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第四話:人権が無い一日


「あの…サイエンさん……決闘なんて止めません?」


準備は完全に整った。街中の人間が二人の勝負を見ようと結界の外に群れ集っている。


「そ、そんな……私が弱すぎて勝負にならないかも知れない……と言う事は十分承知しております」


「ちゃう、逆や逆ッ!!」


「でも、一所懸命に頑張りますので!」


「この街の住人はなんで皆話を聞かんのん……?」


言いつつ、二人は所定の場所へと移動し、向き合う。決闘の結界の仕様上そうせざるを得ない。


ホスロはネロと戦った時を思い出して過呼吸になりそうだった。あの、自分の尊厳が残らず破壊されそうな感覚。

それに、今回は街中の人が見ている。無様な負けざまは晒せない。


「か、帰りたい………」


「ではこちらから参ります、魔術師樣」


「ぁ…はぃ……」


お互いに礼をして、言った瞬間、サイエンはその真っ黒な長髪に黄金で固められた鎧を振るわしながらとんでもねぇ速度で間合いを詰めてきた。彼女の、その狼の様な冷えた眼がしっかりと見える。

魔術師は距離を詰められれば何も出来ない。よく彼女が闘い慣れをしている証拠だろう。


「ッ…纏炎」


ホスロは間一髪で『操炎』の能力を発動し、バチリと斬撃を受け流すと再び距離を取った。


(……今、今能力を発動出来てなければ………確実に頭を殴られとった………)


「流石先生!」


「魔術師さん中々やるな〜」


観衆はホスロが軽く避けたモノだと思っているらしい。とても呑気で羨ましい。


そんな彼らと相反するように、サイエンは冷静に、隙を見せず居合の構えに移行した。そして、何やら語り掛けてくる。


「魔術師樣…一つ宜しいでしょうか」


「は、はい……」


彼女はそのまま自然な感じで驚くべき内容を続ける。


「もし…もしこの決闘で私が勝てば………貰って頂けないでしょうか………?」


「な…何をですかサイエンさん…?」


ホスロはいつの間にか敬語で会話してしまっている。


「あ、私です」


「はい!?」


「半年程前、貴方がこの街に来た時からそう思っておりました……」


「貴方の…その……圧倒的な強さ………すぐに分かったんです…この街で結婚して、私と毎日勝負出来るのは貴方しか居ないと……!!」


「…毎日勝負……?」


「祖父からも承認を得ております、ご安心下さい」


「……あのジジイ……あの…私まだ十七でして……それに内容を聴く限り全く安心出来ないんですが………」


何やねん毎日勝負って……と声を大にして叫びたかったが断念した。これ以上の問答は無用だろう。


決闘の結界の仕様上声が外に漏れる事は無い…その反面結界内で交わした約束や言葉はどちらかが勝てば必ず実行しなければならないのだ。(例えば「これに勝ったら家臣になれ〜」的な約束とか)


やられてしまった。勝つしかない。


「『操槍』五本槍」


即座に操槍で槍を生み出し自分の周りに浮かせる。

ホスロの周囲を浮遊する五本の槍、それは敵との距離がニメートル以内になれば自動で反撃を行う。

剣士や風使い等のスピードタイプにはもってこいの技である。


『纏炎』も同時に起動している。流石にこの状態の自分に突撃してくる者など___と思ったが、どうやらサイエンは例外だったらしい。


目にも留まらぬ速さで移動し、消えた!とホスロが認識した時には浮かせていた槍を全て切り落とされていた。


距離を取る暇もない。サイエンは槍を切り落とした勢いで、そのまま剣の柄の部分でホスロの頭部をゴシャリ、と殴る。


「がッ!……ぐッ………」


血がポタポタと流れ落ちている。流石に勝負アリだろう。


だがホスロはそう考えては居ない。何がなんでも婚約なんてしたくなかったのだ。


「まだ……ま゛だ終わって無いわ」


『纏炎』の出力を最高にする。余りの熱に、もう一撃腹に入れようとしていたサイエンは飛び退いた。


いつの間にか野次馬たちも黙っている。みな、二人の勝負を静かに見守っている。


「はぁ……、……ふぅ………」


「魔術師樣……回復魔法ですか、流石ですね」


(気合です)なんて口が裂けても言えない。


「……『突火槍』」


昔ネロに向けて放った技。あの時は魔術師同士の撃ち合いであったためかき消されて敗北したが、今回の相手はあくまで剣士。"ダメージは通る"


