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noise  作者: 襟巻
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~6月27日その3~

茜君が大ピンチ

本来であれば今頃私は自宅の借家でゆったりと晩御飯を作っている時間帯であった。今日はこの後買い物に行ってネギと鶏肉を買って焼き鳥にする筈であった。

しかし…と私は今現実逃避をしたもののあまりの滅茶苦茶な、非日常的な状況に追い込まれていた。

「あははぁ!待てよ茜君!逃げたら一撃で仕留められないじゃないかぁ。」

待つわけないだろ!と心の中で悪徳セールスマンに言う感じで言いながら私はスイッチを探している。なんのかって?それは…

「赤色魔撃。」

もたもたと探しているうちにβの次の攻撃が来る。やばい!避けてもいいのだが奴の筋肉は予想外の動きをすることがさっき分かった。さっきこの目で未来を消えるぎりぎりまで見たときに、奴は空中で蹴りの方向を一気に、刹那の間に変化させたことを記憶している。ここは何か丈夫なものでガードするのが得策か…

部屋を見回すと幸運なことにここは倉庫だ、鉄板、機材、パイプと色々なものがある。所詮は筋肉、鉄板を凹ませるほどのパワーは出せないであろう。

βの攻撃が来る直前に私は近くにあった鉄板を、それも常人なら本気で殴れば指の骨が粉々になるほどの厚さのものだった。これなら防げるはずである。

まるでビニール袋を破裂させたかのような音が響く。と同時に男が拳を抱え蹲り、私は衝撃で後方へ吹き飛ぶ。何とか防衛は出来たようだ、しかし…と鉄板を見る。

へ、凹んでやがる!!なんて威力なんだこいつの一撃は…!だがこれで奴の右手は封じた。この調子でいけば何とか作戦は成功するはずだ!ふと後ろを振り返ると目的の例の物体の動きを止めるスイッチがあった。これだ!この倉庫は見た目のわりに結構狭い!ドアも一つしかない!これなら私は約5分、奴は約3分であの状態に陥る筈。あの状態になれば勝機もある!あと3分、3分耐久すれば…!

しかし考えとは裏腹にβは思いもよらない、まるでハンムラビ法典の概要を目には目をではなく、目にはジャックナイフと言っているようなことを言った。

「い、痛いじゃないか。軽く骨はいったわ!どうしてくれるの!!まあ、でもお陰で気が引き締まった。じゃあ、準備運動終わり。」

じゅ、準備運動!?冗談だろ!

「あははぁ、顔が青くなってる!びっくりした?ねえ、びっくりしたの?可愛いねぇ茜君は…。…舐めてかかりやがって、貴様だけは俺が殺してきた奴の中で最も残酷な殺し方をしてやるよ。」

殺す…今日聞いたのは二回目であったが、学校で言われた時とは次元が違いすぎる。

本気だ。マジに殺すつもりだ。脅迫とかそんなやわなものじゃない。私は本格的に、死を恐怖した。恐怖、は生きていれば、まあ一部の人間は除くが絶対に感じるものである。私も例外ではない、いくらあまり人前に感情を出さないとはいえ死を恐怖するくらいは当然である。いやぁ、にしても…これ3分耐久は相当きついんじゃあないのか!?普通にライオンから3分間逃げろ。とかよりも難易度高いぞ!!??さて…本気出すとか言っていたが、まずはどの程度の攻撃を仕掛けてくるのかを見なければ…。私は試しに先ほどガードに使用した鉄板を奴に投げつけた。

奴はふらふらと立ち上がる。そして無言で、鉄板を確認することもなく奴は鉄板を殴りつけた。…とても信じがたいから現実逃避したい気持ちで山々なのだが流石にこれは強化されすぎなのではないか?なにせ…鉄板を拳が貫通している、先ほどとは比べ物にならない。もう一度言う。先ほどとは比べ物にならない。

奴は、βは笑っていた。まるでこの世のすべての心理を突き止め自らが王になったかのように勝利を確信して笑っていた。正直勝てそうにない。

「はははぁ!茜ぇ!これが俺の本気だぁ!いくら逃げようとしても強化されたものがパワーだけじゃあないのはこの鉄板を見たら解るだろう!貴様はこの俺が、このβが丁重に葬ってやるよぉ!」

恐怖で体が震えている。足が思うように言うことを聞かない。膝が今にも子を上げて崩れこんでしまいそうになる。死ぬ。このワードのみが頭を駆け巡っていた。本当に思考がぶっ壊れてしまうのではないかという程の恐怖である。だが私はあることをしたことを思い出した。そうか、奴が筋肉を強化して使用するエネルギーが増える程、呼吸量がさらに増えるほど‼‼奴のタイムリミットは短くなる。力に比例するとしたらあと…30秒!そう考え気が楽になる。まだ勝機はある。あと30秒間でいい!死ななければいい!逃げるんだ、今は兎に角逃げるんだ!

思考が単一色に染まっていく。本能にスイッチが入る。闘争本能。使うことはないと思っていたが。急に足に力が湧いてきた。いける、私ならできる!

