姿
今日の私はどんな姿がいいかしら。画面に表示される写真を見ながら考える。
いつもはクールで綺麗なタイプが多いから、今日はかわいい系にしちゃおうかな。でも、やっぱり年相応がいいかしら。ううん、我慢なんてすべきじゃないわ。どんな見た目にもなれるんだから。
そう、これはまさに魔法の装置。この装置に入ればどんな見た目にもなれる。身長も体重も髪の長さも自由自在。どういう仕組みかはよくわからないけど、自分がなりたいモデルの写真を選択して、あとは細かい調整を指示すればいいだけ。そうすると機械が何やら私の体を揉んだり叩いたり伸ばしたりして、気が付いたらその姿になっている。
この発明が生まれる前は、醜いままの自分で外を出歩かなきゃいけなかったんだもの。今思えばとんでもないことだわ。開発してくれた人に感謝感謝。
本人かどうかわからないだろうって? ふふふ。これが大丈夫なのよ。見た目を変えても指紋と網膜だけは変わっていないからそこで確認するの。本人確認が必要なところには、指紋と網膜の認証装置が必需品になっているわ。もちろん私の家の玄関にもつけてある。女の一人暮らしって何かと物騒だから。特に最近は、なんだか外を歩いている時に、変な気配を感じて気味が悪い時があるの。
さてと、これでよし。無事かわいい系に変身が終わったわ。後は彼が来るのを待つだけ。
しばらく待っていると聞こえて来たのはピンポンの音。どうやら彼が来たみたい。
「はーい、スキャンだけお願いね」
それだけ言って彼の名前が表示されるのを待つ。しばらく待つ。いつもだったらすぐに終わるのに。なんだか今日は時間がかかっているみたい。大丈夫かしら。
一回様子を見に行った方がいいかしら。そんなことを考えていると、機械に名前が表示された。そこには何度も目にしてきた愛しの名前。やっぱり彼だ。
「ふー、今日は冷えるね」
そう言って上がって来た彼は、今日は濃い系のイケメンだった。うん、いつもは塩顔系が多いけどこれはこれであり。
「本当ね。何かあったかいもの用意するね」
そう言って気が付いた。なんだか今日はいつもと彼の匂いが違う。
「あら、香水を変えたの?」
私がそんなことを指摘するとは思っていなかったみたいで、彼は少し驚いたようだった。
「ああ、うん。よく気がついたね。たまには気分を変えてみようと思って。」
「別に浮気を疑ってるわけじゃないから、そんなにどぎまぎしないでよ」
そう笑いながら、ソファに座る彼に紅茶を差し出す。もう、いちいち可愛いんだから。
「それより、今日の私はどう? いつもと違ってかわいい系にしてみたんだけど」
「今日も可愛いよ。でも個人的にはいつもの感じの方が好きかなー」
そっかー。残念。まあたまにはこういう日があってもいっか。色んな自分を楽しまなきゃね。気を取り直して自分の分の紅茶も用意し、彼の横に腰を掛ける。ああ、幸せ。
何も音が無いと少し寂しいから、何の気なしにテレビをつけると、この時間のニュースをやっていた。
「今日午後三時過ぎ、池の中から男性の遺体が発見されました。遺体は目玉がえぐり取られ指が切られるなど損傷が激しく、身元の特定には時間がかかる見込みです。警察は強い恨みを持った犯行とみて捜査を進めています」
なんとも物騒な事件だ。
「あら、近所じゃない。怖いわ」
「心配ないよ。ぼくがそばにいるから」
そう言って彼は私の目を見て微笑んだ。気のせいかしら。何かがいつもと少し違う気がする。