ポタポタ…ポタ。延々と血が流れ続けている。が、ホスロは極限まで集中しており、意にも返していない様子である。


今度は先に動いたのはホスロの方だった。サイエンが突撃の態勢に移る前に潰す………


燃え盛る槍は女騎士目掛けて真っ直ぐに飛んでゆく。そして………当たった。


だが…確かに当たったは当たった。しかしながらその槍は着弾と同時に真ん中から真っ二つに切られてしまった。


「……えっ」


「結構な威力ですね……斬撃が間に合ってなければ負けていたかも知れません………」


決闘はそうして終わった。


____________




「では魔術師樣、約束どおり……」


「二人共いい勝負だったな」


「魔術師殿、惜しかったですなぁ…」


勝負後、結界が無くなったから住民達が口々に話しかけて来る。


(不味い…頭が痛すぎる……それに…アイツと結婚……??)


はぁ、はぁと息も絶え絶えに話を適当に合わせつつ抜け出すと、ホスロは一目散に槍に乗ってその場を後にした。


先ずは傷を回復しなければ。取り敢えず自宅付近に着地すると、そのまま徒歩で家まで向う。戦闘で大量の魔力を消費した為に長時間の飛行はままならなかった。


別にあの場で誰かに治療を頼んでも良かったが、負けた直後にそんな事はプライドの面で無理だった。それに、何よりもそんなダメージを負った、という事を知られたく無かった。

(小さい男だな…)

と思わず自嘲する。


ポタ…ジャリ……ポタ……


血をゆっくりと流しながらあぜ道を歩いて家へと向う、向う。カンウの家が見えてきた。あと少し。


ジャリ……ジャリ


そして…頑張って進んで行き、とうとう着いた。


「クソッ…ひどい目におうたわ……なんで俺がこんな目に遭わんといけんかったん………」


ガチャリ、扉を開けて中に入る。回復薬を、早く回復薬を。そうは思うのだが、体が動かない。力尽きて椅子にもたれ掛かってしまった。


「やばい…力入ら……」


「どうぞ、回復薬です」


急に目の前に薬が現れた。取り敢えず飲もう、頭が回らない。


「あぁ…有難う」


ゴキュッ、ゴキュッ、と飲み干すと段々脳が冴えてくる。


同時に異変に気付いた。


「あれ…今俺誰に薬を貰って___」


「見てましたよホスロ、素晴らしい勝負でしたね」


「!…ネロ………」


どうして…ポータルは全て……というか家ごと浄化したハズなのに。


「ところで結界中の音声を盗み聞きしていたのですが……あの女騎士と婚約するのですか?」


「いきなりじゃな……色々と言いたい事があるけど…まぁその通りらしいわ」


ソレを聞くとネロは至極つまらない、といった風に。


「では……尚更貴方を本国に戻さねば」


見下す様な目つきでホスロを捕まえようと近付いてくる。

メチャクチャ怖い。


もちろんザリザリ…と頑張って後退りをする。


「ええ加減に頼むわネロ…マラレルに戻っても俺に居場所なんか無い」


「私が作ってあげますよ?」


「そういう事じゃないんよ……」


そう、今更何を。もう戻った所でどうにもならない。この女も分かっているだろうに。


「帰ってもまた出ていくだけじゃわ、それにお前もこんな面倒臭い仕事やりたく無いじゃろ」


「困りましたねぇ……では縄で縛って私の部屋で過ごして貰うしか無くなりますよ」


「ん…?」


「あぁ…ですから再び貴方が逃げ出す予定なのであれば、私の家で監禁するしか手段は無いかと」


「なんで…そうなんねん」


ホスロはこの時から初めてこの友達の異常さに気付き始めた。話が微妙にしか噛み合わない。

それに…さっきからやけに視界がぼやける。眠気も凄まじい……あの薬になにか入れられたのだろうか。


「ネロ……お前…睡眠薬を……」


「えぇ…ではお休みなさいホスロ」


数秒後、ホスロの意識は完全に切れた。














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