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第十六話:旅は道連れ

少年が無限に続く草原地帯を歩いている。

ポトリ…ボトリと血を垂らしながら。


ポトリ……ポトリ……ポタポタ


(どこで間違えた……いや)


「何故こんな事に……」


自分が悪いのだろうか、追われる身となった原因が分からない。あの…アッディーン城館に居なかった家族……アーディルは無事だろうか


「アイツは…弟は強い奴だ……きっと…きっと皆を連れて逃げ切ったハズじゃ」


死んで行った部下の顔が思い浮かんでゆく……オドアケル……そう言えば、彼には苦労ばかりかけてしまっていた。いつ、どんな時もホスロの事を考え、行動する。

最期の瞬間も……ホスロの帰りを待ちながら戦っていたのだろうか………全身に剣を突き立てられても決して膝を屈しなかった。

主人の帰還を確信したように息絶えていた。

思い出すと、胸が苦しくなる。

そして…部下を失い、家族を失い……帰るべき土地さえ失った。


「なぁラヴェンナ……そうだよな…取り敢えず追手から逃げんとなぁ」


虚空を見つめながらホスロは呟くと、とにかくフラフラと足を動かす。

真夜中の草原……操槍に乗っての移動は出来ない。

アルブレッドとの戦いで完全に魔力を使い切った。『纏尽炎ホムラマトイ』の反動は、やはり大きいなぁと痛感する。


今日はもう移動は困難だろう。前も後ろも…暗闇で向かっている場所すら分からん。現在地が地図上でどの辺かすらも不透明である。


「野宿……か」


気を落としながらホスロは格納袋から小枝と火打ち石を取り出す……が、長時間火を焚ける程には入っていない。


だが焚かねば体が冷えて死ぬだろう。

仕方なくホスロは、カンッカンッと石を叩き合い、小枝に火を付けた。


パチパチパチ…パチ


ぼぉっと明るい光が湧くと、熱がホスロをホワッと包む。

両手を広げて火の方に向けると、チリリ…と悴んでいたのがヌルリと治ってゆく。


だが…ようやく一息つけた……と思ったのも束の間、今度は暗闇から、何か大きな魔力…いや、殺気が近づいて来た。

王が派遣した暗殺者だろうか……少年は直ちに焚き火から離れ、側に置いてあった杖を拾うと、形だけでも戦闘態勢に入る。尤も、魔力は切れているが。

せめてもの魔術師らしさだろう。


「何者かッ!」


ホスロが尋ねるよりも早く暗闇の中から、"ソレ"は聞いてきた。

軍人らしい鋭く、通った声。声だけで強さが感じ取れる程に、立派な響きであった。


この様な相手に隠し立てをしても意味がないだろう、ならばせめて、堂々と……


「…アッディーン領主カイロが嫡男、ホスロ・アッディーンだ」


負けじと張った声で言い放つと、暗闇の人物は少し面食らったらしい。

だが、不思議と殺気は解かれた。


そして、スルスル…と膝を擦りながら、ソレは焚き火へと近付いて来る。炎の明かりに反射して正体が見えてきた。


その実体は…驚くべきことに、頭鹿族ペリュトンであった。


頭部に鹿の様な角が二本ネジ曲がって生えており、顔面はスラッと細長い鹿の面で、目は大きく縦に一個…単眼である。

首から下は所々獣毛が生えており、騎士の鎧に全身を包み、片手には大きな……大剣、とでも言うべきだろうか。武器を持っている。

身長は百八十と少し、肩幅も広くゴツゴツした体つき。


ホスロは全体像を見て、少し驚くと同時に関心が沸き起こった。マラレルでは人間族以外を魔族と呼び、蔑んでいるため、頭鹿族は奴隷売り場でしか見る事は無かった為である。


こんなにも強そうな者も居るのだなぁ…と見つつ思う。


「これは失礼したな、我が名はヨナタン……アッディーン公国の王宮騎士だ」


「……アッディーン公国…?」


ホスロは不思議そうに聞き返す。

