↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/105

第五十一話:商売人


ホスロは書庫を訪れた翌日、すぐに、オアシス村へと単身向かった。

忙しい、忙しい。

悩んでいる暇など、罪悪感を抱える暇など、作ってはならない。

そもそも、ホスロの行う一挙手一投足、全て公国の為となり、マラレルを滅ぼす為に必要な事なのだから。


今日の村訪問も、その"ホスロの正義"の下、行った。

勿論、行く直前に議会の招集への呼び掛けはどうするのだ、とクレアに問い詰められた。が


「安心しんちゃい、議会は二週間後に開くらしい……ソレまでに十分公国の人らは説得出来るわ」


二週間の猶予。ソレは、ホスロにとって水よりも有り難かった。

十分な下調べと、貴族への根回し。ソレに何より、ここで病院騎士団や隣国との関係を良好にすることで、外交面での実績を積めるやも知れん。

ホスロは少しでも、最高指揮官としての自分の価値を高めたいのだ。


尤も、病院騎士団への訪問は「なんか、ダンテならいい感じの取引相手国探してくれんかなぁ」

との期待が殆どだが。


だが、少年の期待とは裏腹に……どうやらホスロはあまり歓迎されてないようで。


「やぁ、ホスロ殿…君の面の皮の厚さには驚かされる」


オアシス村に着き、ダンテ屋敷に入り、団長と面会した瞬間に、そう嫌そうな顔で言われた。

どうやら、未だにダンテはオルレアンに付けられた傷が痛むのだと。


「なになに、最新の武器道具の流通元を教えろ…か、出来んな、出直してこい」


「何でなん!普通に紹介するだけじゃがな!!」


「黙れい!お前達のせいで俺の館はボッコボコにされた挙げ句、まだ傷が痛むわ!」


「ほら、見てみろ!この股関節辺りに出来た大きな傷を……これからどんな顔して女人に会うのだァ!」


「いや知らねぇよ……」


しかし、ホスロは尚も諦めず


「もう、ホンマにどうでもエエから、早ういい感じの貿易国あてがってや」


「……ソレが人にモノを聞く態度か?」


高貴な騎士団長殿は、ポニーテールを垂らし、人を馬鹿にするような目をして、ニタァと笑いながら言う。

声がヘビのようにしっとりしているのも相まって、煽っているかのように見えてしまう。


「ほら、もっとこう…あるではないか、言い方が」


「……オルレアン、また連れてくるぞ__」


「ははぁ、ホスロ殿、我らは隣国同士、何でも遠慮なく申せよ、そうそうオアシス村のトイトブレル砂漠の西に位置するラマ朝や、村が日頃世話になっている…ウキヨの国なんて丁度いいぞ」


オルレアンの名を出した瞬間、ビクッ!とダンテの体が跳ね上がる。

そしてやや早口になりつつ、ホスロに、自身が最も信頼を置く二国を言った。


「……うん……ウキヨの国は分かるが……なんだって、ラマ朝?」


(聞いた事が……無いな、オアシス村の西、オアシス村の西…峠を越えるのか……?いや、知らん)


「病院騎士団はそんな小国から……可哀想に、どうせ不利な条件を押し付けて金を巻き上げとるんじゃろう……」


「病院騎士団を、ならず者国家か何かだと思っているのか…君は?」


そのまま聞くと、どうやらアヴェルナ教の国家らしく、一応王が統治しているが、商工人の力が強く明確な軍すら持っていないらしい。

反乱が起きる度に傭兵を金で雇うそうな。


「だが、アソコは武器の性能だけは確かだな」


実用性が保証されている。

なぜなら、戦時になれば国産の兵器を傭兵に貸し与え、その中で有用であった物だけを商品として出しているからだ。


「ウキヨの国のように、貢物を持って拝謁する必要も無いし……どれ、一緒に行ってやろう」


意外とフラッと立ち寄れる感じの国らしい。王への挨拶も要らぬのだと。

(象徴的……あまり権力を持たぬ王なのかな…?)

