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僕とトラブルメーカー

作者: 水都莱兎

た、た、だ、だ、たっ、っ、たっ、たっ、たっっ、たっっっっっっつ、いぃぃぃぃへぇぇぇぇんーーーでーーーすぅぅぅーーー。


ドッテーーン


騒がしく走って来た少女、(ゆず)は僕をムカつかせる天才だ。

今も僕はムカついている。

何故なら、騒がしく走って来て、一人で転べばいいのに、僕を巻き込んで転ぶから。

しかも、これが一度ならまだ許せるかもしれないが、これが千六百回以上となると腹わたが煮えくりかえる。


千六百回以上じゃなくて、細かい数はって?

そんなの知るかっ!

これだけ数えただけでも凄い方だ。

毎日正の字を一冊のノートに書いて、累計したら、千を超えた数字になっていた。

流石に、書くのも面倒くさくなってやめたさ。

正の字も三百二十見て、合計したところで放棄した。

おまけにそれは一週間の記録ときたものだからな。



こいつ()を何度ぶっ飛ばしてやろうかと思ったし、殺意も沸いたし、現在進行形で沸いてるし……。

こいつ()、マジで抹殺しようかな?

いつもいつも、誰か他の人がいても、こいつ()の家族が近くにいても、害を被るのは僕、零斗(れいと)だけなんだ。

ちなみに、他の人とか家族とかの遠くにいるのにだぞ!?

避けようとしても避けていたとしても、こいつ()が転ばないために僕の手を掴み、それに引っ張られて転ぶ。また、転ばないと思ったら、足がもつれて転ぶなどがある。


避けても近くにいる僕は巻き込まれる。

どっちも原因は分かっている。

全て、僕にめがけて真っ直ぐ走るからだ。

もう、悪意があるとしか思えない……。

でも、こいつ()は馬鹿正直で馬鹿だから、そんな悪意が無いことは分かってはいる。

悪意が無い分、尚更タチが悪いのだ。



僕は柚の下敷きになっている状態から動かせる手で拳を作り、相手をぶん殴る。


「ぎゃえっっ!!」


変な悲鳴が出ていて笑えるし、何回か地面をバウンドした気がするけど、遠くに飛んでいっただけすっきり……なんてする訳ないだろう。

僕は、起き上がり地面に座っているそいつに近づき、見下ろす。


「なっ、なっ、んか、なんか、怖いよっ!! 零斗っ。」


ブルブルと草食動物が肉食動物に間近に遭遇した時みたいに怯えている。

そんな状況が本当にあるかは、知らないが、そんな感じだ。

僕は柚の頭を掴む。


「柚、前から前から……僕に、なんか恨みでもあんの? ()、お前になんかしたっけ?」


どんどん手に力を込めていく。

痛い、などと騒いでいるけれど、そんなの無視だ。


(零斗がキレてる!! 誰か、マジで助けて〜〜〜!!)


柚はそんなことを思っていたが、零斗にはお見通しのようだ。


「てめぇ、まだ、なんか考えてる余裕があるようだな。 俺は何度も何度も突っ込んでくるなって言ったよな? 走るなって言ったよな? 俺にくる被害を考えろよ。 本当にぶっ殺してーー。」


凶悪な顔でくくっ、と笑う零斗を見て、また恐怖で体が震えはじめる柚。


(ど、どうしよう……。 魔王零斗が降臨した。 ヤバイよヤバイよ。 死にたくないーー。 よしっ! 決めた!! やる事は一つ。 頭もそろそろ痛さで限界だし、痛みで涙がボロボロ出てきてるし……。)


