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冥土さんが往く  作者: セフィール
メイドの始り
5/20

金と銀

 お母様は原初の黒(ノワール)のところへ行った。

 私に、ドウルの世話を任せて。

 それにしても、お母様は相変わらずお母様だった。

 眠りに着く数百万年前と何も変わらない。

 いや、何も変わらないというのは語弊がある。

 お母様はまた一段と強くなった。

 私達、悪魔の中でも最強の原初ですらはかりしれない存在。

 深淵。

 数百万年前のお母様は、深淵と一体化し、呑み込まれた。

 しかし今のお母様は、完璧にその力を自らのモノとしている。

 深淵との一体化以前も、私達原初の誰よりも強い力を持ち、万能とすら思えるほど修得し極められた技能。

 今はその力は無限。技能は多少鈍ってはいるけれど、それもすぐに勘を取り戻されるでしょう。

 数百万年前、お母様が眠りについた時、私は悲しみにくれました。

 なんせずっと母として慕っていた相手が、心からの信頼を寄せていた方が、唯一、甘えられた母が、恐らく永遠に目覚めない眠りに着いたのだから。

 深淵は、原初である私でも手出しできない存在。私には、お母様を救う手立てが無かった。

 けれど、いつかきっとお母様は戻って来る。

 そう信じて、ずっと努力してきた。お母様が目覚められたときのための準備を。

 そしてついに、その努力が実った。

 本当にお母様が戻って来たのだ。

 これほど嬉しいことは無い。

 ようやく、またお母様に甘えられる。役に立てる。

 そして、またお母様と一緒にドウルで遊べる。


「おい。」


「…何?」


「今、変なことを考えてなかったか?」


 鋭い。そしていつのまにかお母様が作った料理を完食している。

 食器類は、洗って保管しておこう。洗う必要の無いくらい、綺麗に食されているが、念のため。

 確か、『お子様ランチ』という名前だったはず。

 つまり、幼い子供のための料理だ。

 …お母様の作ったものでなければ、ドウルは食べなかっただろう。

 何せドウルは原初の中でもプライドが高い方だ。

 傲慢と言ってもいい。

 だけど、それに見合う実力を備えている。

 原初でも三人しか成れていない最強の悪魔、魔神。

 その内の一人が、ドウル。

 ドウルもまた、いつかお母様が目覚めると信じて疑わず、そのときに一人前と認められたくて、子供扱いをされたくなくて、ずっと努力していた。その実力は、私でも到底及ばない。

 …まあ、それでもお母様には遠く及ばなかったようだが。


「別に?」


「そうか?ならいいが。それと、先程のことは絶対に黒には告げるなよ。」


「……了解」


「おい。今の間はなんだ?!いいか!絶対に黙っていろよ!…はあ。まあいい。いや、良くは無いが。それと、気になっていたのだが、なぜ母上の前で猫を被る?」


「別に猫を被ってる訳じゃない。」


 そう、別に私は猫を被ってる訳ではない。アレも本当の私。いつもより饒舌になるのは、それだけお母様と一緒にいるのが楽しいから。嬉しいから。お母様といると、いつも凪いでいる心が、たちまち歓喜に震える。さすがお母様だ。

 それと、原初の黒(ノワール)には告げるつもりだ。

 報告連絡相談は大事だと、お母様もよく言っていた。


「…なるほどな。理解はした。それと、今回のことは覚えていろよ?いつか何らかの形で仕返ししてやる。」


「…そう言って、これまで一度も成功してない。」


「それはお前が母上に泣きつくからだろう!?」


 確かに、ドウルという圧倒的格上に、私があんな辱しめるようなことをして無事なのは、お母様の存在が大きい。

 しかし、それだけではない。ドウルの性格の面もある。

 ドウルは、悪魔にしては珍しい人格者だ。

 悪魔とは基本的に自己中心的だ。上位存在に敬意を払うことはあっても、それはどちらかというと恐怖故にだ。

 ドウルは傲慢ではあるが、それは別に他者を虐げるようなことはしない。そして、不平等を嫌う。弱いものいじめのようなことはしない。

 つまり、私はドウルにとって、弱者だ。それは不服ではあるが十全たる事実なので仕方ない。

 そういう訳で、ドウルは私を力ずくでどうこうしようとはしない。

 そうでなければ、私はお母様が眠っていた数百万年の間に、とっくにドウルに何度も殺されている。

 そうなっていないのは、ドウル性格が、それを許さないからに他ならない。


「…本当に。甘い。」


「なんだと!?」


 思わずこぼれた私の言葉に、なにやらドウルが喚いているが、知らない。どうせ下らないことだ。

 ドウルとのこんなささやかなじゃれあいは、ひどく久しぶりで、とても甘美な一時だ。

 お互い、お母様のために努力していたから、このようなことは、長らくしてこなかった。

 お母様に甘えるのとは、また違った甘さ。

 これからは、いくらでも味わえる。

 もう、無くしたくはない。

 お母様もドウルも、個の力は飛び抜けている。しかし、どうしても一人では穴がある。その穴を埋めるのが、私の役目。

 今度こそ、私も、お母様の役に立ってみせる。

 そのための準備はしてきた。

 もう、絶対に失わせない。



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