第二校舎裏
第二校舎の裏。
そこに現れたのは…水谷翔子だった。
俺は驚きと緊張を隠しきれない。水谷の顔を隠すように「月」という文字が浮かんでいる。だが、その字ごしにもわかる、美しい容姿をしていた。
「あの、神木くん…」
「う、うん。なに?」
水谷はリボンの付いた可愛らしい箱を俺に渡してきた。
まじかよ…水谷ははずかしそうに話し出す。
「こ、これ…」
「う、うん。」
「小山くんに渡して欲しいんだけどっ。」
おや、おや…小山…海斗か…う、嘘だろ。
「神木くんってさ、小山くんと仲良いじゃん、だから…その、」
「わかっ…わかり…ました。」
俺はまだ心のどこかで水谷からチョコを貰えるのではと期待している。ないとわかっていても、海斗が貰えるんなら、俺もなんか貰えないかな……………
「じゃあね。」
「お、おう。」
水には可愛らしく手を振って去ってしまった。
俺は手に持っている箱を見つめる。
なんで…海斗なんだ…
俺はその箱を海斗に渡したくなかった。
が、仕方ない。友達だからな。一応。少し寄り道をして教室に戻ることにした。
俺は廊下で話す海斗と勝己を見つける。
いち早く俺の存在に気がついた海斗は言う。
「おい、何を怒られたんだよ。」
そして海斗は俺が隠すように持っていた箱に気がつく。
「お前、……なに……それ?」
そう言うと勝己も手に持っている箱を見てきた。
「はぁ、はぁ、それ……チョコじゃないよな…」
「海斗。お前にだ。」
俺は可愛らしい箱を海斗に渡した。
「は、おま、お前から?え、俺、お前の気持ちには答えられないかもしれないぞ、」
「違う。早とちりするな。水谷からだ。お前に渡して欲しいと頼まれた。」
「水谷…か、ら、………まじで、」
海斗は本当に水谷からチョコ貰えるとは思っていなかっただろう。完全に驚いて、黙り込んでしまった。
「おまえらコレ、イタズラだったら許さないからな。」
「そんなわけあるか、心配なら本人に確認とってくればいいだろ。まぁそれじゃ、俺を通して渡した意味ないけど…」
午後の授業が始まる。
窓側の席には篠原の姿はなかった。
篠原はもう学校から出たとみていいだろう。
俺も帰ることは出来た。だが、俺は勝己が心配だった。何も知らず一人で死ぬところなんて想像しなくない。だったら、一緒に逃げればいい。それだけなんだ。
それがとても難しかったとしても。
時刻は午後2時を回る。
そろそろか…
またあの瞬間がやってくるのだろうか。
俺はここで行動を起こす。
「先生…少しめまいがして…多分貧血だと思います。保健室行ってきてもいいですか。」
「大丈夫か?」
素直な心配の声が、海斗や勝己から聞こえてきた。
よし、ここまま。
すると、先生が言う。
「廊下で倒れると危ない、。誰か神木と一緒に行ってやれ。」
元々、俺が誰か一緒に行ってくれないか、と頼むつもりだったんだが、その手間が省けた。
「じゃあ俺が…」
海斗がそう言おうとしたのを俺が遮る。
「勝己、頼めるか、」
そう言うと先生も続ける。
「小山くんと神木くんには体格差がありますからね、宮本くんにお願いします。」
「わかりました。」
勝己は心配そうにこちらを見る。
それに合わせるようにして、俺は目線で合図を送った。勝己は俺の合図に気づいたようだ。
勝己と保健室へ向かう。
「神木、大丈夫か?」
そんな声をかけられるが、当然俺は具合など悪くない。
「ああ、全然大丈夫だ。」
「いやでも、さっき貧血とか言ってただろ。」
「ああ、あれは嘘だ。お前と大切な話がしたくてな。」
「なんだよそれ…」
「俺とお前は…逃げなきゃ行けないんだ。」
「何からだよ…」
「頭の文字が「月」の奴らから逃げなきゃならないらしい。」
「はぁ、意味わかんねぇ。」