さあ、30秒間の逃亡劇を。

ひゃぁぁぁぁぁはぁぁぁぁと奇声を上げβは地面を蹴り攻撃を仕掛ける。

早い!矢張りいつも奴の攻撃は想像の上をいく。しかしここは倉庫。苦し紛れではあるがガード方法は腐るほどある。私は穴の開いた鉄板よりさらに分厚い鉄板を3枚重ね奴の拳を受け止めた。受け止めたがパンチの圧力は矢張り私程度が耐えられるものではなく私は後ろに吹き飛ばされ倉庫の壁に激突する。

「ぐっ!はぁはぁ。し、死ぬ!今ので肋骨が数本…」

しかしそんな悠長なことは言っていられない。まだ動ける。と、時計を確認する。

今ので15秒経過!あと半分!ならば…

「何を考えているんだい茜ぇ。君には次の攻撃を耐える気力はない筈だ。しかし何故絶望した表情にならない?まさかこの俺を倒せるだなんて考えているんじゃぁないだろうな?」

奴の目が急に鋭くなる。私はわかりきったクイズに答えるかのように笑った。

「ははっ。」

「何が可笑しい!貴様は死ぬんだぞ!?俺の手に、俺の手によって…」

「煩いなぁ。いやいや、あまりにも滑稽でねその自信が。すでにあんたは俺の挑発に乗った。つまりこの時点であんたの勝利、俺を殺すということへの可能性はゼロになった。そして、僕は今からもう一度noiseを解放する。その瞬間、あんたは完全に敗北する。そう思うとねぇ。βさんよぉ。あまりにも滑稽じゃぁないですか?」

奴の顔がみるみる真っ赤になってゆく。眼光が今にも私の胸に刺さるのではという程に鋭かった。

「このガキぁ、冗談でもこの俺に…この安波笹部田竜あわささべたりゅう様に勝とうなんぞ…」

「ささべ…たりゅう…β。けっ。なんて安直なネームコードなこと。」

ニヤニヤと不快指数Maxな笑みを浮かべ私はさらに奴の逆鱗に手を伸ばした。

計算通りβの顔はみるみる眉間に皴が寄り今にも爆発しそうなくらいに体中が真っ赤である。

「じゃあ、お約束通りnoiseを解放してやるよ。Noise解放。」

私は左目に意識を集中させる。いつもの通り未来のビジョンが流れ込んできた。

{咆哮を上げながら奴は思いっきり右こぶしを振りかぶる。この攻撃はどちらかというとパワーに頼り切りな面が多いようで怪我をしている私でもなんとか避けることができる。男が拳を目の前に放つ。私は勿論男の拳を避ける為、男の又の間を擦り抜けた。そして次の攻撃に移ろうと男が私の方を振り返った瞬間に…}

私は完全勝利を収めるのだ。さて、来る。

「死ねぇぇぇぇぇぇ‼‼」

と男が拳を振りかざす。予想通り、このまま又の間を通り抜ける作戦を続行。

「うぉぉぉぉぉぉぉおお!」

激痛に悶えながら壁を手で押しのけ私は奴の又を通り抜ける、がしかし奴は案外冷静…いや闘争本能がそうしているのだろうか奴は足を思いっきり内側に蹴り上げた。

「や、やべぇ!」

と私は腕を交差させ攻撃を防ぐと、メシャっという音とともに腕にクレーターができる。痛いとかそういった次元のものではない。一歩間違えたら痛みのショックで死んでしまうかもしれないという程の激痛である。しかし…、呼吸を荒げ私は言った。

「はぁはぁ…タイムリミット。乗り切った…乗り切ったぞぉ!」

「何を乗り切っただってぇ!?」

とβはもう一度攻撃を仕掛けようと振り返った、瞬間、奴の瞳孔が開く。

「うっ…く、苦しい!こ、これ…は…、まさか」

βは喉を抑えながら蹲る。確かに私も苦しいが、酸素をより使うβの方がリミットは早い。これが私の狙いだった。

「ぜぇぜぇ、今気づいたか。僕が既にこの密室に極限にまで近かった倉庫の換気扇のスイッチを切っていたことに…。つまりあんたは倉庫に残された酸素をより多く使うから俺より酸欠状態に陥るまでが短いってことだ。…はぁはぁ、まあ僕も苦しいんだがな。」

「ち、ちく…畜生」

さて、どうするか。βはもうろくに動くことすらままならない筈だ。願わくば私が酸欠になる前に気を失ってくれると助かるのだが…。とりあえずまずはここから脱出しなければ…

「なんてな。」

と後ろからする筈のない声がした。空耳かと思い込みたかったのだが、どうも本能的に振り向いてしまった。するとそこには、そこにはふらふらと立ち上がるβの姿があった。

「な、何故…何故立ち上がれるんだ!!そんなはずは…何故…!な…」

くらりと視界が揺れる。まずい、興奮して呼吸が早くなってしまった。私は聞こえなくなりそうな鼓膜を踏ん張って振動させふふふと笑う奴の言葉を聞いた。

「おいおい、茜ぇ。まさか俺が筋肉を操るnoiserということを忘れたのか?」

筋肉、呼吸…ま、まさか、まさか奴は…!

「そうだ。今茜が考えているように俺は、筋肉をエネルギーに変換し数分間呼吸を不必要な体になっている。そして今、お前を殺すのに。」

1分もいらない。Noiseを使わずとも奴が次にいう言葉はわかる。

そしてβは今私に歩み寄りその30センチはあろうかという手で私の首を絞めた。

「さあ、じわじわと感覚を奪ってやる。命乞いをしろ、泣きわめいてこの世界に絶望しろ!それが俺のエネルギーとなる!さあ、早く、早く!」

βはそう言ってだんだんと締め付けを強くする。

駄目だ、死んでしまう。もう助かるすべはない。脳は考える事をすべて拒絶した。

私は考える。もしnoiseが私に宿っていなければ。もし私以外にnoiseが宿っていたら。もしあの時、あの時父さんと母さんと一緒に死ねていたならば。

何か、何か変わっていたのかもしれない。ああきっと罰が当たってしまったんだろう。私が、一度世界に絶望しきった私が、百鬼といる日々を愛そうとしてしまったから。さよなら、百鬼。そうして私の意識は…薄…れて…。

そうして茜が意識を9割9分9厘失ったとき、バタン!という音とともに倉庫のドアが開き、救世主が訪れたのであった。


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