「まっ、魔王、零斗様。 どうかおゆるしぃ〜〜。」


「いだいいだいいだいいだいいだだいだいいぃぃぃぃぃーー。」


「てめぇ、魔王(・・)とかふざけてんの? 本当に謝る気はないのか?」


頭にまたどんどん力を加えていったために、柚の悲鳴は近所中に広まることになった。



ひとまず、柚に悲鳴をたくさん上げさせ、物理的に柚に痛みを与えることができたからか、零斗はスッキリしたのだろう。

清々しい表情(かお)をしている。

反対に柚は屍のように地面に突っ伏していた。


「で? 柚は何が大変なのかな?」


はっ! そうだった!!、とでも言うように素早く起き上がり、先ほどのことがなかったかのように元気に話す。


「あのね〜〜、私の家族と零斗の家族が離婚するって情報聞いたの! だからね、早く零斗に知らせようと思って、時間食っちゃった! てへっ!!」


自分で頭を軽く小突いている柚に対して、さっきのことでまだ懲りていなかったのかと呆れを含めて柚に目を向けた。

僕は柚が地面に顔面をぶつけるようにするために頭を掴んで、足払いをした。

意図的に、顔面を地面に打つことになった柚は鼻血を出していたけど、なぜか骨とかは折れていなかった。

どんだけ、頑丈なんだろうな。

軽くやったにせよそれなりの威力はあったはずだし……。

はぁ、考えるのやめよう。

現在(いま)は両親の離婚のことを考えよう。



一つの住宅街の辺りに大きな声が響く。


「おいっ! 柚。 両親が離婚なんて嘘っぱちじゃねぇか! どう言うことだよっ!!」


「えっ! だってさっき、話してたよ?」


あの後、柚と一緒に僕の家に行った。

だが、僕の両親は人が見たら目に毒なほど、いちゃいちゃしており、ピンク色のオーラを振りまいていた。

僕の精神がどんどん削られていく。

僕は、こういう目に毒な場面を何度見て来たことか。

何度も目を逸らそうとしても両親のいちゃいちゃ声は聞こえるし、そんなにいちゃいちゃするなら父と母、共有の部屋でやりやがれってと何度、言いたかったことか。

ちなみに一回言ったことがある。


「もう、母親に向かってそんな態度はだめよ?」


母には優しく諭され父には……。


「羨ましいんだろう? 羨ましかったら彼女でも見つけて来てみろよ。」


自慢された。

しかも……。


「ダメよ! 零斗には柚ちゃんがいるんだから! もうっ!!」


「はははっ! そうだったなぁ。 すまなかったよ、零斗。」


僕が柚を彼女にするとか言う話になって、その時僕の口元が引きつっていたことを覚えている。

母も父もピンク色オーラを撒き散らしながら、会話をするから、何の反論をしてもいちゃいちゃしている両親には何の声も届かないだろうと思って、諦めたことも覚えている。



僕は、いちゃいちゃしている両親を邪魔して聞いた。

これは、とても勇気がいる行動だ。


「母さん、父さん。 なんか、柚が母さんと父さんが離婚するとかいう話を聞いたらしいんだけど……。」


母と父は……。


「テレビで離婚の話がでたから、考えていただけよ。

私たちが離婚したらどうなるのかとかどうするのかとか話し合ってたの。でもね……。」


「父さんと母さんは絶対離婚なんかしないという結論に至って、そんな不吉な話、やめちゃったよ。」


(だろうな。 周りが見ると目に毒なほど愛しあってる母さんと父さんが離婚なんかするわけないよな。)


僕は、ひっそりため息を吐いた。


「零斗、母さんと父さんの邪魔だから、しばらく家には帰ってこないで、近くの親戚の家にいろよ。 あぁ、その親戚にはちゃんと頼んでおいたから安心しろ。」


ポイッと部屋から投げ捨てられた後、部屋の外にも聞こえる、きゃははうふふな両親の声に僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。

