プロローグ前半 「イケメンなんて死ねば」
初投稿です。現実でイケメンをいたぶれないので、作品中で活躍させながらいたぶろうと思います!
「あぁ、イケメンまじで死んでくれねーかなマジで」
「おいおいやめろって、まっ、世の中のイケメンとリア充は爆ぜて欲しいわ」
大学の学内で繰り広げられる会話は聞き慣れたというか、呆れるというか、僻み方が本当に痛い。
女友達と喋って何が悪い?彼女を作って何が悪い?友達とはしゃいで何が悪い?
顔のことで文句言われるのは自身イケている方だと思っているからまぁ仕方ないにしても、それ以外の部分は個人の努力次第だよね。
「またカズヤのこと言われてるな。身長181cm、体重62kg、小顔で流行りのツーブロックにマッシュヘアー、絵に描いたイケメン像まんま。どっかの少女漫画かよってー」
―――よく遊ぶ友達からもこの有様。
「お前までやめてくれよ。お前も普通に彼女いるじゃん」
揶揄いの意を含んだ笑みに苦笑いを返せば、弄りは止まるどころか加速していくんだから困りもん。
こんな感じで、中学生の時から彼女に飢えることも周りとの関係に悩むこともなく、所謂リア充として過ごしてきた俺は絶賛一度しかない青春を全う中 ―――だったのだけれど…。
コンクリートの地面を叩き割るパワーと、なおも更に抉る鋭利な爪、人盛んな街中で逃げ回る人々を背にその未知の恐怖と対峙している…お、俺?
「髪の毛50本を犠牲に…ッ痛、こんなん慣れねーだろうがクソッ。迅る雷に焼かれろ化け物め、えーっと、グランクロウイングボルト!」
右手を前に差し出すと、闇夜に包まれた辺りを熱を帯びた光を帯びた雷の閃光が貫き、目の前にいるどんな物質で構成されているのかわからない分厚い筋肉らしきものを纏った獣らしき化け物らしきものが丸焦げに焼かれ光に巻かれて消失した。
息切れも気にならない混乱。なんでこんなことになっているのか?
「なんとかなったな。つか髪の毛10本を犠牲に体をHEROに強化できるからそれを使うことを前提に毛生贄効果術を駆使して世界を救えとかなんなんだよ」
「バカか俺は…何とかなったどころか…最悪じゃないか…」
そんなことは自称神様のあの異色の物体に聞いてくれ。
―――そう、こんなことになった原因は、大学での会話から数時間後の夜更けのことで。
普段通り彼女の紗綾とベッドに潜りながら連絡を取り合っている最中、幻聴を患ったのではないかと不安に駆られるに十分の衝動は突如として現れた。
ベッドのぬくもりは何処へか去り、眩しく輝かしい漆黒のベールに覆われたかと思えば、惑星も星も太陽もガスもチリも全てを失ってしまった宇宙のような闇の空間に浮いていて―――。
「やぁ、少し驚いてしまったかな?僕の名前は混沌を司る神様のクラムスィンだよ、冬美澤一哉くん」
不気味な微笑みを表に不吉な裏を感じさせる物体を即座に認識できたのは、少なくとも声に関係なく動揺の瞳を凌駕するに等しい見た目で。
「噂に違わず君はイケメンだね。本当にかっこいいね!」
殺意にも似た熱視線を絶やすことなく浴びせてくる。
不細工なんて比じゃない、これは生物として認めていいものなのか?
