別館編.第十章 黒羽に紛れて
22日目の深夜二時ごろ。本館にまだ残っているのは狐人六人。アレラの能力に翻弄され疲れ果ててしまったボンと、タカと一緒に行動しているエイ。一足遅れたパルミとシャトーの側近のロニともう一人。
ーーー本館二階テラスーーー
タカ「ダメだ寝たり起きたりの繰り返しでとてもじゃないけど疲れが取れないよ。皆何処行っちゃったんだろう。」
エイ「ただいまー。モグモグ。これ美味しいよ、クッキー。」
「エイちゃん…またなんか持ってきて。しかもこんな時間に、この本館はある程度散策したでしょ。」
「まあまあいいじゃんなんでも。ンモンモ」
「…眠くないの?」
「…うるさいな。寝たきゃねていいよ。私はまだ寝ない。」
「ま、まあこの状況だし…そ、それもそうか。」
「おどおどしないでよそんなに。…この屋敷に残ってるのは私たち除いたら四人…か。」
テレパシーの能力を用いて本館のみに絞って人数を把握する。
「すごいなあ。そんなに分かるようになったんだ。」
「タカの能力なんだっけ。」
「僕はまだ身に付けてないよ。捕らわれてからトラウマで、これからどうしたらいいか。他の仲間たちや村の人に顔向けできないよ。」
タカは思った以上に落ち込んでいるみたいで、エイもそっとしておいてやろうと思った。それにタカは自分でも言っている通り不眠症に近い症状で無理をさせると却って危ないからだ。
それと同時にタカは思うところがあるようで明かりの灯っているテラスの地べたに座りながらエイに問いかける。
「エイちゃん…言いずらいんだけど。僕がシャトーの檻の中に捕まってるとき何処にいたの?」
「檻…?あんときは一緒に他の子と数人で捕まってたでしょ。」
「ごめん言い方が悪かった。二人だけ捕まった時。」
「ああ、けんきゅうじょってとこの話ね。」
「僕はエイちゃんと一緒には捕まってなかった。階段の下の下にある薄暗い明かりの中の檻でとても寂しかった。その後シャトーに呼ばれて地べたに二人、這いつくばるまではエイちゃんがどこにいるかは把握できていなかった。一人しか入れないほどの狭さでもなかったんだから二人ともあの檻に入れればよかったのに…だから単刀直入にどこにいたのかを聞きたいんだ。」
「それは私も一緒。タカが何処に居たかなんて聞かされてない。それなら私も同じ、向こうしか知らない事を私に聞かれてもしょうがないよ。」
「うん…確かにそうなんだけどエイちゃんはテレパシーが使えるよね…?それなら話は別じゃないかな。それにさっき本館だけとはいえ人数を把握していた。それだけ強い能力、そしてエイちゃんはあの時から急にこの屋敷に順応しているかのようだった。」
タカは思うところがあるらしく、エイを問いただす。
「……。まず言うとするならあの場では確かに二人だけ捕まったけどその後に追加で連れてこられてるかもしれないでしょ。シャトーの前に這いつくばってた時は二人だけだったからまあそれはいいとしてもテレパシーが使えるって決めつけないでよ。そうとは限らないでしょ。第一あいつが一番最初の檻に投げたぶ厚い本こそが脱出のカギになったんだから取得させる方法があるなら奪う方法もあるだろうし一時的に使わせない方法だってあると思わない?なんでそんなに頭が働かないのかな。」
「ご、ごめん。ただ慣れてるのが羨ましくて。ミーコさんだか誰かが屋敷の外に出ようとしてた際も止めてて凄いなって。」
「それはそうでしょ。でも今この場所は外が良く見えるね。ここは恐らくだけど屋敷の東の二階の板みたいなやつにテラスって書いてあったからテラスっていう場所なんだけど本当に木々ばかり。この風景が見えてるなら多分あの人たちはそんなに驚いてない、きっと幻か何かを見せられてたのかもしれない。」
タカはそうだねと話す。そしてしばらく時間をおいて二人に沈黙が流れた後懐かしい歌をタカが歌い出す。
「A~B~C~D~E~FG~」
「どうしたのこんな時に。」
「こんな時だから歌うんだよ。不安を取り除くためにもね。エイちゃんも歌ってよほら続き。」
「え、HIJKLMN」
「エイちゃん…?もしかして眠い?」
「…あ、いやいやそんなことないよ。S~T~U~V~W、XYandZ~」
「…絶対眠いじゃん。OからR飛ばしちゃってるよw」
「そ、そうだね。ABCの歌だよね。急に歌うもんだからビックリしちゃったよ。」
「うん。O~P~Q~」
「ストップ。」
「ん?」
モヤモヤするからそこだけ歌い返そうとしたタカを止める。
「歌わないで。それにこっちだれか向かってきてる。タカ君は奥で待ってて。なんなら寝てていいから。」
急に険しい顔をされてビックリしたがそうはいかないといい一緒に行こうかと提案するも一人でいいよと言い返されてしまったので、寝れないまま身を潜める事にした。
まあ安心して隠れてて。
そう呟いていたエイは立ったまま目をつぶりテレパシーを開始する。
「…なるほど。ボン君だけ単独行動で、この時間まで起きている?」
エイの能力はテレパシー。
目を瞑っている間だけ使える能力。一定範囲内にいる人物が緑の〇で表現されていてその〇に意識して語り掛けると会話することが可能。
エイのテレパシーは対象の本人しか聞こえていない。それと使用している間は部屋の構造等も理解できるがその代わり使用時間に比例して体力が減っていく仕組み。
ーーー本館 食料室ーーー
食料にありつけていなかったボンはあれから食料室を漁っていた。
ガシャン!バリン!キシャーン!
