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神様の暇つぶしとか僕は知らない!  作者: ぐえんまる
第三章 《奇跡の街》
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第二十四話 『校長』一

 エリア内時刻――七月二十七日、午前十時。

 

 桜月島と呼ばれた島へ上陸後、僕達は用意されていた車で島の中心部へ向かった。島中央にあるいくつかの巨大建造物はそれぞれ「桜月魔法学院」と呼ばれる学校と、その学生寮らしい。

 普通の地図や衛星写真ではこの島は見つけられないらしいが、道中、コデックスがこの島の地図を表示してくれて、大体の島の様子を知ることができた。

 

 僕達は三日月型の桜月島の中央付近に上陸したようで、目的地まで十分もかからなかった。

 あっという間に森の中の一本道を抜け、住宅地らしき場所に出る。所見の印象は、いたって普通……というか、小綺麗な庭付きの白い一軒家が立ち並んでいて、意外と今風だなと思った。


 少しだけど人もいた。犬の散歩中の女性、自転車に乗っている少年……東京の普通の町と変わらない様子だ。

 ただ、違うところはいくつかある。たまに、スマートキューブを頭上に浮かせて歩いている人がいたり――中心部に近づくにつれてそういう人も増えていった。そして、僕でも分かる程に周囲に魔力が充満しているという事。思わずプレッタも「信じられませんわ! 地球にもこんな所があったなんて――」と喜んでいた。

 

  * * *


 桜月魔法学院。誰もが一度は夢見た事がある「魔法学校」だ。ただし、西洋風の古典的な城があるわけではない。

 それは、建物自体は一見巨大な高層ビルに見える。しかし、その周囲一体が全て校庭であり、数メートルの石の塀に囲まれた範囲に綺麗な芝生が広がっている。


 車で校門を潜った途端、かなりの数の学生服を着た男女が談笑したり、昼寝したりしているのが見えた。そして、彼らも僕たちに気づくと好奇の目線をこちらに向けてきた。

 

「――お主が我らが標の少年か、若いのぉ」

  

 そして、僕達は魔術学院の最上階の広大な部屋に案内された。豪華な装飾の石テーブルから僕達を見下ろすのは、長い白髭を蓄えたおじいさんだ。


「儂がこの桜月島の、いわゆる最高責任者というやつじゃ。まあ、気軽に「会長」とでもよんでくれたまえ」

 

 テーブルというのは椅子の間違えではなく、本当にテーブルに胡座をかいて座っている。その後ろに椅子があるのに……。

 

 そして、その周りには――佐元先生、紫乃森さんに加え、知らない女性が一人。

 その人は、長い黒髪を一束に結っていて――前髪の無い、完全なポニテだ――暗い赤基調の軍服風コルセットスカートを纏っている。褐色の肌でユキノみたいな目つきの女性だ。


 そしてちなみにだが、今朝からリオンとユキノは普段着に戻っていた。

 ユキノはいつものパーカー。リオンは、黒いシャツに細身の黒いパンツ、黒いブーツという黒一色の服装。さらに、左右の耳のピアスから回転する黒い立体が垂れている。


「――はぁ……早速始めたい所じゃが……」


 会長は少し言葉を詰まらせ、隣で優雅に佇む褐色の女性に軽く目配せする。


「して、アリサよ、イブキのやつは一体どこで何をやっとるんじゃ?」


 すると、彼女は目を細めて会長を一瞥する。


「あの馬鹿は絶対来ませんよ、会長。初めてください」

 

「チッ……あのたわけが…………ゴホンッ……そうじゃのぉ……標よ、まずは、よくここまで辿り着いた。歓迎しよう」

「は、はい……! ありがとうございます」

「はっはっは。頭を上げなされ。このようなただの老人にそう(へりくだ)らんでも良い」


 それを聞き、これでもかと言うほど下げた頭を上げる。


「さっそく本題なんじゃが。儂ら魔術協会は、標であるお主、神之木ハルトを全力で援助する事を約束しよう。但し、条件が二つある。一つ、桜月島における情報をエリア外に一切口外しない事。二つ、お主自身が死なないよう全力を尽くす事。よろしいかの?」

「問題ありません」

「即答か。悪くない覚悟じゃ。よし、契約成立じゃな」


 すると、会長は一瞬姿を消したと思ったら、瞬く間に僕の目の前に現れ、「これからよろしく頼む」と言って右手を差し出した。

 なんとか冷静に握手を返す。


「あの……会長、質問してもいいでしょうか?」

「ほう、何か気になることでも?」

「えっと……その、契約ってこれだけでいいんですか?」

「ほう……? 口約束じゃ信用しきれんと申すか」

「い、いえ! そんなつもりは……!」

「はっはっは。気にするな、ただの冗談じゃ。そう思うのも無理もない。しかし、契約なんてものはどれだけ書面を取り繕うと、抜け穴があるものじゃ。特に儂らの世界ではな。我々が信用に値するかどうかは、ここで生活してみればすぐ分かるであろう」

「分かりました。それとなんですが、琴葉は……どうなるんですか?」

「うむ、それももっともな質問じゃな。安心せい、地球上でここより安全な場所などありはせん。そしてお主の妹は、現代魔術の粋を集めた我々の医療機関に全力で治療させよう」

