屋敷編.第十一章 逃げ出してきた者、追いかけてきた者
----シャトーの部屋----
18日目、昼。
暗い夜の中、明かりの籠る部屋でシャトーはガンスを部屋から出して一人考え事に浸っていた。
(あくまで私のしたいことは実験材料の収集。私がこの世界地図のどこに位置しているかもわからない閉鎖された島の中で一体何年の時を過ごしてきたか。お父様は逝ってしまわれた。吸血鬼の一族は不死であり不労ではない。けどお父様は私の望みを何よりも叶えてくれようと必死になってくださって不老術を施してくださった。それも隕石が落ちる前、ザングランド島。13.14平方KMはあったがそれも隕石が落ちてお父様が保有していた今この洋館こそ無事でしたが、島は分断。2000年かけて島も水流の関係で流され今じゃ海のど真ん中ですわ。私こそ不死身ではあれ狐共は隕石を見た衝撃で力をつけていき洋館周りの獣などを狩って生きていらっしゃる…全くどんな一族ですの…。)
シャトーは立ち上がろうとした。
「あたたたた…まだ傷は完治してませんわね。無理は出来ませんわ。そうだ。キメラちゃんと呼ばないとね。ガンス―!?」
ガンス「はいお嬢様。お呼びでしょうか。」
「キメラちゃんを呼んできてくださらない?あと実験体を一人。今すぐに。」
ガンス「分かりました。」
数分後・・・
ガンスがキメラを連れてきて実験体には隣の部屋で待機させた。
ガンス「連れてまいりました。」
キメラ「はっ。お呼びでしょうか。」
シャトー「あなたは六輪から下ろします。」
キメラ「はっ…えっ?」
シャトー「聞こえなかったかしら。あなたは」
キメラ「い、いえ。聞こえましたが、あの。私はそしたら何をすれば」
シャトー「あなたは特に何もしなくていいですわ。雑用係でも頼もうかしら。」
キメラ「あの…なぜ私が六輪から?他のメンバーもまだ誰一人捕まえていないと思うんですが。」
シャトー「もー。それなんですわ。そういう風に意見する時点で”狐族でない実験体としては失敗”なんですわ。」
キメラ「ですが、私は別館の方で魔術本を持った狐族とヘタレの狐族一人を発見して居場所を報告したではありませんか。」
キメラは別館の方で捜索を任されていた。この屋敷だけの見張りだけではなく六輪で唯一別館を任されていた者だった。
シャトー「貴方を最初に呼んだのは気まぐれですわ。最初から”私の意見に意見した人物”を六輪から外そうって決めていただけですの。雑用係でも頼もうかしらと私が話しかけた後貴方の返答で六輪を続かせるか外すかを決めようとしていたんですの。」
ガンスはお嬢様に対してやれやれとした面持ちをしながらこんなことを考えていた。
(お嬢様はキメラなら確実に意見すると踏んで一番最初に呼んだに決めてらっしゃった。この実験体自身は戦い方も横暴で更に狐族二人を前に取り逃がすという失態の報告があったのが昨日ということもありシャトー様の恐怖と焦りで今六輪の中で一番心身がやられているはず。そんな中であんなことを言われたらそれは誰でも意見したくなりますな…とほほ。)
キメラ「しゃ、シャトー様はそうやって私がそういう風に」
ヌルッ…???
大きな音と共にベットに座ったまま喋っていたシャトーの背中から生えた血で染まった触手がキメラのでかい等身に触手を突き立てててこう告げた。
シャトー「私の言う事は絶対。聞かないのであればこの洋館から。いいえ。この島から出ていきなさい。誰のために生を授かったと思っていらっしゃいますの。思い上がるのもいい加減にしてくださらない?」
キメラはそういうと何も言い返せなかった。
シャトーは部屋のベットに座りながら喋っていてケガも負っていてキメラ的にも自分と対等の立場ではない、自分以上の力を持つはずの者に対して更なる絶望をたたきつけられた。
シャトーはするすると触手を背中に戻した。
でもキメラには取る手段は一つしかなかった。
こんのっっ!!!