食べても食べても腹はすく。無言で野菜やら肉やらにがっつく。
(ねえっ。ねえっ、ねえってば!)
「ん?どっからか声が。」
(なんで聞こえないの!ボン私!エイだよ!)
「あ、あー。お前の能力か。この脳の中に声が聞こえてる感じ嫌すぎるなモグモグ。なんか用か?」
(なんか用かじゃないよ!こんな時間まで何してんの!)
「ん。今食事中だっつうの。んなことよりお前と話すの久々だな。」
(そうだね。あの後私とタカは骨みたいなやつが置物だと勘違いして通ろうとしたらカラスがいきなり舞ってビックリしたと同時にその骨みたいなやつが襲い掛かってきて気づいたら牢屋に入れられてたよ。)
「カラス…そういえば」
ここで質問するのをふとやめてボンは思い返す。
(カラスの死体が散乱していてそのところでヤソは死んでいた。その骨みたいな奴っていうのがシャトーの仲間だとしてそいつがヤソを殺したってのが妥当な考えだが檻にいるときに俺たちを実験材料として大事にしながらも慎重に二日に一回二人ずつ連れ出していたのにシャトーが仲間に対して連れてこれなかったら殺せと命令してるとは思えねえ。三人には悪いけど手こずるほど誰も強くねえし簡単に連れていけんだろ…)
(ボン…?そんな黙りこくられても怖いんだけど。)
「お前。テレパシーの際狐人はどう見えてるんだっけな。」
(どうって。緑の〇みたいな感じだけど。)
「死んだ場合ってどうなってる。」
(赤い丸になるね。)
「じゃあ誰かが死ねば分かる訳だ。」
(疑われてるのかどうかわかんないけど前提として目を閉じてる間だけ。例えばそれどころじゃないとか何かダメージを負ったときとかそういうのって目を瞑ったままでいられるわけないよね。下手に探ろうとしないで思ってること聞いたらいいんじゃない。タカもそうだけどとにかくあなたたちって口下手だよね。)
確かにそうだ。まず大前提としてテレパシーの能力は目を瞑っている間だけの効果。それだったら基本的には集中できる場所じゃなきゃ使えないということ。一緒に居たエイなら何かわかると思ったけどそうではないのだとボンは感じた。
「わりぃ。そういうつもりじゃねえんだ。ただ仲間が死ぬって初めての経験で俺も動揺してんだ。勘弁してくれ。」
(仲間が死ぬ?もしかしてヤソは死んだの?)
「なんだよ、その骨の奴に襲われたんじゃねえのか。」
(すぐ気絶したから分かんないんだ。)
すぐに気絶したからヤソの事は分からないというのは妙にリアルではあった。だがやはり殺すとなると骨の奴だがそいつにあって聞き出さないとこの疑問は解消されないと思った。あのヤソの遺体から考えられるのは”誰かが殺した”というのと死体の向きで考えてあの部屋には二階に続く階段がありその階段に足が向いていた事から”上から落とされた”というのは断言してもよいとボンは考えている。
…ボンの足りない頭で考えてもその場の状況でそう考えてもおかしくないがもしかしたら誰かが細工してわざと死体の向きを変えた可能性もあった。どの道すぐには答えなど出なかった。
「とりあえず話は分かった。んで?そっちが話しかけてきたんだ。なんか用でもあんだろ?」
(あ、ないよ。大丈夫。無事か知りたかっただけだから。)
「んだよ変な奴。とっとと寝てくれな。」
(うん。おやすみ。)
そういうとテレパシーを解除し睡眠をとることに決めた二人であった。
「あ、ちょっと待て。お前なんで…………返答なくなったな。まあいいか」
エイ「タカ…ごめんね嘘ついて。」
鈴虫の鳴き声が聞こえるテラスでひっそりと呟くエイであった。
登場人物
タカ
能力を身に付ける気はあるが今はその能力も身に付けておらず、軽度の不眠症になってしまった
能力:???
エイ
本人は何か隠し事をしているようだがその真意とは一体
能力:テレパシー
目を瞑っている時だけ発動できる。発動した際は周囲の部屋の構造や人物が緑の〇で表示されるように見え、その〇に意識して話しかけると能力を通じて意思疎通が可能になる。その代わり使用時間に応じて体力を消耗する。
ボン
地下の食糧室で野菜や肉を頬張っていた。図体は狐人の中でかなり大きい
能力:照流爆頭
発動するのは容易で五秒間手に意識を集中させるだけで強力な攻撃は出来るが
最大まで威力を溜めるには1分間は必要。