と、思わずホスロは考えた。

だが、議会や貴族の力が強く、彼等の決定に頷くだけの王や皇帝も居るので、珍しくは無いのかも知れぬ。


「ほほぅ、一緒に行ってくれるんか……助かるわダンテ殿……ついでにヨナタンも連れてくるかな」


そう言うとホスロは二人で対話していた個室から出て行き、勝手にダンテ屋敷の庭に入って、ポータルを設置する為の魔法陣を描き始める。

コレも、レマナに以前教えて貰った紙を見ながら、ガリガリ…と地面に描く。

十本の線を円形に並べ、ソレを縦横それぞれに二等分する線を、更に引いた。


陣を描き切った瞬間、ゴッソリ…と魔力が体から抜けた。

多少の倦怠感さえ覚える。


(……魔力の消費が激しいな…村とマドラサを繋ぐだけでも、コレだけ使うんか……)


「おい、勝手に俺の屋敷にポータルを貼るな」


「……?許可を得とるんじゃけん、エエがな」


「誰にだよ」


「さっき屋敷の廊下で左衛門尉に会った時に、彼女『病院騎士団の屋敷の中ならば何処に設置しても構いません』って紙に書いて見せて来たで」


「………」


そのままホスロは、目を細めるダンテを横目にポータルを完成させると、あらかじめヨナタンに、村へと行く直前「コレ持っといてや」と渡していた遠隔起動の陣が刻まれた粘土板と、ポータルとをリンクさせ、無理矢理ヨナタンを呼び出した。


「……!!ここは……」


急に景色が変わり、ヨナタンは大剣を振り抜き、警戒したが、正面にホスロとダンテが並んで居たので、すぐに収めて警戒も解く。


「はぁ……あの粘土板か…………殿下、俺は別に君の小間使いでは無いし、暇では無いぞ」


どうやらマドラサ城の反魔法結界(アンチマジック)の修復作業の指揮をしている最中だったらしく、軽く怒る。


「嘘つけや、お前娼館に行っとったじゃろ、召喚主は俺じゃけん、お前が最後におった場所は知っとるぞ」


「……まぁ、息抜きくらい良いでは無いか」


小言を言うな、と、ヨナタンはすぐに横を向く。


(それに…どうせ、現場におってもヨナタンは……いつも荷物になるがな)


一度、この脳筋の頭鹿族(ペリュトン)の活躍ぶりを見てみたが、どうにも……

九割、結界を張り直すレマナや、公国生き残りの魔術師達で結界は編まれていた。

ヨナタンは立って見て居ただけである。


「そもそも、現場にヨナタンがおっても邪魔になるじゃろう」


「……全く…君は、いつも俺に辛辣だなぁ」


ヨナタンは顎を撫でながら、微笑んで言った。


正直、どうせ現場に居座るだけなど暇で、出歩きたかったに違いあるまい。

連日娼館に入り浸りも飽きるだろうし。

まだ、ホスロのわがままに付き合うほうが楽しかろう。


「よし…三人も居ったら流石に大丈夫じゃろう、いざラマ朝へ!」


ダンテとヨナタンは応ともすんとも言わぬが、どちらも「仕方ないな」と困ったように、末の弟の乱暴に目を瞑るように、困った顔をしながら括っていた馬に跨り、付いてゆく。


________


ラマ朝は、先に述べたように商人が半分独立し、皇帝に会わなくとも、一応別個に契約は結べる。

ホスロとしては、なんともやりやすい。

謁見で失礼が無いように気を配る必要が無く、この時期に無駄な失敗をせずに済むのだ。


マドラサに帰れば「ラマ朝と公国の通交を成功させた」と市民に言いふらす予定らしい。


きっと、随伴しているヨナタンやダンテは、そのホスロの過大報告を耳にすれば、声を上げて笑うだろう。



三人は村から半日馬を走らせ続け、ラマ朝へと向かう。当初は馬の蹄に付与した『風』の普遍魔法により、トイトブレル砂漠の細かい砂にズボッと埋まる前に、風で浮いて体を支えつつ、滑るようにスムーズに移動していたのだが、だんだん馬本体の魔力(人間以外でも、一定量の魔力を持つ。特に軍用馬等は多大な魔力を保持している)

