第二十五話 『校長』二
※ついに十万字達成しました! ここまで読んでくださってる読者さんのお陰です!
こんなに更新頻度が低い作品を読んでくださって本当に感謝しかありません……!
これからもよろしくお願い致します!
無数の棚が整列する魔法店の片隅で、僕は赤髪の女の子がとめどなく話すのを聞いていた。
「――確かに最近の、特に若者に人気なのはネックレスとか指輪ですね。でも実は、アクセサリータイプって性能がピンキリで選ぶのが結構むずかしいんですよ。まあ結局皆そこまで拘らず、『皆使ってるから使う』と人気なのを選ぶ人が多いですけどねー」
知火と名乗った少女は、駆動器についてなんでも答えてくれた。一度質問すると紫乃森さん以上に詳細に解説してくれるので助かりはした。
「ありがとう。……なんというか、本当に駆動器が好きなんだな。ってのは伝わったよ。ただ、全部良いとなると逆に一つに決めづらいかなぁ。ここの商品のカタログとかがあったらありがたいんだけど……」
「あ、あああ……す、すみません! ありますよ! カタログ!」
彼女は顔を赤くして、黒いスカートのポケットからキューブを取り出した。
「――コアちゃん、ここのドライバーのリストをお願い」
『畏まりました』
透明感のある電子音声が流れ、キューブが瞬時に半透明のディスプレイに変形する。それには、商品の写真と軽い説明がずらっと縦に羅列されてあった。
「ふむふむ……人気順に、黒魔鋼の指輪、赤巧石の首飾り、小型赤巧杖、赤魔鋼の腕輪…………。確かにアクセサリーが多いけど、下の方には短剣とかの小型武器……眼鏡や時計、傘とかの小物もあるのか。……それにしても、赤か黒が多いな」
「人間の魔力を精製すると、大体何故か赤い結晶になるので、それを使って作られた魔鋼や魔石も赤みを帯びてる物が多いんですよ。黒いのは……赤ばかりだと飽きるので意図的に黒くしてますね!」
「なるほど! さすが千槌さん、詳しいね」
「いやいや、このくらい常識です!」
「そうなんだ。でも僕はここに来たばかりだからさ、本当に助かるよ。でも、困ったなー。こういうのつい吟味しちゃうんだけど、あまり時間が――」
「え、えっと、今なんて言いました……?」
「え? 僕は結構優柔不断な方で……」
「その前です!」
「前? えっと、ここに来たばかりだから――」
「そう! それです! もしかして、貴方は……そ、外から来た人……だったりします?」
「外? この島の外って意味ならそうだけど、それが何か?」
「!!!!!!!!」
その瞬間彼女は蚊の鳴くような声で「やっぱり……!」小さく叫び、僕の手を取って全力で上下させた。
「ぜ、ぜぜぜぜひ仲良くしてくださいワタシまだ外行ったことなくて生まれてから一度も島を出たことないんですほんとヤバイすよね外行く権利貰うのに後一回昇格しないとだしもうずっと憧れでぜひ外のお話をっ――…………すぅ…………っはぁ…………はぁ……。聞かせて…………ほしいです」
「お、落ち着いて! あんま面白くは無いと思うけど、話すくらいならいくらでもするから――」
「ありがとうございます!!」
泣いて喜ぶ彼女を見て思った。本当に外に出たらどうなってしまうのだろう。
「ふぅ、すみません……取り乱してしまって。まずは駆動器ですよね! ご安心を! そういう事なら、物凄ーく良い考えがあります!」
そう言って、彼女はページをかなり下の方へスクロールさせ、少し画面を操作していた。
「これを見てください!」
そう言って突きつけられた画面には、
ーーーーーー〈上級駆動器一覧〉ーーーーーーー
★『昂魔炎の手袋』★
●適正クラス:聖格
●効果/詳細
・右手:装備者が右手に持った駆動器の能力を強化。
装備者へ身体能力強化魔法の発動。
・左手:超高精度の遠距離型駆動器。
装備者へ防御魔法の発動。
★『暗黒飛竜の指輪』★
●適正クラス:不明
●効果/詳細
・極めて高耐久、高出力、高精度の駆動器。
