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第九話 『地下』





 結局、今日は学校をサボる事になったけど、しかたない。死にかけた上に、まだまだ生死を賭けたイベントが目白押しらしいわけだから。


 今朝のユキノとの一悶着の後、僕達二人は、先生にこのホテルの()()に連れて行かれた。


 最上階で乗ったエレベーターが先生の、「地下室へ」という一言に答えるかのように動き出した時は、正直少し驚いた。


 * * *


「――ハルト君には、出来るだけ長く生き残ってもらう」


 地下のだだっ広い、映画に出てきそうな真っ白な部屋で、楽しそうに説明する白衣の先生。


 先生の目の前には白い机があり、その上に小さな箱のようなものが意味深に置かれている。そしてユキノは、先生の後ろの壁に持たれてつまらなそうにネックレスを弄っていた。


「その為に、協会は君を一切戦わせない事を目標としている。君も、君自身の命を最優先する事を約束してほしい。いざとなったら、我々を盾にするくらいの意識でいい」

「はぁ。……頑張ります」

「それと、君に渡したい物があるんだ。――キューブ」


 先生は机上の白い箱のような物体――よく見ると正確な立方体らしい、に()()()()()


 文字通り、話しかけたんだ。


 ピコン。という音が響いた。

 その立方体の面という面に、鮮やかな緑色の光の線が走り、その線は各面の中心で交差した。そしてそれは、音もなくふわりと浮かび上がった。


 丁度、小さなルービックキューブに似ている。全面が真っ白で、枠線が光ったり、浮いたりする事を除けば。


「これは協会が開発した可変追従型通信機。その名も「スマートキューブ」だ。普通の携帯電話を持っていては居場所を特定してくれと言うようなものだからね」

「これは……凄いですね」


 少なくとも、今まで読んできたSFでは見たことが無い。

 

「だろう?」


 先生が手を前に差し出すと、キューブはその掌の上にすっと移動し、指示を仰ぐかのように緑色の光を点滅させた。先生は、愛犬を自慢する人のように目を輝かせている。


「このキューブが可変追従型と呼ばれる所以を見せてやろう。――キューブ、私達の現在地を見せてくれ」


 光の線が二回、ピカピカと点滅したかと思うと、キューブのその角から無数の小さな欠片が分離していく。そしてそれらは、再び四角い形状に整列した。


 そう、浮遊する半透明のスクリーンだ。そこには関東圏の地図が表示され、その一点に赤いピンマークがある。


「見た目は一辺五センチメートルの立方体だが、実は極小なサブユニットの集合体で、それぞれが連携し合っているんだ。形状も自由で、所有者に自動で追従するから手に持つ必要もない。と言っても、普段は持ち歩く人も多いけどね」

「あの、僕はそれを貰えるんですか?」

「いや、これは私のだ」

「えぇ……」


「ハッハッハッ! そう落ち込むな。君にはなんと上からのお達しで、未発売の新型を与える事になっている」


 先生は白衣のポケットからもう一つのキューブを取り出した。


 今度は、光沢のある黒色。


 先生に渡されたキューブを手に取り、もしやと思っていると。その側面に青い光の線がぼうっと浮かび上がった。これは、カラバリも無限ということか……!


「あの、ありがとうございます」

「いや、礼には及ばない」

「でもこれ、どうやって使うんですか?」

「そう、使い方についてなんだが……。君に確認しなければならない事がある。本来、キューブのシステムには最先端のAIが搭載されているんだが、やはり人間の作ったシステムではセキュリティ的に完璧とは言えないんだ。そこで、君のキューブだけ特別に、とある完璧な自立システムが機能するように改良してある」

「完璧な自立システムって、そんなものあるんですか?」

「それが、あるんだ。その上、君もよく知っている。使い方は本人に聞くといい」

「本人って、まさか……?」


「――僕だ」


 僕が首を傾げていると、僕の掌の上に浮いていたキューブが喋りだした。


 喋りだした?


