中編
大丈夫、フィクションです。
クリスマスイヴ当日。
何の予定もなくなった私は部屋で掃除をしていた。
「何がクリスマスよ、あと一週間もすれば正月が来るっていうのにそんなことしている場合じゃないわよ」
負け惜しみなのは重々承知だ。
だが掃除は無心になるにはちょうどいい方法なのかもしれない。
……少なくとも、その間はサトにぃと相手のことを考えずにすむのだから。
一通り綺麗にし、ピカピカになった周りを見回すと達成感すらわいてくる。
掃除道具を片付けていると、部屋からノックの音。
返事をすればドア越しに母の声が聞こえた。
「羽月ごめんね、買い物頼まれてくれない?」
「え」
もしもこれが、何のイベントもない日だったら私は普通に承諾しただろう。
だが今日はクリスマスイヴ。
……街中で色んなカップルが闊歩していることだろう。
「その、私ちょっと予習が……」
「行ってくれるわよね?」
「……」
何故だろう、ドア越しなのに威圧感を感じるのは……?
「……ハイ」
結局私にはこの選択肢一択しか残っていなかった。
街中にカップルしかいないように見えるのは、私の心が荒んでいるからだろうか。
手を繋いでいたり腕を組んでいたりしてくっついているカップルの多いこと多いこと。
例えしてなくても、二人の間には甘い空気が流れているような気もする。
そしてみんな……幸せそうだ。
「……もしかしたらあの中に、入れたかもしれないんだよねえ」
そう呟くと、あははっと乾いた笑いが起きた。
所詮、夢は見るなということだろう。
手が冷たくなってきたのでコートのポケットに手を突っ込むと、がさっと言う音と紙の感触。
「そう言えば入れっぱなしだったっけ……」
浮かれて、つい買ってしまった彼へのプレゼント。
結局、無駄になってしまった。
「どうしようかな、これ……」
いっそ、捨ててしまおうか。
辺りを見回して、ゴミ箱を見つける。
近づいてポケットの中にあるプレゼントを取り出すと、ゴミ箱の前にかざす。
……この気持ちも、一緒に捨ててしまえばいい。
男なんてサトにぃ以外にもいっぱいいるし、人生はまだまだ先が長いんだからもっと周りを見なきゃ。
無理やりそう思っても、自然と涙が出てきて目の前がジワリと滲む。
「バイバイ」
そう言って、手を離そうとした瞬間。
「深本さん?」
思わず振り返ると、そこには見慣れた姿があった。
「あ、やっぱり深本さんだ」
「橋間君」
「こんな寒いトコで待ち合わ……」
最後まで言い切る前に、橋間君はピタッと動きを止める。
「……泣いてるの?」
はっきり言うなあ、って思う。
「うん、振られた」
ははっと、笑ってみせる。
そんな私を見て、苦い顔をする橋間君。
「見る目ないね、そいつ」
そう言われた瞬間、涙が一気にあふれてきた。
「サトにぃのこと悪く言わないでよ……っ!」
ぼろぼろと涙が落ちてくる。
きっと彼は慰めるつもりで彼を悪く言ったのだろう。
でも私は、サトにぃを馬鹿にされたことが悔しかった。
……ああホント、私って馬鹿な女だ。
嫌いになりたいのに、なれそうもない。
「っ……」
彼が急に手を伸ばしたかと思うと、私を抱きしめてきた。
「橋間君……!?」
「……深本さんは本当に、その人の事が好きなんだね」
そう言うと、さらにきつく抱きしめられる。
「俺じゃダメかな?」
「……へ?」
「俺じゃ、深本さんの恋人になれない?」
その言葉に、思わず目を見開く。
「何言って……」
「本気」
そう言って少し体を放すと、じっと真剣な目で見られた。
「俺、待つから。 深本さんが俺を見てくれるまで。 だから……俺の恋人になって」
「で、でも……私遠くに受験する気だし……! そしたら遠恋になるし……!」
「……深本さん、確か○○大学希望だったよね?」
「う、うん……」
「俺ももともとそこ受けるつもりだから大丈夫だよ。 万が一志望変えて遠恋になったとしても頑張るし」
「そ、それに……橋間君のこと好きになる保証もないのに、付き合う事なんて出来ないよ……」
「好きにならない保証もないでしょ?」
そう言って彼は少し笑う。
「好きだよ、深本さん」
彼の顔が、近付いてきた。
「……」
このまま、受け入れてしまえば楽になれるのだろうか?
