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☆ Familiar12☆ お見舞い


 次の日も、下駄箱には大量の黒紙が入れられていた。内容も変わらず『グレイスから離れろ』だ。それらを一掃し、教室に行くと、いつも早くから学校に来ているリリアンの姿がなかった。昨日のことについて、グレイスに言わないよう頼むつもりだったのだが、その日、彼女は学校に来なかった。


「グレイスゥ、お見舞いの品って何持ってったら良いんだろう? リリアン、食べ物食べてるところ見たことないし……」


「別に食べ物でもいいと思うぞ。食べる必要がなくとも、美味しいことには変わりない」


 リリアンのお見舞いに行きたいとグレイスに駄々をこね、何とか一緒に行ってくれることになったのだが、お見舞いの品に悩み、街の中をウロウロする。


「うーん、そういや、使い魔が体調崩すことってなかなかないから、今回みたいな休みって珍しいよね……」


 使い魔が学校を休む原因はたいていが魔法使いの看病や用事によるものだ。ちなみに、リリアンのパートナーは研究室に閉じこもって出てこない引きこもりらしい。魔法使い中等部ではかなりの研究成果を上げていて、神童と言われていたらしいが、今は別段名前が挙がっていないところを見ると、スランプ状態のようだ。


「ストレスや疲れからくる精神的疲労は魔法使いよりも使い魔に多い。別段、珍しくはない」


「そっか……そういえば最近、リリアンに心配かけっぱなしだったな――って、このチョーカー可愛い!」


 思わず、ベッタリと商品が並ぶガラスに張り付く。少し細めの紅いチョーカーは蝶をモチーフにした可愛らしい細工が施されており、リリアンに似合いそうだと思った。


「ナタリア、このデザインが気に入ったのなら、隣の蒼色の方が似合いそうだぞ」


「ああ、蒼も可愛い! じゃなくて、紅いのはリリアン用!」


「なるほど、では、買ってくるから大人しく待っていろ」


「え、なんで両方持ってくの?」


「揃いでつけたらいいだろう? 幸い、前の研究のおかげで金はある」






 ★ ★ ★






「え――リリアンに会えないんですか?」


「すみませんねぇ。せっかく来ていただいたのに。彼女は今、精神状態が不安定で……念のため大事を取っているのです」


 緩くウェーブのかかった肩まである赤い髪をオールバックにし、黒いシャツに白衣を着た品の良さそうな青年が困ったように微笑んだ。


「リ、リリアンは――そんなにまずい状態なんでしょうか?」


 人様の玄関先であることも忘れ、医者に安否を確認する家族のような心境で、つい前のめりで青年に詰め寄ってしまう。


「いえ、最近少し疲れていたようなので、僕が休ませただけですよ。僕にとって、彼女は大切なパートナーですからね」


「あ、そうだったんですね――って、あなたがリリアンの!」


 さすがに『引きこもりの神童』などとは言わなかったが、まじまじと彼の姿を見つめてしまう。引きこもりなどというから、てっきりコミュ症なのかと思っていたが、彼は愛想もよく、なかなか整った顔立ちをしていた。特に赤い垂れ目な部分などは、リリアンに似ていて可愛らしい印象を受けた。


「ああ、はい。僕はバリス=メルシリアと申します。どうか、バリスと気軽にお呼び下さい。グレイスさん、ナタリアさん」


「え、え、ええ? 私のこと知ってるんですか!」


「彼女からよく聞いています。いつも彼女と仲良くして下さり、ありがとうございます」


「こ、こちらこそ! いつもお世話になっています! いやあ、リリアンのパートナーが良い人で良かったです」


「いい人だなんて――少々心配性なだけですよ。まあ、アルテナさんほど心配性じゃないかなあとは思っていますが」


「??? アルテナが心配性?」


「ああ、もしかしてご存じありませんでしたか? 彼女は使い魔を家に閉じ込めているんですよ。外は危険がいっぱいだから……と。もともと有名な【コレクター】なんですが――あの方は使い魔をぬいぐるみのように思っているらしく、僕とは意見が合わないのです」


「使い魔は……おもちゃじゃないのに――」


「ええ、まったくです。使い魔はただ着飾らせて楽しむだけの置物なんかじゃありません」


 バリスの言葉に、胸が熱くなる。そうやって言ってくれる魔法使いは少ない。魔法使いと使い魔の溝は、まだ深いのだ。


(コレクターか……)


 ふと、昨日見たアルテナの姿を思い出す。アルテナは他の魔法使いと違い、灰色のローブを纏った私に『この使い魔風情が!』などという暴言も手も上げなかった。正直、そこまで悪い奴には思えなかった。けれど、私に言ったあの【可愛い】が使い魔を物として見ていたからこそ出た言葉なのだとしたら……ゾッとした。


 使い魔は魔法使いと何ら変わらない心を持っているのに、なぜこうまでも差別されるのかが分からない。互いの違いは魔力が体内で生成できるかどうかだけで、それ以外ではパートナー同士でしか互いの立場を認識できない。


 そう、たったその程度の違いなのだ……そりゃあ、使い魔は死なないよ? 本当はご飯だっていらないよ? でも、それだけで、魔法使いと変わらない感情を持ってる【人】じゃないか……。


「ああ、そうでした。立ち話もなんですので、よろしければ中でお茶など――」


「すまないが、今日は少々忙しい。ナタリア、見舞いの品を」


 優しい笑顔を向けるバリスに対し、冷たい声を投げかけるグレイスの態度に少しだけムッとしたが、もともと彼は品物だけ渡したら帰ると言っていたので、彼に促され、私は赤い包みを差し出す。


「本当はお誘いにのりたいところなのですが、今日は少し時間がなく……本当にすみません。これ、お見舞いの品です。リリアンに渡していただけますか?」


「そうでしたか……残念ですが、またの機会にお誘いしますね。それから、これもちゃんと、彼女に渡しておきます」


 見舞い品を渡したのでもう帰ろうとした時、バリスがニコニコしながらグレイスに視線を移す。


「そう言えば、新しい研究案が政府に認められたとお聞きしました。本当におめでとうございます。やはり、グレイスさんは僕とは比べものにならないくらい優秀なのですね」


「まだ案が通っただけで、これからが本番だ。祝うにはまだ早い。それに――俺が特別優秀なわけではない」


「そんな、ご謙遜を……あなたは本当に優秀です。研究機関の人々があなたを神童と呼ぶのも頷けるほどに、過去の研究の功績は素晴らしく――」


「俺はそこまで大したことをしてはいない……では、そろそろ失礼させてもらう」


 グレイスが不器用なのは知っていたが、お世辞や賛辞も見事にスルーする彼を見て、隠れてため息をついた。正直、引きこもりのバリスよりもグレイスの方がよっぽど、対人スキルに問題があるようだ。



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