表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の暇つぶしとか僕は知らない!  作者: ぐえんまる
第三章 《奇跡の街》
21/29

第十九話 『覚悟』


 

 全身の痛みに呻きながら目を開けると、僕はまたしても知らない部屋のベッドで寝ていた。

 綺麗な白い壁に、豪華な額縁の海の絵が飾ってある。


「あ、やっと起きた」


 突然の声に体を起こすと、左手に軽い痛みが走った。どうやらギプスで固定されているみたいだ。

 しかし、声の主を目にして僕は更に驚いた。


 隣にもう一つのベッドがある。そこに座っていたのは、両手を頭の後ろに回し、透き通るような金髪を黒い髪留めで結う美少女……あるいは美男子? 見た目に惑わされてはいけない。


 金髪に翡翠色の瞳。(しわ)一つない綺麗なワイシャツに黒のスラックス、黒い革靴。

 その容貌は月並みだけど可愛いとかかっこいいと言うより、美しいと言った感じで、そいつが何者なのかという疑惑も一瞬忘れて見惚れていた。


「――その手、何があったか知らないけど、あまり動かさない方がいい」

 

 そいつは僕の右手を指差して、優しい声で言った。

 

「そんなに警戒しないでよ、味方だから。俺はリオン・ローゼンハイム。しばらく君と行動を共にする事になると思う。よろしく」

「よろしく……」


 その声はあまりに澄んでいて「銀の鈴のよう」とはこの事だと思った。声も中性的なんだけど、まさかの俺っ子?


「……君も協会の?」


 僕は咄嗟に口を開いたが本当に聞きたい事は聞けず、適当に質問を取り繕った。


「――ん? まあ、そんな所かな」


――ほんとに何も知らないんだな。と、リオンは軽く笑った。


「それよりここは? 琴葉は?」

「コトハ……? あー、そういえばもう一人いたな」


 リオンは細い眉を少し(ひそ)めて、右手を口元に当てた。

 少し嫌な予感がする。


「知ってるのか?」

「まあ……うん。とりあえず、先生達の所に行こうか」


 立てるかい? と、リオンは優しく笑って僕に右手を差し出した。


 悔しいほど紳士的な配慮だ。


 * * *


 リオンが言うには、ここは巨大なクルーズ船の中らしい。

 部屋の外はホテルの廊下にしか見えず、全く船の中っぽさは無い。

 僕はまだ微かに痛む足を引きずって、時折リオンの肩を借りながら赤いカーペットの上を歩いた。


 ちなみに、リオンは男らしい。病院服から部屋に用意されていたシャツに着替えるのに手間取っていると彼が手伝ってくれた。


 しばらく歩き、同じ階層の別の部屋の前に立つと、リオンが軽くノックをする。


 白いドアの後ろから現れたのはにこやかに笑う佐元先生だった。


「――ハルト君、起きたんだね。具合はどうだい?」

「僕は大丈夫です。それより琴葉は?」

「琴葉ちゃんならそこで寝ているよ。安心してくれて。命には全く別状はない」


 部屋に入ると、ベッドに安らかな顔で横たわる琴葉が目に入った。


 張り詰めていた糸が切れたように息を吐く。

 そして同時に、酷い後悔が押し寄せた。


 追い討ちをかけるように、先生は少し神妙な顔で言った。


「しかし……三日間寝たままで、いつ起きるのかわからない。琴葉ちゃんは敵の魔術で完全に洗脳されていた。残念だが……起きた時洗脳が解けているかも定かではない」

「そんな……」


 咄嗟に琴葉の顔を覗き込む。さっきは安らかな表情だと思ったけど、苦しんでいるようにも思えてきた。

 心臓が締め付けられるようだった。

 

「ただ、医学的には健康そのものだ。今はそれを喜ぼう……! それに……ハルト君、自分を責めないでくれ。こうなったのは完全に保護者である私の責任だ」


 先生は悪くない。と言おうと思った時だった。


「――ハルト君……」


 気づくと、僕の後ろにユキノが立っていた。いつの間にいたんだろう。


「あの、私からも謝るわ。私がもっと早く着いていれば……」

「なんでユキノが謝るんだ? むしろこっちがお礼を言うべきだろ。……助けてくれてありがとう」

「そうじゃないの……! ハルト君が狙われてる事は知ってたし。ああいう奴らをその……捕まえるのが私の仕事だから」

「どういうこと?」


「――後で詳しく説明するが、ユキノはまあ、魔術協会の警察……いや、特殊部隊のような組織に属している」


 僕が首を傾げていると、先生からの注釈が入った。

 厄災対策委員会、通称「厄対(やくたい)」。それが、ユキノが所属する組織の名前らしい。


「へー、ユキノってプロだったんだ」

「まあね……」


 僕は素直に褒めようと思ったんだけど、皮肉と取られてしまったのか、ユキノは軽く俯いただけだった。


「しかしさっきも言ったが、今回の惨事は私の責任だ。ハルト君もユキノも悪くない。私は……敵はまだ動かないと考え完全に油断していた」


 * * *


「――実は、この厄災はそう単純ではなくなってしまったみたいなんだ」

  

