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悪魔が巡りて人間知る  作者: 家ノ風
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悪魔は触れる

空を見上げると、太陽が庭を日で照らそうとしていた。

日の光は闇の力をそいでいく。ただ日の下に立つだけで悪魔にとっては苦痛なのだった。

光を浴びた瞬間に塵と化すような吸血鬼とは違うが、できうる限りは避けて通る。魔力も十分な時であれば、このような煩わしいことをする必要もないのだが、今はそんな余裕がなかった。

日本に降りてから最初の頃も、日陰から日陰を渡り歩いていたわけだが、客観的に見れば暗い場所から手招きする男がいて、望みを叶えましょうなんて声をかけられれば怪しいと思わないものがいないわけはなかったのだ。


そんなことを考えていたら、施設の放送だろうか、音楽と共に昼を告げる放送が聞こえてきた。

それと同じくらいの時だろうか、腹の奥底から嫌な気配を感じる。最初は何かわからなかった、だが冷静に振り返ってみると昨日の夜に近い感覚を経験していたのでこの正体はすぐにわかった。これが空腹というやつだと。

縁側の窓から家の中に入っていく、家の中の影は太陽から守ってくれて、そして安心をも与えてくれる。余り気づかなかったが少々疲れていたようだ。それほど庭掃除に夢中にでもなっていたのだろうか。自分の中の変化にうすうすは気づいていたものの、大したことではないと切って捨てた。


家の中に入ってから、聖が家を出る前に言っていたことを思い出した。

「冷蔵庫に何か軽く作っておきますから、自由に食べてください」

そう言いながら何かを作っていたように見えた。あまりに気にしていなかったのでその手元をよく見てはいなかった、何を作っていたのだろうか。腹に不快な感覚を抱きながら、冷蔵庫を開けてみる。ざっと見渡すと調味料や卵といったもの、ほかにはいくつかの食材があった。開いた扉から漏れる冷気に心地よ差を感じながら探してみると、野菜室の引き戸の中に、他の食材と違って皿に乗ってある食べ物があった。それは三角の白い塊で、俗にいうおにぎりというものだった。


これがきっと用意していたものに違いない、そう思った理由はあの時料理を作っていた時も、手で軽く何かしら作っていた様子だけは見えていたからだ。もし違ったとしても、それはそのときだろう。

冷蔵庫から出すと、少しひんやりとしていたが冷たいという程ではなかった。


ラップを剥がし、そのおにぎりを優しく持ち、誘惑をしてきているかのようなそれにかぶりついた。

白いおにぎりの中には梅干しが入っていた。酸っぱい味に、少しばかりびっくりした、悪魔にとって食事というのがあまり経験がないので、これが美味しいものなのかどうなのか、判断しかねていたのだったが、その酸っぱさが疲れをとるためのもの、つまりは庭掃除が終わってからのことを想定されて作られたものではないのだろうか、そう考えたとき、胸に何か湧き上がるものがあった。

言葉にできないそれに、いやな気持は抱かなかった。


おにぎりは全部で3個で、大きさもそれなりな上に中身も他に鮭、鶏肉とバラエティーに富んだものだった。全部食べ終わるころには、おなかの不快感も消え、むしろ何か満ち足りたような気分に酔いしれていた。


だからだろうか、これからのことを考える気力も沸いてきた。

長い年月は人を変えた、このことは今までの経験で痛いほど身に染みた。死にかけたくらいだ。ひょっとすると今までの古い考え自体を捨てなければ、いけないのではないのだろうかと。今までは見下していた人間を、対等な目で見ることから始めよう、そんな考えに至っていた。

だからでこそ、まずは人間を知るために外に出ようという考えになっていた。できれば夜に活動するのがいいのかもしれないが、身近な例でもいくならば聖が顕著で、彼女自身が表の人間だったからである。


表があれば裏があるというが、裏の人間が表より多いわけはない。そう考えればまず表の人間について調べるのが当然だと思い至るのもまた、あたりまえのことだった。

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