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☆ Familiar5☆ 愛の行方


「ああ、もう、やりすぎた!」


 急成長した魔法植物の蔦に足を取られ、私はやけに高い本棚が立ち並ぶ大きな研究室の中で逆さに吊るされていた。部屋いっぱいに広がる緑色の蔦が明かりを遮断しているせいで、ただでさえ日の光が当たらず陰気くさい研究室がさらに暗くなっている。


 今日は休日。グレイスに言われてベルデアンヌ先生から出された宿題を真面目にやっていた。そう、真面目に頑張っていたのだ、最初のうちは……。


 でも、やっぱりと言うべきか、途中から飽きた。飽きたので息抜きにちょっとだけ自身で作った紫色の魔法薬を植物で試したらこうなってしまったのだ。


「やっぱり最後に加えた術式が余計だったかな……いや、でも、あれがないと逆に周囲から取り込む魔力量が少なすぎ――って、ん?」


 蔦が徐々に膨れていき、ギチギチ、ミチミチという嫌な音が鳴り始める。どうやら、体内の魔力量に植物の体が悲鳴を上げているようだ。幸い、今の私は実験中に危険がないように、魔法で保護膜を作っているため物理攻撃や魔力攻撃は効かない――が……危険がないモノは防げない。


「えっと……これ、もしかしてヤバイパターン?」


 蔦の先に開いていた大きなピンク色の花が試作液と同じような濁った紫色へと変化し、蔦全体がブルブルと震え始める。


「うん、ヤバイ、ヤバイよ!?」


 蔦の表面が硬化し、ピキッと卵が割れるような小さな音があちこちから聞こえ始める。


「ウソウソウソ、やめッ――ぎゃああああぁぁぁ!」


 大量の粘液が蔦から放出され、私はそれを全身で受け止めた。


「ううぅぅぅ……ヌメヌメで気持ち悪――って、わわわ」


「ナタリアッ!?」


 粘液を撒き散らしながらのたうち回る蔦――そこに吊されたままの私はグルグル回る視界の端に廊下の明かりに照らされた銀の髪を捉え、ホッとしたのと同時に泣きそうになる。


「ふえぇ、グレイス、ごめ、ごめんなさ――」


 私の言葉は足に絡まっていた蔦がブチリと千切れた音にかき消され、支えを失った私の体は空中に放り出された。


「うぎゃあああぁぁ!」


「ッ――!?」


 保護膜があるから怪我をしないのは分かっていたが、落下特有のフワッとしたあの感覚に恐怖のあまり叫んでしまう。落下する直前に見えた床は意外と高く、私は衝撃に備えて目をギュッとつむり、受け身すら取らないまま落ちていく――が、放り出された時に比べ、落下速度が異常に遅く感じられる。


「???」


「はあ……ナタリア、大丈夫か?」


 恐る恐る目を開くと、ホッとしたような表情のグレイスが下にいるのが分かった。体が羽のように軽い。


「あ、これ――無重力?」


 言いながらクルリと空中を回ってみる。服に付いた粘液がベチャベチャと下に落ちてしまい、グレイスの綺麗な顔を汚す。


「ギャッ! グレイス、ごめん」


「別に良い。それよりも降りてきてくれないか、ナタリア。怪我がないか確認させてくれ」


 心配そうに揺れる紫色の瞳に、心が少し痛む。


(こんな苦しそうな顔、させたいわけじゃなかったのに……)


「魔法で防護膜を張ってたから大丈夫だよ」


 申し訳ない気持ちで一杯になりながら、グレイスの元にゆっくり降りていくと、彼は私の太ももら辺と腰をサッと抱え、魔法を解いた。


 一瞬の浮遊感に驚いてとっさに彼の両肩に手を置くと、彼の端正な顔が間近に迫る。


「なんで呼ばなかった?」


「お、怒ってる?」


「そうだな……心配した。なんで、こうなる前に俺を呼ばなかった――ナタリア?」


「グレイスだって……」


「?」


「グレイスだって、私を呼んでくれないじゃない」


 心配したという彼の気持ちは充分伝わってきたが、彼の問い詰めるような雰囲気に、ちょっとだけ口をとがらせてしまう。


「グレイスも、もうちょっと私を頼ってよ……私だって――」


「…………すまない。でも、俺はお前が頼りないから呼ばないんじゃない」


 少し腕を下げられたことでバランスが上手く取れなくなり、慌てて彼の首に腕を回す。


「俺はお前にかっこ悪いところを見せたくないから呼ばないだけだ」


「ッ――! グレイスはいつでもカッコイイわ!!!」


「……いいや、俺は――」


 暗い顔をした彼を見たくなくて、私は腕に力を込めて彼を自身へと引き寄せる。至近距離で見つめたグレイスの瞳に私の顔が映る。


「たとえ誰がなんと言おうと、私の一番はいつだってグレイスよ!!」


 満面の笑みで彼の額に自身の額をコツンと当てると、彼はほんの少しだけ寂しそうに笑った。


「――ありがとう、ナタリア」


 時々彼が寂しそうに笑うのは――私が……私達が使い魔と魔法使いの関係だからであると知っている。


 私が貴方グレイス一番すきだといくら言っても……

 この【絆】が断ち切れない限り、彼には取り合ってもらえない――


(たとえ、使い魔の権利が回復できたとしてもダメ……もっと、もっと、その先を見ないと――)


 彼の肩に頭を乗せて、私はそっと唇を噛みしめた。






 ☆ ☆ ☆






「ううぅぅぅぅ、ヌルヌルするぅ……気持ち悪い……」


 グレイスに抱えられたまま明るいリビングまで来た私は、現在イスに座らせられている。


「はあ……」


「ちょっとグレイス、なんでため息!?」


「ヤバイと思った時、すぐに俺を呼ばなかったお前が悪い」


「むぅ――」


「今、風呂を用意する。テーブルにある紅茶はまだ入れたばかりだ」


 私を抱えた時に汚れたローブを脱ぎ、白いシャツの腕を捲った彼が流れる動作で戸棚からクッキーを取り出した。


「あとは、これでも食べて待っていろ」


 ポンと軽く頭に手を乗せた彼がリビングを出て行く背を見送りながら紅茶を一口飲む。


「……ありがとう、グレイス」


 私の言葉に反応し、彼がほんの少しだけ微笑んだのを見て、頬が熱くなる。


 紅茶は私が好きなロゼ系のモノ、クッキーは私が前に好きだって言った店のモノ……

 私に差し入れを持っていこうとしていたことを示唆しさする数々の品に、口元が自然と緩んだ。






 ★ ★ ★






「ナタリア、やっぱり俺はかっこ悪い。俺はお前が……そう、たとえ使い魔でも――結ばれないと分かっていても、それでも――離してなんかやれない」


 リビングのドアを閉め、闇の中にボソリとこぼした一言を拾う者はいない。







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