 先生の説明を纏めると、大体こんな感じだ。


 ICGRは魔術協会の次の規模を持つ魔術組織で、構成員は全世界に存在する。

 表向きは魔術界の秩序を守る組織だが、構成員はほぼカレトリアスの信奉者で、中にはカレトリアスの為ならどんな事も厭わない過激派もいるらしい。


「――奴らの行動原理は現世に君臨する神、カレトリアスへの信仰。だからこそ厄介極まりない。しかし、このタイミングで君を狙うなんて……教会への戦線布告という事だろう。この厄災に便乗して悪いことを企む奴等はいくらでもいるということだ」


 先生の話を聞いて、僕は少し気分が悪くなった。カルラを思い出したからだ。

 彼女は驚くほど自信に溢れていた。あの自由な生き方には、少し尊敬しそうになったほどに。

 でも、最初から僕を殺すつもりだったとしたら……人間不信になりそうだ。

 

「……そういえば、ユキノはなんで僕の居場所が分かったんだ?」


 僕は話題を変えようと、ユキノに話しかける。


「ああ、それは――」

「それは、僕が説明しよう」


 疾風の如き勢いで割り込んできたのは、どこからともなく現れたコデックスだった。


「驚くことに、完全にプレッタのお陰なんだ。君が騙され気絶した時だ。プレッタは君の懐から僕を取り出して全速力でホテルへと飛んだんだ。あの機転がなければ君は今ここにいないだろうね」


 すると、褒められて少し恥ずかしそうに顔を伏せたプレッタが現れる。


「そうなのか? 凄いなプレッタ。そんなに賢いとは思わなかったよ」

「い、いえ! その、なんというか……()()()()ってやつですわ!」


 少し気まずそうなプレッタの笑顔を見て、以前彼女が「敵に呪いをかけられた」と話していたのを思い出した。

 良くも悪くも、彼女はああいった状況には慣れているのかもしれない。


「とにかくありがとう。命の恩人だ」


 * * *


 その後、僕は少し休むと言って自室に戻った。


 この船は各部屋に浴室があるらしく、脱衣所にある洗面台で顔を洗って、排水口に流れる水をただぼーっと眺める。


 取り返しのつかない間違いを犯してしまったのかもしれない。そんな不安がいつまでも洗い流せず、顔をあげることができない。

 

 鏡張りの部屋で死にかけて以来、鏡を見るとどことなく不安になる。今まではっきりと言葉にできなかったけど、やっとわかった。


――無力感。


 誰も守れない自分に守られる価値なんてあるのか?

 そんな考えが嫌でも浮かんでくる。


 魔術なんてものが存在するとわかって驚くことばかりだけど、どうも思い通りにいかないことが多い。

 魔術師の世界こそ力あるものが我を通せる弱肉強食の世界なのだと、見せつけられてきた。


 このままずっと助けられる側で……大切な人が死ぬまで同じことを繰り返すのか?


 そうなったら二度と自分が許せなくなる。


 覚悟を決めるしかない。

 もう誰も巻き込まないよう、一人で戦えるよう強くなる。

 そして、絶対に生き残ってやる。



――素晴らしい覚悟だね。

 

 

 最近の癖で手を使わず蛇口を捻り、顔を拭いていると、頭の中にコデックスの声が響いた。


「まあね。これからもよろしくたのむ」


――その事なんだが、佐元君と話して、このままでは厳しいという事になった。


「厳しいってなにが?」


――今僕はキューブの中に存在している。これは僕の好みと、君のプライバシーへの配慮から考え出された妙案だ。ただし、これには致命的な欠点が二つある。キューブの電源を切っている時、君が無防備になる事。そして、キューブを奪われたら更に厄介なことになる事だ。前回の敵襲では偶然にも弱点を付かれてしまった。


「確かに……じゃあどうするんだ? また僕の頭の中に戻る?」


――まあ、それでもいいんだが……僕が提案したいのはこれだ。


 すると、キューブが細い帯状に変形し、僕の左手首に巻き付いた。見た目は真っ黒だけど、見ようによっては最新型の腕時計に見えなくもない……たぶん。


――普段は僕を腕時計として使ってくれ。ただ、時計の中に僕がいることはバレないように。まあ、バレたところで君の意思に反して外せないようになってるけどね。無理に外そうとすると僕が自動的に君の脳内に移動する仕組みだ。できればそういう状況にならないようにして欲しい。

 

 確かに、これなら目立たなくていいかもしれない。


――あと、今まで通り電源は切ることはできるが、極力切らないようにしてくれ。突然初対面の相手と出会った場合、僕が信用できるか判断する。また、君の心拍数が急激に上昇した時も自動的に電源は入るようになっている。

 

 コデックスに言われた事をなんとか理解して、少し考えたけど、考えれば考えるほど良いと思った。

 僕にはコデックスがいるし、佐元先生も僕のことを考えてくれている。そう思うと少し安心できた。


――それとハルト君。あの時は僕を使えなかった中で、自分で考えてよく生き残ってくれた。安心してくれ、君は無力ではない。少なくとも、人より()()()()()()はあるじゃないかな。


「お前が褒めるなんて珍しいな。でも、ありがとう……」


 生き残る才能か。

 たとえ謎の多い人知を超えた存在からでも、褒められるのは素直に嬉しいものだった。


  

【用語解説】〈厄対〉


厄魔術師による犯罪を捜査したり、放置すると甚大な被害の出る様々な現象、いわば厄災を扱う組織。


魔術協会-厄災対策委員会-実行部隊(十個ぐらい)


このような組織構造になっている。


単に「厄対」と言った場合は基本、実行部隊のことを指す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓クリックで応援お願いします
小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