すると、背後に…いつの間にか、すんなりとヨナタンが立っている。
ホスロと将軍らしき大男が楽しげに話しているので、すでに警戒は解かれ、大剣は背中に納められていた。
「うん……父上も…一応行方不明で指示が出せんし、実質俺の軍じゃな」
「そうか」
少し、顔を歪ませながら鹿男は頷く。
(殿下め…良い……軍団を持っているな)
「それよりホスロ様、奥方様は……ご無事でしたよ」
ゲルフは、ホスロがわざわざ話を明るくしようとしているのを察し、朗報を届ける。
「……うん?奥方様……?」
ふむ……「奥方様」とな…待てよ…
そういえば、該当する者は一人居るが…
(サイエン達、キルルワの村の連中は…リュクリークに捕まっとるけん、おらんは____)
「魔術師様!よくぞご無事で!!」
すると、遥かな後方から、兵達を押しのけながら、全速力で……黒髪の、狼のような瞳の少女が走って来、無遠慮にもビュン!と風を切りつつホスロの目の前でピタッと止まる。
「……ネロも…可哀想にな」
まぁ、カンウやコイツを抑えきるのは厳しかったのだろうな、と目の前の活発な少女を見ながら同情した。
「……サイエンか…なんか…数週間しか経ってないのに……懐かしいな」
同時に、ホスロは思わず、パチパチと瞬きを繰り返しながらサイエンと目を合わせる。
契約上、嫁になってしまった彼女の無事やら、部下の安全を確認し、ホスロは「良かったわ…今まで生きてきて」とほんの少しだけ、涙が出そうに____
ホロリ…と土には落ちなかったその涙は、ホスロの心中で誰にも知られず流れた。




