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☆ Familiar3☆ 待ってるだけじゃ変わらない


 使い魔の授業が終わり、それぞれのあるじである魔法使いを待つ。使い魔達がそうして神妙な面持ちで待っている中、私だけは早くグレイスに会ってこれから何して遊ぶかで頭がいっぱいでニコニコが止まらない。


「おい、何をにやけている……行くぞ」


「グ・レ・イ・スウゥゥ!」


 いつの間にか目の前に立っていたインテリ系イケメン――グレイス=クライシスのお出ましに、私のテンションは一気に最高潮まで上がり、彼の腕に自身の腕を絡めるようにすり寄る。そんな私の様子に彼は何も言わず、魔法使い科の生徒に支給される黒いローブを軽く翻してから歩き出す。


 彼の整った横顔を見つめ、彼の腰のあたりで揺れていた長い三つ編みをチョイチョイと引っ張るが、彼はこちらを見もせず、黙々と歩いていく。私と同じ銀色の髪に、私と違う切れ長な紫色の瞳――その全てが好きすぎて、私は髪を軽く引っ張るのをやめて、両腕で彼の腕をガッチリとホールドする。


「グレイスグレイスグレイスグレイス!」


 私のスリスリ攻撃をものともせず、私を引っ付けたまま、彼はズンズン歩いていく。目指すは私達が暮らしている家――そう、私とグレイスだけのマイホーム!


「えへへぇ、ねぇねぇ、帰ったら今日は何して遊ぶ? チェスはこの間グレイスに負けちゃったからもうやりたくないけど――あ、そうだ! 今度は魔法スゴロクでも――」


「おい、ナタリア――離れろ」


「ほへ?」


 低く鋭い声で言われて思い切り腕を払われ、何事かと思った瞬間――私とグレイスの間をビリビリと黒い波のようなモノが通り抜けていく。感知できた魔力の余波から、それが眠り魔法だということが分かった。かなり効力を弱めているらしいそれは、悔しいことに私の魔力感知網を抜けたようだ。


「チッ――これをかわすとは流石と言うべきか、グレイス」


 肩までで綺麗にそろえられた品のいい青い髪を揺らし、不敵な笑みを浮かべていたのは、これまた容姿の整ったイケメン。正直、小者臭半端ない彼だが、これでも一応、主席のグレイスに次ぐ成績の持ち主だ。


(つーか、こいつ……今『チッ』って言ったよね? 私のグレイス狙った時点で最低最悪の大悪党だけど、舌打ちって余計に腹立つわあ!)


「ケテル、俺を狙うのはいい。だが、他を巻き込むな」


 わずかに殺気立ったグレイスの視線を真っ向から受けとめた彼――ケテル=ワーグナーは、軽く鼻で笑う。


「他っていうのはそこのチンチクリンな使い魔のことか?」


「チンチクリンで悪かったわね。そんなあんたも器がチンチクリンじゃない」


「は? 使い魔の分際で魔法使い様になんて口のきき方してんだよ」


 ギロリとケテルの青い瞳に睨まれたが、私はツンとそっぽを向く。


「ふーんだ」


「しかも、可愛くねぇ!」


「あんたなんかに可愛いって思われたって嬉しくないからいいですよーだ」


 あっかんべーと舌を出すと、ケテルはその形の良い眉と口の端をピクピクさせながら引きつった笑みを浮かべていた。


「ケテル様、シリル様があちらでお待ちです」


 私達の不毛な争いに水を差したのは、いつの間にかケテルの隣に立っていたひょろりと背の高い緑髪の二つ結びの女生徒――ケテルの使い魔だった。ふと彼女の視線の先に目をやると、そこには黒塗りの高級魔法車があった。


 ケテルはいいところのお坊ちゃんで、その兄も研究機関のエリートだということは知っていたが、初めて見る何千億(下手したらそれ以上)という価値の車に、目玉が飛び出そうになる。


「兄上様だと! アローナ、なんでそれを早く言わない!」


 ケテルはバッと自身の使い魔の胸倉を掴んだが、彼女は無表情のままピクリとも動かなかった。反対に、ケテルは顔面を蒼白にさせながら口をワナワナと震わせていた。


(ああ、お兄ちゃんに嫌なところ見られちゃったんだもんねー、お気の毒にー。ま、ケテルの自業自得だけどね――っていうか、いい加減アローナを放せやッ!)


 私はいつでも使い魔の味方だ。ケテルがアローナの胸倉を掴んだまま放さない状況に少なからず苛立ちを感じている。


「申し訳ありません。つい先程、ベルデアンヌ様――いえ、先生からご連絡があったばかりでして、対応が遅れました」


 無表情のままではあるが、アローナの深緑色の瞳に濃い悲しみの色が宿るのを見て、私の胸が苦しくなる。


「チッ――」


 アローナを乱暴に放し、舌打ちまでしたケテルに、ついに怒りの沸点を飛び越える。


「ちょっ――」


「話は終わったようだな。俺達は帰る」


「え? あ、待ってよ、グレイス! グレイスってば!」


 私の言葉を遮ったばかりか、呼び止める声も聞かずにスタスタと歩いていってしまう彼に、思わずムッとする。ケテル達から離れ、彼に追いついた私は口を尖らせた。


「グレイスの意地悪……」


「俺は別に意地悪でやったわけじゃない。あそこでいくら奴を罵っても、他の奴の認識は変わらん。使い魔の三カ条はそれほど根深い」


「そう、だけどさ……でも、みんなも私達のように――」


「今は無理だ。この世界の認識そのものを砕くまでは……」


「うん……そうだね、それをしなくちゃダメだもんね」


 トボトボと彼の後ろを歩いていると、急に彼が立ち止り、こちらへと手を差し出してきた。


「?」


「手始めに、俺達は――魔法使いと使い魔で手と手を取り合って理想を叶えていきたいと思う。これが誰の意見でもない、紛れもない俺自身の意思だ」


 彼のその言葉に嬉しくなり、彼の手をギュッと握る。


「うん、うん! 一緒に歩いて行こうね、グレイス!」


 ようやく、私の頑張りが実ってきた。十二年かかった。六歳の誕生日の日に誓ってからここまで来るのに十二年……。


 この選択の果て、グレイスも私も、他の魔法使いも使い魔も――誰もが幸せになれる未来があるのかは分からない。もしかしたら、ただの理想論で、使い魔を野放しにした途端、今までの扱いから暴動が起きてしまうかもしれない。


 だけど、誰かがこの世界を変えなくちゃいけないのなら……

 誰かがこの世界を変えるのを待ってるんじゃなく――


(私自身がその先駆者になれるように、もがかなきゃいけない……ただ、待ってるだけじゃ、変わらないんだから……)


 グレイスの冷たい掌に、私の温かい掌の温度が伝わり、やがてどちらも同じ温度になった頃、私達は家へと辿り着いた。



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