そりゃそうだ。勝己には記憶がないんだ。だからこそ、一度アレの姿を見せる必要がある。俺は教室に戻るよう言うと、あらかじめ考えていた逃げるルートを頭で確認する。行きも帰りもゆっくり歩いていたからな、もう授業は終わりかけだ。
そして俺たちは教室に入る。
そこにあるのは…あの光景だ。
「なん…だよ、これ……」
改めて見るとやはり奇妙で恐ろしい。もうこの記憶さえ植え付ければ十分だろう。
「勝己、逃げるぞ。」
真剣な眼差しで勝己を見て言う。それが伝わったかのように、勝己も言う。
「ああ。」
「屋上へ向かう。」
そう、俺が今日生き残ると決めた場所は屋上である。
理由は幾つかある。
一つ、奴らに見つかりにくい場所であり、基本的に隠れて過ごすことが出来る。
二つ、広いスペースが確保でき、不自由なく過ごせる。仮に奴らがここに入ってきたとしても、ある程度逃げることはできる。
三つ、沢山の教室の前を通ることなく向かうことができ、移動中にヤツらに会うリスクを下げられる。それに、屋上には鍵がかけれる。これでヤツらの侵入を防ぐ。そんなところだ…。
だが不安もある。十分なスペースがあると言っても、ヤツらが大量に押しかけてくれば対応はできない。
俺たちは屋上の前に着く。
「屋上って鍵かかってなかったか?」
「大丈夫だ、鍵は入手してある。」
昼休み、水谷からチョコを受け取ったあと、俺は主事室により、午後の授業で使うからなどと、適当な理由をつけて入手した。俺が鍵を取り出していると、勝己は言う。
「これ鍵空いてないか…」
そう言われて扉を開ける。空いてしまった。
「空いてると言うより壊れているだけだろ。」
俺たちは屋上に入り、内側から鍵を使って扉を閉めた。生徒がイタズラしないように、内側からも鍵を使わないと閉められない仕組みだ。
屋上を見渡す。そしてすぐ、ある存在に、気がついた。
そこに居たのは真嶋龍介だった。
「よう、どうした、お前らもサボりか?」
そんなことを言う。どういうことだ。そういえば今日は教室に入ってきてなかったな。こんな所にいたのか。気分で動く男は動きが読めないな。
龍介は手からゴミのようなものを落とし、慌てたようにそれを踏みつけた…
龍介は手にタバコを持っていた。
「おい、お前それ…さすがにタバコはヤバいだろ」
「センコーにチクったら殺す。」
「い、いわねーよ。」
「ま、お前らとはダチだからな、信じてやるよ。」
そう言うと龍介はポケットからライターを取りだし、新しいタバコに火をつける。
典型的な不良といったところか。
「なぁ、た、タバコって体に悪いんじゃねぇか?」
勝己は怯えて聞く。
「ああ、そうだな、悪いか?」
てっきりキレると思ったが、冷静に流す龍介。
薄気味悪い笑みを浮かべていた。
そんなやり取りをしている時。扉の方から階段を上がる足音がした。
ソレは扉のガラスにうっすらと映る。
少なくともソレが、普通の生徒でないことは誰が見ても明らかだ。
「う、うわああああああああ」
勝己は脅えて、どうするんだ?と俺に目で訴えかけてきた。
「安心しろ。扉には鍵が………」
そう言いかけて、ここに来た時のことを思いだす。
そうだ、扉は…鍵が壊れていた。
「うおおおおおおおお」
龍介は叫びながら扉を押さえつけた。
ソレが扉を叩く音が響く。
龍介は冷や汗をかいている。
扉は、いまにも破られそうだ。
俺は走り、フェンスに詰め寄る。
そして俺はブレザーを引っ掛けると、フェンスを乗り越える。
「ちょっおまっなにしてんだよ!」
勝己が叫んだ。
俺はフェンスに絡みつけられたブレザーを掴みながら、徐々に下に降りていく。
「この下はトイレだ。窓から中に入るぞ」
俺はブレザーを握りながら、足でトイレの窓を蹴る。
簡単には割れない。それもそうか。
「ドンッドンドンッ」
屋上の扉を叩く音が響く。
「おい、どうすんだよ!」
勝己の焦りの声。
「くそっ、」
