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月曜が来る。  作者: きゆ!
4/4

ゼロ


気づけば俺は校門の前に立っていた。


俺は後ろから肩をたたかれ身震いする。


「おはよ」


海斗から声をかけられる。


「どした?」


俺は俯いていた。


俺の反応を見て海斗は不思議そうに聞く。


「いや、なんでもない。おはよう。」


「なんだそれ、変な反応だな、失恋でもしたのか?」


「いや、なんでもない」


俺はそう言って自分の携帯を取り出すとカメラを起動した。

俺の顔に移るのは「土」の文字。


「自撮りか?」


「違う」


「カメラつけてんじゃん」


「なんでもない」


俺はそう言って携帯をしまい、学校へ歩いていく。

昇降口で靴を履き替えていると、海斗

の上靴に目がいった。


「そんな靴履いてたか?」


「ああ、昨日買った新品の上履きだ。サイズも合わなくなってたからな。」


そんな会話をしながら俺たちは教室へ向かう。

俺たちはゴールを見つけたんだ。生き残り続ければ何かが起こるかもしれない。俺は…あと4日か。

窓の外から、カラスの鳴き声が聞こえた気がした。



俺は教室に入ると龍介と篠原を呼び、作戦会議をすることにした。


「昨日俺たちは生き残った。だから顔の文字が変化しているはずだ。」


「うん。私は火まで後少し。」


篠原は黒縁の眼鏡をクイと、押し上げていった。


篠原の文字は「木」に、龍介は「金」に変わっていた。

行ける。俺たちなら。


「今日はみんなを救おうと思う。」


「私も昨日と気持ちは変わってないよ。」


「足でまといにはするなよ。」


「わかってる。みんながみんな理解してくれるとはかぎらないからな。最低限の情報だけ簡潔に伝えて、安全な場所で詳しいことを話そう。」


教室では水谷と勝己が重い表情をしていた。

授業の合間の休み時間を使って、俺は勝己を、篠原は水谷を説得することにした。


「そんな馬鹿なことがホントにあるのか?」


「ああ、今は信じなくていい」


水谷も勝己も、驚いた様子だ。いきなり全てのことを話しても混乱するだけだし、まだ正確なことは分かっていないため、俺たちは顔の文字が月の人が化け物となって襲ってくること。そして俺たちが何度かループしていることだけを伝えた。

昼休みが始まると、俺は勝己にお金を渡して食料を買ってくるようにいった。女子は理科室へ、俺と龍介は空いた教室や、他のところから使えそうなものを持ってくることにした。


