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第三十二話:建国場所決定会議


「と言っても…新しく避難民や我らが定住できるなんて都合の良い土地なんてあるのかい?」


気怠そうに、だが教師の様に気取ってメガネを掛け、地図を円卓に広げたレマナが一声を放った。

ホスロの襲名式が行われた後、公国の要人達は間髪入れず、次なる予定を立てている様である。

場所は『オアシス村』の長老議会部屋。

合議制の村ではいつもココで様々な決定がなされる。広さは三十畳を超える程。

大きな大理石の円卓が中央に一際存在感を放ちながら置かれ、その環状に沿って木製の滑らかな丸椅子が連なっている。

ただ、その流れは途中で途切れ、一段高い羊毛製の大椅子が、ドンッと腰を据えている。

その、元締めとも言えるポジションには公女エレノアが上品に座り、それより一段低い位置に、ホスロ、レマナ、アーディル、ヨナタン、加えてオアシス村の筆頭長老が三人、囲む。


他の将軍級の諸将も招集したかったが、避難民の整理やら公国残存兵(聖地決戦にて外征隊はほぼ消滅した為、主に公国守備隊)の手当と新規の徴兵で、手が離せないとの事。


議題は再興場所の決定とのことで、かなり難儀している。

公国の住民及び主要人物達の行き先の選択など、国家の存亡に関わる問題なのだから、当然と言えば当然。


再び、レマナがまず、発言し始めた。


「お子様達、新たに再興するって言ってもね、そう簡単なモンじゃ無いんだよ……」



「水源確保の問題は私の魔法でどうにかなるが、何千もの避難民…もとい公国民を喰わす食糧をどうするかだね……」


レマナが何度も地図に筆で印を付けようとしては止め、う〜んと、そして採ったりを繰り返している。


「まぁ、略奪するより手は無いだろうな」


レマナ以外が沈黙する中、ヨナタンが口を挟んだ。


「俺も賛成じゃな」


どうやらホスロも乗るらしい。というより、武断派の考えとしては自然とそうなるのであろう。

二人の意見は、この場に列せられなかった公国の騎士達の総意と言っても良いのかも知れない。


だが、上段に座するエレノアは反対に、何とも歯痒い顔で


「効率面を考えれば……そうですが、どうにか…略奪以外の方法は無いのでしょうか……」


「恐れながらエレノア殿、多分……無いわ」


ホスロが真顔で言う、多少エレノアの人の良さに面食らった所もあるが。

それでも、やる時はやらねばなるまい、でないと野垂れ死ぬ。


「兄上ッ」


「仕方無いじゃろアーディル、新たに都市を占領する方が現実的じゃわ、多分そこで農業も出来るじゃろうしな」


「でないと、一から農地を耕すんか、貯蓄も無いのにどうするん?」


長老達もホスロとヨナタンの案に賛成らしい、何も横槍を入れようとしない。


「ちょっと良いかいホス君や」


「うむ?」


「まさか…同じアヴェルナ教圏の都市を奪う訳じゃあ無いだろうね…?」


レマナがキリッと銀髪をゆらりと揺らし、鋭い視線をホスロに向ける。


「流石になぁ、ソレは無いわ、まぁ、奪うとすりゃ、マラレル教圏や両教に属さん土地じゃろ」


ホスロは暇そうに、当然のことを聞くなとでも言いたそう。

だが、今度はヨナタンが


「待て殿下、マラレル教圏から奪うのは同意するが、両教に属さん…つまり敵でもない国家から土地を奪うのは…」


「……反対か、じゃけど……それは…甘えじゃろ」


ホスロは苛ついた様にヨナタンを見る。そして、相手にも、少年の感情が伝わったらしく。


「甘え…か、君はそう考えるのだな、だがするなら公国の名を語らず君一人ですれば良い、マラレルの一等魔術師に匹敵する君だ、小都市くらいなら落せるだろうな」


「個人的には公国の品位を下げる様な行いは、例え大きな成果を得られるとしても反対だよ」