「久しぶりだね、コデックス。新しい(シルベ)の脳内はどうだった?」

「最悪に決まっている。常に目まぐるしい感情に揉まれる面倒さがわかるか? これだから有機生命体は……」

「君は相変わらずだな。私にそんな経験はないが、上からの無茶振りをこなす気持ちは痛いほどわかるよ」


 先生とキューブが当たり前のように話し出すのを僕は呆気にとられて見ていた。


「ハルト君の想像通りだ。本来コデックスは君の頭の中にいて君の知覚を操作するんだが、それでは逆に不都合な事もあるだろう。だから我々はキューブを媒体として、コデックスを利用する事を考えたんだ」

「知覚を操作……。そんな事ができるんですね。あの煩わしい頭痛が無くなるんならいいかもしれないけど、そんな事してルール的に大丈夫なんですか?」


 先生は少し驚いたような顔で僕を見た。


「まさか、一方的に押し付けられたルールに従うつもりかい?」


  * * *


 そしてもう一つ、先生はコデックスとどのように知り合ったのか、長々と説明してくれて、次々に新事実が飛び出してきた。


 まず、この厄災(ゲーム)は今回が初めてじゃないって事。


 前回のゲームが始まった正確な年代は分かっていないけど、かなり昔、日本全国で争いが絶えない時代だったとか。そして、そのゲームが終わったのは二十世紀に入ってから。


 これが意味するのは、前回の標とその敵が何百年も戦い続けたと言う事だ。


 当時からコデックスは協会に協力的で、地球外の技術を協会に与え、コデックス自体の研究も進んだ。その研究に先生も携わっていたらしい。


 それと引き換えに、今後地球上でゲームが行われる時は、協会が標を守るという契約がかわされたみたいだ。




「この話を続ける前に、君には知って置かなければならない事がある。それは『世界系』の概念だ――」

「セカイケイ……?」




 これは、魔術師界隈では常識らしい。


 簡単に言えば、太陽系の世界版。この世界は数多ある世界の一つに過ぎず、それらの世界は何かを中心にぐるぐると回っていると言う、多元宇宙的な考えだ。中心に近づけば近づくほど古い世界だと言われている。


 最も有力な説では、地球のある世界は中心に近い方から三番目なんだとか。


 中心には全世界を創った神と、アカシックレコードがある……。と言われているけど、これに関しては憶測でしかない。ルール上、コデックスはこの世界の外側の情報を教えられない。世界系に関しても、コデックスが否定しなかった為正しい事になってるけど、残念ながら、異世界を観測する技術は今の人類にはない。

 まあ、コデックスも万能ではないわけだ。

 


 ――痛っ!


 今まで静かに浮遊していたコデックスが、急にその鋭利な角を僕の頭にぶつけてきた。


「……しかし、ここからが重要なんだが、さっき私は、中心に近い世界程古いと言っただろう? 古いということはそれだけ発展していると言う事。そして、我々に異世界を観測する技術は無いが、我々より上位の世界の住人にとってはそうとも限らない。そしてこれには、疑いようのない証拠があるんだ」