が枯渇してきたので、ズボッ、ズボッ、と砂に思いきり埋まるようになり、ペースが落ちた。


__そのセイだろうか……この地域は病院騎士団の管轄下でないため、行商人を狙う賊が多く出る。

こんな砂漠地帯を馬でゆっくり移動している騎士階級の一行など、格好の的なのかも知れない。


例の、魔力が枯れ、足ももつれ…疲れ切った馬で移動している最中、急にヨナタンが乗ってきた馬を労りつつ、背後を振り返って「おい、後ろだ…二人共……戦闘態勢に入れ」


どうしたのだ、と当然ホスロとダンテも振り返る。

ちなみに、二人が振り返るよりも早く、ヨナタンは抜剣していた。


彼の言葉通り、後方を見る。

すると、なるほど……確かに砂塵を巻き上げ、何者かがサメのようにして突っ込んで来ていた。

ザァザァ、と砂が盛り返り、左右に上昇しながら履ける度、軽い砂嵐が起こる。


「……速いな、クソッ、馬を降りる暇__」


ダンテが何やら行動しようとしたが、反対に、対象がいきなり加速し、グバッ!とケリをダンテの顔面にお見舞いする。彼の体は衝撃によって鞍壺から離され、後方へと吹っ飛んだ。


「ダンテ殿ッ!!」


(クソッ、ほぼ見えん……スピードタイプか……嫌だな)


「ダンテ殿、ダンテ殿、無事か!」


後ろにあった砂の塊にそのまま突っ込んで行ったダンテを気にかけつつ、ホスロは『操槍』で六面方陣を自分の背中に設置し、いつでも迎撃出来るように構える。


だが、当のふっ飛ばされたダンテからは気の抜けるような、穏やかな声が返って来た。


「……ほぉ、左衛門尉では無いか…」


追手の正体は、ダンテの懐刀であった。


「なぜ……」


何故追ってきたのだ、とダンテは迷惑そうに、短い黒髪の、上下具足を身に着けている娘を、軽く睨む。


「『護衛です、というか私に許可無しで出歩くのを止めて頂きたい』」


ホスロとヨナタンは、距離が離れている為に、左衛門尉の口代わりの紙の内容が見えない。

故に、不思議そうだ。


だが、ダンテは軽く笑って


「ハッハッハ、いやはや、お前の生真面目さには……呆れるな…ホスロ殿、ヨナタン、済まない…俺の伝達不足だった」


護衛をしたくて付いてきたらしい、と二人に告げると、たちまち彼等は馬上、破顔して


「左衛門尉殿は、過保護じゃなぁ」


特にホスロはニヤニヤしながらダンテを見る。

すると、ダンテは恥ずかしそうに顔についた砂を落とすと


「……貴殿らがエレノア様を守りたい様に、きっとこの左衛門尉も…俺を尊敬し護りたいと思っているのだよ、同じ事だ」


とエレノアを例に挙げて反論したが、当の左衛門尉がすぐさま


「『いえ、ダンテ様を尊敬した事は有りませんが、あなたが死ぬと私の責任になるので』」


と、事務的な事を書く。ソレも無表情に。


「まぁ、連れが増えて良かったわ」


「左衛門尉殿、ついでに俺らの護衛も頼むで」


とホスロが仲良くなろうとしたのか、左衛門尉に向けて冗談めかしく言ったが、どうも彼女は面倒くさそうな目をしながら


「『弱いくせに、あまり馴れ馴れしく話しかけないで下さい、不快です』」


と小さく紙に書いて投げて渡してくる。


「いや口悪ッ!」


ともかく、旅は四人に増えた。


それにしても左衛門尉が居ると、旅は安心出来る。

魔力量もさながら、動きと、周辺環境の、魔力による簡易的な把握に一切の無駄が無いのだ。

魔物に対してあまり警戒しなくても良くなるので、移動に専念出来る。


やはり……砂漠を通る、という行為だけで、基礎的な魔力強化がホスロより数段高いのが手を取るように分かる。

きっと、少年が所持する固有能力をフル稼働しても負けるに違いあるまい。


(まぁ、最近取った『操天狗(タナトス)』も使えば勝てるじゃろ)

