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☆ Familiar2☆ 無謀な挑戦でも何もしないよりはいい(後編)


「まったくもー、ナタリアくらいだよ、授業中に寝るの」


 大きな赤い目をキッと吊り上げながら、可愛くぷりぷりと怒っているのは、横で一本に束ねた長くて赤い巻き毛が愛らしいリリアン=メルシリア。私の親友だ。


「いやーめんごめんご」


「ああ、全然反省してないでしょー、まったくもう」


 そう言って、ぷくっと頬を膨らます様が小動物のようで、本当に可愛い。


(ああ、癒される――)


 現在は憩いの昼休みタイム。ちょうど、私がリリアンの机の横に椅子を持ってきたところだ。使い魔の制服である可愛くない鼠色ローブですら、彼女が着ると可愛く見えてしまうので、思わずニヤニヤ――じゃなかった……ニコニコしてしまう。やはり、上品な装飾が施された大きめの赤いチョーカーが彼女の魅力を引き立てるポイントになっているようだ。


「そんなに不真面目でグレイス様にお叱りを受けたらどうするのよ……」


 今度は全然反省していない私の身を案じてくれているらしく、リリアンが心配そうにその長い赤いまつ毛をフルフルと揺らしている。


「グレイスはそんなことしないって~。帰ると私にはいーっつも甘々なんだから! お弁当だってグレイスの手作りだし~、あ、この髪の編みこみだってグレイスがやってくれたんだよ!!」


 私は自身の長い銀髪に丁寧に入った編みこみを自慢げに指さし、目を輝かせる。おそらく、今の私の金色の瞳はいつも以上に輝いていることだろう。彼女が何とも言えない複雑な表情を返してくれたところで、私はフォークを持ち、ピンク色の弁当箱の蓋を開けた。その瞬間、保温用の魔法術式が解け、出来立て同様の美味しい香りが鼻をくすぐる。


「やった、今日のお弁当は怪鳥づくしだ!」


「あ、良かったね。ナタリア、怪鳥のから揚げと卵焼き好きだから――じゃなくて! ああ、もう、話を元に戻すけどさ」


 彼女の言葉に、口いっぱいにから揚げを頬張りながら頷くと、彼女は呆れたように軽く首を振った。


「その『グレイス様がナタリアには甘々』って話、何度も聞いたけど、全然想像できないって……だって、【氷の魔王グレイス様】とか、【冷酷無慈悲なマッドマジカリストのクライシス】とか言われてる人だよ?」


「ムグッ――かっこいい言われ方だね! マッドマジカリストっていうと、魔法研究者的なあれかな? ってことは、この間出した魔術協会の研究発表のおかげ?」


「うん、そうだね……そして、マッドってついてるのと、冷酷無慈悲っていうの忘れないでね」


「はーい! って――研究発表しただけで冷酷無慈悲って方がひどくない?」


 卵焼きを口いっぱいに頬張り、その絶妙なフワフワの焼き加減に舌鼓を打ちながらも、口をへの字に曲げてしまう。


「それは――研究の内容が悪かったというか……その、以前から同じ内容で研究してた人達がいたでしょ? その人達よりも先に研究成果を出しちゃったからで――」


「そんなの、早いもん勝ちじゃん」


「ああ、うん、そうなんだけどね、その分の努力というものがね、こう、全部飛んでっちゃった人達にとっては、冷酷すぎるって話になっててね――」


「そっか? だって、あれは使い魔を暴走させて強くさせようって研究の後で、暴走が止まらない使い魔の殺処分を回避できるようにした研究でしょ? あのままだったら暴走した使い魔は殺処分……しかも、使い魔を殺したくらいじゃ、殺人にはならないって話――」


 から揚げにフォークを深々と突き刺し、溢れ出す肉汁をジッと見つめる。


「ほんと、馬鹿げてるよ。使い魔を暴走させて強くさせようって発想自体、馬鹿げてる。しかも、あれが殺人じゃない? 使い魔だって魔法使いと同じように感覚も感情も持ってるのに――」


 思った以上に冷めた声が出てしまったが、取り繕おうとは思わない。から揚げを乱暴に口の中へと頬張り、怒りのまま噛みしめる。


「…………仕方ないよ。使い魔は――主である魔法使いがいる限り【不死】なんだから」


 彼女の言葉にカッとなり口を開こうとしたが、口内に居座っている大きなから揚げが邪魔をする。それを察した彼女が右手を軽く上げて私の言い分を抑え、静かに言葉を発する。


「たとえ使い魔が本当に【殺処分】されていたとしてもすぐに生き返るわけだし……そもそも、私達使い魔は――」


「人外だって?」


 から揚げを飲み込み、ようやく低く唸る声が出る。そんな私に、リリアンは赤いチョーカーを撫でて悲しげに笑う。


「うん……人ではないから【殺人】ではないし、殺しても死にはしないから、もはや殺しと呼べるのかさえ分からな――」


「だからってッ――――だからって…………痛みがないわけじゃない。死なないからって傷つけて良いはずがないし、ましてや――死を感じるほどの苦痛なんて!!!」


「ナタリア、それが――使い魔なんだよ」


「ッ――」


 リリアンの今にも泣き出してしまいそうな笑顔を見て、言葉に詰まる。子供に言い聞かせるような彼女の優しくも重いその声は、少しだけ震えていたような気がする。


 キュッと唇を噛み締め、下を向いてしまったのは、今の私には不満や希望を言うことしか出来ないからだ。


(悔しい……これじゃ、駄々をこねる子供と同じだ――)


 不満を並べるだけなら誰でも出来る。だからこそ、そこから一歩先に進むため、その不満を解消できるように動かなくてはいけないのに……。


(まだ、何も出来ちゃいない――)


 ふわりと頭を撫でられる優しい感触を感じ、目線を前に向けると、リリアンがふんわりと笑った。


「ナタリアを見てるとさ、すんごく真っ直ぐだから少し心配だけど……その育ち方を見ると、グレイス様は優しい人なのかもって思えちゃうから不思議よね」


 リリアンなりの励まし方に、少しだけ心が痛む。


(いつか……絶対、私の主張が当然と思われる世の中に――)


 何度も思っている想いを心で呟き、私はニカリと笑う。彼女にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


「おうよ! 分かってくれたかい!」


「うん、まあ一応、私の中での区切りはついたかな……って、ナタリア、お弁当の野菜の部分だけ避けて食べちゃダメでしょ。使い魔には必要ないのに、わざわざグレイス様が作ってくれたんだから」


「うっ――はーい……」


 使い魔はパートナーである魔法使いの魔力を糧に生きているため、食事は必要ない。しかし、魔法使い同様に味覚はあるので、嗜好品として楽しむことはある。私はグレイスとできるだけ同じ立場でいたいため、ご飯は朝昼晩必ず二人共食べるようにしている。しかし、苦い野菜だけはどうも好きになれない。私は渋々と赤色の葉っぱをモシャモシャと食べ始め、彼女の「えらいえらい」という言葉を聞いたのだった。


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