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☆Familiar16☆ 愛しいあの人のカケラ

※この話には、少し残酷な描写が含まれます。

かなりマイルドに変更しましたが……

念のため、耐性がある方だけお進みください。


↓ ↓ ↓




「あなたの苦しみに気付いてあげられなくてごめん。ごめんなさい――リリアン」


「ああ――もう、分かってしまったのね…………ナタリア」


 狐面を外し、苦しげにこちらを見つめる彼女の暗い瞳に、胸が軋むように痛む。


「言い訳はしないわ。あなたを騙してたのだから……」


「でも、何度も忠告してくれたんだよね?」


 黒い脅迫状は確かにカインが入れた物だったのだろう。でも、あの白い封筒だけは種類が違った。『グレイス=クライシスが現在進行中の研究をやめなければ、手始めにお前に痛い目を見てもらう』……きっと、あれは、危険を伝えるためにリリアンが送ったメッセージだったのだろう。


 それ以外にも気付けるところはあったはずだ。リリアンが最近体調不良だったのは呪術のせいで、彼女がしていた赤いチョーカーは首の絞め痕を隠すための物で――彼女がよく首元を触る癖は、私に嘘をついてる後ろめたさやパートナーへの恐怖から……。


 よく見ていれば分かったはずなんだ。こんなに近くにいたんだから……それに、彼女は何度もグレイスに相談しろと言っていた。私を守ろうとしてくれていた。


(それなのに、私は――)


 無力で愚鈍すぎる自分自身に思わず涙が出そうになるが、今は泣いている場合ではない。決意を新たにリリアンに向き合おうとするが、それはパチパチパチというやる気のない拍手によって遮られた。


「やあ、実にいい前座だねぇ、ナタリア=クライシス」


「バリス=メルシリアッ――」


 黒い狐面にリリアンと同じように茶色いコートを羽織ったその姿に、私は彼の名を吐き捨てるように言う。


「おい、この私ですら空気をよんで黙っていたのに、いきなり出てきたお前は何様だ?」


「ああ、シリル! あなたはどこまでもバカなんですねぇ!? この状況で僕に向かってそんな口をきくなん――てッ!!!」


 シリルの腹をドカッと蹴り飛ばしたバリスが、そのまま何度もシリルを踏みつけ、彼の意識を奪う。まだ殺してはいないようだが、バリスから漂ってくる明確な殺意に、背筋を嫌な汗が伝う。


 本当はシリルを飛ばした瞬間に文句を言ってやりたかったのだが、狐面を被り直したリリアンが私の口を押えてしまったため、くぐもった音しか出せなかった。おそらく、リリアンなりの守り方がこれだったのだろう。バリスが落ち着いた頃、そっと手を離され、私は「動けない相手を一方的に蹴るなんて、さいてー」と一言こぼすしかできなかった。


「さいてーで結構。どうせ、ここにいるコイツも、オマエも、みーんな死ぬんですからねぇ!」


「は?」


「コイツはグレイスに恨みを持ってて、同士討ちで自分も死ぬんですよ。使い魔のオマエも、もちろん、死ぬしかない」


「グレイスがあんたに負けるわけないでしょ!」


「――っと、ようやく、役者が揃ったようですね」


 バリスの声に戸口を見ると、いつの間にか般若の形相のグレイスが立っていた。


「ナタリアを返してもらおうか、誘拐犯」


「やあ、お越しいただきありがとう、グレイス=クライシス」


「おまえに言われた通り、誰にも言わず一人で来たぞ。だから、ナタリアを返せ」


「ああ、そうですね。では、どうぞ、受け取って下さい!」


「ッ――」


 バリスの言葉と同時に私の身体がリリアンに投げ飛ばされる。その瞬間、白い狐面の隙間から涙が舞うのが見えた。


「ナタリア!」


 グレイスが私の身体を見事にキャッチした時、床がドス黒い輝きを放ち、私達を包む。私を守るように抱きしめた彼の腕の中で、彼に貰ったお守りの魔力結晶が弾けた。砕けた結晶の眩い光が収まり、目を開くが、まだチカチカして状況が分からない。


 先程の影響で身体を縛っていた縄は千切れたようだ。ふらつく身体を支えるように床に手を付くと、ヌルリとした熱い何かに触れた。驚いて手を離そうとしたが、見覚えのある黒いローブの破片を前にして、身体が動いてくれない。そうしている間に、焼け付くような熱さの何かが頬をつたい、ぺチャリと落ちる。そこにあるのは、赤黒く染まったあの人の肉片カケラ……。


「え――?」


 かすれた声が意図せず口から洩れた。

 手が――体が――心が――震える。


(ナニガ――起キタ?)


 ……理解したくない。認めたくない。

 目の前に広がる赤い紅い朱い黒い光景、濃密な大切な人の香り。手に触れたままの、まだ熱いあの人の温度――その全てに脳が――胃が――精神が――拒絶反応を起こす。


「グレイ、ス――?」


 すがるように震える声で愛しい人の名を呼べば、手に触れていた愛しいその人の肉片が、応えるようにピクリと動いたような気がした。


「アハ、アハハハ! やった! やりました! とうとう僕は、殺ったんだ! アハ、アハハハハハ!」


 耳障りな音が聞こえる。


「やっと、やっとやっとやっと、グレイスを殺せた! 殺せたんだ! アハ、アハハ! ざまーみろ!」


「ああああぁぁぁぁぁぁ! アァアアアアアァァァ!!!」


 ノイズを頭からふり払うように私は力の限り吠える。血に濡れた髪をかきむしり、獣のように咆哮を続け、ようやく、全ての元凶である雑音へと目を向ける。


「貴様アアアァァッ! ぶっ殺す!!!」


「ハハ、主人を失った君に何ができるっていうんですか! 使い魔の君はもう消えるだけじゃないですか!」


 目の前の害虫が黒い狐面を外し、口を歪めて笑う。その虫唾が走る顔にギリリと奥歯が砕けるほど強く噛みしめる。


 私の周囲に淡く白い光の粒子が集まり、私の激情に呼応するかのように一度大きく脈打つ。


「ほら、もう、ご主人様の元へのお迎えが来ているじゃないですか。君はもうすぐ消える。あの世でご主人様と末永くお幸せにってね! アハ、アハハハヒッ――」


 耳障りな音を聞きたくなくて私は魔法で一気に奴の元まで飛躍し、右手の中で燃え上がった青い炎を叩きつけるように奴へと投げつける。奴は無様にも腰を抜かしたが、奴の前に飛び出してきた人陰によってその炎は叩き落とされた。


「邪魔するなアアアアァァァァアアアァ!」


「ガッ――」


 小さな杭型の氷塊を大気中の水蒸気から複数形成し、極限まで回転速度を上げたそれらをピストルのように手の平から発射させる。人影は氷塊を防ぎきれず、壁にはりつけにされた。その反動でカランと白い狐面が落ちたが、今の私には彼女を気にする余裕などなかった。


「死ねえええぇぇぇ!!!」


 さっきの青い炎とは違い、明らかに禍々しいオーラを放つどす黒い炎を両手の平の間に形成させ、それを打ち込むように奴への距離を縮める。



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