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第二十七話:南下



________


薄暗い洞窟の中で、少年と少女が食事を取っている。外界からピチョン、ピチョンと絶え間なく雨音がする中で、火を炊き、その上に鍋を置いて、何やらスープの様な飲み物をグツグツと煮ている。

少女の方は腕に包帯を巻いており、新しく出来たせいだろうか、白い布がヒタヒタと赤く染まって行っていた。


「占い師さん、痛むか?」


「いや、確かに痛むが、大した事は無いよ、骨自体は砕けて無いしね」


レマナは心配を掛けたく無いのだろう、ブンブン、と振ってみせる。少し軋んだ顔をしており、どう見ても痛そうだが……


それを見ながら強情だなぁとホスロはクスッと少し、微笑んだ。が、すぐに真顔になると


「……この先、何処に行きゃあええんかなぁ……」


二人の前には、相変わらずスープを入れた鍋がグツグツと煮えたぎっていた。スープは驚くほど赤く、そして深い色をしている。

具材は殆ど入っておらず、液体の多さが目立つ。


「何処って…そりゃ、ホス君……」


もう一度、レマナは息を吸いながら


「王都『カーヒラ』しか無いじゃないか」


不安そうに、目をドギマギさせながら言った。まるで、親にいたずらを叱られる子供の様に。


「カーヒラに、カーヒラに行かなきゃ……行って、陛下を守っ__」


「占い師さん」


ホスロはそんな彼女を落ち着かせ、そして諦めさせるように、言葉を遮る。


「止めんちゃい、もう、今更行っても遅いじゃろう」


「それに、そもそも占い師さん自身が公国の敗北を予想しとったがな」


確かにそう言ってはいたが、レマナにとって見ればコンスノープルすら守り切れず、公王の下にライオリック一行をむざむざ行かせた、という責任がある。その為、尚反抗して


「敗北はするさ、でもね、ソレと陛下の命を守るのは別だよ」


「私の転移魔法ならば、すぐにでも……すぐに…でも……」


「じゃけん諦めろや…そもそも片腕負傷した状態で何が出来るん?」


何故、ここまでレマナが公国の為に尽くすのか、ホスロは理解に苦しむ。

やはり、物凄い忠誠心だとは思うが。


(守るべき街も無くなって、役目を作ろうと必死なんじゃろか……)と密かに、憐れんだ。


「ねぇ、一緒に王都に行こうよホス君…」


「今なら、まだ、まだ間に合うハズだよ、ハズだから!!」


だが、レマナの方は続けて、少し焦り、甲高い声を上げながら、ホスロの服を引っ張る。だが、少年はバシッと軽く払いのけると


「一人で行きんちゃい」


「何でアンタの勝手に俺が付き合わなきゃ行けんのん、別に俺はアッディーン公王から何の施しも受けてないし、親類だからと言って守る義理は無い」


「ホス君……!」


二人が囲む炎がパチパチと燃え、話す度に火力が増す気がした。


(言ってはみたが、どうせ一人では行けんじゃろうな)


片腕は骨まで食込む程の傷があり、ライオリックとの戦いで魔力は枯れ、騎士達と違って肉体的なスペックは平民と変わらぬ様な今のレマナなら、王都にたどり着くまでに確実に野垂れ死ぬだろう。

彼女もソレを深く理解しているからこそ、ホスロに助けを求めているのである。


故にホスロは動かない。今王都に向かったとて、何が出来るのか。


少年は昔から激情家ではあるものの、冷静な時はとことん冷静で、目標のためなら恥も外聞も捨て、思い切り非情になれた。

この時もそうらしく


「それに、多分既に公王も討ち取られとるじゃろう」


「……」


「だって、コンスノープル奪還の為の軍を動かして無い時点で、そこまでする余裕が無いっていう裏返しじゃし」


「ヨナタンは無事ならええけどなぁ……」


「なんで……そんな」


レマナは少年の冷酷さに、思わず疑問が浮かぶらしい。


「何でって、そりゃ、占い師さんと俺の為じゃ、何度も言っとる様に、行っても死ぬだけ」


ネロにあれだけ恥ずかしい思いをさせられながらでも守り切った仲間である。

だからホスロとしては、そんな少女の、立派とも言える思いを踏み躙ってでも行かせたくは無い。


「占い師さん、アンタはコンスノープルでよぅ頑張ったがな、もう十分じゃろ」


「…ッ…!…」



とうとう、彼女は何も言わなくなった。反論する気すら失せたのだろうか。

話を続けようとして上げた顔を下ろすと、薪を静かに見つめ、膝を抱える。


「取り敢えず明日になったらこの洞窟から出て……とにかく今は公国から離れんとな」


「南かなぁ…」


ホスロはそんな少女に構いなくブツブツと計画を立ててゆく。


洞窟はずっと薄暗いままである。

少女がすすり泣く声が、冷たい岩に反射して断続的に反響し続けた。




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