柚も死んだ目をしている。



また、柚の両親は……。


「離婚なんてこと言わないで……。 柚ちゃん。」


「そうだぞ。 離婚なんて言葉をこの家で使うな!」


柚の母親と、父親は柚にそう言った。


「でも、お母さんもお父さんも離婚の話をしていたじゃない! 離婚するとかしないとかいう話。」


柚の顔は下を向いている。


「あら? あの話聞いていたの! やぁね、柚ちゃんってば!!」


「俺の部下が離婚することになったらしくてなぁ。 議論していたんだよ。 離婚についてさぁ。 だから……。」


「柚ちゃんってばもうおっちょこちょいねっ! 柚ちゃんの両親の私たちは離婚なんてしないわよ、永遠に。 あなた、来世でも愛し合いましょうね?」


「もちろんだよ!!」


柚は下に向けていた顔を両親たちに向け、唖然としていた。

しかし、嬉しそうに笑い合う柚の両親に柚も邪魔と言われて、部屋を追い出された。

僕と同じように柚も、親戚に頼んでおいたから家に帰ってくるなと言われたようだ。

僕たち二人は顔を見合わせてため息を吐いた。



僕たちは歩きながら、話す。


「柚、早とちりし過ぎ。 ちゃんと確認してから来てくれない? ビミョーに焦ったよ。 信じられなかったけど……。」


「私たちの両親はラブラブだもんねぇ〜。 私も焦ったもん。」


「柚の感想は聞いてないから、くそっ! 聞かなきゃよかったよ。 家を追い出されるし……。」


「同じく。」


「柚、あのね?」


「何? 零斗。」


「おまえのせいだから。あと、お前といるとやっぱり、ろくなことにならないからお前といたくないって思ってたところ。」


「そんなことは、口に出していうものじゃないの! 零斗デリカシーないよー。」


(今更、デリカシーとかないだろ! 僕に物理的ダメージを与えるとかしている柚には、そんなことを言う資格がないっての! 僕から見たら女らしさのかけらもない柚。人を巻き込んで馬鹿騒ぎに発展させる天才と人をムカつかせる天才と言わないだけマシだと思うのは俺だけかな? まぁ、いいやー。)


僕たちは歩く親戚の家に向かって……。

彼らの家に着いた時に、僕と柚の家も隣同士で、僕の親戚と柚の親戚の家も隣同士なので、すごい偶然だなっと思った。

だが、数秒後にその親戚に僕たちは追い出されて、たらい回しにされる。

また、何故か親戚の親戚も、親戚の親戚のそのまた親戚も、家が隣同士であり、その家から追い出されることが続いた。

なにかの呪いかと思ったのは秘密だ。

追い出された理由はいちゃいちゃするのに僕たちが邪魔だからだよ。

老夫婦にも追い出されたし……。

これだけ多くの同じ出来事が重なると、本当に呪いとしか思えない。

将来、俺はこんな風になりたくはない、と思った。

しかも、安心してと言っていた両親を恨みたくなった。



全然、安心できないし、泊まるところはないから安心できないしさ。

再び、柚と泊まれる場所を探すが、十軒以上まわって面倒になったので、知り合いの旅館に事情を説明して無償で泊めてもらった。

あちらこちらを歩き回って疲れた僕たちは、両親の事情でなんの準備をすることもできずに家を追い出された。

そのせいで、財布をもって来れなかったので、請求をするなら僕たちの両親のところによろしくって言っておいた。

隣でなんか震えていた柚は無視したけど、僕を対応した人も一歩下がっていたんだよね〜〜。

なんでだろうか?

まぁ、疲れたから温泉入って寝よっと……。

もちろん、男女は別れて部屋をとったので、柚とは一緒ではないよ〜〜。

あいつと同じ部屋になんかなったら、どれだけ迷惑被るか分からないからな。

えっ!

なんか、他のことあるだろうって?

アリエナイね。

あいつと一緒の部屋になるくらいなら、外で寝て風邪ひいた方がマシだ。

僕の目はきっと、冷え切っていたと思う。



騒がしくて、トラブルしか持ってこない幼馴染を恋愛対象としてみることは、一生ありえないことである。

熨斗をつけて柚を好きになった人に渡してあげたいくらいだよ。



もう、どうでもいいことかもしれないけど……。

僕たちの親戚のうち、近くにあり過ぎじゃない?

歩いて行ける距離に三十軒くらいあるなんて、親戚と言わず、ご近所様って言った方が納得できる気がするよ。

なんかどの家もピンク色のオーラ撒き散らしてるからさぁ。

どっか二人でお祓い行った方がいい気がする。

嫌だけど、柚と二人で行かないと、お祓いしても効果が皆無にされそうだから。

柚にね。

まぁ、行ったところで気休めにしかならないし、柚には効かず、祓われたものをまた引き寄せられそうだし、お祓いした意味はなくなるのかなぁ。

そうなると、お祓いは金の無駄遣いになりそうだから、やめておこうっと。



今回に限らず何回も家を追い出されることが続くなら、アパートとかを親に契約してもらってそこで過ごそうかな?

そっちの方が僕の精神的にもいいからね。

柚はどうでもいいや。

着いてきて隣同士になるとか言い出すようなら、過去の恥ずかしい話バラすとか言えばいいだけだし……。

あれ?

この作戦失敗かも。

隣同士ではないと、一個開けて隣とかありそうだ。

幼馴染がストーカー性質てはないことを祈ろう。

そしてそれだけ、馬鹿ではないことを祈る。

同じアパートに住む、僕に三十分以内に会える距離に住むということがあるなら、過去の恥ずかしい話などをバラすって、僕がアパートに住むことに決まったら言っておこう。



僕は、十四年間で初めて家を追い出された。

それもこれも、離婚の話なんか持ってきて、真実を確かめようとしたからだ。



だからこれ以上、幼馴染()に巻き込まれるのはごめんだと声を大にして言いたい。



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