「俺は技術室からのこぎりを持ってくる」


龍介はそう言って金工室へ向かった。

俺は何かないか空き教室に向かうことにした。昼休みは長い。まだ時間はある。


俺は後ろから声をかけられる。


「ねぇ、ちょっといい?」


水谷だった。


「チョコレートなら海斗本人に直接渡した方がいいぞ」


「え、なんでわかるの?そ、そっか、何回かループしてるんだよね。正直ビックリしちゃった。どうやらホントにホントみたいだね。」


水谷ははにかむと可愛らしい箱を隠すように抱えた。


「わかった。今日、勇気出してみる。」


「海人なら、今日は俺たちがいないから教室で寂しく1人で飯を食べていると思う。」


「ごめん、ありがと。」


水谷は逃げるように小走りで教室へ向かう。


後ろから篠原が歩いてきた。


「はい、これ二人分のマッチと、アルコール瓶。」


「ああ、ありがと。」


「何話してたの?」


茶色がかった三つ編みを揺らしながら、篠原は問いかけた。


「大したことじゃない。」


俺はそう答えると、会話を終了させ、目的地に向かった。








俺たちは山へ繋がる第2校舎裏に集まることにしていた。


「ノコギリ、二本持って来といたぜ。」


最後に龍介が姿を見せると、全員が集合した。


「これで全員だな。よし、今から山へ向かって安全な場所を作る。詳しいことを話すのはそれからだ。まずはこのフェンスを上って……」


俺がそう言いかけた時、篠原と目が合った。


俺の後ろを見つめて、酷く、恐怖したような、殺意も混じった瞳。


俺はゆっくり、後ろを振り向く。


そこには、何度見たかわからない、月のような顔が輝いていた。


「嘘、でしょ」


水谷は顔をこわばらせて、震えながら後ずさりする。


「まだ昼休みも終わったばかりなのに…」


奴らは既に居たのか。この時間にも。


「うぉぉい!、なんだよアレ!」


勝己は驚いて声を上げた。


俺はアルコール瓶の蓋を開けて前方に振りまく。龍介はノコギリを持ってヤツに突っ込んだ。


「下がってろ!」


俺はマッチに火をつける。龍介は相手を誘き寄せるように前に出た。


相手がこちら側に踏み込んできた時に火をつける。そして焼き殺す算段だ。

しかし、作戦は失敗に終わる。

ソレは回り込むように走り出した。目的は……勝己だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


化け物が手を伸ばす。


「ウラァァ!」


龍介の肩を入れたタックルでソレは少し怯む。しかし即座に踏み出すとさらに勝己に接近した。


「コイツッ!」


龍介は後ろから蹴りを入れる。今度はビクともしない。

ソレは龍介に構うことなく勝己に襲いかかる。


「落ち着いて!マッチに火をつけるんだ!」


俺は声を荒らげて促す。


「い、今やってるよ!」


勝己はブレザーの内ポケットからマッチの箱を出そうとするが、焦っているのか上手く出せない。


「勝己ッ!!」









俺の叫び声が澱んだ空に響いた。







その瞬間、勝己の頭がスイカ割りのスイカのように、弾け飛んだ。


薄い赤色の肉片が飛び散る。


心臓の鼓動が大きく身体中に響き渡るのを感じた。


地面に肉片が落ちる音。


風が吹き抜ける音。


唾を飲み込む音。


落ち葉が落ちる音。


誰かが息を飲む音。


心臓の鼓動。


そして、ヤツの足音。


その全てが、俺の鼓膜を、心を、震わせ、奮い立たせた。


「コイツ!この、この野郎ッ!」


龍介はそう言ってノコギリを振りかぶる。


ヤツはそれをかわすと、今度はこちらに向かってきた。


「ヒッ…」


横にいた水谷が体をさらに大きく震わせた。


こちらに来る。



…………………..。




冷静に。ただ淡々と火を付けた。


床に拡がったアルコールと共に、こちらに寄ってきた奴の体に燃え広がった。


魚を焦がしたような匂いが鼻を突く。


俺は、また…………


奴の体は灰のように燃え尽きた。

この場にいた誰もが、これで終わりだと思った。

俺を取り巻く、澱んだ空気に吸い寄せられたかのように。

もう一体。


ソレは現れた。


「篠原、お前は絶対死ぬなよ。ゴールに1番近いのは、他でもないお前だ。」


「わかってる。でも、どうすれば…」


「俺たちに構わずに逃げろ!今すぐにだ!」


「明日必ず会う。信じてるから。」


篠原はそう言って校舎裏から体育館側へ走り出す。


「ここは俺に任せろ、お前たちも行け!」


龍介は飛びかかって、奴を腕で抑え込む。


「嫌、嫌だ嫌だ嫌だ。」


水谷は校舎側へ走り出した。俺もそれに続く。


角を曲がった時、後ろから、何かが潰れたような、嫌な音がした気がした。


俺たちは走った。昇降口に1人、男子生徒が上を見上げ呆然と立ち尽くしていた。顔には「月」の文字。


空………月を見上げて。


水谷が男子生徒の横をちょうど通り過ぎたとき、異変は起こった。


男子生徒だったものは、一瞬にして姿を変えた。

月のように頭を輝かせて。


俺は走り抜け、急いで昇降口の扉を閉め、鍵をかける。


「ハァ、ハァ」


水谷の息が少しづつ荒くなっていく。


外に取り残されたソレは、こちらを見るとガラスの扉を勢いよく叩く。


「ドンッドンッ………ドンッ」



俺たちは急いで靴箱を後にし、廊下に出る。


廊下の奥。


また、出会ってしまった。



光り輝く化け物に。


しかし、その姿は俺より小柄で……



……………その足には、見覚えのある新しい靴を履いていた。


「………………海斗。」


「嘘だ、いやだ。そんな、……………」


水谷の瞳には涙が浮かんでいた。


俺たちは走り出した。


この先の廊下は、2つに分かれている。





………俺の口から、悪魔が囁くようにいった。


「ここからは、二手に分かれて逃げるべきだ。その方が、どちらかが生き残れる確率は高くなる。」


「…………わかった。」


額を濡らし、息を荒らげながら、水谷は苦しそうに答えた。


「俺は左にいく。」


水谷は、今度は言葉で答えるのではなく、頷いて示した。




俺たちは二手に分かれた。





そして、化け物は………海斗だったソレは、当然のように、水谷を追いかけた。

























