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noise  作者: 襟巻
2/7

~6月27日その1~

いやはや休んでいたのには定期試験という名の強敵がいたからで決してゲームとかしてないから。

こっちないがしろになんてしてないから。

鎮魂歌の筈がいつの間にか凱旋の行進曲になっているような天変地異なほど私と百鬼は打ち解けてしまった。関わると死んでしまうという今までの掟のことも話したものの

「私、強いから。」と一言で返されてしまった。まるでインフルエンザの時に見る夢の様に騒がしく馬鹿馬鹿しい、しかしどこか楽しかった昨日であった。

 そしてやはり地球は回るようで今日はやってきてしまったのである。そう、私の運命を大きく変える今日が。

 「おはよー茜君、今日も相変わらず不機嫌そうだね。」

少し五月蠅い声で完全に目が覚めた6月の27日である。

「百鬼、挨拶をすることはいいのだが不機嫌という表記をして他人の思考を勝手気ままに決めつけるのはよくないことだ、何故ならそれは人を不機嫌にしかねない。」

「やっぱり不機嫌なんじゃん。」

「あのなぁ、それはお前がそうしたんだろ。まさか僕が不機嫌になるということを予想して言ったのか?お前はまさか僕と同じ能力を使えるのか」

百鬼はにへへへと不敵な笑いを浮かべる。どこにでもあるような普通の会話なのだがクラスメイトは全員、まるでいきなり猿がスマートフォンを作り始めたのを目撃したかのような顔をしていた。まあそれもそのはずである。昨日まで誰とも喋らず独りぼっちを好んでいた幽霊のような存在だった男が朝っパラから急に転校生と駄弁っているのである。

「しかしいいのか?まあ、俗にいういじめを受けている俺とつるんでいるとお前もいじめられるんじゃないか?」

私は朝食の余りのパンを頬張りながら日常会話と同じような雰囲気で言った。

「私をいじめる奴なんていたら逆に見てみたいくらいだよぉ」

「ほう、ずいぶん余裕なんだな。結構きついぞ、いちいち反応してやるのは。」

私がそう言った助言をしているとガラガラと教室のドアが開いた。

しかしまだ7時46分。先生が来るまでにはまだ早い。

不運にも来たのは、昨日私にちょっかいを仕掛けたあの少年であった。

そして少年は私とだばっている百鬼を見た瞬間、動物界節足動物門昆虫綱バッタ目(直翅目)キリギリス亜目(剣弁亜目)カマドウマ上科カマドウマ科カマドウマ亜科カマドウマ属の昆虫を見るかのような毛嫌いの念を向けた後眉を吊り上げ近寄ってきた。