 先生は、くるりと後ろを振り返り、壁際に座ってうたた寝している少女に向かって叫んだ。


「――ユキノ! 起きろー!」

「んぁ……?」


 彼女は眠そうに目を擦って立ち上がり、不満そうな顔で歩く。


「先生は話が長いんです」

「いやあ、すまない。ハルト君にあれを見せてくれないか?」


 彼女は「はーい」と気のない返事をし、僕の目の前に立った。


 フードは外され、突き刺さるような赤い目が露わになっている。彼女は首元に手をやり、細いネックレスをするりと外し、僕によく見えるように差し出した。


 光沢のある黒で、細い鎖のタイプだ。その先にぶら下がって微かに揺れる十字架のペンダント。


 そのペンダントには引き込まれるほど綺麗な装飾があって、僕は思わず手を伸ばした。


 しかしその瞬間、僕は反射的に両手を上げる事となる。首元に鋭利な剣先が突きつけられたからだ。


「わかった。触らない! 触らないから!」


 本当に一瞬だった。変形した事すら見えなかった。


 彼女は剣を引き、次々に謎の兵器を変形させてみせる。


 日本刀、ナイフ、大剣、西洋の大鎌なんてのもあった。


「――クロエリミウム。通称クロエ。地球上にこれだけしか存在しない形状記憶魔法合金だ。もちろん、元は地球のものではない」


 ユキノは大鎌をくるくると振り回して見せる。その身のこなしは、まさに漫画やアニメの戦闘を彷彿とさせる迫力があり、格好良い効果音が聞こえてきそうな程だ。とにかく、先生の解説は耳に入らなかった。


「――クロエは、武器を覚える」


 と、今まで寡黙だったユキノも解説に加わる。


「でも万能ってわけじゃない。覚えさせるには相当な時間がかかるし、使わない武器から忘れていく。まあそれは、人間と同じよね。あとは……形を維持するのに魔力を大量に使うけど、それ以外は完璧な武器」


 愛用の武器を自慢しているからか、どこか気分が良さそうに見えた。


  * * *


 クロエに気を取られていたけど、本当に重要なのはそこではなかった。


 ユキノ自身の事だ。


 彼女は、もちろん純粋な地球人ではない。生まれも育ちも地球の日本だけど、母親が異世界から来た、つまりはハーフ異世界人だ。

 

 そしてその母親が、前回の厄災(ゲーム)(シルベ)だった。つまり前回の厄災(ゲーム)は異世界で始まり、ユキノの母親は何かしらの方法で僕達のいる世界に来たわけだ。それが偶然、日本だったという事らしい。ちなみにその時敵の方も来たらしいけど、そっちはヨーロッパか何処かに飛ばされたとか。


 ユキノの母親は月も恥じらうほどの美女だったが、それ以上に強すぎて昔から「鬼神」などと呼ばれて畏れられていたらしい。しかしユキノは母親の事を殆ど知らない。ユキノが幼い頃に亡くなっているからだ。


 そして、ユキノの父親は、ユキノが生まれる前に殺された。亡くなったのではなく、殺されたらしい。

 それ以上詳しい事はわからないようだった。


  * * *


 最後に、僕の執行猶予の話。


 厄災(ゲーム)は既に始まっているらしいけど、すぐに戦闘が始まるわけではないらしい。その前に、かくれんぼで言う鬼と、標の僕が、互いから隠れる期間が与えられる。


 二十一日間。その間に僕はある程度準備を終えなければならない。今日は先生に自宅に送って貰ったけど、とにかく毎日ホテルに来いと言われた。


 まあ、隠れるのは主に僕達らしいけどね。


 僕達はカレトリアスを見つけようと思えば見つけられるけど、見つけたところで今の戦力では勝ちようが無いからだ。


【登場キャラ紹介】〈コデックス〉


 本来は実体の無い情報の塊のような存在。

 あらゆる光学的機器にも感知されないが、通常の物質と同じように三次元的に存在していると考えられている。

 コデックスは電子機器を操る事で人間と対話する事が可能だが、ある点を中心とした半径一メートルの球内に存在する物にのみ影響を及ぼせるため、その球の中心がコデックスの存在位置だと考えられている。


⚫︎能力:

・アカシックレコードへのアクセス。

・電子の流れを操り、一般的な電子機器を操る。これを応用する事で人間に知覚的情報を送ることも可能。



【登場人物紹介】〈佐元さもと一緑いのり


年齢:45

身長:177

体重:74


性格

誰にでも優しい。


個性

グレーの髪。白衣姿は佐元先生という呼び方が板についている。


能力・スキル

自身の医療知識を組み合わせた治癒魔術は世界トップクラス。


背景

有名な脳神経外科医であると共に、協会でも有名な魔術師。過去にコデックスの研究で活躍したらしい。


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