赤く染まる彼女が好き
日が落ち、寂れた商店街には、ほとんど街灯の明かりしかなかった。その商店街の更に奥、僅かに漏れる月明かりしかない暗い路地裏に男が押し倒されていた。
すでに手足は縛られ、口には布を咬まされていた。それでも男はなんとかこの状況を打開しようと暴れていたが、そんな事はお構い無しに男を縛った人は上に乗り更に押さえつける。真っ黒なフードコートに身を包んだ人からは笑い声を堪えている様な雰囲気がしていたが押さえつける力は抜かず、暴れるのにも限界を迎えた。代わりに男は何かを言いたそうだったが布に阻まれる。
大人しくなったのを確認待った、真っ黒な人はコートから何かを取り出した。真っ暗で良く見えなかったが、ふいに光った気がした。そこからは連想ゲームで、すぐに刃物だと気付いた。何をする気なのか、理解出来ずに戸惑う男も次の行動には反応した。
刺した。刺した。刺した。
暴れる。暴れる。暴れる。だが動けない。
刺した。刺した。刺した。
男は自分の服が湿ったのは分からなかったが、何が体から、流れていくのは分かった。だんだんと感覚が薄くなっていき、力が抜けていく。それでも。
刺した。刺した。刺した。刺した。刺した。刺した。刺した。刺した。
男の抵抗が無くなっても刺し続けた。
その様子を僕は商店街の大通りに注意を向けながら、チラチラと見ていた。もう何度刺したのか誰にも分からなくなった頃に真っ黒な人は刺すのをやめ、立ち上がった。
返り血で少し濡れた様に見えるコート着て、真っ黒になった包丁を持ったその人は、美しい顔に返り血で化粧をし、見る者全てを魅了する笑顔を浮かべていた。
「ありがとう」
その一言に僕は照れてしまって、目を背けてしまった。
「ごめんね、こんな姿じゃ気持ち悪いよね」
違う、誤解を与えてしまった。早く何か言わなければならない。何も思いつかないが、頑張れ。
「ちがうんだ、その……とても綺麗で」
なんとか捻り出した言葉に彼女は少し照れた雰囲気を出しながら、もう一度ありがとうと言った。今度は目を背ける事はなかった。
「行こうか」
そう言った彼女は路地の更に奥に向かう。血に染まったその後ろ姿も素敵でたまらない。高揚した僕は彼女に追いつこうと歩き始めた。