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第三十九話:侵攻公国軍

____


ドッドッドッ、と狼の如く馬を走らせ、鞭を振り上げ、マドラサ城目指して退却途中の部隊が有る。


「ソルタナ殿、ソルタナ殿!」


退却兼救援軍を指揮するマドラサ城の守将の一人、ソルタナ・ラエリウスに訃報が飛び込んだ。

報告に来たのはシモン麾下の生き残りである。自分の主を討たれて気が動転したか、それとも戦場の為に余りの興奮で思考が鈍っていたのか


「我が主、シモンが「かくなる上は殿しんがり仕る」と申したまま、同胞を率いて……討ち死になされましたッ!!」


平原を駆けたまま、この男は、ソルタナは無礼にも馬上で報告してきたシモンの伝令将校を怒らず、ただ


「流石はフォルクス一族よ、シモン殿は真の武人であらせられたわ!」


と、敢えて士気を上げる様な発言をし、更に前方を駆けているジルレドやアウラングに追いつき、報告した。


「死におったか、シモンも気が早いわ」


聞いたなり、馬の横腹をピシャリと叩くと、ジルレドは寂しそうに笑い、アウラングも


「うむ、それで、現在城を包囲している敵兵の正体は分かったか?」


と、すぐに切り替え、表には辛そうな言動など、一切取らなかった。


アウラングの反問に、コレまた並走しながらソルタナは


「ははっ、恐らく『オアシス村』常駐の病院騎士団に間違い無いかと」


村の病院騎士団、オアシス村の最精鋭部隊であり、古の勇者がよく訪れていた教会から派生した武装集団である。殆ど教会、祈りを捧げる場は名ばかりで形骸化しているものの、一応村人からは神に使える人々として畏敬されている。


「彼奴らは馬鹿か阿呆揃いか、マラレルに喧嘩を売って、無事に領地が守られるとでも……」


「それが…現在、マラレル本拠地、カロネイアに向けてニクスキオン朝…ゴッドフリー・ド・パルテナ様直々に、総勢一万の魔術師の群れが侵攻予定との事で」


「……こういう時だけ……早いな…ケッ、狐男めが」


ソレを聞き、煩わしそうにジルレドは再び鞍壺を蹴る。公国との戦いで疲弊した途端にコレだ、毎度毎度、あの国はそうなのだ、とジルレドは叫びたい思いに駆られる。

皇帝、ゴッドフリーは策略家でもある。キツネの様な瞳と合わせて、兎に角ジルレドはあの皇帝が嫌いであった。


どうせ示し合わせて……いや、連絡は取れぬかと思い直すものの


(それにしても…オアシス村の連中の、何と言う情報収集力の高さよ……この時期に手を出しておけば、後々うやむやに出来ると踏んでの出兵だろう)


丁度、公国軍の生き残りと思われる兵達も来ているし……


「大国は敵が多くて敵わんな」


「どうなさるおつもりで?」


アウラング・ルノーは、そのマラレル騎士団員の証である王家の騎士章が肩に描かれた甲冑を纏い、大斧を担いでいる。一応、ロングソードは帯びているもののメインウェポンは斧らしい。


