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noise  作者: 襟巻
7/7

~hopes~

年増

目を覚ますと上にはこれでもかという程に真っ白な天井が構えていた。

どうやらここはベッドの上らし…

「おはよう、鳴日暮茜君」

「フニャン!?」

驚きのあまりにがばりと起き上がる、思わず声が漏れる。状況が状況だ。理解できるはずなんてない。仮に理解できる奴がいるんだったら私は今世紀最大の賢者とでもあだ名をつける準備は出来ている。

仮にだ、理解できる奴がいて、目の前に大体自分と同じ位の年齢の女が覗き込んできていたら、どんな肝が据わった奴でも絶対に驚くはずだ。おどろきもものきさんしょうのき。まあ、それはそうとして。驚いた後、瞬時にその女がどこの誰、とか何処生まれ、とか好きな食べ物があんみつ団子、とかなんてわかるわけがない。

というより。

「なんで僕の名前を知ってるんだよ!あんたもか、なあ。あんたも僕の常識をぶっ壊すnoiserの一人なのか!?」

「ご名答!」

即答だった。いや、即答かよ。まるで私がその質問、いや突っ込みを、はい、言いますっていう感じで返してきやがった!

「流石、誰ソたそかれさんの忘れ形見って感じだよね。」

父親の名前まで知ってるのかよ‼

鳴日暮誰ソ彼。私の父であり、今はこの世界には存在しない男である。

前々から述べていたように、彼も私のこの左目の色の変化にも気づいていた。

つまり、彼は

noiserであるということだ。

どんな能力で、一体どのように使っていたのかは分からない。

しかし仮に父がnoiserであるのであって、この女が父の存在まで知っているということは、父の能力を知っていると考えても別段不自然ではない。そのくらいは解る。

それに、ご名答!とか言ってたからな。彼女もnoiserなんだろう。

「父を、知ってるのか?」

「知ってるも何も、この部屋、誰ソ彼さんの仕事用の書斎だし。なんかマジ受けるし。」

「一体何に受けているのかは知らんが、あんたが父と面識があるっていうのは解った。」

「あんたじゃないもん。」

「なら名乗ってくれ、頼むから。」

まず、人の名前を聞く前にお前が名乗れよっていう会話は出来そうにないので、っていうか出来ないのでこういった風にしか名を聞き出せない。

まあ、もっといい聞き方はあるんだろうけどさ。面倒だよね。

「私は松本まつもと 烏城うじょう。皆には烏ちゃん、とか烏さんとか、烏、とか呼ばれてる。まあ、楽に松本烏城様って呼んでよ。」

「一体それの何処に楽とかいう要素が詰まってるんだ。」

そもそも私は様付けの呼び方を好まない。強いて言うならふざけて上様と呼ぶときのものだ。これが原因でどこぞの名探偵の孫に犯人とは見破られたくはないが。

「まあ、いいや。僕が気になってることを箇条書き的な感じで、えっと、まあ、そんな感じで言ってくから、とりあえず答えてくれ。」

「うん、いいよ。」

と烏はベッドに頬杖をつき聞く体制に入る。っていうかこれで聞く体制っていうんだったら本来色々と指摘するべきなところがあるのだろうが今はまあ、どうでもいいことだ。

「じゃあ、行くぜ。心して聞けよ。一度しか言わないからな。」

「げぇ、百鬼ちゃんみたいなこと言ってるよ。」

烏は顔をしかめる。嫌いなのであろうか、というより苦手な風であった。

「ほう、よくわかったな。まずは、だ。」

私は深呼吸を置く。そして

「百鬼はどうなった!大丈夫なのか!?」

私は声を荒げる。

「あぁあぁ、煩い煩い。大丈夫だって、君より軽傷だったよ。」

「僕より軽傷!?んなはずがあるか!だって百鬼は、腹を、腹を…」

あの光景がフラッシュバックする。私が気を付けていればあんなことにはならなかったのだ。そう思うと自分に対しどうしようもない怒りが、やりきれない感情が湧いてくる。

意識せずにも目に力がこもってしまう。噛みしめた唇から血が流れるのを感じる。

「百鬼は、確かにβに腹を貫かれたんだぜ!僕より軽傷なはずが無い!」

まじで言ってんのと言った顔を烏はした。と思うと、ふふふ。と笑った。

「なんだよ、何が可笑しいんだ。通った理屈じゃないか。」

烏は目を細め言う。

「あはははは!いやぁ、誰ソ彼さんに似てるなぁ。と思ってね。自分の傷には無関心無頓着なくせに他の人が怪我するとすっごい心配するその姿がね、もう本当にそっくりだね~。いやぁ、こう見ると親子って似るもんだねぇ。」

でね。と烏はその細めた目を開き、私の体を上から順々に見ていく。

「肋骨計7本、5本は粉砕、2本が肺に突き刺さっていた。」

う、嘘でしょ!?

