プロローグ
──暗い──
私に自我と呼べるモノが戻った時、最初にそう思った。
私は、何?
ここは、どこ?
・・・
?
あなたは、何?
・・・
分からない
・・・
!?
“これ”は、何?
知らない?
ううん。私は知ってる
“これ”が何か、知ってる
あなたも、知ってるよ
知りたい?
知ってるくせに
私を助けてくれたのは、あなただよ?
“これ”は記憶。私“達”の記憶
・・・
ああ。そうだったな
何で、忘れていたんだろうな
あんなに、楽しかったのに
あんなに、頑張ったのに
・・・
あなたは私
私はあなた
──もう一度、始めよう──
──今度は、呑みこまれないように──
──今度は、理不尽をはね除けるように──
私は、メイズ=アビスラート
俺は、溝淵 深羅
嘗て、あらゆる技術を極め、悪魔王すら従え、神すら殺し、深淵という、究極の概念存在になった者。
そして、自分自身の存在的格に、意識を呑まれ、ただ、そこにあるだけの存在になってしまったモノ。
私はただ、メイドになりたかった。
幼い頃、憧れたメイドさんに。
そのためにひたすら努力した。
絶対、最高なメイドになる。
そして、素敵なお嬢様に仕えるんだ。
そう思って頑張ってた。
でも、最後に呑まれてしまった。
そんな私を救ってくれたのが、深羅だった。
俺は、ある目的のために勉強をして、一流の大学を出て、一流企業に就職して、金を稼ぎ、自由に生きた者。
理不尽な妬みにより、人に殺された者。
趣味はゲーム。これの為に俺はひたすら努力した。
そのゲームは、MMORPGで、そこで作ったキャラと、メイズがそっくりだった。
殺された時、最初に思ったのはメイズのことだった。
せっかく、ここまで育てたのに。
やっと、最高のメイドになったのに。
お嬢様に仕えられなかった。
もし、来世があるなら、メイズになって、お嬢様に仕えたい。
そして気づいたら、深淵にいた。
最初は、あの世だと思った。
メイドになりたいと思ったから、冥土に来たのか?
とか下らないことを考えていた。
だが、あるときふと思ったんだ。すぐそばに、メイズがいると。
何の根拠もない。そもそも、そのときの俺にとって、メイズはゲームのキャラクターだ。いるはずがない。
しかし、俺は確信していた。ここにメイズがいると。
だが、探しても探しても見つからない。そもそも自分が移動しているのか、どうゆう状態なのかすらも定かではない。
上も下も無い。そんな状態で必死にメイズを探して。
何秒、何分、何時間、何日、何ヵ月、何年、何世紀
どれくらい時間が経ったのかもわからない。
数年かもしれないし、ほんの数分かもしれない。
長いのか短いのかも分からない時間のなか、探し続けた。
それでも、見つからない。
しかしあるとき、ようやくわかった。
メイズはここにいるんじゃない。
ここそのものがメイズだと。
そう確信した瞬間、より深くメイズを感じられた。
メイズは眠っている。
このままでは、永遠に起きない。
起こさないと。
そして俺は、メイズに融けた。
──起きろ!メイズ!──
そして、俺の意識は途切れた。
そして、その、深羅の命がけの行動のおかげで、私は目覚める事ができた。