第十一話:完敗反省会
「はぁ……あッ………ライオリック…ノル……マンドぉ……次は勝っちゃるわぁ……」
先の戦闘で魔力切れを起こしたまま、ホスロは冷たい石の壁にもたれながら歩いている。救護隊が担架を用意していたが断り、ひたすら歩いた。反省の為だろうか、一時の感情のせいなのだろうか、誰かに助けを求めなかった理由は分からない。
ただただ、コツン……コツンと闘技場内の長い、長い石の通路を歩く。
「まぁにしても…首を切らんかった……いや、切る勇気が無かったのも敗因じゃなぁ」
『獅子心は本人に魔力消費ゼロの永続的な治癒魔法を流し続ける』、ライオリックの言葉が呪いの様にホスロの鼓膜に浸透している。
あの時、聞いた瞬間……すぐに治癒魔法でも修復に時間がかかる、心臓や脳にダメージを与える、という選択肢が出来たハズである。だが実行に移せなかった。無我夢中で剣を振るっていた時ですら、無意識の内に……人は殺さない、というストッパーが心の何処かで機能し続けていたのだろう。その選択をホスロが出来ない事まで見通して、ライオリックはわざと攻撃を受け続けたのだろうな、と煽られた気分になってしまう。
コツコツ……歩行音すら耳障りになる。今はどんな音を聞いても不快に感じるのだろう。
だが、それを更に悪化させる様な存在まで正面から近づいて来た、優しい笑みで。
「大変そうですねぇホスロ、だから事前にあれほど………」
「ネロ…俺に構うな、構うな、向こうへ行け」
忠告を無視してネロは近づいて来る。そして、ザリザリと壁に服を擦りながら歩行するホスロの肩を持って、慰め?の言葉を掛けて来た。
「まぁ、でも、宮廷魔術師に成ったのですから落ち込む事は無いですよ……いやぁ……コレでホスロと一緒に竜狩りデートが出来る……!!」
ゲヘヘ、とよだれを垂らしながら満悦そうで、なんとも楽しそうだ。
すると、ホスロは目を輝かせながら
「はぁ…まぁ良いか……にしても『獅子心』……神の如き能力だった…」
と、憧れの人に会ったかの様な口調と顔つきで喋る。
「おや……フフッ、やはりホスロですね……心力を見てその反応ですか」
ネロは少し感心している。加えて言うに
「ほら、いい加減認めてはどうです、貴方には田舎暮らしは似合いませんよ…血の気の多い戦場でこそ生き甲斐を感じる質なのでしょう」
ホスロは黙ったままである。まぁ確かに、ネロに強制的に受けさせられたから、というだけの心意気ではあの勝負は挑まなかっただろう。自分は……まだ、戦う気持ちがあったのだなぁと悲しくなる。
「……悔しいが、お前の言う通りじゃわ、戦いから逃げた、宮廷魔術師の夢を諦めた、と口では言うても……体は正直なモンじゃなぁ………」
どうだ、実際キルルワの街で隠居しても何だかんだ決闘をし、戻ってからも純粋に試験を楽しんでしまっていた。
「くぅぅう…にしても、…いやぁ……あのライオリック対ホスロの戦い……十年間以上ホスロファンの私からすれば叫びたいくらい良い勝負でしたよ……私の解釈通りのホスロの勇姿でした………!!!」
何度思い返しても悶えてしまう、とネロはまだ興奮冷めない様子である。
「そりやぁ……どうも……」
何とも複雑そうな顔でホスロは答えた。天気は明るく、闘技場全体に眩い光が振りかざされている。