俺はトイレの窓をけやぶることを諦め、ブレザーから手を離した。
そのまま落下した俺は、小さな屋根?のようなものに足をかけ、トイレの窓の、枠を指で掴む。
30秒もしたら俺は下に落下するだろう。それくらい不安定で、焦っている。
俺は急いでトイレの窓を開けることに成功する。
そのまま身を内側に乗り出し、トイレに入り込む。
入ってから気がついた。ここは女子トイレのようだ…
「勝己!降りてこい!」
「む、無理に決まってんだろ!」
そんなやり取りをしていると、龍介の方から声が聞こえたきた。
「ぐぉぉおお、もうっ限界だ。勝己!降りろ!早くっ!」
龍介の叫び。それを聞いた勝己は覚悟を決める。
勝己は俺と同じように、ブレザーをフェンスに巻き付け、それを掴みながらゆっくり壁をつたい降りてくる。そうして勝己は、俺と同じように、窓の枠を掴む。俺の時と違い、窓は空いていたため、俺の時よりつかみやすいはずだが…
勝己を襲うのは恐怖か焦りか、いや、その両方だろう。今にもバランスを崩して下に落下しそうだ。
そんな勝己の様子を見て、危険だと判断した俺は、勝己に手を伸ばした。
いや、手を伸ばしてしまった。
勝己はその手を掴もうと片手を離した。
その時。
勝己はバランスを崩し、勢いよく下へ落下した。
声も出ず、ただ俺を見つめる。
死の淵で何を感じただろうか。
無力に落ちることしか出来ない。
俺は、そんな勝己を、見つめることしか出来ない。
「ドシャッ。」
人生で、一度も聞いたことの無い音が耳に届く。
「…………勝己。」
俺は窓から下を見下ろし、自分の過ちを悔いる。
気づけば俺は無言になっていた。
その後、とてつもない不快感に襲われる。
そのままトイレに嘔吐する。
俺は便座に座り込んだ。
…………気づけば闇の中にいた。
暗いトイレで俺は意識を完全に取り戻した。
聞こえてくるのは恐ろしい足音。
それは俺の意識を覚醒させるのに十分だった。
それは俺の入っているトイレの個室の前で止まる。
「……コンコン」
扉を叩く。
やがてその音は大きくなる。
「ドンッ………ドンッ。バキッギギギ…」
嫌な気がして…俺は上を見上げる。
俺を見下ろす異質の物。
それは身を乗り出し、トイレの個室に上から入ろうとしていた。
俺は勢いよく扉を開ける。
そしてそのまま走り去る。
窓から見えたのは闇だけで、もうとっくに日が暮れているのがわかった。
俺はただ、恐怖を背に、逃げた。
どこに逃げればいいかなどわかるはずもない。
俺は階段を駆け下りる。ヤツが俺を追って来ているのがわかる。
廊下を直進した俺は息を切らして、後ろを向いた。
猛スピードでこちらに向かってくるモノは、闇の中でいっそう輝く。
俺は自分の運命を受け入れる。
時は少し遡る。
まだ明るい屋上で、俺……真嶋龍介は、頭の輝く化け物の前に立っていた。
「よう、ミラーボール野郎」
俺は構える。俺とヤツの体格差はかなり離れており、当然、相当な戦闘スキルが求められる。
普通の人なら、なんの抵抗も出来ず散るだろう。
だがしかし、俺は違う。
幼少期からどれだけ修羅場をくぐってきたか。
俺はただの不良なんかじゃない。
「リベンジさせてもらうぜ…」
そう言うと俺は右手に持つライターを強く握りしめる。
そしてそのまま、その拳を前に突き出した。
ソレはその拳を避けるように後退する。
俺はさらに踏み込んで左手を繰り出そうした。
が、踏みとどまる。俺は即座に左手を繰り出すのをやめ、もう一度右手を突き出す。
すると奴は、俺の右手から逃げるようにして後ろへ避けた。
俺は人より洞察力が優れている自信がある。
そんな俺は左手を出そうとした時、感じ取ったことがある。
コイツは、俺の打撃なんか恐れちゃ居ない。そのまま左の拳突き出していれば、その腕を取られゲームセットだった。
俺の左の方が右手より弱いと判断したのか?