キメラが尖った毒の尻尾をシャトーに高速で突き刺そうとしたその時、傍で見ていたガンスが手で抑える。
ガンス「なんの真似でしょうか。お嬢様を目の前に私が何もしないとでも?」
キメラはそうするしかなかったという事までも見通してお嬢様の前で余計な仕草、言動は執事として慎みながら
ガンス「仕方ありません、ここはお嬢様の部屋です。外に出てください。」
キメラ「は、はい。」
そういうとガンスはキメラの尻尾を掴みながら部屋を後にした。
シャトー「全く。凡人なキメラちゃんには理解できなかったのですわ。2000年も生きてる私からすれば焦り。緊張。恐怖というのは”持たぬもの”からしたら十分に利用できる材料でしかないのですわ。前の日に失敗をして焦り、私への恐怖や焦りを持っているであろう事が分かれば六輪の適正素材ではないという所詮は建前でしかない実験のための口実もそれを考案したもの以外からしたら真実か偽りか判断できませんの。まあ、私にとってはどうでもいいことですわね。」
シャトー「まあいいわ、実験体。あなたを次から六輪の一人に入れます。いいですわね?」
???「はい、シャトー様のためならなんなりと。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Dの部屋。逃げてきたデクとクラゲ
クラゲ「はぁ…はぁ…はぁ…全くどうなってんだよ。」
デク「プレーン君は最初に連れていかれたはず。お、恐らくプレーン君の様子的に操られているかじ、実験材料として何か力を得たとしか考えられない。」
暗がりの狭い廊下。薄気味悪いほど真っ暗な場所で息を切らしていると狭い廊下の曲がり角の奥に
何やら気配を感じた。
デク「そこに誰かいるのか?ボン…なわけないか。誰かな?」
???「私よ私。何情けないほど息を切らしているの。」
クラゲ「お前は。ジーナか!」
ジーナ「そうよ、私はこの綺麗な服に埃がつくのが嫌で戦わずにこの廊下の奥に行った所を出ると
大広間を見渡せる場所に出るんだけどそこでずっと隠れてたのよ。」
ジーナ。髪の色は青、狐人の中で唯一全身を青色に染めていて、とにかく汚れを嫌う。
数少ない女の狩炎種。
デク「そういやシグマ君の能力で出れるって知って出たがってたうちの一人なの忘れてた」
ジーナ「当り前よ。なんであんな湿気臭いところにいなきゃいけないの…とはおもったけどね。
まあでも私は連れていかれたけど実験の途中でグリムと一緒に逃げ出したのよ。
ていうかそんなことより、そこの大広間でシャトーとか言ったっけ?あの人やられてたけど、そこの
情報は知っているの?」
デク・クラゲ「え???」
ジーナ「いや、え?と言われても。グリム君と交戦して相打ちになってたわよ。」
クラゲ「おい!!!!!!!それいつの話だ。」
ジーナ「え?とかおい!とか言葉遣いが貧相というか面白みに欠けるわね。ここには時計がないので時間も何もわからないけど…恐らくは」
デク「待て待て、一度情報を整理しないと。まずジーナちゃん。君は逃げ出したって言ったけど
シャトーの隙をついて逃げることに成功したってことか?」
ジーナ「そうだって言ってるでしょ。他にも実験された子たちはいるけど皆シャトーとかいうヤツに
従っていたのよ。でも私とグリムだけは実験された後も従うことがなかったから
失敗作として見放されたのよ。逃げたというよりは半ば自由にされたというほうが正解ね。
でも実験室の場所を知っているんだから自由にしたつもりはなかったんだろうけど。」
デク「それでそのあと、グリム君はシャトーと戦ったと…」
ジーナ「…そうね。まあ、あの子なりの覚悟があったのね。あの日から時間は相当経ってるから
今お昼ということは今日で2日、3日目といったところだと思うけど。グリム君は食堂で食べれる