マラレルの軍人かと思っていたが、どうやら違うらしい。

それに…アッディーン公国………マラレルで地理学を習っていたハズなのに、そんな国など聞いたこともない。あまり成績は良くなかったが。


「おや…知らぬか……貴方ともあろうお人が」


「あぁ、知らんわ」


逆に、何故この鹿男は自分の姿を見た瞬間、親しげに話し掛け始めたのだろうか……分からぬ。


「マラレルでは随分と情報統制が行き届いていると見える」


地理学は習う、習うが……あまり敵対国や遠国についての詳細は教えられないのだ。情報統制…か、確かに一理あるのかなぁ、とホスロは頷く。

基本的に、友好的な国家や、同じマラレル教を信仰する国の情報は教えられるが、アッディーン公国など習うどころか、聞いたことすら無い。恐らく敵国なのだろう…それか単純に小国過ぎて習う必要が無いか、だ。


「ホスロ・"アッディーン"と言ったな、カイロ殿の嫡男とも」


「おう」


「簡単に言うと、カイロ殿の従兄弟が当主を努めている国、それがアッディーン公国だ……つまりは…お前の……何と言うのだろうな……分からん、親戚だ」


「マラレルでは邪教とされているアヴェルナ教を信仰する……アヴェルナ教圏の国家で、港市国家として有名だぞ」


「へぇぇ…」


本当にへぇという感想しか出ない。

自分の親戚筋の国……そんな国があったなんて驚きだが、ホスロにとって、今は色々とありすぎてどうでも良くなっているらしい。


「反応が悪いな」


「あぁ、いや……ちょっと…なぁ……」


ヨナタンは、続けて


「それより、何故君はこんな所で彷徨って居るんだ……仮にもアッディーンの者ならば相応しく動いた方が良いぞ」


その理由に、ホスロは怒らず、優しく教えてやった。自分自身を落ち着かせる様に、ゆっくりと


ヨナタンは少年の身に起こった一連の出来事を聞くと、自分が放った言葉についての謝罪と共に、大いに驚く。


「そんな事が………軽率に聞いて悪かったな………」


「それにしても…急に祖国から襲撃を受けるとは……」


ヨナタンは少し絶句する。


(マラレルのアッディーン家が追放されるとは……これは我が王に報告を…いや、やもすると既に存じ上げているのだろうか?)


「……逆にヨナタンは何の任務でここを通ったん?」


今度はホスロが尋ねる


「あぁ…私か、王の命によりマラレルの隣国、ドロエラムに書状を届けにはるばると、な…異教徒の国家同士だからポータルが通って居なくてなぁ……いやはや、大変だったよ」


「ほぉ……」


見れば確かに騎士の鎧だが、その上に高貴そうなマントを羽織っていた。


「所でホスロ、君は追手に追われているのだろう?」


「マラレルに帰ることも出来ないのならば……アッディーン公国に寄り給え、それまで私が護衛しよう」


ヨナタンは申し出て来た。


「ええんか……追手はマラレルの者じゃ、殺せば国際問題にならんか?」


「君がやったと言えば良い」


「クックック、悪い鹿男じゃなぁ……」


ヨナタンは、一つ目を大きく、そして輝かせながらホスロを見つめる。


「君にはアッディーンの血が流れている…私が守るべき血だ」


「むざむざ見殺しにしたとあれば、陛下に合わせる顔が無い」


意外にも、旅の目的地が出来た上に、仲間まで増えた様である。


(最早…この土地に未練なんて無い)


同じアッディーン同士、歓迎してくれるのならば行こうかな、とホスロは決心する。


「そうか……感謝するわ」


ホスロは、こんな所で死ぬ訳には行かないのである。新たに出来た野望を叶えるまでは


(覚えとれ……リュクリーク…お前を殺すまで…俺は死なんぞ)


マラレル王を殺すという、途方もない目標を。











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