俺はさらに詰め寄り、今度は右手を大きく振りかぶった。ヤツはまた、それを避けるように、後ろへ戻る。そこにまた、俺は踏み込んで左のストレートを繰り出そうとする。先程の右手でくりだしたジャブよりも明らかに威力が高いと思われる。だが、俺はその攻撃を途中でやめる。やはりヤツはその左手を恐れることはなかった。ヤツは俺の左手を掴もうとしてきた 。それを俺は右手で守る。そうすれば、また、ヤツは右手を避けて、後退する。そんなことの繰り返し。
「何がしたいんだ…お前は、」
コイツは明らかに守りに走っているように見えた。
前に俺が戦ったやつは、俺にさえ圧倒的な差を見せつけてくるように、容赦ない攻撃をいくつも繰り出してきた。だがコイツは違う。俺の右手を避けるようにしている。俺は右手を見つめ気づいた。
「ライターか、…」
俺はライターに火をつけ、前に腕を伸ばす。
すると、ヤツの動きが変わる。
ヤツは後ろを向き、逃げる。
「なんだそれ、おもしれぇ。形勢逆転だ!」
俺は楽しくなってソレを追いかける。
数秒後 、俺は調子に乗りすぎていたことに気づく。
ソレの回し蹴りを右手に貰う。
俺の手からライターが落ち、地面に転がる。
「なっ……」
コイツ…コイツは、ただ逃げてたんじゃなかった。
俺は一気に後ろに下がる。
ここは屋上。
後ろに逃げ続けることなど出来ない。
俺はフェンスを背に、光り輝くものを見る。
俺の後ろには、ちょうど神木たちのブレザーがかかっている。
俺は素早くフェンスを乗り越える。
ソレはフェンスを掴みこちらを睨んできた。
「おいデカブツ!悔しかったらこっちまで来てみろ
よ!」
フェンスの後ろには狭いスペースしかない。こんなデカブツがフェンスを乗り越えれば下へ落下するだろう。
フェンスはミシミシと音を立て始める。
「………………ッ」
こいつは自分が死ぬことを恐れてないのか?
それとも、落ちるだけじゃ死なないのか?
「……………チッ」
俺は下へ落下する。
そしてそのまま、トイレの窓の枠を掴んだ。
俺は腕に力を入れ、女子トイレの中へ入る。
女子トイレには、鍵のかかった個室が二つあった。
よかった。勝己も神木も生き残ったんだな。
そう思い、声を掛ける。
「おい、、勝己、神木、生きてるか〜」
トイレからは応答がない。
しばらくしてひとつのトイレのドアが開く。
そこから出てきたのは、神木でも、勝己でもなく、黒縁メガネの少女。
「真嶋くん…だっけ…大丈夫?」
「お前は…」
「あ、私は篠原…篠原希戸…です。」
軽く挨拶をした時。
「………………ドゴッ」
明らかにおかしい音がした。
窓の方を見れば、頭の輝く化け物がいた。
ソレは窓からこちらに入り込もうとしている。
「嘘……」
コイツ……篠原にしてみれば、ここにこの化け物がいるのが不思議で仕方ないはずだ。
だが俺は、この化け物がどこからどのように来たのか知っている。
「オラァッッ」
これは渾身の一撃をソレの顔面に叩き込む。
だがソレはビクともしない。
「逃げるぞ…」
俺たちはトイレから出てすぐに階段を駆け下りる。
しかし階段の下に待ち受けていたのは頭を輝かす化け物。
俺は飛び蹴りを繰り出す。
しかしその足を取られ、床に叩きつけられる。
篠原はその隙を見て廊下を走り出す。
化け物は篠原を追おうとしない。
ただ床に転がる俺を見つめる。
「………………ッ」
俺は素早く立ち上がり、廊下を走り抜ける。
ソレはとてつもなく早いスピードで俺を追いかける
が
俺のスピードに追いつくことは出来ない。並大抵の人を大きく凌駕する俺の脚力。
俺は大きく化け物を引き離し、非常用階段を使ってさらに下に降りる。
そして俺は教員用トイレに逃げ込む。
ここで今日を過ごすことを決める。が、いつまで生き残れるのか分からない。
時はまた。遡る。
私…篠原希戸はサンドウィッチを頬張りながら今日をどこで過ごそうか考える。
学校を出れば、恐らく逃れられるだろう。
しかし、…終わりは、あるのか?