「優先順位」
























俺の口角は、不思議と上がっていた。


まだ午後3時ほどだ。

ここで死ねば全てが終わってしまう。

俺はそんな訳には行かなかった。


俺は1階の窓から外に出た。1人が怖かった。

しばらく学校の外を歩く。

砂利を踏みしめるとギシギシと音を立てていた。

乾いた音だ。

視線を下げればタンポポが誰かに踏みつけられたように地面にへばりついていた。




視線を上へ戻す。


俺の願いを叶えるかのように、俺は少女に会った。


「……篠…原……..。」


篠原は茶色がかった、整った三つ編みを揺らして答えた。


「…ごめん。今日は1人で生き残ろうと思ってた。けど、わ、わたし…1人が、怖いよ。だから、気づいたら君を探してた。」


「………………..」


口を開けなかった。


だって俺は、今さっき水谷を殺したようなものだったから。




矛盾が世界を構成するように、間違った感情が俺を作り始めた。俺は………


強い風が俺の横を吹き抜けた。まるで、振り返れと言っているように。


そのまま俺は首をねじらせて後ろを向いた。



「…………………ッ」



そこにソレはいた。


今まで見てきたよりも、いっそう美しく、輝いて。


「……最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。」


ソレは体を傾けてこちらに迫ってきた。



これで、終わりか。



いや、篠原さえ生き残っていれば。彼女さえいれば。

たとえ俺の記憶がここで途絶えたとしても。


「こんなの…悪夢じゃないか…。」


俺の方へ向かって来たソレは高速で腕を突き出す。


きっと俺の体なんて豆腐のようにぐちゃぐちゃにしてしまうんだろう。


俺は自分の運命を受け入れたように目を閉じた。






黒い液体が地面に滴り落ちる。





ソレは腕を真っ赤に染めている。






「……………は、…お、お前、何してんだ、………」


俺の瞳には、化け物に貫かれて、血を吹き出す篠原が映った。


篠原は化け物に背を向け、俺を庇った。


右脇腹を、ソレの腕が貫いていた。


「バカ、馬鹿野郎!お前だけは、お前だけはダメなんだ。絶対に、死んだら…ダメなんだ。」



篠原は首を横に振った。


「ううん…私、言ったよね。最初に私が生き残った時、あなたが囮になって私を庇ったって。今度は、私の番。あの時君がいなかったら、ここに今、私はいない。」


篠原は化け物の腕を抜こうとせず、ソレの腕を両手で掴んで

いる。


「なんで…なんでだよ。俺は、そんな人間じゃ…」


篠原は血を吐きながら言う。


「うっ、、早く!、このままじゃ、全部無駄になる」


「…………………。」






俺は走った。








校内へ真っ先に走った。



廊下に出る。


誰もいないように静かだ。


今日の光景が…死の空気が、思い出されていく。


俺は頭を抱え、しゃがみ込んだ。


まだ時刻は、12時どころか日没すらしていない。


このまま死ねば全てが終わる。


全部が、ゼロに戻るんだ。


俺の記憶とともに、全ての出来事が無かったことになる。


無かったことに…………出来るんだ。


俺以外、記憶を持つものはもう居ない。


篠原さえいればよかったが、その篠原は、俺を庇って死んだのだ。

化け物を押さえつけて、最後まで俺を安全に逃がした。




俺は頭で考える前に、歩き出していた。


階段を上る。


空間が死んだように静かだ。


こんな時、いつもなら来てもおかしくないんだけどな。


ソレの気配は、全くと言っていいほど感じられない。


そのまま階段を上る。



上る。



上る。



上る。



もはや俺の足音も聞こえた気がしない。


心音すら聞こえなくなっていた。


日没までに死ねば、記憶は全て失われる。




俺は壊れた扉を開け、屋上に出た。





そこには、風に白髪をなびかせて、少年が立っていた。


俺はその少年を知っていた。


麗しい瞳が俺を見つめる。


久しぶりに見た、文字のない顔。


アルビノだ。肌の色は天使のように白く、瞳を輝かせている。


「久しぶりだね。」


その少年は、首を捻らせて、問いかけるようにいった。




……………俺には、弟がいた。


昔から病弱で、外をあまり出歩けなくて。学校も、たまにしか行っていなかった。



何故かその少年は、俺と同じ制服を着ている。


どうして、そこにいるんだ。お前は。


お前はそこに、いていいはずがない。



だってお前は……………もう…..。



俺に微笑みかけるように、天使のように、優しく口を開く。


「あの日、病院で、兄さんが言ってくれたんだよ。」


古い光景が思い出された。


月明かりが眩しい夜。




「どんなに苦しくても、今日を生き抜けば明日が…………月曜が、必ず来るって。」


俺は俯いたまま。黙って聞いていた。


「でも僕に、明日なんて無かった。日曜で終わったんだ。僕は。」


やめろ。黙れ。


俺は唇を強く噛んだ。


「だからね、あの日満月に……お月様に願ったんだ。僕に明日は来ないかもしれないけど、兄さんが楽しく生きていてくれればそれでいいって。…退屈じゃ、無かったでしょ。」




やめろ。



俺は黙って歩き出すと、登り慣れたフェンスをよじ登った。



もうこれで………終わりのはずなんだ。


全てをゼロに戻したかった。



「またね」



俺は後ろから聞こえた声に応じることも無く、、ただ無言で………………。









数秒の、今までで、どんな時よりも静かな静寂。



その後。

俺の耳に、乾いた音が響き渡った。




耳に血が入り込んだような気がした。







これで、いいんだ。










俺はその音を聞くのは、人生で2度目だった。



































―未完―














































あとがき



ここまで読んでくれてありがとう。

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