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第三十八話:進むか否か


敵は去った。

柵を捨て、川から離れ、馬を走らせマドラサ平原を抜けていき、遥か城まで退却した。

ホスロ達はともかく、マドラサ城包囲作戦予定地点まで前進出来る様に相成ったらしい。

ただ


「罠では無いでしょう、アレ程の将を殿として遺したんですよ!?」


戦略上今すぐにでも追撃し、城まで駆けるべきです、とオルレアンは主張する。

何か大層な事情がある筈だ、城内で反乱でも起こったに違いないと。

だがレマナが先程から反対しているらしく、中々軍議が難航する。


「オルレアン…君の言う通りだとしても…そもそも三十名そこらで、ホス君が言ってたマドラサ城陥落作戦は決行不可能だよ」


先の交戦で、戦える兵士は更に半減し、最早部隊とすらも呼べぬ群れが何個か出来ている。


「……俺は…行った方がエエと思うけどなぁ」


オルレアンの言葉を助ける様に、ホスロが黒馬に跨りながら真顔で、堂々と言う。が


「だから先程から言っている様に、自殺行為だね、もしアレが仮退却ならば我々は全員囚われてリュクリーク王の御前に晒されるだろうよ」


そもそも無理な話だったのだ、六十名と少しで都市攻めなど、とレマナは静かに呟き


敵が柵内に残して行った物資や分取った装備等を売り、金を集めて傭兵でも雇ってから、また行こうでは無いかと言う。

かき集めれば六百程は行くだろう、とも。


だが、そんな消極的な案に反対する様にアステルドも


「俺も城まで進軍するのに賛成だな、というかオルレアンが負傷しているから次は俺が先鋒だろう?」


なぁ青二才?と、人狐騎士は長い鼻をフフンと言わせて公王ホロロセルスから賜った剣を抜く。


「……君たちは敵将の首を取って名を挙げたいだけだろう__」


この、脳筋共めと説教をしようとしたレマナをドンッと跳ね飛ばし、ヨナタンが今度は割り込んできて


「馬鹿を申すなアステルドォ!!次の先鋒は俺だろう」


背中に背負った大剣を、これまたアステルドと同じくズラァと抜き出した。彼の身長ほどに大きな大剣は、日光を反射し、ギラギラと黒く光り、若者の闘志を代弁するが如くであった。


「ちょいと!ヨナタンさん……君、人が話してる途__」


またまた、小さな口を開きかけたレマナをずいぃと押しのけながら、馬に跨ったホスロが大音声で


「はぁ?アステルドやヨナタンに先鋒が務まる訳無いじゃろ!」


城までに敵部隊と交戦する事がアレば、俺が真っ先に殺るわ、と雄々しく割り込んで行く。

自然三頭の馬が近付き、揉み合い、胸ぐらを掴み合い、今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気となってしまった。


思わずレマナは(いやお前は総大将だし王族なんだから後方にいろよ)と叫びたかったが、どうせ言っても聞かんだろうと諦める。


「はぁ………ウチはなんで……猛将しか…」


猛将、やはり彼らは目先の功しか眼中に無いのだろう。

先鋒が定まる前に同士討ちに至りそうな剣幕で話し合っており、ソレを周りの…すっかり若い時の闘気が萎み実力も下がり、老将として考え方も硬くなった隊長達が、まぁまぁと宥めていた。多少「気持ちは分かる」とでも言いたげなジェスチャーである。


「あのぅ……レマナさん、オルレアンさん、提案なんですが……」


ギャーギャー、誰が先鋒になるか言い合う馬鹿三人を背景に、珍しくアーディルが申し訳無さそうに手を挙げながら


「私の『操電』は半径二百メートル圏内の生物であれば、姿形、着ている服の種類まで明確に分かります」


魔力糸等による逆探知もされにくいらしく、比較的安全に見れるらしい。

なので、一応移動特化のアステルドさんや兄上に護衛してもらいながら、敵軍が去った理由も含めて見てくる……とアーディルはオドオドしながら言い終えた。


少年にしては冷静で、至極真っ当な意見を聞き終え、オルレアンは流石は王家のお子、と感心した様に微笑み、レマナは良案だ、と素直に言い、まだ誰が先陣を切るかお互いにガンを飛ばし合う将として"幼い"ホスロ達にそのまま伝える。


意外と……兄だけに、弟の提案を聞き、ホスロは天晴と褒めて


「おぉ、流石は俺の弟じゃ、やっぱ天才じゃなぁ……」


「兄上……というか普通情報収集もせずに突っ込もうとしてる兄上達がおかしいんですけどね……」


アステルドも


「よしよし、槍働きばかり考え、冷静で無かったわ……アーディル殿下は優秀な騎士になるな」


自分達のように一つの事に執着せず、広い目で冷静になれる能力は若いながら立派であると、脳筋にしてはやけに理知的な回答をアステルドは行った。

ただ


「ならば時間が惜しい、すぐにでも行くぞ!」


武断派らしく、即断即決。

半ば強引にアーディルを引っ張り、連れ去る。

ソレを見て「待て待て二人共、俺も行くぞ」と操槍に乗りながらホスロは追い掛けた。

総大将のクセして、慌てて馬を置き、回復薬やら止血剤さえ持たぬ疎漏さ、とてもジルレド・アキナスという当代きっての名将と今から渡り合う人物とは思えぬ。


「フフッ、やはりホス君はまだまだお子様だねぇ……」


「本当に、アーディルさんが男衆の中では一番考えが大人のように思えますよ」


精神的にも……とオルレアンが困ったようにチラリとヨナタンを見つめる。


「……?俺は十九歳で、アーディル殿下は未だ十六歳くらいだぞ?」


「ソコですよ」


だが、戦となれば戦略を無視してでも戦果を挙げたがるのが将のサガと言う物である。

オルレアンも多少その気がある為、鋭く言及は出来ないだろう。


脳筋や凡将だらけの新生公国軍は、どうにも前途多難らしい。




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