「次に腕。右腕は、前腕骨2本とも粉砕、肘関節がこれでもかという程にボロボロ。ついでに上腕骨と肩甲骨は解放骨折してたねぇ。いやぁ、あれはグロかったよ。んで、左腕なんだけど…」

「ストップストップ!もういいもういい!解ったよ、骨折はひどいのは解ったから!」

頼むからそのえげつないほどの怪我を今自分がしているということを想像させないでくれ。

「骨折だけじゃないよ。内臓も。」

「内臓も⁉なぜ僕は生きてるんだ!?」

「そりゃぁ、まあ、生きてるから生きてるんじゃない?」

「どういう理屈だよ‼‼」

意味不明、だ。まるでAならばAとでも解答欄に書きそうな程の回答が返ってきたな、こりゃ。

しかし私はもっと恐ろしいことに気づく。それは

痛みが、全くと言っていいほど無いのである。一切感じないのである。

神経でも壊死したか?と考えたがそうであったら今頃私は体を動かすなんてこと出来ずに起き上がるなんてこともできないだろう。

こうなると、私は怪我をしたという事実を疑うほかはない。

「痛くないんだが…ほんとに僕は怪我なんてしたのか!?」

「え?そりゃ、まあ。もう既に治ってるもん。写真見る?」

「写真は結構だ!」

しかし、引っかかる。治ってる、確かに烏は言った。そんな普通即死レベルの怪我が治るもんなのか?普通後遺症とかそういった類が残るもんじゃないのか。

そもそも、百鬼に対してもそうだ。普通腹を貫かれて生きていられるもんなのか。

まあ、確かに中には大砲で腹を撃ち抜かれても何とか生きていて、消化酵素を発見できたとかいう実例もあるようだが、まあ、この場合普通に考えて異常と見た方がいいだろう。

「治ってるってことは、要はつまり誰かが治したってことだよな?そんな僕に治癒能力があるとは思えない。あんたが治したのか?なら、あんたの能力って言うのは…」

「ぶっぶー、残念。」

烏は口を尖らせて言う。

「すこし早とちりが過ぎたかな?忘れ形見君。」

「茜君でいいよ。」

「そう、じゃあ茜。」

「呼び捨て⁉」

「いや、だって茜も私のことを烏とかめっちゃくちゃ失礼な呼び方をしてるじゃない。」

何故地の文を読める。

「そもそも、私の方が年上だし。百鬼と同級生でしょ?だったら私より16も下だよ。」

15+16…31歳!?

「とんだ年増じゃねぇか!」

瞬間烏から拳が飛んできた。その拳は思ったより早く思いっきり鼻にクリティカルヒットし、鼻血が噴き出る。

痛ってぇ!なんだよ、このパンチ!

「だれが年増だってぇ?茜くぅん?」

いきなり君付けとなり急に笑顔になる。しかし後ろからは阿修羅でも覗いて来そうなどす黒いオーラが流れ込んでいる。

実際、βの殺意よりも深い何かを感じている。

神様、僕は異教徒ですけど、天国に行けるんですかね?ラーメン、おっと欲が出た、アーメン。

しかし日本の神様ならばきっと受け入れてくれるんじゃないか?なにせ800万もいらっしゃるんだもんね、由来とか言えないけど。一度も拝んだこともないけど。

そもそも、名前もあんまり知らないけど。

でも、なんか最近いろんな知らない人に私の名前が知られているので相手方からは私のことを知っていると考えると、なんだろう、あまりにも失礼な気がする。

相手が自分の名前を知っているのにどちら様ですかみたいな会話は何だろう、えぇ、こっちは知ってんのに知らねぇの的な印象を与えてしまう。

でも800万も名前覚えるのは流石に百鬼見たく勉強に支障が出そうだからやめておこう。

さて、私は今から覚悟を決めなければいけないようだ。とし…おっと私のうっかりとした失言によって今私は命の危険が迫ってると考えるのが妥当だろう。

っていうかnoiserにはヤクザ思考の奴が多いのか!?百鬼然りβ然りそして烏も!普通じゃ考えられないくらいに攻撃するレベルの怒りに達するの早いし、その上痛いし、普通に痛いし!(百鬼の攻撃は喰らったことはないが…いや、あの時抱きつかれたのを攻撃に含めたら説明がつく。そうだ、そうしよう。)

いつかお前ら傷害罪で務所にぶち込んでやる、訴えてやるよ、コノヤロー!