「おい、お前さ、何茜とつるんでんだよ?」

そーだ!何やってんだよ!とヤジが鬱陶しい羽虫の様に飛び交う

はぁとため息をつく。

「何の用だ?僕が人と話していたらおかしいか?」

久しぶりに少年の質問に対して返答をする。まあ正確には百鬼に対する質問であったのだが。

「お前には聞いてねぇよ!この陰キャがよぉ!殺すぞ!」

ははっ。と周りから乾いた笑いが飛ぶ。

ここまで軽い、しかし人の心を抉り貪る死ねという言葉は核爆弾より恐ろしい凶器になりかねない。そう私は考える。しかしその言葉に過剰に反応したのは百鬼の方であった。

すたすたと百鬼は少年の方へ近づく。

「ああぁ!?なんか文句あんのk…」

少年は百鬼の本気のアッパーカットによって天井にぶつかるのではというほどに飛び上がった。

教室中が静まり返る。校庭で遊ぶ下級生たちの声が良く響いていた。

百鬼は静かに吹き飛んだ少年に近づく

彼は唇を歯で噛んだらしく血液が教室の床に滴っている

「あはは。死ねっていうのはね」

百鬼が血だらけになった少年の頭を掴む

「殺す覚悟のある奴が言っていい言葉なんだよ?」

目を細め、まるで先生が生徒を諭すようなゆったりとした口調で百鬼はそう告げた。

おいおい脅迫とかそういう次元のもんじゃぁないぜこりゃ。完全に殺す気で言ったなあいつ…

少年は震えながら頭を小さく何度も振り続けた。

こりゃまるで抵抗することを知らないネズミに対してライオンが本気で狩りに行っているようで窮鼠はネコ科の王者を噛む隙も暇もありゃせんもんでまあ、不憫でございますよ。

「おーい百鬼、その辺にしとかないと死んじまうよ。全くお前は隕石が降ってきても平然と生き残るタイプの人間なのか?」

「えぇ、か弱い女の子だよぉ」

あはははと笑っているがよくよく考えると尚異常であることに変わりはない。

いや先ほどよりえげつないだろう。まさか流血沙汰になるほどの案件を起こしておきながらまさかいじめられている相手と談笑をかわす少女など私も聞いたことがない。

 クラス中が沈黙で満たされているとガラガラと教室のドアが開き先生が入ってきた。

「はい、じゃあ号れ…な!何があったんですか‼‼‼」

一気に笑顔が消え、目を思いっきり開き、まるで豆鉄砲を喰らった後に猟銃を目の前に構えられた鳩のような顔をした。

「だ、誰がやったんですか‼‼‼」

こいつです。いう声が聞こえそうなほど皆一斉に百鬼の方を指さした。

「ひゃ、百鬼さん。職員室まで来てください!」

あーあ連れてかれちゃったよ。しかし百鬼には申し訳ないが私は停学処分はごめんなんで知らんぷりさせていただこう。と私は百鬼から目を逸らす。

教室から百鬼と先生が出ていこうとした瞬間

やりました。茜君も、やりました。

という辞世の句が聞こえた。

皆さん、ご愁傷様でした。と人生終了のアナウンスが流れた。

 みっちり朝から夕方まで校長教頭その他諸々を交えた説教が終わり、結局私も停学10日間を喰らうことになってしまったのである。きっと今日は厄日か何かだったのだろう。

悪いことが続けばきっといいことがある。そう思っていた。しかしそれはまだ、

メインディッシュの前の前菜に過ぎなかったのであった。

 「停学かぁ、初めて喰らったー。」

「そりゃ僕も初めてだよ!普通は喰らわないもんだよ!?停学なんて。まさか巻き込まれるとは…」

いじめられていたという事実は学校側が確信したみたいであるが流石に血を流しトラウマになるほどのアッパーカットはやりすぎということにより、何とか退学は間逃れたというわけであった。しかし

「百鬼!お前少しは手加減をしろ!顎骨ヒビは相当やばいぞ!?一体どれほどの腕力と拳の硬度があればそんな大事故につながるんだ、一体。」

「あはは、ちょっとnoise解放しちゃったんだぁ、あれ。怒ると見境つかなくなっちゃうからさぁ。」

笑っている。しかしどこかその笑みには影があるような、まあ影と言っても一面光源だらけのところで少し暗いところほど些細なものしか読み取れないほどではあるのだが、確かにその笑みには裏があるように思えた。

「ほう、少しだが興味あるな。どんなnoiseだったんだ?」

昨日見たものだけでは余りにも情報が足りなすぎて、宇宙空間に無知で放り出されたうえ宇宙船の修理をしろと命令されるほどまだそこまで理解してはいない故私はnoiseに対する知識欲が6日間絶食した大食い王の様に飢えに飢えていた。

「今日使ったのは骨硬度強化式1-1セグアっていう骨の硬度を高めるnoise。ちなみに応用すれば柔らかくもできるんだよ~。」

「色々有るみたいだがいちいち名前つけてるのか?そんなこと言ったら名前だけで脳みそ6割ほど埋まっちまうだろ。お前まさかこれが原因で勉強苦手なのか?」

ぎくりと音が聞こえそうなほど百鬼は驚いたような仕草を見せる。図星というわけである。

「あのなぁ、勉強くらい少しはやれって。」

「してるよぉ、でも全部翌日には記憶からデリートされてるんだってば。」

横文字を使えば少し頭が良く見えるというアピールの仕方をしていることが背中に大きなプレゼントを隠す親の様にもろばれであった。どや顔をかましてはいるが、まあこの年齢ならば扱えて当然なのでありどや顔をするということはいかに精神年齢が低いかうかがえる。

やれやれ。なんと思考回路の可愛いことで…

 そうして、数分間歩きマンション前、つまり百鬼の自宅に到着した。そのマンションは約20階建てで相当高そうなのだが一人暮らしと幾分か前にポツンと言っていたのを思い出す。

「な、なあ百鬼。ここ高そうだがまさか一人でここに住んでるんじゃぁないよな?」

「えぇ、前にも言ったじゃん。私は一人暮らしでこのマンション{アルファサイト}に住んでるんだよ?それに私、こう見えて働いてるもん。」

真顔でスラスラと言ってのけるがさっきよりここでどや顔を決めるべきなのでは?と思うのであるが働いているということが少し気になった。

「働いているというのは、バイトか何かか?」

「う~ん…。あまり言うなって言われてるけど茜君ならいいや。私こう見えて国家公務員なの。」

「国家公務員!?お前ほどのアホが!?」

「アホって何よ!失礼ね。まあ、否定はできないけど。つまり私くらいの脳筋でも、できる公務事業ってこと。」

「駄目だ益々思いつかない。」

はぁ。と百鬼は深いため息をつく。

「機会になったら教えてあげる。」

機会?という疑問文は夕景に鳴いたカラスと風にかき消された。

「あ、あと忠告。あまりその能力は乱用しないでね。じゃないと。」

「…じゃないと?」

百鬼は少し口をバイメタルの様にへの字に曲げた後、少し間をおいて

「じゃないと、茜君。死んじゃうから。」

私は目を見開いた。そのにはふざけた笑顔の一切ない、まるで3歳の子供に天国はないという真実を教えるかのような真面目な顔でそう言った。疑心暗鬼の感情はその時点で霧になって消えた。

 私はマンションのフロントドアを百鬼が通り抜けて見えなくなるまで。その場から一切動くことができなかった。

 帰り道の川沿いの道。百鬼の言葉が脳裏にこびりついていた。

目を閉じれば、死んじゃうからと言った百鬼の表情まで鮮明に思い出してしまい、目を閉じるのも少し怖かった。まあ、だが忠告を守れば死ぬことはないのならばこれから極力能力を使わなければ大丈夫ということである。それならば私は能力なら今のところコントロールできるし、別に未来を見なくても私生活に支障が出るわけではない。ならば今の私にとって死に関わるようなことはほとんどないことになる。少し安心した。しかし何故乱用してはいけないのだろう?やはり身体に悪影響を及ぼすのであろうか?

そんなことを神様が気晴らしに人間を土からこね合わせているように淡々と考えを巡らせていると。

  背中に、鋭い、痛みが、はしっ…


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