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ロスト・コンティネント ~過去を改変する旅へ~  作者: 桜庭慎一(おうば しんいち)
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~プロローグ~

 そこは今まで見たこともない大地。豊かな水に囲まれた地・霧に囲まれた地・空に浮かぶ大地・燃え盛る炎とめどなくあふれ出している地・真っ暗でほとんど何も見えない地。一体これはどこなのだろう・・・。少年は見知らぬ大地を前に戸惑いを隠せない。そう考えていたのもつかの間、少年の視界は暗くなった。


 「・・・ん、夢か」

西日が差し込む部屋で1人目を覚ました少年は、毎朝のルーティーンを黙々とこなしていく。顔を洗って朝食を作り、薪を割って庭に作った畑の世話。平和になった現在、この世界ミズガルズは平和という言葉が一番似合うのではないだろうか。国家間での争いもなく、かつて存在したと言われている魔物も今となっては影も形もない。

 ここはアルグン王国の辺境にあるカシの村のそのまた辺境。少年ウラノスは人里離れた丘の上に居を構えていた。齢16のウラノスは両親を10歳の時に亡くしていて、それ以来1人で自給自足の生活を送っている。だが、完全に孤立しているというわけではなく、カシの村の人たちが彼に援助をしていたため、ウラノスも苦労をするということはなかった。そして、ルーティーンを終えて休んでいる今も、玄関のドアを叩く音が聞こえてきた。

 「おーいウラノス!沢山食べ物持ってきたよー」

 呼びかけに応じでウラノスはドアを開ける。するとそこには予想通りの人物がいた。

 「やっぱりエマか。いつもありがとな。村のみんなが食糧を分けてくれるおかげで俺も苦労せずに生活することができる」

 「気にしないでよ。私たちはウラノスを家族だと思ってるから。それよりさ、今晩村で収穫祭をやるんだけどウラノスもおいでよ」

 「ええ、俺は良いよ。人が多いところはあんまり得意じゃないし。それに俺は収穫祭に参加できるようなことは何もしてないから」

 実際、ウラノスは村の収穫時に何の関与もしていないため、収穫差に参加するのは気が引けていた。

 「もう!ウラノスは堅いんだから。村のみんながいいって言ってるんだからいいんだよ。収穫に携わったかどうかは大した問題じゃないし。それに、ウラノスはここ1年くらい村には顔を出してないよね?みんなはウラノスのことが心配だし、あなたと話をしたいと思ってる。本当に村のみんなのことを考えているなら参加しないって選択肢はないと思うよ」

 エマはこういう時に限って口達者だ。

 「・・・分かったよ。で、何時に行けばいいんだ?」

 「5時から始まるからそれに間に合うように来てね。あ、それと、収穫祭は長いからおそらく村に泊まることになると思うから」

 「分かった」

 エマはウラノスのことを説得できたことがよほど嬉しかったらしく、スキップしながら村に戻っていった。

 「村の人に会うの久しぶりだなぁ。少し緊張するかも」

 収穫祭に向かうまでまだかなりの時間があるため、ウラノスは残りの仕事を終わらせてしまうことにした。


 仕事に忙殺されていると、あっという間にその時は来た。

 「そろそろ出発するか」

 カシの村まではおよそ1km。徒歩でも10分程度で行ける距離にある。収穫祭が行われることからもわかるように、カシの村は様々な野菜の出産地として隣国のナーダ王国にも名が知れている。特に人気なのは芋。土壌の関係や気候の関係なのだろうか、カシの村ほどの量の芋が取れる地域はほかにない。この名産のおかげでこの地域は豊かな生活を送ることができていた。

 道中には色々な花や草木が咲いている。そんな綺麗な景色を横目にウラノスはカシの村に到着した。

 「お。ウラノスじゃないか。久しぶりだな」

 「ウラノス!久しぶり!」

 ウラノスが村に着くと同時に、多くの村人が声を掛けてくる。

 「おーいウラノス!こっちこっち」

 エマが大きな家の窓から体を乗り出しながらウラノスに呼びかける。エマは宿屋の娘であり、看板娘としていつもテキパキ働いている。ウラノスは呼ばれたようにエマの元に向かった。

 「来てくれたんだねウラノス。ありがとう。もうすぐ収穫祭は始まるからもう少し待っててね。あ、部屋は2階の一番奥の部屋を勝手に使ってくれればいいから」

 「分かった、ありがとう。適当な時間に外に出るからエマは自分のことをやってくれればいいよ」


 宿に来てから30分ほど経って外が騒がしくなってきた。ウラノスは少し厚着をして外に出た。

 思ったよりも収穫祭は賑わっていてウラノスは自分の居場所を見つけ損ねていた。カシの村の村人は総数500人。村という名に入り切るかといえばそうとは言い切れない。それほどの人数がいる場所では、人ごみの苦手なウラノスにとってかなり厳しい状況だった。実際、物陰に隠れて現実逃避しているウラノスに気付く人は1人もいない。

 誰にも気づかれないまま、収穫祭は終盤を迎えた。そんな時、

 「あ、いたいた!ウラノス、なんでずっと1人でいるの?」

 「お前も知ってるだろ?俺は人混みが苦手なんだ。まさかこんなに人がいるとは思ってなかったよ」

 「そ、そうだったね。でももう終わっちゃうよ?最後のイベントくらいは出席しなよ」

 「最後のイベントって何をするんだ?」

 「去年使い物にならなくなった作物を1つの箱にまとめて入れて、それを特大の日で燃やすの。その火を神様に届けることで来年の豊作を願うためなんだよ。しかも今年は特別らしくて。何でも人魔対戦が終結してちょうど300年らしいよ」

 「なるほどね。まあ、その儀式には顔を出すか」


 その後もエマに連れていかれるがままに収穫祭を終えた。村の人々は先ほどまでとは一転して、収穫祭に使われた用具の片づけ作業に入っていた。

 久しぶりに多くの人と交流して思ったよりも疲労しているウラノスは、宿に戻って早めに睡眠をとることにした。部屋は最初に入った時よりも整えられていた。きっとエマが整理してくれたんだろう。そのことに感謝しながらウラノスは眠りについた。


 眠りについて数時間、誰かが部屋に入ってきた。

 (こんな時間に誰だ?一応気付いていないふりをしておくか)

 侵入者はゆっくりと忍び足でウラノスの眠っているベッドに迫ってくる。そのまま枕元に座り込んで侵入者はウラノスの顔を見つめる。

 「・・・ごめんね。こんなことに巻き込んで。でも長年研究して開発した“コンシャスネス・テレポート”に適応できる素質があるのは君だけなんだ。紋章の力が失われたこの世界でどうして君だけ適応できたのかは知らないけど、世界を救うために君の力は絶対必要だ。・・・本当にごめん。あとは昔の自分に任せる。コンシャスネス・テレポート!」

 ウラノスの体を白い光が包んだ。するとすぐにウラノスの意識は闇に飲まれた。その意識が完全に飲まれる前に、ウラノスは侵入者の姿を朧気ながら捉えた。

 「・・・だ、誰だ・・・?」

 その答えの回答を知ることはないままウラノスの視界は白く染まった。

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