・装備者に特殊耐性の付与:『炎属性魔法無効』。
・装備者は特殊スキル:『天空飛翔』を獲得。
・製作者、制作方法共に不明。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
という、何やら怪しげな品物が表示されていた。
怪しげだけど、やはりこういう厨二感満載の装備は無条件で欲しくなるのが中学生男子としての性というものだ。
「ここで扱ってる最高性能の駆動器です! どちらも装備型なのでお好きなのをどうぞ!」
「正直どっちも気になる。でも……かなり高そうだけど、大丈夫か?」
「ああ、それぞれ選択すればお値段も表示されますよ!」
「なるほど、どれどれ……? いちじゅうひゃくせん……これ、桁間違ってない?」
手袋は片手で二十五万、合わせて五十万円だった。
「駆動器自体が高度な技術なんです。その最上級品なんですから当然! ――しかし! 貴方は本当に運が良いですねぇ、うん。上の『昂魔炎の手袋』、実は、まだ一人も買い手がいないんですよ! こんなに良い品なのに! そして『高額商品の購入者第一号には特別割引』というのがこの店の隠れたルールで……とにかく今買うとすんごくお得なんです」
「割引っていくらくらい?」
「基本は半額ですね」
「半額!? まじかよ。……あの、適正クラス:『聖格』ってのは?」
「あー、そうか、確かに知らないですよね。ここでは魔術師に等格というものがあって、聖格は十段階あるうちの、上から四番目ですね」
魔術師の等格は上から順に、『下格、忠格、杖格、宝格、将格、王格、聖格、龍格、覇格、神格』の十段階らしい。
「え? そんなの使いこなせるかなあ」
「心配ご無用です! 適性クラスは最大限性能を使いこなす前提の表記なので、下位のクラスでも使用できないわけじゃない。この手袋も片手だけで使う場合、適正クラスは数段階下がります。というか……むしろ初心者ほど良い駆動器を使うべきなんですよ、お金さえあればですけどね!」
「――なるほど。……すみません、ちょっと予算を確認させてください」
僕は急いで紫乃森さんに電話をかけた。キューブを使ってだ。
「――あ、もしもし紫乃森さん……」
紫乃森さんはすぐに出てくれたが、それを見ていた千槌さんの顔がみるみる青くなっていく。
「……スミマセン……ちょっと急用思い出したので、私はこれで……会計は向こうですので。では――」
そう言って、彼女はそそくさと去ってしまった。
それと入れ替わるように、紫乃森さんとリオンが歩いてやってくる。
「ハルト様、時間をかけすぎです。何かあったのかと心配しましたよ」
「まあ特に怪しい気配は無かったけどな」
「すみません、ついさっきまであの子と話してて……」
「おや? 彼女は確か……中等部の千槌さんですね。こんな時間に何をしてるんでしょうか」
出口の方へ逃げるように去っていく千槌さんを紫乃森さんは訝しげに見ていた。
* * *
その後、紫乃森さんに相談した所、結論から言うと手袋を買うことはできるようだ。
どうやら僕が自由に使える口座に初期資金として丁度二十五万円あるらしい。そして、さらに生活費として十万円(食費込み)が毎月一日に支給されるシステムだとか。
つまり、手袋を買ってしまうと他の物は買えなくなる上に、次の支給日までの五日間、一文無しで生活しなければならない。
「五日間一文無しは確実に死ぬな……どうしたものか」
「二十五万ねえ、まあドライバーとしては普通じゃないか? 俺のも確か、片方だいたい五十くらいだったし――」
「リオン様……それは貴方のご家庭の基準が異常なのです。ハルト様も騙されないようお気をつけください」
「もしかして、リオンってとんでもない金持ちなのか……?」
「……え? いやいや、たしかに昔は多少裕福だったけど、今は違うよ? むしろ俺が出稼ぎに出るレベルではお金に困ってるから、期待しても無駄だからな?」