と本人は思っているらしいが。


魔力量が多ければ、単純に身体能力も高くなる。

ジルレドの様に平均的な魔力量でも技量さえあればどうにかなるが、左衛門尉に関しては、そもそもその魔力量自体が薄く纏っているだけで、ホスロの全総量に匹敵している。戦闘態勢に入ればコレの五倍は増すのだろう。

生物としての格が違うのだ。

才能の世界なのだなぁ、と改めて、ライオリックやこの娘を見ていると、そう思ってしまう。


(そう考えりゃ、固有能力、魔力量共に並じゃったけど、アレだけ強かったジルレドは……俺が手本にすべき人物じゃ)


だが、ホスロは平均(一等宮廷魔術師を基準とする)以下、ジルレドよりもちょっと少ないくらいの魔力量の為、今後は更に鍛錬と工夫を必要とする。


「おい、殿下、何故ボー…としている……ビシッとしろ、いつ龍や魔物に襲われるか分かったモノではない」


ヨナタンが、そんな上の空、考え事の多いホスロを注意するが


「いや、やっぱこの世界、才能が殆ど何だなぁ……ってな」


「……まぁ、確かに、一理はあるな……君なんて特に、固有能力は二つ有るが両方とも平凡だからなぁ……ソレに、魔力量も少ないし」


「……うぅん……面と向かって言われたら傷付く…」


「止めろヨナタン殿、ホスロ殿の固有能力は別に弱くは無い、使い方が脳筋で、戦術性の欠片もなく幼稚なだけだ」


「おいダンテ、張り倒すで?」


ホスロは思わず「おん、やるんか?」と顔に青筋を入れ怒る。


「……確かに、殿下の固有能力は磨けば伸びるタイプであるのは事実……か、済まなかった、殿下よ」


(コイツラ……自分の能力がメッチャ良いからって……調子に乗りやがって……)


こんなに馬鹿にされるならば言わなきゃ良かったと、ホスロは内心落ち込んだ。


「『固有能力の強弱で言うならば、私が最弱ですけどね』」


すると、左衛門尉が固有能力談義に割り込む。

また、小さい紙をホスロに手渡してきた。


「確かにな、お前は『操燕(ヒルンド)』だものな」


「どんな効果なん」


一々紙に書くわけにも行かぬため、代わりにダンテが解説した。


「膂力を犠牲に、俊敏性と瞬発力を上げるという契約を、魔力を媒介して体内で結ぶ魔法だよ」


「……ほぅ、単純に…パワーが落ちるが、スピードが上がるんか…」


(いや、ソレは結局強い能力じゃがな…その、下がったパワーも彼女の魔力強化でカバーしとるんじゃけん……)


と反論しようとするが、止めた。

結局ホスロが新技の開発を怠り、能力を十分に活かせていないが故に弱いのは、事実なのだ。


思えば『纏尽炎(ホムラマトイ)』か『突火槍』のどちらかが現状の最高火力である。


(うむ……色々、公国の内政が安定すれば……自分の強化もせんとな)


そう、ラマ朝への砂漠道を行きながら、少年は辛そうに思った。



____________


ラマ朝は、マドラサ平原、トイトブレル砂漠それぞれの西に位置する小国である。

気候は温暖であり、年中湿気っている。

そのため、大体の家屋は開放的なモノが多く、木造や白塗りの物が大半を占めていた。


ラマ朝の建国者ラマ・ルヴェルカンド一世の治世時代に完成した、国内を流れる中型の運河は商工業を活発化させ、今の『商人の国』としてのラマ朝を形作るに至っている……


「ようこそ、ラマ朝へ……ホスロ」


「……なんでお前が居るん…?」


そんなラマ朝へ入るや否や、国境の大砦から、なんとネロが普通に出て来た。

それも、いつも通りの東洋風の武道着姿で。


彼女が、まるでラマ朝の公式の外交官のようにしているので、ホスロはどうしようもなく、猜疑心が湧く。

ラマ王に対してである。


(ラマ朝は……いや、マラレル教ではないハズ)


