第2話 ◯貴族にて
◇◇◇
「ちょっとギリギリになっちゃった」
と言いつつ10分前には到着する、小心者。
「お互い初対面だから……」という事で、何らかの『武器』を目印にした待ち合わせである。
(いやその提案は俺じゃない)
『第一印象が大事だからこそのフラットさを求めます!』とは彼の言です。
流石に魔剣と聖剣は羞恥に絶えなかったので、近所の100円ショップでハリセンを購入すべくあちこち回っていてギリギリの到着になった。
このご提案でもわかるとおりに中々斬新な発想の持ち主で、チャット上はすごく気さくさんで通ってる彼こと『夜鷹』さんだ。
実際のところはどうだろうか、おっかなびっくりだがここまで来ると楽しみだ。
(それにしてももう一分前だが……それらしき人の姿が……?)
先程からチラリちらりとこちらの様子を伺う女性が少し気にはなっていた。
流石に2929な俺でもあんな美人から見つめられると……惚れちまう……どころかこの世に存在していて良いのかとゲシュタルト崩壊が進んじゃうんだよねぇ~。
(純白のシャツと紺のタイトスカート……リクルートスーツっぽく見えないのは彼女の少しあどけない雰囲気ゆえかな? 少しちんまりしているけど美人には変わりない。むしろあ~ゆ~のをトランジスタグラマーって……ンンン⁉)
胸元やら何やらを堪能したあと、目に飛び込んだのは――右手に握られた特殊警棒だった。
「どんなコーディネートだよっ!」
と思わず口に出てしまう。あまりに似つかわしくない代物だ。
『最近の婦警さんの採用活動は特殊警棒持参なのだろうか?』と世の治安悪化を憂えてしまうが、警棒の彼女さんはこちらににこやかな笑顔を振りまき、警棒を頭上でフリフリ駆け寄ってきた――「視姦罪です」「それでもボクはやってない」などの応酬が心の内で展開されていたが全面敗訴は確実だった――という考えを余所に声がかかる。
「あのぉ……それ、武器ですよね?」
「あ……ええと……ハリセンです」
「あれ⁉ わたしの勘違い……かな? ……ハリセンっていうのは武器……じゃなかったかぁ」
見る見るしょぼくれる美人婦警棒さんは表情がコロコロ変わり見ていて飽きない。
だが、女泣かせはしてみたいが眼の前の乙女には、我が豚足を差し出したい足長紳士な自分も同居している。すかさずフォローに入る。
(……いや、武器って言ったら取り締まられちゃうと思ったんだよ)
「いへいへ、これは武器ですよ。不殺の誓いがあるゆえに非殺武器でござるよ、薫殿」
「えっと……どうしてわたしの名前を……」
「おっふ、まさかの……」
「あの『ひづきん』さん? でよろしいでしょうか?」
「ええ何を隠そう、ワタシが『冰月ことひづきん』だ。よくぞ正体を見破った。褒めて遣わす。そういう薫殿も……え?」
見も知らぬ警棒美女から何故か俺の冰月の下の名前をもじったアカウント名『ひづきん』を指摘されてしまった。
(……考えたくはないが……まさか……ネカマ? いやその逆のネナベ⁉ 夜鷹さんネナベナノ⁉ ………………そんじょそこらの美人じゃないんだが……もう死ねる……)
ここに来て俺の内弁慶が内股になった。
「はじめまして『ひづきん』さん……冰月さんの方が良いですか?」
「…………(パクパクパクパク)」
「今日はよろしくお願いしますね。わたしオフ会……というか男の人と二人きりなんてなんて初めてで。ちょっと緊張しちゃって……今なに喋ってるのかもわかってないくらいなんですよ~」
「…………(パクパクパクパク)」
「あ、このお店美味しいって聞いたことあります。わざわざ予約してくださってありがとうございます。すごく人気のお店なんですね。こんなに元気な店員さんがいっぱい……『おっ疲れ様でしたァァァァあああ! 乾杯ぃイイイ!』……ほら、すごい! 店の外まで。さ、入りましょ」
「…………(パクパクパクパク)」
「ラッシャーーーせーーーー! 何名様でしょうか? ご予約は? お名前お伺いしても?」
「あ、『ひづきんさん』のお名前でご予約でしたか?」
「ああ……っそおっデッス! ――あ、違う! えっと……ボソ(『パズサバアドの憤死会』)です……」
「ご、ご案内いたします、二名様ご案なぁーーーィィイイイ!」
「「「「ラッシャーーーせーーーー! おっつかれ様っディーーーす!」」」」
「すっごく丁寧で対応がよろしい店員さんたちですね。ほんといいお店で嬉しいです」
「あああの、そのっちょっ予約キャンセルして……ホテルのディナーか、焼肉かステーキハウスでも――」
「え? わたし実は緊張で昨日から何も喉を通らなくて――お腹ペッコリンです。ここでお預けはちょっと――」
「あああ、わ、わかりましたぁああ」
「ふふっやっぱり『ひづきん』さんは楽しい方ですね」
「お褒めに預かり光栄です、マイ・レディー」
「さあ、おすすめの料理は……貴族焼き⁉」
「ああ、その様な下賤なもの……これ、そこの! カトラリーを手配せい!」
「あの……お家元は武士のご家系でしたか?」
「いえいえ、一般的な…………ゴフンゲフン……です」
「お待たせいたしましたぁ~おしぼりをどうぞ~、はい。お飲み物はお決まりですか?」
「ええっと……」
「ああ、ワインは何があるかな? ボルドーの98年物とかは?」
「えっと……ブランとルージュがございますが」
「ふむ……モビルスーツかね?」
「いえ、赤か白です」
「彼の言うことはサッパリですが両方でいいですか『夜鷹』さん?」
「いえ、私、お酒飲めなくて……」
「其方、介錯を頼めるか?」
「……あの、ソフトドリンクはこちらになります」
「……承知仕った、あの『夜鷹』さんのお口に合うかわかりませんが」
「わたしこの黒いのを……」
「大将! こちらのお嬢様に本日の一番いいモノを! ヴィンテージものを!」
「え~と」
「あ、俺もお酒はまだ……同じもので」
「コーラ二つで。スピードメニューもございますが」
「……とりあえずそれで」
「承知しました~ コーラ2丁お願いしまぁああああっす!」
「「「「あいよ~!」」」」
とまあ、そんな感じに多少は打ち解けつつ、夜は更けていくのでした……。
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