烏はコンパクトに私の鳩尾へと右こぶしを喰らわせるべき照準をあわせ、今クリティカルヒットで999ダメージが私に入り、オーバーキルという掛け声とともにgame overの画面になる瞬間に、ガチャリとドアが開く。

「茜君!私心配で…」

「え?百鬼ちゃん」

「あ、百きぼべふぅ!」

私は百鬼の到来とともに鳩尾に烏の右こぶしを喰らわされ後方の壁へと吹き飛ぶ。

ぐふっ、良かった。何とか生きてる…。

私は鼻血をだらしなく垂れ流しながら叩きつけられた壁を腕で押し立ち上がる。

百鬼がすべてを察した目で私を見、烏が百鬼に一生懸命いい訳をしている。

「百鬼ちゃん、これにはねチョモランマより高くて百鬼ちゃんの身長より低い訳があるの!」

「…なんで私の身長よりかっていうのは知らないけどさ。まあ、要は烏お姉ちゃんに茜君がロリババア…おっと、『Daoine scothaosta』って言っちゃったんだね。」

「誰が高齢者じゃ!」

烏は目を吊り上げらせて百鬼に殴りかかるが百鬼はそれを華麗によけながら言う。

「凄ぉい、うわぁ凄ぉい。私は何もスコットランド語で高齢者って言ったわけじゃないのに~もうその耳にも厚化粧で隠している顔同様にガタが来てるんじゃない?取り替えてもらう?」

「私がスコットランドに留学したことがあるってことを知ってて言ってんの?ねえ、知ってて言ってるの?って誰が厚化粧じゃい!今日はまだすっっぴんだよ!」

「えぇ、嘘だぁ。確かにメイクはしてないけどすっぴんではないでしょ。」

「何それ?何言ってんのよ百鬼ちゃん?」

確かすっぴんって言うのは『素顔でもべっぴん』とかそんな感じの略じゃなかったっけ?あれ?百鬼、それ知ってて言ってたら相当まずいことになるぞ?

確かにさ、顔の割には年増だけどさ、この年齢と性格さえなければ結構もてはする顔立ちだと思うけどさ。多分。

「はぁ、もういいよ。なんか怒るのも疲れた。」

烏はそう言うと殴るのをやめた。

まあ、百鬼には1発も当たって無いんだけどね。にしても2分ほどずっと殴ろうと拳を振っていたと思うと体力まで可愛くないと思う。顔だけはまあ、百鬼と同じくらいの年齢に見えるほどの整った顔なのにな。

「うぅん」


烏は咳払いをすると表情をがらりと変え少しニヤリと笑みを浮かべた。

「さて、茜。」

「あ、結局呼び捨てなのね。」

「まあ、そりゃね。誰が年増じゃ!」

「言ってないよ!キレ過ぎだ、烏!」

「でね、茜。3日前君とうちの百鬼ちゃんが体験した通り、君は今とてつもなくやばい状況にあるってことは解るよね?」

「国家特別組織対noise犯罪取締局遊撃部隊第二部隊隊長って百鬼が言ってたけど、その言動、烏、あんたまさか…一番上、とか言わないだろうな?」

おお、と烏は少し驚いた表情を見せる。

「当たり。良く分かったね。」

「…まじかよ」

こんなキレ症の年増が国家組織のトップなんて。

世も末だ。

「っていうか良くそんな長い正式名称を覚えていたね。私は一切覚えてないよ。」

「おい!トップがそれじゃあ駄目だろうが!」

「希望!」

いきなり烏は大きな声で言う。

「この世界で言う超能力を持つ人間がその能力を悪用した場合、場合によっては世界が滅ぶ。絶望が蔓延る。絶望に満ちる。だから私たちはその絶望から無関係な人、つまり皆を守る正義の味方。言ってしまえば、みんなの、希望。」

烏は大きく息を吸う。

「hopes!これが私たちの通称よ!」

希望。絶望の対義語である。生きる希望、生まれ変わる希望などといろんな使い方があるがここでは皆の生きるという権利を、いつ絶望に侵されてもおかしくはないものを守る。絶望の淵に立たされた人に生きる希望を与える、そういう意味だ。

「でね、茜。あなたには…」

今までの威勢を一気に失い烏は声を小さくして言う。

「あなたにはこのhopesに入ることを勧めるわ。」

「え?」

どういう事だよ。私に希望になれる事なんて無いんじゃないか?