「カッ」


このわからず屋が、我らが切羽詰まっている事がわからんのか、と喉を鳴らし、ホスロはダンッと円卓を叩き、精一杯鹿男を威嚇する。

加えて、見せびらかす様に腰に帯びる仕込み杖を、プラプラと振った。


「ほぅ、"ソレ"は喧嘩でも売って居るのか、別に買っても良いの__」


ホスロも腰を上げ、二人して何処かへ行こうとしたが……


「止めなさい二人共」


上段のエレノアが優雅に鉄杖を抜き、麗らかな声でサッと割って入り、二人の間を取り持つ。

少女ながら、やはり恐るべき気品と風格である。怒り心頭、となっていた二人も、すぐに一礼し、再び着席した。


ただ、公国きっての武断派である両名が主張する上に、長老達も難色を示さない略奪案は決定で良いかも知れないが、具体的な場所ともなれば、更に専門家を呼ばねば話し合いにならんだろう。

ここは一旦。


「この件は公国の存亡と、数千に達する我が臣民達の生命に関わる重大事項です、今日はお開きで、また明日で良いでしょう」


「しかしエレノア殿ッ、なるだけ早く…いつまでも村に迷惑を掛ける訳には参りますまい」


ホスロは尚、穏やかな表情で座り続ける長老達を見ながら言うが


「ホス君……しつこい男は嫌われるよ」


「そうですよ…いや、別に兄上は女子からモテない訳では無いでしょうけど、エレノア様も仰ってますし………」


アーディルが複雑そうな顔で言う。


「ぐっ……」


これだけ四方から責め立てられては敵わんと、ホスロは苦い顔になり、また公女、そして長老たちの方を向き会釈をし、ヨナタンを多少睨みつけると、ツカツカツカ、と部屋から出て行った。

だが、不思議と憎たらしくない所作で大胆、爽やかささえ感じる。ここがホスロの良い所でもあり、魅力の一つなのかも知れない。


「……さて、議論は済みましたかな」


少年が出て行った後の沈黙を破り、聖職者の衣装を纏った、中でも一番偉そうな村長が、何も聞かなかったかの様にエレノアの方を向き、尋ねた。


「エラルド殿……本当に、色々と……」


「いえいえ、我が国がどれだけ勇者様のお陰で栄えて来れたか、そのご子孫を見殺しにして、どうして村の守り手が名乗れましょうか」


「アッディーンは勇者の末端の血と言うのに」


「直系であろうと、分家であろうと……そもそも、直系のお血筋は遠の昔に途絶えておりますがな」


そして、エラルドは老人らしい細い目を更に細めて、ゴホンと咳払いもし


「それにしても、ホスロ殿は剛毅というか、勇猛と言うか……」


「せっかちなのですよ、あの子は」


今度はレマナがヤレヤレと魔道士の帽子をヒラヒラと振りながら、困った風に言う。もう伊達メガネを取って、いつもの彼女らしい服装になっている。


ソレを聞き、ヨナタンも小さく頷いた。


「で、でも…兄上だって公国の事を考えての発言です、ただ__」


「焦っている風ですね…」


エレノアが心配そうに、そうポツリと、困った感じに、そして不安そうに言った。



______________



オアシス村の大宿。村の中心部より、やや離れた位置にドドンと居座る巨館である。

コレも彼の勇者様が最初に泊まってからと言うもの、改造に改造を重ね、今ではほぼ城の風貌をしている。宿の外には二重の防御結界と柵が巡らされ、所々に飛んでくる魔法を迎撃する魔道具が設置されている。機能面では他国の櫓や城楼と大差ない。

中も多少は変わって居るが、基本的な構造…骨組みだけは昔のままなのだと。


ホスロはそんな宿の廊下を、少しイライラしながら渡る。公国の要人であれば、滞在中なら好きに使って良いとの事らしい。


カツカツカツ…、カッカッカッ………廊下をせかせか渡る音が響く。

(取り敢えず、マラレル教圏でも何でも良い、都市を占領後は……食糧を確保しつつ、耕せる大地の近くに避難民を誘導して…………)