ものを私に探してきてくれたからとても助かったけど。そのあとどこに行ったかもわからないけど私は自分の身を守るので精いっぱいだから隠れて寝ていたら唐突に大きな音が聞こえて飛び起きたら
グリム君が戦っていた。って感じかな。」
クラゲ「そういやプレーンとはあったけどシャトーに追いかけられてる感じがしなかったのはそういうことだったのか。」
デク「たまたまだとは思っていたけどね…でも相打ちってことはシャトーはしん」
ジーナ「死んでないわよ。相打ちはちょっと言い方悪かったわね。でも瀕死だったのは確か。
執事に助けを求めてたから相当焦ってたんでしょうね。」
デク「いい情報を聞いた。回復するにしても今まで気配がなかったってことはまだ少なくとも大丈夫
だ。でも油断せず、いつあってもいいように…待て!だれか来る。」
この廊下はU字形の廊下になっていて曲がり角が二つあるためジーナがいた場所の奥の曲がり角からも
足音がのそのそと聞こえてくる。
???「おいジーナ。楽しくやってるか?」
デク「き、君は。。。コンダ君か」
コンダ「おいおい。弱虫デク君。ひさし~~~じゃねえの?俺はコンダ♪今日の献立ハンバーグ。最高最高超最高♪今日のダジャレもイケてるぜ!」
コンダの家族全員が駄洒落にうるさいほどの駄洒落好きで、駄洒落が面白くないやつは全員弱虫
扱いするという。本人は自分の駄洒落がNO.1と思ってる。
ジーナ「何をしに来たの?」
コンダ「もちろんそこのまだ実験体になれてない二人をとっつかまえに来たに決まってんだろうがよ~
みなまで言わすな?とりあえずおおっぴろま出ようぜ!積もる話もあるだろうよ!」
クラゲは小さい声でデクに喋りかける。
クラゲ「とりあえず今は従ったほうがいい。こいつが何考えてるかわかんねーが
ジーナは森で狩りをするときに一度だけタッグを組んだことがあるけどこいつは多分嘘が下手だ。
それに嘘だとしても後ろに下がったらプレーンもいるしそれこそ厄介だ。」
デク「その通りだね。逃げ場なら広いほうがいくらでもあるし仮に二人が口裏合わせていたとしても
二手に分かれて逃げよう。」
そういいながら大広間が見える二階に来た。
コンダ「ところでさ~俺っち実験で能力得たんだけどその能力すっっげ~から今から解説すんけど
いい?あ、いいね。了解。今から解説するぜ!」
デク「いやいいとはいってないんだけどね。」
三人とも別に解説求めてないけど勢いで解説するコンダを前に聞いているしかなかった。
コンダ「俺っちの能力名付けて”致痕打”!発動条件相手に殴りか蹴りで打撃を与える
でもでも俺っちが相手を殴った時点では打撃はおろか、触れられたかどうかもわからないぜ!
打撃を実感するのは俺っちが3,2,1とカウントしてその後発動!
要するに傷に至るまでを遅らせる能力だぜい!
試しにジーナちゃん!へい!おら!」
得意げに解説した後ジーナの腹を思い切り殴ったように見えたが、痛がるどころか全く動くことのないジーナを見てびっくりするデクとクラゲとジーナだったが、その後
コンダ「3!2!1!」
とカウントし終えたと同時に
ジーナ「おぶっ!?!?!?」
とんでもない速度でぶっ飛び先ほど出てきた扉付近の壁に激突した。ジーナは耐え切れず吐血した。
デク「お、お前!ジーナちゃんは女だぞ!」
コンダ「何それ同情?もしやの同情?そもそもシャトー様に逆らうヤツに容赦するなと言われてる
んだぜっ!それくらい気付けよ弱虫!」
クラゲ「なるほど、こいつ。そのために能力を解説しやがったのか。」
デク「ど、どういうことだい。」
クラゲ「こいつの能力、解説することが発動条件なんだろ。」
コンダ「おうおう!さすが!その通り!だから不意打ちには使えないんだぜ!それに最後までちゃんと
聞かせないといけないから最後まで聞かれてないと俺っちが不利になるんだぜ!