「さっきも言ったじゃない。今君は命を狙われている。私たちが絶望と呼ぶべきの組織からね。」

つまり今君は絶望の淵に立たされているってわけ、と烏は付け足した。

どうしてだよ。

「どうして僕は、何のために命を今狙われているんだよ。」

「簡単だよ。」

急に烏の表情が険しくなる。

「君に宿されたそのnoiseは、ある男が喉から手が出るほどに欲しているものだからだよ。」

烏は続ける。

「その能力が何故左目にしか発現しないかってのを考えたことはない?それはね、その左目は君のお父さん。つまり鳴日暮誰ソ彼の目なんだよ。誰ソ彼さんはね、本来君をこの世界には巻き込みたくなかった。でもある事情があって片目だけを君に託さなくてはならなかった。そして誰ソ彼さんはね、戦ったの。そして、死んだ。」

烏は止まらない。

「見せしめに君と君のお母さんの紀伊さんを殺すように奴は部下に命令を出した。でもこれはただの建前。本当の理由はね、完全じゃなかったんだよ、半分だったんだよ、奴が奪い取った誰ソ彼さんのその未来を目視する能力が、ね。」

烏は私の左目を指さし言う。

「君のお母さんはこの目を求める{奴}に殺された。そして君は今消去法でその目を奪い取り完全な能力を得るために命を狙われている。誰ソ彼さんの、君のお父さんの右目は今、奴が持っている!奴が持っているんだよ!茜君!だからさ!」

烏は私の肩を掴む。

「君が敵を取るしかないんだよ!君の目は、世界を滅ぼす絶望にも変わるんだ!だから…だから君が!」

希望になるしかないんだよ!烏は叫ぶように、慟哭の様に私に言った。

私は信じられなかった。

父さんと母さんは…その{奴}に殺された…

そして今私も奴に命を狙われている。

この目は父さんの左目。父さんの遺品。

もう一つは奴が持っている。

目に力がこもり、眉間に皴が寄る。

何処にも、何処にぶつけたらいいのかという感情が私の中で蠢いている。

あの時見た未来。父と母は{奴}に殺された。

私たちの生活は、奴に絶望のどん底へと誘われた。

―これが真実だぜ、茜。

ふと、狼猿の声がした。

―俺は知っていたがな。

―…そうか。

私はそうとしか答えられなかった。

―良くわかる、今お前、やり場のない怒りってもんを覚えてやがる。

―そんなん僕でもわかるよ。

―なら俺を使え。今ここで暴れてやるよ。そしたらその怒りは無くなるぜ

少しうれしそうに狼猿は言う。

―それもいいかもな。

―そうか、なら…

―だがな、狼猿。

私は心の中で、心の声で狼猿に言う。

―僕はそんなことはしない。今仮にお前が暴れたとして、記憶が消えない限りまたやり場のない怒りに飲まれちまう。そしたらまたお前は暴れんのか?

―ああ、そりゃな。

―ふざけんな!

―ああ?

―ふざけんなってんだよ!一体お前は何人関係のない人の平穏を奪うんだ?何人僕と同じ気持ちの人間を作る気なんだ?一体どれほどの人の命を奪うつもりなんだ!僕やお前に誰かを絶望の淵に叩き落す権利はねぇんだ!もう一度言うぜ、ふざけんな!

―ガキが。ちっとは言うじゃねぇか。

体の中から狼猿の威圧が伝わる。これまで味わった殺気のどれよりも純粋で、どれよりも恐ろしい殺気だった。

私は怯む、正直怖い。逃げたい。でも逃げるわけにはいかない。

もう、ほかの誰にも私と同じ思いにはさせたくない。

じりじりと部屋に張り込む空気を感じ、私はぎゅっと拳を握った。

―…ちっ、わかったよ。今回は諦めてやるよ、茜。だがな、俺はいつでも出てきてやるぜ。俺はただ暴れたいだけだ。忘れんな。善悪とかそういうんじゃねぇ、ただ暴れたいだけだ。

―そうか。

狼猿の声が遠ざかった。

決めた、私は。私は

「烏、僕、なりたいんだ。皆の希望に。」

私は顔を上げこう言った。

「僕、hopesに入るよ。」


ロリババアは僕のストライクゾーン外

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