薄汚れ紫色に血走った二つの眼球に、緑色のコケ?を生やした分厚く凸凹な肌、そのくせ五体満足な人間らしい体をしておきながら異様に長くデカい手足と、小さい胴体を持ち重ねた怪物。
両腕両足は恐ろしく逞しく、紫がかった血をオーラがごとく纏っている。
これが神様だって?笑わせるな。
「これはゆ、夢な、なのか…いや、今さっきまで紗綾と…」
神様といえば、よく知らないけれどどれも見るに尊い雰囲気を醸し出しているはずで、まがい物にしか写らないそれを信じれる筈がない。てかそもそもこの状況を瞬時に受け入れるなんて誰ができるんだ。
「僕を無視してくれるなよ一哉くん?せっかく君を地球のHEROにしてあげようとここに、今君の前に出張してきたというのにつれないじゃないか?」
気さくに語りかけているなんて冗談じゃない。言葉とは裏腹に瞳の奥にはハッキリと今すぐ殺さんばかりの狂気が隠れているだろ。
「とりあえず、その丸分かりの敵対心を剥き出しにするの止めてもらえませんか?そんなんじゃ落ち着いて話すら聞けないので」
刺激を与えないように、尚且つ率直な望みを伝えてみると―――
「それもそうだね…」
情の無い返事と共に身体が雑巾のように絞られる痛みが全身に迸った。
「ア"ァ"ア"ア"ア"アア"…ングググッ…」
のけ反り、悲鳴を漏らさずには耐えられないもの。
「何か丁寧に正論言ったみたいな面してるけど、言葉には、態度には気を付けた方がいいよ。僕は君を殺したいのを押さえてウズウズして話してるんだから」
殺したい余りに笑みが溢れるとか、神は神でもブッサイクな邪神だな―――。
留まることを知らない身体を襲う痛みが永遠と俺を蝕む中、改めてそいつは語り始めた。
「群を抜いた顔立ちに、コミュニケーション能力。実に僕は君が嫌いだね。あぁ待ち遠しいよ、君が君自信が絶望するHEROになるのが! だからその前に僕の可愛いペット達に殺されて死んじゃったら駄目だぞー?そして。 」
おおよそ何が言いたいのかの検討するどころじゃないはずなのに、激痛下でも少なくとも都合の悪い状況を課せられることだけはわかってしまう。
「―――身にやがて訪れる恥を武器にこの世を救うがいいさ。冬美澤一哉」
一通りの言葉だけ残して謎の物体が消えれば、辺り一面の闇に支配された宇宙は崩れ落ち、暗闇から抜け出すように俺は目を覚ました。
時刻は…1秒足りとも経過しておらず、その一瞬の間に残ったのは、これまで体験したことのない激痛の気持ち悪い後味だけであった。
紗綾への返事も中途半端に込み上げてくる恐怖の吐き気が全身を震わせる。
「な、なんだったんだ…」
歯をカタカタとかち鳴らし、ただただ躊躇ぐしかない。
けれど事は急転直下。神に奈落を創造されたのならば、ちっぽけな人間ごときでは墜ちるところまで堕ちるしかない。まさしく墜落半ばの彼に訪れるのは救いなどではなく―――。
プルルルルルルルルルルルッ…。鳴り響くスマートフォンの電話の音。
紗綾からだ。出たくない。出たくない。
返事が無いことを心配して電話してくれてる?
いや、お互いそんなことで焦る程初々しい浅い恋愛期間では…。
ならば…何かあったのか?
意を決してスマートフォンの画面をスライドさせ―――
「ッ!一哉助けてお願い!死にたくない!!イヤァアアアアアアアアア!!グシュ…」
最後に鈍い音を残して、電話が切れた。
あぁ、もうここまで奇妙なことが続くと笑えてくる。恐怖の震えは怒りの震えに。
「何なんだよ糞がぁああ! 」
乱暴に家を飛び出し紗綾の家の方角へ親の車を飛ばす。
いけないことなんてわかっているけど、法廷速度なんてこの事態で守ってられるか。後から免停でも何でもくらってやる。
出したことないスピードで彼女の家に向かっていると同じ方角の街の方で異様な騒ぎと火の手が上がっているのが車の中から確認できた。
確認と同時に心に語りかけられる反吐が出そうな悪魔の囁き。
「さぁ冬美澤一哉。君の初陣だ。どうにかしたければ、こう唱えるといいよ。髪の毛1本を生け贄に自身に力を提示せよ毛生贄効果術地図…とね」
読んで頂きありがとうございます!
次回はプロローグを完結させます。
1週間以内には次話投稿予定です。