それがこの能力のリスクぅ!でもリスクがないと基本強い能力は得られないから当然だよな!」
デク「なるほど、狐人の能力にリスクがあるようにシャトーがつける能力にも何かしら
リスクがあるのか。ていうか、ジーナちゃんがやばいね。僕がジーナちゃんを手当てできる仲間を
食堂のほうに探しに行くからクラゲちゃん。この頭のおかしいやつを頼む。」
クラゲ「おうよ。どうせ女性に容赦ないんじゃ関係ないな。任された。
ほんとはおめーの能力を無効にする能力も欲しかったがまだシャトーの実験体に付与された
能力を無効にできる確証もねーしな。とにかく私がこの耳に響く声でかやろうをぶっ潰してやる」
そういうとこの場を後にデクはジーナを運ぼうとした。
ジーナ「は、はぁ…はぁ…か、感謝するわ。まさか女性にも容赦ない性格だったとはね。」
コンダ「おいおい、おれっちを前にのうのうと行かせるわけ…」
そういうと強い電撃がコンダにはしる。
コンダ「ががががっ!?!?」
クラゲ「おいおい、あんたの相手は私だぜ。いいじゃねーか。ここにいる一人の女で満足しろや。」
コンダ「へぇ。い~電撃じゃんよ。あと勘違いしてるな。俺っちは女性に手加減してないというより
誰にも手加減してないって話なんよ。手加減する男はダサいしな。てかさっき命令っつったろーガ。」
すると、間髪いれずに異常な速度で近づきクラゲの尻尾をかわしつつ、拳をクラゲの顔にいれた。
クラゲ「おお。勢いよく殴られてるはずなのに触られたって実感がまるでねえ。
ふっ、でもよ。その能力のカウントダウン。弱点だな。多分言わなきゃ発動しないかペナルティかなんかあるんだろうけどカウントダウンが終わると同時にガードすりゃ関係ねえ。」
が…コンダは余裕そうな表情でカウントをしだす。
コンダ「3,2,1」
クラゲは体に踏ん張りをいれ、手をクロスしてガードの構えをするが。
バキッ!!!と大きな音とともにガードの構えをとっていたはずのクラゲが鼻血を出しながら後ろに大きく吹っ飛ぶ。
クラゲ「ぐふっ!??」
コンダ「あーあ。クラゲっちの綺麗なお顔が台無しじゃ~ン。だ~れがそんなこと言ったよ。
まあでもこれで学習したかな?綺麗なお顔が痛い痛い拳に殴られたのも勉強だと思ってさ。ね?
気を取り直そうぜ!」
クラゲ「この顔の恨み。ぜってー晴らす。私をジーナと一緒にするなよ。くそがぁ!!!」
そういってクラゲは決意を固めコンダに挑むのだった。
登場人物
シャトー
ガンス
キメラ
元六輪の一人だった。歯向かったためガンスに連れていかれる。
デク
クラゲ
ジーナ
普段はツンデレな女性の狩炎種。全身の毛の色を青色に染めている
前まではクラゲとコンビを組んで森で狩りをしていた。
実験体として連れていかれるのを嫌がり、シグマの能力で五人まで出られたのでそれに乗って
出たがっていたが叶わず、その後実験室からうまく逃げ出した。
能力.???
コンダ
皆から口調がうざいといわれるイケイケな男の狩炎種。駄洒落にうるさく、駄洒落が面白くない狐人
のことは弱虫となぜか呼んでいる。自分大好き。女性に興味がない。
能力.致痕打
発動条件1.発動条件2と発動条件3を偽りなく説明する。
発動条件2.実際に相手に触れる必要がある(避けられた場合当然ながら発動はしない)
発動条件3.カウントダウンを3,2,1と行う。1まででいい。そうするとその一秒後相手に与えた打撃が
襲い掛かる。カウントダウンを中断されるとその時与えたはずの打撃がすべて自分に返ってくる。
特徴として”その時に受けた状態で打撃を受けることになる”
例えば拳を受けたときは何も身構えずそのまま喰らっているが、カウントダウンが終わってからガードの構えをしても拳を受けた時点ではガードをしていなかったので直に喰らう。逆も然り。