頭の中で、延々とグルグル何か思考を巡らす。

それにしても……


「クソッなんで、何でみんな……分かってくれんのん…早う新天地を得にゃいかんのに」


考えて居ると、更にカッカと頭に血が登ってきた。そして、そのままの勢いで、充てがわれた自室をガチャリ……と開ける。


「ハァ……やはりホスロの匂いは良いですね……この、美しい匂い………!!」


その瞬間、鼓膜をおぞましく震わす様な、後味の悪い薬を歯で磨り潰して飲み込んだような膨大な不快感が、一気にホスロを纏った。


昨日まで何もなく、ある意味ホスロらしい質素な部屋の中で、宿敵と言えば宿敵が、何故か自分の下着を取って嗅いでいた。


「……ハハッ………どうも…ネロさん………何をして?」


色んな感情が混ざり、咄嗟に乾いた笑いが出た。


「あらホスロ、遅かったですね…伴侶が待っていたと言うのに」


だが、ソレを聞いて軽く少年は青筋を立てながら


「馬鹿いえや、伴侶言うならまだサイエンの方がらしいわ」


言いつつ、軽くラヴェンナを構える、最早馴れ合う気は薄れている。


「気が短い人…」


「よぅ言うたなぁ、お前だって気が短いドコロか、感情すら持って無さそうなのに」


「あら…中々言いますね……初キスの相手に随分と」


するとホスロはチッと舌打ちをして、要件は何だ、と不快気に言い放つ。

どうせつまらん用だろう、と追撃すらした。


「折角ホスロにプレゼントを持ってきたのに……」


「何の」


「領土ですよ」


少年の感情と対比する様に、ネロは逆に暇そうに、黒髪を翳し、口を尖らせた。


「マラレルの飛び地で、守備兵は強いものの、余り人口は多く無いですが」


「よぅ俺達が計画し、欲っしとる事を知っとるがな……どうせ」


「……リュクリークの指示か」


「あぁ、いえ、陛下の指示では無く……"ある方"からの伝言です、「多分、今頃土地を探しておいででしょうな」との」」


すると、ホスロはリュクリークの差し金で無いことに先ず驚き、「…ある方?」と続けて尋ねた。


「流石にお名までは言えませんよ…死にたく無いですし」


「ふむ…なら分かった、じゃけど……お前の行為は、リュクリーク王への反逆行為になるんじゃないか?」


「ですから、私は戰場で言う所の使者の様な役割です、ただの伝える手段に過ぎません」


ネロは面倒そうに言った。


「ふんっ、マラレルも一枚岩じゃ無いんじゃな」


「…公国の侵攻作戦は、多くの方々が反対して居りましたので」



それにしても、あのリュクリークの意に反する様な行為をするとは…もしや特等魔道士クラスか、とホスロは内心不思議である。


「いやはや、領土なんて与えて……私個人としては、もっとホスロには苦労して欲しいモノですけ__」


「"苦労"か」


先程までの、多少和やかだった空気が入れ替わり、今度はパチパチと、体に炎を纏う。

自然、部屋の温度が上がり、緊迫感が増した。


「アッディーン家襲撃事件の事を……言っとるんか?」


「アレを苦労…そう、苦労って言うんか、お前は」


「いえ、失言でした」


ネロは座したまま、顔を下げている為、ホスロとしてはやりようが無く、パッと炎を解いた。


「まぁ、今はどれだけ嫌われていようとも、いずれ……貴男は私の物になるんですから」


「………」


「では、マラレル王家の飛び地、"マドラサ"を目指しなさい」


そして、ネロは置き土産の場所を示した地図と、羅針盤を残してフッと消えて行った。去り際


「報告は完了しましたよ、ザルク様……全く、私は五老杖達の何でも屋では無いのに……」


と、何やらホスロには聞こえない愚痴を零しながら






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