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第十四話:仕事帰りの処刑部隊



変わってモノダラバ砂漠では、穴だらけになって地面に突っ伏した砂火竜サンドラゴンの死体処理が行われていた。

ネロとサイエンという連携さえ取れればライオリックにすら勝機がありそうな二人相手では、砂火竜も長くは持たなかったらしい。

任務書に書かれた討伐終了予定時刻より二時間ほど早い。


実質二人の戦闘が終わると、ホスロはすぐに砂火竜の死体に駆け寄って、固有能力で鱗や内臓、核等の希少な部位を集め始めた。

余りの暑さですぐに腐乱臭が発生しそうな竜の鱗を必死に剥がしている。文献によると鮮度が大切らしい。


「魔術師樣……鱗を集めて何をするつもりで?」


サイエンが戦闘後、熱くなった鎧を脱ぎながら、不思議そうに聞いてくる。


「あぁ…陛下に貰った杖に貼り付けて、魔力の流れを良くしようかなと」


「あら、ホスロの主力武装はロングソードでは」


ネロの言葉に、ホスロは待ってましたとばかりに、目を輝かせて担いできた杖を真上にかざす。

するとガシャガシャと木製の杖が変形して行き、鉄の長剣に成った。


「どうじゃ、格好いいじゃろ、魔力を流し込むと瞬時に変形する仕込み杖」


結構改造料高かったんよなぁ…と小さい声で付け加える。どうやら先日杖を貰った後、すぐにアッディーン領内の鍛冶屋でつくらせたらしい。


「おぉ〜ロマン溢れる武器ですね、魔術師樣……」


だが、ネロは心配そうな顔で


「陛下より下賜された杖を……大丈夫かしら…」


言いつつ砂火竜から素材を剥いでゆくホスロを見つめる。

鱗だけでは飽き足らず、魔力を溜め込む心臓部分まで取り出して腰に付けた格納袋(手提げ袋くらいの大きさだが、内部に小さな魔力結界が貼られており入れた物を圧縮して格納できる袋)にせっせと詰めている。


昔のホスロならば、武器を鍛えるのは生身が仕上がっていない弱者の行為として毛嫌っていただろう。

だが、今は違う。ライオリックに勝ちたいが為に、無駄なプライドを削ぎ落として行っているらしい。


そして、結局長時間の剥ぎ取り作業によって、任務書の予定時刻通りに帰るハメになった。

ホスロは満面の笑みなので、気にしていない様ではあるが。


再びポータルをくぐり、魔術師庁に通ずる道を戻ると……数多の馬車や手押し車が行き交っていた。軍人達が食料や武器など、戦争に必要な物資の運搬をせっせと行っている。

砂漠に出発した時はこんなにも混雑はしていなかったのに…

三人は驚くと同時に、奇妙に思う。


「……近くの村に大型の竜……でも出たのでしょうか」


「いやぁ…なら数名の手練れを派遣すれば済むじゃろ………何処かの国が攻めて来たんかな……?」


「ホスロ…はぁ……そんな訳無いでしょう……大国マラレルに喧嘩を売る愚かな国などあるわ___」


「招集、招集、至急一等以上の魔術師、騎士候補はカロネイア城兵舎に集まるべし」


突然、カロネイア中に魔力で作られた音声が鳴り響いた。何回も、何回も。


一等以上の魔術師、騎士候補……魔術師庁に二年以上又は単独で中型竜以上を撃破、撃退出来る手練れを指す。

逆にソレ以下の魔術師庁員では務まらない程の任務なのだろうか……

該当するネロとサイエンは、パッと顔つきを変えると、身だしなみを整えて装備を付けた。

そして、名残惜しそうにホスロの方を向き



「ホスロ、また会いましょう」


「魔術師樣……行って参ります」


ホスロも振り返す……何故か、今生の別れの様に感じられて仕方が無かった。

フラフラと力なく手を振った。二人の影が王宮に吸い込まれるまで。


一人残されたホスロは任務完遂の報告をしに魔術師庁へと向かう。が、何故か途中で道は封鎖されていた。衛兵が検問?の様なモノを作っている。

見てみると、一人一人身体探知から魔力探知…精神探知など、面倒くさそうな検査が行われているでは無いか。

やってられるかと思ったホスロは、固有能力の『練槍』で出した槍に乗り、空に浮くと、そのまま魔術師庁から離れる。

(任務報告は後日でええわ)

