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神様の暇つぶしとか僕は知らない!  作者: ぐえんまる
第三章 《奇跡の街》
29/29

第二十七話 『授業』

【お知らせ】

・25/5/25

イラストのある話のタイトルに★マークをつけました。


・25/4/8

第十五話のプレッタの初登場後の会話や流れを少し加筆しました。プレッタがこの時点でユキノに気づかないのは不自然だったため。


・24/10/19

第十一話 『術式』の後書きに【用語解説】〈ネクタル〉を追加しました。

 カレトリアスについて、分かっている事は皆無と言っていい。

 そもそも、協会は前回の厄災が収束し、コデックスと同盟を結ぶまで奴の存在すら認識していなかったらしい。

 彼についてよく聞く噂――全知全能、不老不死、超越者、というのは一応正しいのだが、厳密な全知全能ではないらしい。

 有史以降の人類の歴史を観測してきたと言われているが、コデックスのように瞬時に何でも知れるわけではない。


 校長先生は、僕を紫乃森さんの元へ送ってくれる前にそんな話をしてくれた。

 僕が奴に立ち向かうには、桜月魔法学院に入学し、魔術を極め、特異遺物(アーティファクト)を集める必要がある。


 まあ特異遺物(アーティファクト)とかいう荒唐無稽な話は一旦無視しても、魔術学院に入る必要があるのは確かだった。

 その為には簡単な試験にクリアしないといけないらしい。当面はそれを目標に頑張れと言ってくれた。


 そして次の日から、地獄の特訓生活が始まった。

 佐元先生は暫く休んだり観光でもしたらいいと言ってくれたが、僕の方から強くなりたいと相談した結果、周りの天才達が指導してくれる事になったのである。午前中はリオンやユキノから実践訓練、午後からは佐元先生の座学という感じだ。

 入学するまで厄対の訓練施設を貸してくれるらしいし、こんなに素晴らしい先生から学べる状況を無駄にはしたくない。

 

 リオンはまずグローブ型駆動器の扱い方から教えてくれた。

 教え方はとてもシンプル。


 ――まずは汎用性が高い身体強化からだな。


 と、真っ先にやらされたのが「筋トレ」だ。


「これから暫くはスクワット、体幹、懸垂、腕立てを毎日限界までやってもらう。とりあえずの目標は、それぞれ体重の五倍の重りを背負って五十回、または五分キープってとこだな」

「身体強化魔法なのに結局筋力を鍛えるんですか、リオン先生」

「身体強化は体術や武術と、あらゆる魔術の基礎だからね。ま、やればわかるよ」

 

 と軽い感じで始まったが、その後は本当に死に物狂いだった。

 特に最初は指一本動かせず吐きそうになるまで追い込み、ネクタルで回復するというのを繰り返していた。

 しかし二週間もすると、明らかに体が凄く軽くなっていた。

 魔力が全身に巡る感覚、逆に必要な部位に集中して筋力を上げる感覚。それを理解してからは、重量もどんどん上がっていった。


 佐元先生もリオンと同じく良い先生だ。

 初めは魔術史と魔術の系統について学んだが、どっちも凄く面白い。


 ――今日は魔術の基礎中の基礎をやる。難しい話じゃないから気軽に聞いてくれ。


 先生はプロジェクターの前で意気揚々とプレゼンを始めた。


ーーー〈現代魔術講義その一 魔術史と駆動器〉ーーー

 

■駆動器の歴史

 原則として潜在魔力量は先天的なものである。そのため元来の魔術師には潜在魔力量による明確な格差が存在した。潜在魔力量の少ない者は即効性重視の呪文、魔力量の多い者は複雑な魔術や魔法陣を研究する傾向にあった。

 しかし、約百年前から魔力を蓄えられる魔鋼やクリスタルの普及が始まり徐々に格差は減少する。現代の形式の駆動器が普及し始めたのは約二十年前である。

 

■現代魔術の基礎

 現代魔術は、魔力源、触媒、駆動器を用いる事で効率的に展開される。


――魔力源(チャージャー)