仮に、あと何日か生き残れたとして、…………いや、やめよう。アレの秘密を探り、生き残り続ける。今できることはそれだけだ。私は早速、学校を抜けることにした。
今、昼休みが終わろうとしている。私は荷物を背負うと、学校の正門…南門へ向かうことにした。それが1番家に帰るのには近い道のりになる。何より遠回りする必要も皆無なため、最速で帰ろうと歩き出す。いつも通り、当たり前の帰路を進むだけだ。
しばらく歩くが、どうも静かで不気味な印象を受ける。この学校そのものがおかしいような予感だ。
そして南門へ着いた。
「よし」
下校時間では無いため、警備員や先生はいないようだ。
私は軽いようで重い足を踏み出し、門をくぐった。
…………はずだった。
今見えるのは…学校?
おかしい。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
そんなはずは無い。私は今くぐってきたはずの門をよく見てみる。
これは、、、北門………?
私は学校から南に出たはずなのに、北から学校に入ってきた?
私はそのまま東に走った。今ちょうど午後の授業中だろう。もうすぐ奴らが来るかもしれない。フェンスを軽々と乗り越え、山道を進む。歩き続けて、小さな山を下っていった。
そして、私の嫌な予感は的中する。
「嘘でしょ…」
今私の目に見えるのは塀だ。
これつまり学校の西側。
そんなことが、あっていいのだろうか。学校と、その周りから、出られなくなっている。空間がねじ曲がっているとでもいうのだろうか。見晴らしのいいはずの空を見れば、雲で包まれている。灰色の…心を閉ざしたような空には、大きな満月が笑うように光っていた。
明日、このことを彼に伝えなくちゃ…
そして私は考える。彼が明日も彼のままいる保証はどこにもないのだ。記憶は果たしてあるだろうか。
やはり、今日、会わなくちゃ。
私は走りながら時計を見る時刻は3時15分。気づけばだいぶ時間が経っていた。山道を上り下りしたせいで、足はもうヘトヘトだ。この学校は広い割には生徒数は少なく、全校生徒で300人程度…確か352人だっけ?故に空いている教室も多い。この学校の周りには、300体近い化け物がいるのか…。
彼に会おう。
私は2mほどの塀に、ジャンプをして手をかける。そのまま足を持ち上げてゆっくりと塀の上に座った。そして下を見下ろした。
…………いや、見下ろしてしまった。
目が合った気がした。
見下ろすかのように見上げるソレは、私の顔を鏡に移すかのように光り輝いていた。
跳躍力。圧倒的だった。垂直跳びのようにそれは両足で飛ぶと、塀の上に立った。私は同時に塀を飛び降り、走り出す。
「…………ッ」
歯を食いしばり、拳強く握って走った。
風の冷たさが、私を煽るように吹き抜けていく。
後、少し…
ここは校舎の裏だ。
私は校舎の角を曲がる、誰かにぶつかってしまった。
「痛ッ」
それは…人間だった。正確に言えば男子生徒だ。先輩だろうか。当然この学校の生徒だ。顔には日の文字。私に優しく語り掛けてきた。
「ごめん…大丈夫?って、…うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」
後ろから、ソレは容赦なく追いかけて来ていた。
まずい、このままでは。私にはもう体力がない。
もう足がガラスのように割れてしまいそうだった。
まさに虫の息。前を走る男子生徒と、私の距離はどんどん離れていく。そして、私とソレの距離は、どんどんと近づいていく。
私は目をつぶった。
もう…ダメだ。
……………しかし、不思議なことが起こった。
ソレは、私を無視し、前を走る生徒を追いかけていく。
「…どうして?」
思わず声が漏れた。
私は校舎に入ると階段を駆け上がり、女子トイレに入った。
今はただ、落ち着きたかった。
えーと本当は週一で投稿する予定だったんですけど…この作品を書いていること自体忘れてました。テヘペロ。あ、言い忘れてましたが処女作です。