悪魔は出会う
顔を上げると少女がそこにいた。女子高生だろうか、制服をきた女の子だった。
身長は少し低いくらい、前髪が長いのか目元があまり見えない。
しゃがむ様にこちらを様子見する姿は、今まで出会ってきたどの人間たちとも違う。通報するわけでもなければ、いぶしかむ様子もない。本当に心配して声をかけたというのだろうか。
だがそんなことを考える余裕もなくなってきた。これは最後のチャンスだ。
「私は今日中に誰か一人でいいから、願いを叶えなければいけない」
なりふり構っていられない、時間がないのだ。途中の説明も抜き、普段なら契約に関する書面を用意するところだがそれすら省く。馬鹿正直に悪魔であることを伝える必要はない。今は時間が値千金なのだ。
そんな意気込みや気迫が伝わったのか、少女は不思議に思いながらも聞いてくる。
「それは奉仕活動かなにか、ですか?」
「まあ、そんなところかな」
嘘は言っていない、それが自分たち悪魔の為の献身であるということなのだから。
「その内容はなんでもいいんですか?」
「ああ、何でもいい、なんだったら誰か消したいなんてものでもいいぞ」
「冗談が得意なんですね」
笑いながら言う、だがこれは冗談でいったわけではないし、もちろん可能なことだ。
「じゃあ……私と友達になってください」
一拍置いてそんな願いが聞こえてきた。
この女はいったい何を言っているんだ、そう思うよりも先に契約は結ばれる。
口約束とはいえ契約は契約。こちらが提案し、向こうが了承する、それだけで十分だった。
悪魔との契約は基本的に願いの大きさに比例して、その代償を支払うことになる。
余りに大きいものだと、悪魔によってはその魂を求めるものだってある。
だが友達になるという契約はどれほどの願いだというのだろうか。前例がないために予測もつかなかった。
「わかった、私は君と友達になろう」
ふっと、息苦しさがなくなる。体内の枯渇しかけた魔力が供給され、存在を維持することができるようになったからだ。だが自由に力を行使できるわけではない、どうやら足された魔力は必要最低限といった感じだ。友達になるとはそんな大それた願いではなかったらしい。
「じゃあ折角友達になったのですから、私にあなたの名前を教えてください」
悪魔はこの質問だか問いかけだかに、にやりとした。それは第二のお願いだと思ったからだ。
魔力はいくらあっても困らない、できる限り備えておきたいと思っていたのだ。
ましてや名前を聞くというのは例がある、さすがにその命までは奪わないが、かなりの魔力を貰えるはずだった。
だが違った
「私の名前は???という、これからよろし」
それは悪魔の意思とは違った。名前を教えるつもりではあったが、偽名である武雄という名前を教えるつもりだったのだ。
本当の名前を教えるつもりはなかった。
「え、その名前本当ですか?」
日本人であることはおろか、人間の名前ですらないのだから疑問に思うのも当然だ。
慌てて訂正をしようとする、だがその口から出てくる言葉は。
「そうだ、私は悪魔だからな」
全てを明らかにさせてしまう言葉だった。
「またまた、冗談でしょ?」
「いいや、冗談ではない」
口を開けば本当のことばかりが口を突く。そんなことを聞けば頭を疑われるかもしれないが、自然と本当のことを言ってしまうのだ。だが強制的というわけではない、ただ嘘をつくと激しい嫌悪感を感じるようになっているようで、気を強く保てばこんなことにはならないということに気づいた。
「悪魔ってことは、魂を奪われちゃうんですか私は」
いやに落ち着いているのは話を冗談だと受け取っているからだろうか、落ち着き払ったその言葉に恐怖は見えない。体も震えてるわけではないようで、虚勢を張っているわけではなさそうだ。
「そんなことはない、人は願いを叶えるために自信の」
「それを聞いても?」
「これに関しては言えない」
まさか悪魔存続のために来たなどいえるわけもないだろう。だが気づいたことがある、嘘を言うのには抵抗があるが、秘密にすることには抵抗が低いということ。当然抵抗がないわけではない、だが嘘をついたとき程の嫌悪感はなかった。
友達とはいったい何なのだろうか。頭を占めるのはそんな考えばかりだった。