☆ Familiar14☆ 悪夢は終わらない
ようやく放課後になり、うーんと伸びをする。今日のホームルームが早く終わってしまったため、グレイスの迎えに出るにはまだ少し早い。
(それにしても、犯人捕まえられて良かったなあ。まあ、グレイスへの報告とか、アルテナのお茶会があるから憂鬱ではあるけど……あーあ、グレイス、お茶会出てくれるかな?)
グレイスが社交的なところを想像できず、思わず苦笑がもれてしまう。そんな時、ポンッと誰かに肩を叩かれる。
「シリル様が今、学校へ来るようです。急な連絡で私も少々戸惑っておりますが、貴方達も気をつけて下さい」
スッと音もなく離れていくアローナの後ろ姿を見つめながら、彼女の助言に感謝する。
「ね、ねぇ、ナタリア……」
「あ、リリアン――って、顔色悪いけど、大丈夫?」
「う、ん……ちょっと、まだ本調子じゃないみたいで――あのね、今日はなんだかすごく嫌な予感がするの……だから、ナタリア、あなたは早く帰――」
リリアンのか細い声をかき消すように響いた爆発音に、残っていた生徒達が騒ぎ出す。何事かと窓の外を見れば、魔法使いの学校の方から黒い煙が上がっているのが見えた。
「グレイスッ!」
慌てて駆け出そうとすると、グニャリと空間が歪んだ。何事かと辺りを見回すと、黒く塗りつぶされていく視界の端に驚くリリアンの顔があった……。
「ここ……どこ?」
目の前にあるのは暗闇だけ――しかし、先程の感覚は分かっている。あの魔法は空間移動だ。しかも、感知できた魔力量からそれほど遠くには来ていないことが分かる。
「倉庫か何かかな……」
光の差さない闇の中で、自分が目を開けているのかさえ分からなくなってくる。とりあえず、明かりが必要だ。短く呪文を呟き、魔法で光の球を形成する。その瞬間、背後に誰かの気配を感じ、バッと振り返る。
振り返った瞬間、目の前にあった白い狐面に驚いていると、顔に何かスプレーをかけられ、一気に眠気が増す。最後の力を振り絞り、狐面に向けて攻撃を仕掛けようとするが、魔力が上手く流れず、狐面の喉元をひっかくような形になった。
赤い何かが舞い、首元の縄の締め痕と黒い首輪のような呪術の刻印が目に焼き付く。私は眠りの淵へと落ちていきながら、そっと涙をこぼした。どうせ眠るのなら――夢など見ないほど、深く深く眠ってしまいたかった……。