「あ、有難うございます……」

「但し、お主には残念じゃが……」


 これまで朗らかな笑みを浮かべていた会長は少し目を伏した。

 

「お主の妹以外の家族、友人はこのエリアに入る事はできん」

「それは……どうしてですか?」

「桜月島は、特殊な結界によって作られた異空間に存在する。俗に言う「隠り世」と言われる概念に近いな。ここは現世と同時に在るものじゃが、魔力を知覚できない物には入る事すらできん。ただし、お主と妹が襲われたあの事件以来、お主と深い関わりのある人物は全員、実行部隊の精鋭達に常に監視させておる。滅多な事が無い限り危険は及ばんじゃろう」

「そこまで考えてくれるんですね。……感謝してもしきれません」


「最後に、これは些細な事じゃが……ここの住人は少々特殊でのう。外部からの人間という時点でお主はちと目立つ。色々あるかもしれんが、気を悪くしないでくれ給え」


 そういう流れで、僕は魔術協会に本格的に保護される事になった。会長はリオン、佐元先生に軽く挨拶した後、紫乃森さんに「彼を部屋へ案内してくれ」と言って話は終わった。 

 

「――そうじゃ、ユキノ、お前は残りなさい」


 しかし、僕達が部屋を出ようとしたら、ユキノだけ呼び止めらる。それを聞いて佐元先生も部屋に残ったようだ。


「ユキノ様は今回、無断で外に出るという規則違反を犯しています。それも、あんな大事な日に……。あれはこっ酷く叱られますね」


 僕の部屋に行く途中、紫乃森さんが教えてくれた。そういえば、ユキノは家出してたという話は聞いた気がする。


「大事な日ってのは……?」

「貴方には関係ありませんが、知りたいですか?」

「言えないなら大丈夫ですが……」

「まあ、後々わかると思いますが、ここでのユキノ様は貴方が想像するよりとても重要な位置にいます。それ相応の仕事というものがあるんです」 


 かなり上からな物言いだったけど、何となく分かったかもしれない。

 ユキノは目立ちたいタイプじゃないし、上の立場ってのがむしろ窮屈だったのかもな……。


  * * *


 自分の部屋に行く前に、僕達はとあるお店に立ち寄った。


 校門から出てすぐ向かいにある、お洒落な円筒状の建物で、『桜月魔法店』と書かれた看板が提げられている。


 中に入ると、壁一面の棚に分厚い本やら杖、怪しげな小瓶、あとは――ネックレス、チョーカー、指輪とかのアクセサリーが置いてあった。

 まさか、ただのお洒落な雑貨屋じゃないよな?


「ハルト様には、ここで魔術師に必要なアイテム、『駆動器(ドライバー)』を選んでいただきます。魔力、魔素、オーラ、マナ、イド……呼び方は何でもいいですが、それらを動力源とするなら、駆動器(ドライバー)は出力装置。出力の調整や照準を助けてくれるだけでなく、単純な術式を定型化することで実現したい現象や効果を増幅できます。現代魔術においては必須の――」


 その後も小一時間続いた紫乃森さんの蘊蓄によると、ドライバーというのはいわば魔法の杖だ。ただ、最近は指輪やネックレスのようなアクセサリー型で、普段から身につけられるのものが流行らしい。

 直感でいいから何でも選べと言われたけど、多すぎて逆に難しい。


「ちなみに、リオン様のドライバーは両耳にお付けになっているピアスですね」

 

 そう言われて良く見ると、リオンのピアスは右耳は太陽、左は三日月の形が回転し続けているというデザインだ。お洒落だなとは思っていたけど、そういうのもあるのか。


「ちょっと奥の方も見てきます」


 そう言って、胸の高鳴りを感じながら棚の間を縫って進んでいった。


「杖もかっこいいけど、せっかくだしアクセサリー系も捨てがたい……。そうなると指輪かブレスレットかなぁ――」


 そんな事を呟きながら品物を眺めていると、突如背中をぽんぽんと軽く叩かれて、慌てて振り返った。


「誰……?」

「えっと、あの……す、すみません! 驚かせるつもりは――も、もしかして……初めて駆動器を買いにいらっしゃった方ではないかって思って、つい……」

「ああ、確かに始めてだけど……君は? ここの店員さんか何か?」

「私は……センヅチチカです。『千の槌に、火を知る』と書いて、千槌知火。わ、私がここの店員だなんて、と、とんでもない! 私はただ、ここのファンというか、ここの店員に………………なりたいなぁ…………」


 その子は、燃えるような赤い髪の女の子だった。髪は短めだけど、左側の一束だけ上げてあり黒いリボンが結んである。大きな丸い目に薄茶色の瞳。丁度ユキノくらいの背丈だけど、ユキノよりかなり大人しい印象の子だ。でも、たぶんそれは彼女が紺色と白のよく見るセーラー服を来ているからかもしれない。


「――はっ……! す、すみません……。えっと……よければ、お探しするのお手伝いいたしましょうか?」


 少しの間、彼女は恍惚の表情で何か妄想に浸っていたようだった。


「え、いいんですか!? 丁度どう探せばいいか困ってたんですよね。ぜひお願いしたいです」

「もちろんです! ここは私の庭のようなものなのですので……なんでも聞いて下さい!」


 そう言って彼女は胸に手を当ててドヤ顔でそう言うのだった。

 

 

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