  魔力をストックできるもの。魔鋼、クリスタルなどが主流。現在は駆動器に組み込まれているものが多い。

――触媒(カタリスト)

  魔術の展開を効率化、高速化させる。呪文、魔法陣、一部の魔法具など。魔力量が十分な場合、必ずしも必要というわけではない。

――駆動器(ドライバー)

  実際に魔術を展開し、結果を出力する装置。杖、武器型、アクセサリー型が主流。市販品には出力制限があり、供給魔力量が多すぎると動かなくなる。


 最も簡単なのがレッドクリスタルだが、非常に高価である。

 

ーーー〈現代魔術講義その二 魔術の基礎分類〉ーーー


 魔術の分類には基礎分類と応用分類があるが、今回は基礎分類のみ教わった。

 基礎分類とはつまり古典魔術と現代魔術の二つだ。


■古典魔術

 伝統的に古典魔術では魔力の事をイドと呼ぶ事が多い。

 ●元素魔術

  最も太古から存在する魔術で、自然に存在する四大元素(地、水、炎、風)に干渉、生成する。

  古典魔術で生成できる元素はこの四つのみである。

 

 ●魄霊術(はくれいじゅつ)

  霊魂(れいこん)魄気(はくき)に干渉する魔術。魄気術、生霊術、死霊術に分けられる。

  霊魂とは一般的に「魂」と呼ばれるもの。イドを生成・貯蓄する機能を持つ。精神性に深く関わる。

  魄気とはイドの集合体であり、身体性に深く関わっている。

 

――魄気術(はくきじゅつ)

  魄気に干渉し肉体を変化させる。自己再生、一部の高度治癒魔術、身体変化など。

――生霊術(しょうれいじゅつ)

  生きた人間の霊魂に干渉する。幽体離脱、人魂転移、憑依、その他呪術(一般に「呪い」と呼ばれるもの)など。

――死霊術(しれいじゅつ)

  主に死者を扱う。特定の家系が技術を独占している。蘇生術、口寄せ、悪霊使役、転生術など。


■現代魔術

 現代の駆動器と触媒を用いた効率的な魔術体系は、古代から続く魔術研究を礎として成り立っている。

 具体的には、三百年ほど前に()()()()()()()()が人工的に造られて以降、魔術の展開速度は数百倍にも上昇したらしい。

 

 導果御影神(ドウカノミカゲカミ)――人造精霊の呼び名である。 

 一般的な呪文や魔法陣はこの人造精霊に情報や指示を伝達するものだと考えていい。


・精神魔術

 自然魔術の次に占いなどから発達した魔術で、人の意思、行動、記憶などに干渉する。


・物理魔術

 比較的近代以降に生まれた概念である時空、力、粒子などをに干渉する魔術。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へぇ、魔術ってこんな風に体系化されているんですね」

「ああ、今日学んだ事はあくまで基礎だから、例外も多いがね。」

「例外ですか……?」

「ああ、例えばICGRの魔術とか――まあ、詳しい事は今後教えよう。それより今回の内容についてなにか質問はあるかい?」

「はい、魔力とかイドとかオーラとか呼び方がいくつもありますが、明確な区別はあるんですか?」

「うん、いい質問だな。確かに魔力はイドやオーラと呼ばれる事はあるが、意味としてはほぼ変わらない。強いて言えば、「イド」は魔力の古い呼び名で、「オーラ」は体外に表出した魔力を示す言葉というイメージだな」

「なるほど、わかりやすいですね」

「こういう知識がもっと欲しいなら、図書館に行ってみるといい。そこならなんでも調べられる」

「図書館があるんですか!? すごく気になります……!」


 という感じで初日の講義は終了した。


  * * *


 厄対の訓練施設はホテルにあった地下訓練場の上位互換だった。広さこそ同じくらいだが、中央に大きな段差や坂道があり、高低二つのエリアに分かれていて、外周には直径一メートルほどの白い柱が並んでいる。それとは別に、様々な器具が設置されたトレーニングルームもある。