相変わらずの、底知れなさと、嫌な雰囲気。

一体、どんな無理難題を押し付けて来るか分からぬような、怖さがある。

やはり、分からぬ、何故この娘が居るのだろうか。


「……殿下の、友達か?」


ホスロがあまりにも警戒するので、不安になったヨナタンが会話をしようとし、二人に近付いた。


「いや、ちゃう__」


「はい、そうですよ…王宮騎士、ヨナタン殿」


「ほぉ、貴殿、俺の名を知っているのか」


「えぇ、それはもう…「王宮騎士、ヨナタン」と聞けばマラレルやラマ朝の将兵は皆、震え上がりましょう」


「ハッハッハ、いや、まぁ、別にサインの一つや二つ呉れてやっても良いぞ」


(この脳筋鹿……気付けよ、ネロの情報収集力の高さに…余程強くない限り、普通はマラレルで言う一等宮廷魔術師程度の将官の名前なんて一々把握しとらんわ)


おだてられ、ヨナタンはまんざらでも無い様子。


「待てや、話を聞けネロ、なんでお前がラマ朝で外交官紛いの活動をしとるん、場合によっては」


このままつき纏われ、公国の機密が盗まれんとも限らない。

殺しはしないが、このまま戦闘し、マラレルに強引に送り返すより他はあるまい、とホスロは思った。

思っただけでなく、実際にギュッ…と仕込み杖を握る。

ピリッ…と乾いた緊張感が、ネロとホスロの間だけに流れた。


「……ラドリア家は代々ラマ朝に商人衆を置いて居ますので」


「……チッ、ダンテ殿、ラマ朝との交易は無しじゃ__」


「いいのですか、ホスロ?」


だが、ネロは続けて


「これでもラマ朝の兵器類は、この世界の流行を押さえ、様々な宗教を容認しているため、種類品質の面では他国を抜いて居ますよ…?」


「……じゃけど」


「私がマラレルの参謀だからですか?」


ネロは急に声を落とし、ホスロの耳元まで近付いた。少し、目が細まっている。


「今、この場に居る私はマラレルのネロではありません、ラマ朝の商人衆の取りまとめ役としてのネロですよ」


「信用できんわ」


「……なら」


なら、とネロは指切りげんまんのように、小指をひょこっと取り出し、その、狐の様な美しい瞳でホスロを上目遣いでみつめながら


「ほら、あなたも指を出しなさい」


「契約ですよ、ラマ朝にいる限り、私はここで得た情報をマラレルに漏らしませんし、危害も加えません」


「ホスロへの条件は、勿論無しで良いです」


「…本当か?」


「えぇ、本当です」


ソレを聞き、恐る恐る、ホスロはネロの黒髪を睨みつつ、彼女の出した指まで届き……グググ…と結んだ。クレアと結んだ時と同じように、小さく発光する。


「守れよ」


「勿論です、コレは守る守らないの話では無く……破れば死ぬので」


それほど、契約と言うのは重いのだ。

ホスロはポンポンと結んでいるが、本来は一世一代の賭けや国際的な条約時にしか結ばない。


「……ホスロ殿、さっきから何をコソコソと喋っている」


ずっと二人だけで砦の鉄門の前で喋っているので、「早く入ろう」とダンテが急かす。


「いや…ダンテ殿、何でも……無い」


確かに、ラドリア家の商人衆が多くラマ朝に店(会社、この場合は南マラレル会社)を置いているのでアレば……ネロに案内して貰うのが、一番なのだろう。

尤も、何処の会社と貿易するかはコチラが決める。

(あくまでコイツは案内役…上手いこと乗せられては、不良品を買わされるかも知れん)


もう一度、チラリとネロを見てみると…ニコリ…と更に目を細め、頬を紅潮させ、意地悪くも優しく微笑みかけるような顔をしている。


(信用はならんが……よし、ここだけは、コイツに従おう)


後ろのヨナタンは、完全にネロへの警戒を緩め、ダンテは興味が無く、左衛門尉は一目でネロを強者と見抜き目をシイタケのようにしてキラキラさせて、うっとりと見つめている。


(一緒に来とる仲間も頼りにならんしな……)


一時の油断もしてはならぬ、とラマ朝の名物である大砦をみながらそう決意した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。