「ちなみに、支給額を決める権限は私にありますので、増額というのは諦めてください。ただし――」
紫乃森さんはやれやれというふうに軽く首を降った。
「どうしてもと言うならば考えがございます。ハルト様、一つバイトをしてみませんか?」
「バイト?」
「ええ、と言っても、この島内である人物を探してもらうだけですので、コデックスをお使いになれば容易なものです。成果にかかわらず、お受けしていただければ今月分の食費は保証しましょう」
「やります。やらせてください!」
「分かりました。捜索対象は『華月院イブキ』様、桜月魔法学院の校長を務められているお方です。校長はこの島随一の魔術師で、実力としては申し分ないのですが、少々その……サボり癖がございまして、時折姿をくらましてしまうのです。気配を消すのが上手なお方で、この小さな島と言えど見つけるのは困難でした――ハルト様がいらっしゃるまでは」
僕は校長を見つけて、その位置を共有すればいいらしい。簡単な仕事だ。
さらに、僕が先に校長に接触し、校長捕獲部隊が到着するまで時間を稼げればボーナスも付くと言う。受けない手はない。
「交渉成立ですね。そうであれば早速購入しましょう。時間が勿体ない」
その後、僕達は店の最奥部に向かった。
茶髪に眼鏡の優しそうな青年がここの店長らしく、手袋を購入したいと言うと少し驚いてた。
しかし、紫乃森やリオンを見て、「噂は本当だったんですね……」小さく呟いた。
「貴方が標様ですね。歓迎いたします。ようこそ我々の奇跡の街へ。流石は標様といった所でしょうか。この『昂魔炎の手袋』、取り扱い以来最初のご購入となります……」
といった感じで、なんとか駆動器を手に入れる事ができたわけである。
「――ちなみに、この『暗黒飛竜の指輪』っていうのはどんな物なんですか?」
店長が裏から持ってきた銀色のケースは二つあって、購入前に二つとも見せてくれた。最初は手袋に気を取られていたけど、手袋を手に入れるとこっちも気になってくる。
その指輪は、いわゆる結婚指輪のような細いタイプじゃなく、幅は広めで、その全周に精巧な竜の装飾と、小さな赤い宝石が埋め込まれている。光沢のある黒い指輪だ。
「――やはり、気になりますか? こちらはつい先日入荷したばかりの極上の一品でして、本来は数年前、突然日本の何処かで出土した遺物でした。富裕層の金庫を転々と渡っていた所を、運良く協会が競り落とせたのです。謎が多いですが、品質は保証しますよ?」
「なるほど……ちょっと触ってみても……?」
「ええ」
――それに触れちゃだめですわ!
指輪に触れる寸前、突如現れたプレッタの声で何とかとどまった。
「どうしたんだ、急に?」
――それは……はっきりとは分かりませんが、邪悪な魔力を感じます。
イド? なんだそれ。
――ここで言う魔力は、アステアではそう呼ばれていたんです。……とにかく、それは購入しない方が良いと思いますわ。
分かった。プレッタがそこまで言うならそうなんだろうな。
「――ん? あれ、ちょっと待ってください」
突然、浮遊する画面を見ていた店長が目を見開いた。
「大変申し訳ございません……たった今、『暗黒飛竜の指輪』がオンラインで購入されました」
「え? 今?」
「ええ、惜しかったですねぇ。ご購入者は――なんと、あの『華月院イブキ』校長です」
* * *
その後、僕達は急いで魔法店を後にした。
校長先生を見つけないといけない事を思いだしたからだ。
後で聞いた話だけど、あの指輪は一つで一千万円だったらしい。
校長先生ってまじで何者なんだ?
【用語解説】
・コア・システム-2.0
桜月島の住人が持つスマートキューブなどの情報デバイスにデフォルトで組み込まれている汎用人工知能。通称「コアちゃん」。
・赤巧杖
魔力を人工的に結晶化させた赤巧石が埋め込まれた杖の事。
大きさによってワンド・ロッド・スタッフの三つに分けられる。
・魔鋼
赤巧石を微量に混ぜる事で錬成された魔力を帯びた金属。






