2回目
気づけば俺は校門の前に立っていた。
俺は後ろから肩をたたかれ身震いする。
「おはよ」
海斗から声をかけられるがしばらく反応出来なかった。
「どした?」
俺の反応を見て海斗は不思議そうに聞く。
「いや、なんでもない。おはよう。」
「なんだそれ、変な反応だな、失恋でもしたのか?」
海斗の冗談を聞き流し俺は淡々と教室へ向かう。
教室に入ると勝己と目が合った。
「ふぁぁあ、おはよ」
勝己は呑気な顔で欠伸をしながら俺を見た。
きっとこいつには記憶が無い。
教室を見渡すと、俺はあることに気づいた。
ひとつは、篠原の顔の文字が「土」から「金」に変わっていた。そして、龍介が朝から学校にいる。
顔の文字は「日」から「土」に変わっている。
さらに、驚いたのは、水谷の顔の文字が、「日」に変化していたことだ。
龍介は立ち上がって俺と篠原に声をかけると、3人で廊下に出た。
「作戦会議だ。」
「まずは、お互いに知った情報を共有しよう。」
俺は落ち着いて、話し始めた。
「篠原、龍介。お前たちは昨日、何時まで生きていたか覚えているか?」
「ごめん…私は、寝ちゃったから覚えてない。」
「俺は12時までは絶対に生きていた。それに、昨日はっきりと覚えてることがあるぜ」
「待て、まず俺の話を焦らず聞いてくれ、俺から話していいか?」
2人は静かに頷いた。
「まず、ここでは死んだ人は月曜の朝にループする。
時間はおそらく8時。これは確認済みだ。お前らもよくわかっているはずだ。そして、これは仮説なんだが、12時まで生き残ると、額の文字が変化する。これがおそらく曜日を表していることは言うまでもないな。顔の文字が、俺たちが何度12時を経験しているかを表しているんじゃないか?この文字は、個人が今いる状態を曜日で表している。日曜から土曜。土曜から金曜。そういう風に、進んでいくんだ。そして、日没が、記憶の境目なんじゃないか?」
「どうして?」
「正直直感が大きい。でも、俺が死んだ時はだいたい日が落ちていて、勝己が死んだ時は日が落ちていなかった。恐らく、12時の半分とも取れる6時…日没の時間に、ボーナスとして、記憶を受け継ぐ権利を与えられるんだと思う。」
「なるほど」
「私からもいいかな?」
「何か分かったのか?」
「うん。わかった、というか、少し不思議なことがこの学校の周りで起きていて…どう説明したらいいんだろ。昨日私は学校を出ようとした。けど、結果から言えば学校から出られなかった。どうやら空間がねじ曲がっているみたいで、東から出れば学校の西側に、南から出れば学校の北側に着く。信じられないと思うけど…」
篠原が俯く。
「信じるよ。」
「ああ、今更何が起こったって不思議じゃねぇからな、学校から出られねぇっていうのがホントなら隠れるしかねぇな。」
「龍介は何か分かったことはあるか?」
「ああ…聞いて驚くなよ、俺は奴らの弱点を見つけた。」
「本当か!?」
「恐らくな。奴らはとんでもねぇ身体能力を持っていやがるが、火を恐れていやがった。具体的には俺のライターだ。」
「火…………」
まさか………
「ねぇ、もしかしたらさ、この頭の文字が曜日を表しているんなら、」
「そうか、つまり俺たちのゴールは…」
「「「火曜!」」」
「もしかしたら、顔の文字を「火」にしたら奴らを倒せる能力を得る、とかか?」
「誰か1人でもたどり着けば、このクソみたいなゲームを終わらせられるかもしれねぇ。」
「そもそも奴らはなんで俺たちを襲ってくるんだ…」
「わからねぇけど、ムカつくことは確かだぜ。」
篠原は思い出したように語り出した。
「そういえば私、もうひとつ重要なことに気がついたかもしれない。」
「どうした?」
「昨日…不思議なことが起こったの。でもそれは偶然じゃないんじゃないかって今は思ってる。昨日、真嶋くんにあった時に、確信に近くなった。」
「何に気がついたんだ?」
俺は全身から汗が滲み出ていることにふと気づく。少し興奮してしまったようだ。
「うーんと、まだ、たまたまかもしれないし、間違ってるかもしれないけど、いいかな?」
「全然構わない。言ってくれ。」
「わかった。簡単に言うと、奴らが襲う人には、優先順位があるのかもしれない。私は昨日、日、の文字の人と、逃げていた時があったんだけど、最初は私1人を追いかけてた化け物が、彼に合流した途端、私より遠いところにいる彼を襲ったの。」
「彼っていうのは?知り合いか?」
「いや、知らない先輩だった。私のせいで、酷い目にあったかもしれない。その後、真嶋くんに会ったよね、私。」
「ああ。」
「その時も、分かれ道の廊下で、私じゃなくて、真嶋くんの方を化け物が追いかけていった。」
「なるほど…優先順位か。」
ここで、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
まるで、一日がまた始まったとでも言うかのように。
学校では、1度目と同じことが繰り返された。
勝己はお腹を壊してトイレに行った。今回は勝己には何も話さないことにした。
…………………俺が、殺した。
罪悪感がないわけがなかった。今でもその光景は鮮明に思い出される。あんなのは、2度度ごめんだ。でも、勝己は俺が救う。必ず。
俺たちは昼休み、理科室に集合した。マッチを入手するためだ。
「1人1箱は必ず持とう。」
「わかった。」
「俺は一応、高濃度のアルコールも入手しておく。」
「それで奴らを焼き殺すんだな?」
「いや、違う。バリケードを作ることにした。奴らが俺たちに手を出せないようにだ。」
「なるほど、守るために火を使うのか。」
「そろそろ時間だ。急いで山に向うぞ。」
―――――――――――――――――――――
俺たちは小さな山の真ん中に来た。
早速乾いた木の枝を集める。
「いつ見ても、不気味な月だな。」
「そうだな。」
この月は、一体何なのだろうか。灰色の雲に、ひとつの光。
俺たちは大きく円をつくり、囲むように枝を配置すると、
内側に燃え広がらないように土を固めて、壁を作った。
俺は枝にアルコールをかけると、火をつけた。
このまま、上手くいくだろうか。
篠原が口を開いた。
「ねぇ、明日さ、みんなを救おうよ。」
「俺もそのつもりだった。今日は勝己に何も伝えなかったし、それに、水谷も顔の文字が日に変化していた。」
「水谷さんも?自分のことでいっぱいで、気づかなかった。」
「それって、顔の文字が、「月」から「日」に変化してたってことだよな?月から日に変わるには、どんな条件があるんだ?」
「分からない。不明瞭なことが多すぎて疲れるな。」
気づけば俺たちは眠りに落ちていた。精神的な疲れからだろう。
足に土がかかったような気がして、俺は目を覚ました。顔にも少し土がかかっている。携帯を確認すると、12時をすぎていた。
燃え上がる炎の後ろに、丸い影が見えた気がした。
それも、一体じゃない。いち、に、さん、し、………
ろく、はち、きゅう…………………
囲まれていた。それぞれの月が足で炎に土をかけて、火を消していた。本当に火を恐れているのか心配になるが、火が怖くなければもうこちらに入ってきてもおかしくないはずだ。
俺は龍介と篠原を起こすことはしなかった。
12時まで生き残ったのだ。
これでいい……これで。
俺は朦朧とした意識のまま、虫のように頭をひねり潰される感触がした気がした。