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第十二話:威厳カンスト王



「だーハッハッハ!、 あんなに怒ってるホスロとか初めて見たぜ」


「……お疲れ様です、ホスロ樣」


ネロとの会話後、二人で一緒に場内をクルクルと回って移動をしていると、ラヴェンナ達に出会った。

どうやら二人はホスロを探し続けていたらしい。

出会い頭からラヴェンナは大笑いしてホスロを煽り、オドアケルは居た堪れないといった表情で労う。


それにしても、恥ずかしい試合を見せてしまった…実力差云々よりも、あんなに感情的になってしまえば見苦しかっただろう。急に羞恥心がこみ上げてきた。


「………まぁ、取り敢えず宿屋に戻って、ウチまでワープして帰るか……もう長居しても意味がない」


ホスロはそれでも冷静に、帰り支度の命令を二人に下す。


が、ネロはそれを静かに静止すると言った


「いえ、まだ叙任式が有りますよ」


「……あ、そう言えば一応儀式の一環だった事を忘れとったわ……」


魔術師叙任式に参列せねばならないらしい。マラレル王直々に杖が贈与され、晴れて王国公認の魔術師となるのだ。


完全に頭から抜けていたホスロは、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔でポカーンとして頷いた。


聞くと、どうやら式には従者を連れては行けれないらしい。


「ラヴェンナ、オドアケル、先に宿屋に戻っとき」


「いや、流石にお前が戻るまで待つ」


「私も城門前にて待機しております」


どうやら一人で宿屋に戻る事さえ出来ない様だ。とんだ過保護な坊ちゃまだな、と思わず自嘲する。

ネロもクスリ、と笑うと一足先に叙任式が行なわれる玉座の間へと移動した。


多少の挨拶を交わし、遅れてホスロは配下達と分かれると、一人で闘技場に来た道を戻るようにして、再びカロネイア城内へと向かった。途中、案内役兼監視役の様な人が着いてきて、叙任式が行なわれる玉座の間までの道を示してくれた。

にしても、来た時と同じく、黄金づくりの豪華な城。


城内の守備兵の数は存外に多く、玉座に近づくにつれて数自体は減っていったが、魔力量、魔力出力(魔法を使う際に放出出来る魔力量)から明らかに格上と思われる魔術師や騎士が見られる様になって行った。


玉座の間へ直接通じる大広間を通る道ともなると、王家の霊剣の構成員やマラレル騎士団員、それに五老杖(宮廷魔術師庁から選ばれた五人の精鋭で構成される、マラレル最強の魔術師集団)の一人と思われる名だたる人物達がギロリと一目してホスロを睨んでくる。

(コワ……)


加えて通路に張り巡らされた厳重な魔力探知や精神探知網を抜けると、とうとう式場である王の御前まで着いた。

カロネイア城内一の大部屋で、軽い鍛錬場位の広さは優にありそうな。大小さまざまな宝石が壁に埋め込まれてキラキラと反射しており、天井には魔力を媒介にして光る小洒落たランプが一定間隔で並んでいる。ただ、少し暗い。

玉座からは長い竜の皮を剥いで作ったと思われるカーペットが中央にかけて敷かれており、その左右には王の側近、貴族、騎士、魔術師等が居並んでいる。


開けられると、即座にススス…とホスロは音を立てずに歩み寄り、玉座の正面に片膝を立てて鎮座した。


ホスロ以外の合格者は既に叙任式を終えているらしく、見当たらない。まぁそりゃ、合格後にライオリックにバカ正直に挑み、魔力切れになるまで時間を潰したのだから当然と言えようか。遅刻みたいなモンだ。

なんかちょっと空気もピリついている気がする。


そして…恐る恐る椅子に頬杖を立ててゆったりと座る王を見る、リュクリーク・ノルマンド四世。マラレルの現国王(教王)であり、六十年前……皇太子で有った時僅か十二歳にして宮廷魔術師認定試験を首席で合格し、魔術王と呼ばれた天才。


何かの病だろうか、ボロボロの鉄仮面を被っており、破れた部分からは長い髭が垂れ下がっている。身長は二メートルを超えているだろう、頭から王族がよく着用するローブを身に着けて、全体像がよく見えない。そして、正面に杖の様なモノを浮かしている。