……ちょうど良いじゃないか。 だって、いい加減諦めようとしてたんだから。
もしかしたら、ずっと彼といれば彼の事が好きになれるかもしれないし。
そうだ、好きにならない保証だって、ないんだから。
……そう、思うのに。
『羽月っ!』
「……っ!」
驚いたように、彼の目が見開く。
「ごめんね、橋間君」
彼の唇に置いた手を下げる。
私は、いくら彼が待っていてくれても彼の望む結果を出すことが出来そうもない。
だから、今ココでキスしてしまえば私は後悔するだろう。
あの屈託のない笑顔を真っ先に思い出してしまう限り。
「恋人の件h……」
「見つけたああああああああああっっっ!!!!!」
後ろからがしっと腰を抱きしめるように掴まれた。
「……っ!?」
ぜいぜいという声とともに吐き出される生ぬるく湿った息が首元にかかり、くすぐったくて思わず身をよじる。
「コラ逃げんな! ったく、おばさんが買い物に行ったつーから待ってみれば全然帰ってこねーし! 何処まで行ったのかと思ったわ!!」
「……何、で……?」
サトにぃが、ココにいるの?
「……深本さん、そいつ誰?」
橋間君が怪訝そうにサトにぃを見る。
「あ? ……誰だお前」
サトにぃもそこで橋間君に気づいたようだ。
「……ああ、なるほどね」
橋間君は小声で何か納得したように呟くと、サトにぃを睨むようにしてみる。
「俺はふ、いえ羽月ちゃんの彼氏です」
「……は?」
「はっ!?」
私は慌てて橋間君を見る。
混乱している私に何故か橋間君はウィンクを返した。
「……おい、羽月」
「はいっ!?」
「お前、いつの間に彼氏が出来たんだ……?」
声からして、今のサトにぃじゃ凄く驚いたような表情をしてるんだろう。
そんな様子がすぐに浮かんでくる自分と、その言葉を発する彼にイラっとする。
サトにぃが私の事を妹の様に思っている事は知ってる。
けど、私だってもう高2だ。
彼氏がいても別に不思議じゃないのに。
でもきっとサトにぃは私が誰かと付き合うなんて想像すら出来てないのだ。
私を、『子供』だと思っているから。
「サトにぃには関係ないでしょ」
……今まで出したコトのないぐらい低い声が私の口から出た。
サトにぃは驚いたのか、私に回していた腕の力を弱めた。
その隙に私はサトにぃの腕から抜け出す。
「行こ、橋間君」
彼の腕をとり、反対方向に歩き出す。
彼が小声で「良いの?」と聞いてきたから、軽く頷く。
……何だか悔しかった。
確かに私自身、誰かと付き合うなんて想像できないことも。
妹としか見てくれないことも分かっているのに、諦めきれないことも。
「―――ふっざけんな」
すぐ後ろでサトにぃの声が聞こえた瞬間、かなり強い力で後ろに引っ張られる。
「痛っ……!」
痛さのあまり、橋間君の腕に巻きついていた手を思わず離してしまった。
軽く巻きついていただけとは言え、急に解かれたのだ。
もしかして橋間君も痛かったかもしれないと思い、橋間君を見ようと顔を上げようとしたが……
「ちょっ……!」
そのまま、サトにぃが歩き出した。
「待っ……! 橋間君が……」
「煩い」
普段よりもとても低い声。
イラついているかのようなその声に、思わず体が震える。
何だか怖かった、今のサトにぃが。
橋間君を見る余裕もなくて、彼に謝ることも出来ずに私はそのまま引きずられるように歩いた。
中編短くてごめんなさい。