本来なら良くないが、まぁ新人だし多目に見てもらえるだろうと思ったらしい。


今日の所は家に帰ろう。

だが、その前に彼にはやっておきたい事があった。

適当な場所に降り立つと、ホスロは鍛冶屋の看板が建てられている下へとぶらぶらと向かった。


先ほど入手した素材で仕込み杖を補強しておこうと思案したらしい。

別に今日で無くても良かったが、何故か本能がやっておかねばと彼を駆り立てた。


王家の杖と、信仰の剣(アッディーン家の直径の男子に送られる剣)を組み合わせた仕込み杖。変形しながらの交戦が可能であり、相手との距離に応じて戦術を変えられる。


ホスロはそんな杖に、更に砂火竜の鱗と核を合わせて、強度と変形時の速度を上げようとしたらしい。


ホスロも男の子なのだろう、先程からニヤケが止まらない。

少し駆け足気味で鍛冶屋の工房に向うと、見せびらかす様にトンッと杖をテーブルの上に置き、そして人を呼ぶ。


すると中から、今行く、と行って、頭にハチマキを巻いた立派な体格の親方が巨大なハンマーを担いででて来た。

職人気質らしく、無駄な世間話も無しに杖を触ると


「魔術師さん、こりゃあ随分上等な杖だねぇ……腕が鳴るよ、一時間かな……待っとけ」


「お願いします」


ブツブツとぶっきらぼうに言いながら、ホスロの杖を手に持って奥の方へと消えて行った。


ホスロは言われた通りに、ウズウズと小一時間程待っていると、再び中からでて来た親方に少し熱を纏った仕込杖を手渡される。


「変形させてみな」


言われた通りにやってみると、ガチャガチャと前よりも軽く杖から長剣へと武器が変わり、持ち手の部分が砂火竜の鱗で作られていた。


「有難う御座いました」


「また来いよ、魔術師さん、五百リーベル(マラレルで流通している貨幣、一リーベルでパンが二個買えるくらいの価値)だ」


懐からカラン、とコインを取り出すと、コトリとテーブルに置く。

その後は双方無駄な挨拶は要らん、と言った感じで鍛冶屋から出ると、

ホスロは魔術師庁に来た時のポータルを抜けて、家へと帰ってゆく。


シュンッと魔法陣の中心に体を置いて、アッディーン領までワープした。


城館まで変わらぬいつもの道。いつもの道。

そのはずだった。


何故か……血液が懐かしいあぜ道を濡らしていた。ポツリ、ポツリと何かの肉の塊らしき物が点々と置かれている。ホスロの城の方へ。


(竜の血肉かな……?)


オドアケルめ、素材を持ち帰る時に落として行ったのかと少し失望する。

まぁ彼も完璧超人では無いのだなぁと若干の安心も覚えたが。


ビチャ、ビチャ……

にしても多いな。血肉が延々とアッディーン領内の畑道を濡らしている。城下町を見てみると、異様に明るい。燃えているようにも見える。

一瞬、ほんの一瞬なのだが、嫌な事実が頭を過った。だが、振り払う。


そんなハズが無い。コレは竜の残骸だろう、だって、何故ならアッディーン城館にはオドアケルが……大型の竜すら楽々と撃破するアッディーン家直属の守備騎士達が居る。


小国並みの軍でも引っ提げて来なければ、突破など不可能。


だが、だが……田舎道を抜けて、城下町に近づくにつれて、現実がはっきりとして来た。

人間の指がポツリ、ポツリと落ちているのだ。

剣と剣で戦った証拠。つまり……誰かが、略奪者が攻めてきたのだ。


全身から嫌な汗がずり落ちる。


ホスロは咄嗟に叫んだ、父の名でもなく、母の名でもなく、弟…アーディルの名でもない………友の名を


「ラヴェンナ……ラヴェンナ!!」


全速力で走る。まだ、真相は分からない。嘘かも知れない。城の周りの民家が燃えているのだって、道中、民間人の死体が折り重なっているのだって、嘘かも知れない。幻に決まっている。


アッディーン家だぞ、マラレルの名家。当主であるカイロは伯爵兼教区長。兵を招集すれば瞬く間に数千は集うであろう発言力。


そんなハズが無い………


燃え盛る石道の脇に、力尽き、膝を屈したアッディーン騎士……言うなればホスロの直臣達が転がっていた。

現実を受け入れたくは無かった。

だが、時は戻らない。過ぎた命は還らない。


タッタッタ、と城へ、城へと一目散に駆ける。


(きっと…きっとオドアケルなら、あいつなら生きてて皆を守っ______)


願いも虚しく、城門には、直立不動のまま……全身に剣を突き立てられて息絶えたオドアケルが、優しい目をして立っていた。


「オド……アケル…」


「ホスロ君、遅かったな………」


「アルブレッドさん…」


周りには王家直属…というかラドリア家の軍兵の死体が散乱していた。誰かと相打ちしたのだろうか。


状況が飲み込めない、アルブレッドさんが領内に侵入した略奪者を撃退したのか?


「一体……何が…」


言い終える前に、チャキ、とアルブレッドは王家の霊剣をホスロに向けて構える。

命を刈り取る姿勢。


「済まない……ホスロ君…教王の命だ、主従ともども……いや、とにかく、死んでくれ」


悲しい目をしている。良く見てみると、ツゥぅと涙が二筋頬から垂れていた。


だが、そんな事は今のホスロには関係が無かったらしい。

彼は全てを理解した、なんとなく、感づいた。


「あの王…通りで会った時から嫌な感じだったわ……」


「纏尽炎」


「…『練剣』」


そして、最後と言わんばかりに、練剣で完全に戦闘態勢に入ったアルブレッドにホスロは尋ねる。


「ラヴェンナはどうした、ほら、昔アンタの娘…ネロと仲が良かった子じゃ」


「……」


男は何も言わない、ただ……無言で城館の方を見上げる。

すると、窓際から、血が……鮮やかな血がポタポタと垂れていた。


「………そうか」


多くを言わず、復讐者は作りたての杖に魔力を込めた。




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