言葉で教えて
「ねぇ、言葉にしてくれなきゃわからないよ」
「…ごめんね」
「謝らないでよ。何で言ってくれないの?」
「…言葉にするのは怖いんだ」
「どうして?」
「…君は、…何かを、好きになったことはあるかい?」
「ある、好きなものはたくさんあるよ」
「そうだね。でも、それがただの気のせいでしかなかったら?」
「どういう意味だい?」
「自分はそれを好きでも何でもなかったんだ」
「それは、…想像と違ったとか、やってみたら案外楽しくなかったとか、そういうことかい?」
「違うんだ。僕は言葉にしたら、その直前まで思っていたことが、もう自分の気持ちでなくなってしまうんだ。そんなことが何度もあって。その度に空虚な気持ちを味わって。だから、怖いんだ。君といられて毎日幸せなのに、この気持ちまで自分のものではなくなってしまったらって」
「…そうか。…きっと君は言葉に全てを乗せてしまうんだ。君の気持ちごと全部。だから、言葉に乗せられないほど大きくなって溢れてくるまで、僕は待つことにするよ」
「…そっか。ありがとう。」
「ううん。僕も意地悪言ってごめんね。ほんとは君の気持ち、ちゃんと伝わってるんだ。君が僕に触れる全てがちゃんと伝えてくれるから。ただどうして言葉にしてくれないのかなって、不安になっただけなんだ。だから、ちゃんと待てるよ」
「うん、待ってて。きっとすぐだよ。そんな気がするんだ」