ホスロが居る場所よりも高い位置にある玉座の左右にはメチャクチャ厳つい騎士が居り、剣の柄に手を当ててコチラを睨んでいる。



「名を……名を申せ」


叙任式を始めまーすとも何ともなく、急に質問された。意外と若い声。

焦って変な声になりながらも、必死に答える。こういう時はどう答えるっけ……礼儀作法は……頭をフル回転させる。



「は、……はいッ…ホスロ・アッディーンと申します」


何故か王は何も返さない。

段々と…異常な量の汗が、ホスロの正装を濡らす。

ポタポタ…ポタ、と頬から塩辛い水が流れる音さえ聞こえて来た。


彼の固有能力…又は普遍魔法の応用だろうか……異常な威圧感がホスロに襲い掛かり続ける。沈黙は続いている。


ポタポタ……ポタポタ………苦しくなったホスロは助けを求める様に周囲を見渡して行く。王の猊下に居並ぶ人々、皆王を恐れつつも冷ややかな目でホスロを見ている。だが段々遠くの方に視線を向けてゆくにつれて、見覚えのある……というか有りすぎる顔がいくつか見えてきた。

ネロ、その親父のアルブレッドも居るし……ライオリックも居る………極めつけは自分の父親であるカイロすら居た。


アッディーン伯爵兼マラレル南東領(アッディーン家が所有する荘園)の教区長という位は伊達では無いらしい。結構王に近い場所に居る。


思わずホスロは一瞬ホッとして、父親の方を汗塗れで見て、助け舟を乞いたが……グッと、その黒色で輝いた瞳の笑顔でハンドサインを送られただけだった。


(グッ!じゃねぇんだよ…息子は緊張で吐きそうです……父上………)



「ほぅ…アッディーンか、おや……カイロの息子か」


王はそう言うとハンドサイン中のカイロの方にクルリと振り返り


「親子共々朕に忠誠を誓うとは、立派、立派」


「はっ」


少し畏れつつ、カイロはぎこちなく頭を下げて返す。


(父上……やけに他人行儀というか、慎重な所作じゃなぁ……)


粗相をすれば出世に関わるのだろうか、とホスロは自分の父の小心さを残念に思うが、あの威圧感の前には致し方無いのかも知れない。


リュクリーク王は至極満足そうに、再びホスロの方を向くと。


「まぁとにかくホスロよ、貴様は今日より晴れて宮廷魔術師だ、喜べい」


「はっ、光栄に御座います」


パンパン、と手を叩き、側に控えていた魔術師らしき人物に大きめの杖を持って来させた。魔術師叙任式の習わしで、マラレル王家の杖を直々に送られる。


ひざまずくホスロの頭上にゆっくりと杖がかざされ、そして暫くしてから両手を挙げて拝領する。


だが、王は叙任中にふと独り言のように


「ホスロよ……貴様の代で終わらぬ事を願うばかりだ、つつがなく、平和に……」


「はっ…」


「いや、忘れろ」


何かを語り掛けたが、聞かなかったことにする。


「ホスロよ、今後とも朕に忠誠を、マラレルに忠誠を」


貰った王家の杖を片手に、ホスロは変わらず片膝を立てたまま


「ははっ」


と短く言って、式を終えた。


(王家に……忠誠、か……)


玉座の間から出た後、ホスロはラヴェンナ達と合流するために今度は城門の方に向かいつつ考え事をしている。


そもそもネロに無理矢理受けさせられた試験である。夢も目標も誉れも、ネロに負けたあの時捨てたハズだった。


だが、どうしても、どうしても、人間の性と云うものは変えられない。

合格後に勝負した、あのライオリックとの戦闘中の彼の目つき……自分を敵としてすら認識していないあの目……あの目!!


新たな目標が出来た気がする。もちろん、街に帰り、普通に暮らすと言うのも捨て難い……が、ホスロは揺れつつあった。


考える、考える。


(俺はやはり…生粋の魔術師なのかも知れん……教え子達やカンウさん達と一緒に暮らしたい……じゃけど……いや、今は考えるのは止すか……)


考え事をしながらだと時間は早く過ぎるらしい。城門の奥の方でラヴェンナが大声で手を降っている。


「おぉーい、ホスロー!、なんだそのでっけぇ杖〜〜!!」


困った顔をしながらホスロはポリポリとほっぺたを掻くと、二人の方へと駆け出して行った。


城門前は来た時とは違い、夕日が差している。


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