 そこではユキノに実践訓練をしてもらったんだが、三人の授業の中でも一番の地獄だった。


 僕は言われた通り右手に昴魔炎の手袋を装備して集合すると、白いフードを深く被ったユキノが待っていた。

 ユキノは二メートルはある長い棒に変形させたクロエを右手に持っていた。いつになく真剣な雰囲気だ。


「――始める前に一つ聞く事があるわ」

「……は、はい」

「私から教わるには、条件が二つある。『授業中は私の言う事は絶対』『着いていけなくなったり逃げ出したら私からは二度と教えない』この条件を飲める?」

「ああ、問題ないよ」

「いい返事ね。申し訳ないけど、私は教え方を一つしか知らない。ただ一番効果的な訓練だから安心して」

「一体何をするんですか?」

「そうね、これからハルト君には……()()()貰うわ――」


 言い終わるや否や、ユキノは一瞬にして僕まであと数歩の位置まで接近し、大きく振りかぶったクロエが僕の無防備な腹部を強烈に殴打した。

 

 僕は数メートル程吹っ飛ばされ、ダンゴムシのように丸まって激痛と吐き気に呻く。


「ゲホッ…………ゲホッ……ヴェ゛ッ」

「――痛いでしょ? 身体強化は痛覚を消せるわけじゃない。ただいくら痛くても思考は止めないこと」


 やっとのことで顔を上げると、僕の首筋にクロエを突きつけるユキノが見えた。


「はい、死亡一回目」


 五分休憩が言い渡される。たったの五分だと焦ってネクタルを飲もうとするも、殆ど吐き出してしまう。


 休憩が終わるや否や殺意しかない攻撃は再会された。

 ルールは単純だ。この部屋を出なければ何処に逃げても良い。昼休みまでの三時間ユキノの攻撃を必死に凌ぐ。ただそれだけ。


 その間、「ほらさっさと立って!」「もっと周りを見なさい!」「遅すぎる!」と言った叱咤の言葉が絶え間なく続いた。

 唯一の救いは、気絶したら起きるまでは休憩できる事くらいだ。と言っても、初日は殆どの時間気絶していたが……。


 二日目からはユキノが教えたい事が少しづつわかってきた。一度でも致命的なヒットを喰らうと、いくらネクタルを飲んでもその時間はまともに動けなくなる。第一優先は「敵の間合いに入らない事」。と言っても、ユキノの移動が早すぎて馬鹿正直に逃げていては絶対に追い付かれる。結局、一日目とほぼ変わらない結果に終わった。

 訓練中はなんども逃げ出そうと思ったけど、できなかった。ユキノの「はい、また死亡」という言葉を聞くたびに、

 

「ハルト君は、やっぱり視覚に頼りすぎね」


 二日目の訓練の後、ユキノはそう言った。


「は、はい」

「もっと魔覚に意識を集中して、私が視界から外れても常に位置を把握できるようになりなさい」

「了解です……やってみます」


 ただ、一日の訓練が終わるとネクタルを入れてきてくれて、仏頂面ながらも的確なアドバイスをくれる。

 爽やか甘さが満身創痍の身に染みて、こんなに良い先生はいないとつくづく思うのだった。

 

  * * *


 これが、僕の最高の先生達である。

 ちなみに、午前中はユキノとリオンの授業だけど、ユキノの授業は週二回で、残りは全てリオンの基礎練習。土日は完全に休み。

 といっても、休日も鍛錬以外にやる事はないが……

 

 厄対の施設は島の中心から少し南の方にあって、暫くはリオンとその寮に住まわせてもらう事になった。スタッフは皆優しくて、食堂が驚くほど安くて美味しい。


 平日も夕方からは自由時間なのだが、基本その日の復習が脳内で自動再生される。つまり、コデックスがその日の記憶の大事な部分を延々と再生してくれるわけだ。


 そんなこんなで色々あるが、この新しい生活は悪くない。ユキノの授業は確かに辛いものの、「着いていけなくなったらもう教えない」という言葉が頭から離れず、自分でも驚くほど必死に食らいついていた。



ここまで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます!

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