斬首斧スライスアックス、アウラングの家は処刑人から成り上がった。

ソレ故に、生家のせめてもの誇りとして持って居るのかも知れない。


「……包囲している雑兵共に突っ込んで蹴散らしつつ、入城しようかな」


ジルレドは真顔で言った。


「そう上手く行きますか?」


今度はソルタナが馬を並べたままで左に寄り、声をかけて来るが、総大将は逆に彼らの闘争心を煽るようにして


「はっはっは、怖いか、まぁそれもそのはず、数倍の敵雲の中に突っ込むのだからなぁ」


怖いなら俺の背後に居るが良い、と。

当然、主に、若くて血気盛んなソルタナはいきりたち


「何を仰せられる、ラエリウス家の男子たるもの、これしき」


彼の固有魔法『練盾』を発動させ、巨大な盾の中心に大きな攻城棘の様な突起物が付けられた武具を担ぐ。


山のようにそびえ立つマドラサ城の下に、グルリと包囲し猟犬のようにして期を待つ病院騎士団の群れが、居る。

それは、まるで雲の中に身を投げるようにスムーズに、そして水が流れるように百数名の魔法使いやら騎士の集団は、一つの塊となり。


勇者達は……雄叫びを上げて突っ込んでゆく


____________



同刻、ホスロとアーディル、それにアステルドの三人は全速力で平原を駆けていた。


ホスロは『操槍』で生み出した槍に、アーディルは公国一番の駿馬に…アステルドだけは唯一徒士である。


「二人共、もう少し速度を緩めつつ進みましょう、マドラサ城の頂点もちょっとずつ見えて来ましたし……」


アーディルが、あまりの速度に思わず苦言を呈すが


「なぁにアーディル殿下、まだまだ敵影は遠い、もう少し近づいても問題あるまいて」


勿論、なるべく会敵せぬよう、『操電』で絶えず探知は行っている。


段々と明瞭になってゆく。

電気を伝い、空気を伝って、アーディルの皮膚に、五感に、直接感覚やら対象の輪郭が見えてくる。

前方、三キロ程先だろうか、振動、兵達の怒声、馬の駆ける音。



剣と剣が、魔法と魔法がぶつかり、爆ぜる音。血が吹き、肉が裂け、湧き上がる雄叫び。


「………」


「どしたん、アーディル」


急にアーディルが立ち止まり、更に探知に集中したため、ホスロは心配になり止まった。無論、アステルドも。


「……?」


弟は何も言わぬ、目を見開き、極限まで集中していた。

一応、ポツリポツリと


「………オアシス…村の……兵達」


「数は…八百前後………奥には…騎士団長らしき装束……」


「戦っているのか」


すぐにアステルドは短い単語から連想し、少年に問いかけた。

探知を続けて行いながら、コクリと頷く。


「おい青二才、オアシス村の……お前が呼んだのか?」


病院騎士団まで引っ張り出すとは聞いていないぞ、と問い詰めるものの


「馬鹿言えや、呼ぶとかそういう問題じゃ無いじゃろ」


公国に手を貸すと言うことは、マラレルと"コト"を構えると言う事である。そこまでする理由は村にあるまい、とホスロもアステルドもソコは共通している。


「ならば何故……」


「分からんなぁ……じゃけど、村の人らなら安心して近付けるわ」


探知は止めじゃ、行くぞアーディルと大声で叫ぶと、ホスロは再び槍に跨り、ビューンと飛んでゆく。即断即決、大抵、ホスロは行こうと思えばすぐ行く性格をしている、この時もそうであった。



マドラサを巡る戦いを通じて、全く、一番哀れで割りを食ったのはジルレド達であろう。

五百の精鋭を王から授けられている以上、本国からさらなる救援を頼むことは厳しい上に、ニクスキオン朝の侵攻への対処で、近隣の同盟国から支援を受ける事さえ出来ない。武器やら食糧だけは潤沢にあるものの、兎に角、だだっ広いマドラサ平原やら城を守り切るには少なすぎた兵数であるのは否めまい。


少し時が経ち、マドラサ城は既に雲の中であった。

ただの雲では無い、全て、人の群れである。


「アウラング将軍、如何しようかのぅ」


ジルレドは城の塔の上に上がり、ソコから手で顔を仰ぎながら部下に聞いた。

日光が鬱陶しいほど照っている、限りなく、蒸し暑い。


「先の小競り合いと、包囲を突破しつつの入城により、戦える兵は四百ほどに相成りましたな」


「ほぅ……意外と」


ジルレドはまだ、手で顔を仰ぐ


「意外と、多いのぅ」


「ソルタナ殿が頑張ってくれましたからね」


アウラングは我が子を自慢するが如く、胸を張って言った。

入城時の包囲突破で全方位から矢を浴びて、ソルタナは今治療中であるものの、数時間で復帰はできるとの事。

龍の如き耐久力である。


「…それを言うならシモンが一番の功じゃ」


「……惜しい人物を亡くしましたな」


アウラングはジルレドより一段低い位置で、傾聴するような姿勢をとっている、外は、相変わらずの晴天だ、雲一つ無い…負け戦であったのに、清々しい程の。

このご時世の城の塔にしては珍しく、反魔法アンチマジックが屋根に掛けられて居ない。


「"アレ"は自分の出自を中々語らんかったなぁ、将軍命令じゃ、とふざけて何度も何度も聞いて、ようやく聞き出したが」


ジルレドは途端に悲しい表情となり


「フォルクス一族にさえ産まれなければ、死ぬことなど無かったろうに」


「まるで悲しい事のように仰いますな」


アウラングは声を上げて笑いながら


「良い最期を迎えたと思いますよ、シモン殿は」


騎士として、武人としてコレ以上ない終わりであったろう、と淡々と言い放つ。

なにせ、アレ程の剛の者と一戦交えれたのだから。


「……まぁ…だのぅ………とにかく、今は眼下の雲を取り除くか」


「ハハッ」


ジルレドは高い、遥かに高い塔から眺め見下ろしつつ、言った。



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